ONE PIECE ウタのいる世界   作:後門の熊

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ウタ可愛ええ、ウタ見たいって映画館行って心を抉られること三回目を迎えました。
ウタちゃんが死ぬなんてあんまりだ!!と思ったので書かせて頂きました。


第一話 蝶の羽ばたき

 

 

富・名声・力。かつてこの世の全てを手に入れた男。“海賊王”ゴールド・ロジャー。彼の死に際に放った一言は、全世界の人々を海へ駆り立てた。

 

───おれの財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ・・・。探してみろ。この世の全てをそこに置いてきた。

 

世は大海賊時代を迎える。

 

 

 

 

そして本来の歴史であれば、物語の主人公、モンキー・D・ルフィの幼なじみ、ウタはルフィの幼い頃にエレジアに取り残される筈だった。だがたった一匹の、そうたった一匹の蝶の羽ばたきの違いが歴史を大きく変える。

 

エレジアを飛ぶ蝶が本来と少し違う羽ばたきをしたことで

 

近くに咲いていた花に着地した。

 

そしてその花の隣に揺れが伝わり

 

隣の花にとまっていたミツバチが飛び立った。

 

ミツバチは花の近くの建物の中へ入ってゆき

 

中で談笑していた人々の元へ飛んで行った。

 

当然ながら人々は大騒ぎ。

 

そこには国賓レベルの待遇を受けていた赤髪海賊団もいた。

 

騒ぎに対して警戒を強めた船長シャンクスの目に止まったのはこの煌びやかなホールと対象的な程にボロボロで薄汚れた数枚の楽譜。そこから漂う異様な気配を察知したシャンクスの剣が楽譜を貫く。

 

蝶の羽ばたきが少し変わった為に、この場にて起こるはずだった大事件は防がれた。

それは果たして幸か不幸か歴史を大きく変えてゆく・・・・・・

 

それでは話を本来の物語の始まり、フーシャ村へと戻そう。

 

 

 

────────────

 

 

 

 

ここは小さな港村だ。港には1年程前から海賊船が停泊している。風は東、村はいたって平和である。

 

「おいルフィ、何する気だ」

 

「そうよ、勝手に船に上がり込んで船首にまで登って。あとで村長さんに怒られても知らないよ?」

 

「ふん!おれは遊び半分なんかじゃないっ!!もうあったまきた!!証拠を見せてやるっ!!!」

 

村の少年、モンキー・D・ルフィは短剣を持ってその海賊船の船首に登っていた。

 

「だっはっは!おう!やってみろ!何するか知らねェがな!」

 

「またルフィな面白ェ事やってるよ」

 

「ねぇほんとに大丈夫?あいつ短剣持ってるけど」

 

「大丈夫だウタ。あいつはまだ子供だぞ?何かを傷つける度胸なんて」

 

「ふん!!」ブスッ!!

 

赤髪の男が言い終わる前にルフィはいきなり手に持った短剣を自分の目の下に突き刺した!!

 

「「「!?」」」

 

「「な・・・」」

 

「あーーー!!!」

 

「いっっってーーーーっ!!!」

 

「バ・・・バカ野郎!何やってんだァ!!?」

 

「だから言ったのにーー!!」

 

「いてーーよーーーーっ!!」

 

ルフィの悲鳴と海賊達の絶叫が村に響いた。

 

 

 

 

フーシャ村・酒場

 

「野郎共乾杯だ!!ルフィの根性とおれ達の大いなる旅に!!」

 

その日の酒場は平時もよりだいぶ喧しい。海賊達が入れば騒がしいのはいつもの事だがそれにも増して煩いのはルフィが示した根性のせいだろう。

 

「あ”ーい”だぐな”がっだ」

 

「うそつけ!!バカな事すんじゃねェ!!」

 

「第一アンタさっき『いっっってーーー!!』って泣き叫んでたじゃない。ほんっと子どもなんだから」

 

「なんだとォ!?」

 

カウンターでルフィと睨み合うのは半分赤半分白の髪色にヘッドホンをした少女、ウタとその父シャンクスだ。

 

「でも見ただろ!おれは怪我なんて怖くないんだ!連れてってくれよ次の航海!!俺だって海賊になりたいんだよ!!」

 

ルフィが今度こそと意気込んで頼み込むも、赤髪海賊団船長のシャンクスはそれを笑い飛ばす。

 

「だっはっは!お前なんかが海賊になれるか!!カナヅチ(・・・・)は海賊にとって致命的だぜ!!」

 

「ウタだってカナヅチじゃないか!!」

 

「ウタは仕方ないんだ。事情があるからな」

 

「ズルい!!」

 

「ズルくないわよ。私には特別な力があるからね」

 

「それなら俺にだってあるぞ!俺のパンチは(ピストル)のように強いんだ!!」

 

