『バースト・カース』 作:ゅゅ
あれから、俺は地面に降りることが出来た。どうやら俺の飛翔能力は基本ではなく応用だったようだ。時間切れを迎えると同時、翼が消滅して床に落っこちた。
「それにしても、さっきのは凄まじい戦いだったな」
「相手が甲子園球児でしたからね」
正直、「ハロウィン」と「終戦記念日」と「父の日」と「野球の日」を並べられても、どれがどれくらい強いのか分からない。相手が高校球児だから苦戦したというのも本当にそうなのか微妙なラインだ。
まあ、この学園においては理屈とか道理とかはあまり通らないという前提で、強い敵に勝った俺たちは凄い!くらいに考えておけばいい気がする。
「馬鹿を言うな。あれは学生同士の戦いだ。授業はあの戦いの比ではない」
「めっちゃ水差すこと言うじゃん。でも確かにそうだよな、今のはあくまで休み時間を使った生徒同士でのじゃれ合いみたいなもんだもんな」
「いえいえ、生徒同士でも授業並みに凄い戦闘になることはありますよ? 先ほどの戦いもいい戦いでした」
紗雪とマリアのどっちを信じればいいのか分からないが、一応厳しいことを言ってくれる紗雪のことを信じよう。用心するに越したことはないしな。
でも、マリアの言っていることのほうがより正鵠を射ているような気がしないでもない。
実際さっきの戦いは彼女が的確に状況を見極め、最も可能性の高い戦術を考えてくれたからこそ勝てたわけだし……。
「それに比べて俺、何もしてなくね?」
いや実際な~んもしてない。ただふよふよ浮きながら観戦していただけで、戦局に与えた影響はゼロだ。
「でも達也さんは私の背を押してくれましたよ? 私一人では自分の作戦に自身が持てず、紗雪さんに上手く伝えられませんでした」
「それは困る。思いついたらとっとと伝えろ」
「それは、ええ。そうします」
マリアのフォローは一瞬で潰された。
「でも、達也さんは新入生ですから。最初のうちは見て学べばいいんです。お寿司屋さんの見習いみたいなものですね。下手に前線に出ると死んじゃいますから……あ。でも、達也さんは死んじゃっても大丈夫なんでしたね!」
マリアはにこにことそんなことを言っているが、彼女は寿司屋の見習いを何だと思っているのだろうか。
それはそれとして、俺は彼女の言葉にふと立ち止まった。
「……俺、もしかして滅茶苦茶強くなれるんじゃねえか?」
「えっと……?」
「いや、成長はトライアンドエラーって言うじゃん? エジソンも白熱電球を作るまでには何回も失敗していて、諦めなかったからこそ成功したって逸話があるわけで。ってことはだ、死んでも大丈夫な俺って、殺しあいをしなきゃいけないこの学園の中では滅茶苦茶有利な条件を揃えてるんじゃないかなって……違うかな?」
俺はマリアのほうを見る。
彼女は少し考え込み、それから微笑みながら言った。
「では、次の戦いは達也さんにも戦ってもらいましょう!」
「いいのか?」
紗雪は俺とマリアのほうを見て口を開いた。
「休み時間が終わる。次は授業だぞ?」
紗雪の指摘を聞き、マリアは俺のほうを見上げる。
「何回くらいなら、死ぬ覚悟ありますか?」
「え?」
「すみません、訂正します。何十回くらいなら、諦めずに死に続けられますか……?」
先ほどまでの微笑みではなく、至極真面目な顔で問うてくるマリア。
俺は彼女の黄金色の瞳から目を逸らし、口から風船の萎むような音を出しながら答えを言い淀む。
そんなの、死にたくないに決まっている。
ゼロ回だ、ゼロ回。
さっきのは、まあ気分的なやつで、勇気が欲しかったから自分って凄~い!って言ってみたかっただけで、要するに! 俺は自分の命でトライアンドエラーなんか一回だってしたくない!
そんな俺の考えを読み取ってか、マリアは悲しそうな顔をして呟いた。
「達也さん、成長とは何事も、痛みを受け入れるところから始まるものです。特に、この学園ではその傾向が強いです。私と紗雪さんは能力が強力だったので生き残り、トライアンドエラーを繰り返し、何度も死にかけながら成長することが出来ました。弱い能力だったら、とっくに死んでいたかもしれません。それがこの学園における「救い」なのかもしれませんが……」
黄金色の瞳が俺を見据える。
「達也さん、あなたは私のことを全然優しくないと言いましたね?」
「あ、えっと……言ったっけ? ああ、生首の時のか。まあ、言ったけど……」
「あれは逆です。達也さんは、あそこで死ねれば、それ以上苦しまずに済んだんです」
「アッ、はい……えっと。マリアさん? まあ、これはいつものことなんですけど、それにしたって、いつも以上に目が怖いですよ……?」
「私は真剣な話をしているんです。達也さん、何回、死に耐えられますか?」
「ゼロ回です……。おれくん、死にたくないッス……」