『バースト・カース』 作:ゅゅ
「残念ですが、そんなにここは甘くないです」
「時間だ。入るぞ」
「え、俺死ぬの?」
「運が良ければ死なずに済む」
マリアと紗雪に背を押され、俺は教室の中に押し込められる。
直後、チャイムが鳴ると同時に全ての教室に鍵が締められた。教室の扉はびくともせず、俺が最初にここに来た時と同じ状況になった。
そして、全ての明かりが消えた。
真っ暗な闇の中。
この教室はどこまでも暗く、漆黒に包まれていた。
「くら……こわ……。紗雪、マリア、どこ……?」
「おい、くっつくな。気持ち悪い」
「ここにいますよ? 怖がらないでください。いや、適切に怖がってください」
瞬間、教室の中心に一つのロウソクが灯った。
「わあ! 明かりだ!」
俺は暗闇の中、ロウソクのほうへと近付いていく。そして、その向こうに誰かの顔が見えた。
俺は布団の中で幽霊を見た子供のように、何も言わず、何も見なかったことにして、静かに後退った。
「どうしたんですか?」
「誰かいた」
「誰ですか?」
「分かんない。見てきて……」
「お前死んでも蘇るんだろう? 初見殺しに強いんだからせめてこういう場所で役に立て」
紗雪の言葉に俺は涙目になって抗議する。
「お前!!! お前なあ!!! AK出せるし刀も持ってて!!! しかもクソ強いライフル銃も出せるのにさああ!!!! なんでそんな酷いこと言うの!?!?!? ねえ!!!!!」
俺は半泣きでマリアにしがみつく。
「俺は死にたくない! てか、こんなところ来たくなかった! なんか気付いたらこの学校にいて、ゾンビに襲われて、噛まれて、ハロウィンの能力者で~す! ってことになって! だから何だよ! だから何だってんだよ!!」
「達也さん、あなたの能力は強いんです。だから自信を持ってください」
「ハロウィンだぜ!? ハロウィンなんだぜ!? ハロウィンて強いんか? お? 高校球児より強いか?! ええ!?!?」
「面倒だな。縛り上げて放り投げるか」
紗雪の発言に俺は引き攣った笑みを浮かべる。
「分かった……分かったよ。行けばいいんだろ、逝けばよお……。ああ、早くこんな学園卒業して家に帰りてえよお……」
「達也さん、頑張って……」
俺は手元に悪魔の槍を召喚し、槍で手探りしながらゆっくりと前に進んでいく。
「なあ! おれが合図したら尻尾引っ張ってくんねえ!? 俺の尻尾見えてる!? てかまだ生えてる!? それ引っ張って俺のこと助けてね!?」
「見えてる。引っ張る。だから早く行け!」
「これ、引っ張っても尻尾だけ戻って来て、本体はどこに行ったんだ?ってなるパターンですよね」
「ねえええええ!!!! なんで怖いこと言うの!?!?」
俺は泣きながらロウソクのほうに進んでいく。
ロウソクの前までくると、俺は同じように顔を前に出した。
「あぁ……うん? あ?」
「どうしました?」
「いや、何もねえな? うん? さっきは見えたんだけど……」
「幻覚か?」
「いや、うーん……」
しばらくロウソクを眺めていると、俺はこれが何かに気が付いた。
「あ、百物語だこれ」
「百物語?」
「ああ、ちょっと形式は違うけど。たしか三つの間があって、一番最初の間で誰かが物語を紡ぐ。その物語が紡がれている間に一番奥の間、ロウソクの間へと別の人が向かって、そのロウソクを吹き消す。で、そのロウソクを吹き消す前にその人は鏡で自分の顔を見なくちゃいけないんだ。それを繰り返していって、ロウソクが百本消えたら怪異が現れるって遊びだな」
俺はもう少しだけ顔を前に出す。
すると先ほどと同様、誰かの顔が現れた。これは鏡。
つまり、「誰かの顔」が見えたのではなく、俺の顔が映っていただけだったのだ。
「はあ~! 脅かしやがって! 変な演出するなよなぁ!!」
「そのロウソクやら鏡やらには何の意味があるんだ?」
「さあ? 怪異って大体そんなもんじゃね? 謎ルールがあって、その謎ルールに従って行動する。怪異を引き寄せる遊びだから、プレイヤーは謎ルールに従わなくちゃいけない。それに何の意味も無かったとしてもな」
「この学園そのものにも、怪異の性質はありますね」
「なるほど、理解した。ではそのロウソクを吹き消せばいいわけだ。やれ」
紗雪の無茶振りに俺は苦笑を浮かべた。
「いやいや、絶対罠でしょ。俺鏡見ちゃったし」
紗雪が俺の頭にAKを突き付ける。
「やれ」
「はい」
俺はロウソクの灯りを吹き消し、それから、教室は異常な暗闇に呑まれた。
──文学。
──それは人の心のうつし鏡
──言の葉を美しく舞わせ、時に酔わせ、時に誘い、時に陥れる不可思議なる行為
──人は音を記号に落とし込み、それを愛すると共に、築き、重ね、贈り、学び、伝える
──時代や国や風習や常識、個人の信念や思想。それら全てを包括して君臨する雄弁なる学問
この講義を通してかの者は何を学び取り、何を掴み取るのか。
第一講義──文学。
開演。