「「(ピストル)?へーそう」」

 

「なんだその言い方はァ!二人してェ!!」

 

「よしわかった。ルフィ、お前ウタと勝負してみろ。勝てたら船に乗せてやるよ」

 

「いいのか!?へへっなら楽勝だな!!なんせ俺は今218連勝中だしな!!」

 

「はァ?何言ってんのルフィ。私が218連勝中よ」

 

「俺だ!!」

 

「私よ!!」

 

「ほら喧嘩するな。で、何でやるんだ?」

 

「ルフィのパンチは(ピストル)の様に強いんでしょ?お互いにパンチして押し負けた方の負けなんてどう?」

 

「よしっ!それにしよう!!」

 

「おお?またルフィとウタが勝負か!?お前らどっちが勝つと思う!?」

 

「「「ウタ!!」」」

 

「ふふん」

 

「なにォ!?」

 

「よしお前ら、ちゃんと拳を付き合わせるんだぞ?ハズレたらそっちの負けだからな」

 

カウンターの席から降り、幼い2人が酒場の中央で向かい合う。

 

「大丈夫かしら・・・」

 

「大丈夫だマキノさん。ウタは曲がりなりにも俺たちと航海してるし、ルフィは男だ。このくらいじゃ怪我しねェよ」

 

酒場の店主、マキノが心配そうに見る中、2人が拳を構える。

 

「いくぞ!」

 

「「せーの!!」」「あ、ルフィ外にお宝!」

 

「え!?お宝!?」

 

ウタの誘導に引っかかったルフィが入口の方を向くとそこにウタの容赦ないパンチが入る。

 

「うわーーーー!!!」

 

「ふふーん。また私の勝ちーー!」

 

「ズリィぞウタ!今のは反則だ!お前の負けだ!」

 

「出た!負け惜しみーー」

 

頬を押えて怒るルフィに得意げな顔をして手をワキワキさせてウタがからかう。

 

「だっはっは!やっぱり負けたじゃねェか、ルフィ!!」

 

「これじゃ船には乗れないね」

 

「ウタがズルした!!反則だ!!」

 

「ならルフィ。お前は船の上で敵船と戦っている時にもそんなことを言うのか?」

 

「うっ・・・」

 

少し真面目な顔になったシャンクスがルフィに語りかける。

 

「海の上じゃ誰もが命を懸けている。ウタだって基本的に船の中から出さないぞ?」

 

「それはお頭が過保護なだけじゃねェのか?」

 

「がはは!違いねェ!!」

 

「うるせェ!!」

 

海賊達が笑う中、ルフィは悔しそうな顔をしながらも何も言い返せない。

 

「そうよルフィ。あなたが海で死んじゃったら私たちも悲しいわ」

 

「マキノ・・・」

 

「もう少し強くなってから海に出た方がいいんじゃない?ほら!大きくなる為にも何か食べたら?ウタちゃんも」

 

「分かった!じゃあ“宝払い”で食う!!」

 

「あんたまたそれ?それサギだって何時もシャンクスに言われてるじゃない」

 

「ふんだ!俺はちゃんと海賊になったら宝を見つけて払いに戻るんだ!」

 

「ふふふ!期待して待ってるわ」

 

「しししし」

 

「マキノさん、いつかこの店ルフィに食い潰されちゃうよ」

 

やがて運ばれてきた料理に舌鼓を打ちながらルフィはシャンクスに聞く。

 

「シャンクス、後どのくらいこの村にいるの?」

 

「そうだなァ。この村を拠点にしてもう一年以上経つからな。あと2、3回航海したらここを離れて北へ向かおうかと思ってる」

 

「ふーん。あと2、3回かァ」

 

「えーもう少し居てもいいじゃない」

 

「嫌ならここに残ってもいいんだぞ?ウタ。この先は危険な旅も増えるし、ルフィとも当分会えないだろうし」

 

「別に危険なんて怖くないわよ!それにルフィは関係ないでしょ!!」

 

「だっはっは!そうか?俺はてっきりルフィと離れたくないのかと」

 

「シャンクス!!」

 

「だっはっはっは!」

 

「ふふふ」

 

「マキノさんまで!もう!」

 

「?」

 

とうのルフィだけ意味がわからない会話が続いたが皆楽しく飲み食いしていたその時

 

バキ!!

 

「邪魔するぜェ」

 

突然酒場のドアを蹴破り、物々しい格好の一団が入ってくる。

 

「ほほう・・・これが海賊って輩かい・・・。初めて見たぜ。間抜けた(ツラ)してやがる」

 

「?」

 

ズカズカとカウンターまで歩いてきたその男は腰の剣を見せつけながらマキノに話し掛ける。

 

「俺達は山賊だ──が・・・別に店を荒らしに来た訳じゃねェ。酒を売ってくれ、樽で10個ほど」

 

「ごめんなさい。お酒は今ちょうど切らしてるんです」

 

「んん?おかしな話だな。海賊共がなにか飲んでるようだが・・・ありゃ水か?」

 

「ですから、今出てるお酒で全部なので」

 

それを横で聞いていたシャンクスが笑いながら話し掛ける。

 

「これは悪い事をしたなァ。俺達が店の酒、飲み尽くしちまったみたいで、すまん。これでよかったらやるよ。まだ栓も開けてない」

 

手に持っていた酒瓶をその山賊の頭に差し出す。次の瞬間

 

バリィン!!!

 

シャンクスが手に持っていた瓶を山賊が拳で叩き割り、酒を浴びせかける。マキノとルフィが息を飲み、山賊達はニヤニヤ笑い、海賊達は無表情のままだ。

 

「おい貴様。この俺を誰だと思ってる。ナメたマネするんじゃねェ・・・。ビン1本じゃ寝酒にもなりゃしねェぜ。これを見ろ」

 

山賊が見せた紙にはでかでかと写るその男。

 

「八百万ベリーが俺の首にかかってる。第一級のお尋ね者ってわけだ。56人殺したのさ。てめェのように生意気な奴をな。分かったら今後気をつけろ。最も山と海じゃもう遭うこともなかろうがな」

 

そんな山賊、ヒグマの脅しも何処吹く風とシャンクスは床にちらばったガラス片を拾いながら

 

「悪かったなァ、マキノさん。雑巾あるか?」

 

「あ・・・いえ。私がやりますそれは」

 

自分を完全に無視したナメた行い。ヒグマがそう判断したのも無理は無かった。腰の長剣を抜くと橫薙ぎに振り抜き、机の上の料理をぶちまける。

 

「掃除が好きらしいな。これくらいの方がやり甲斐があるだろう・・・!!」

 

「お前・・・!」

 

「ウタ!・・・手を出すな」

 

「でもシャンクス!」

 

「ウタ」

 

シャンクスの鋭い眼光がウタを制止する。それにウタはハッとしたような顔をして引き下がる。

それを見てケッと馬鹿にしたように笑いながらヒグマ達は自身が壊した店のドアへ向かう。

 

「じゃあな、腰抜け共」

 

山賊が去った後、マキノがシャンクスに駆け寄る。

 

「船長さん大丈夫ですか!?ケガは?」

 

「あーー大丈夫、問題ない」

 

マキノに手を向け、大丈夫をアピールすると、我慢できなくなったようにシャンクスが吹き出す。

 

「ぷっ!!」

 

「っだーーっはっはっは!何て様だお頭!!」

 

「派手にやられたなァ!!」

 

「はっはっはっはっは!!」

 

海賊達が笑う中、笑っていないのはただ二人。

 

「なんで笑ってんだよ!!」

 

「ん?」

 

「あんなのかっこ悪いじゃないか!!!何で戦わないんだよ!いくらあいつらが大勢で強そうでも!!あんな事されて笑ってるなんて男じゃないぞ!!海賊じゃない!!」

 

「・・・・・・」

 

ルフィが堪えきれない怒りをぶつける。それに対してシャンクスが口を開こうとした時、

 

「ルフィ、気持ちは分かるけどシャンクス達は間違ってないよ」

 

「何でだよウタ!!お前だって掴みかかろうとしてたじゃんか!!」

 

「私も確かに我慢できなかったけど・・・あそこでやり合ってもマキノさんに迷惑がかかるだけでしょ。少しは考えなさいよ」

 

「なんだと!!」

 

「まぁまぁ落ち着け二人とも」

 

言い合いになった二人の頭に手を置き、シャンクスが笑う。

 

「ルフィ、ウタの言う通りだ。ただ酒をかけられただけの事だしな。怒るほどでもないだろう。ウタも分かってたなら次からは俺が止めなくても手を出しちゃダメだ」

 

「・・・ごめんなさいシャンクス」

 

「ふん!俺は認めねェぞ!もう知るか!」

 

「ちょっとルフィ・・・」

 

「もういい!弱虫が移る!!」

 

そう言って店を出ようとしたルフィの手をウタが掴むも、ルフィの足は止まらない。ズンズンと出口へ向けて進んでいき・・・・・・

 

尚、ウタは別に引っ張られている訳ではなく、その場に立ったままである。

 

「「「「!!??」」」」

 

「ん?」

 

「「「な・・・!!?」」」

 

「うわっ気持ち悪っ!」

 

「手が伸びた・・・!!こりゃあ・・・・・・!!」

 

「まさかお前!!」

 

「うわァーー!なんだこれああーーーっ!!」

 

あわてて一味のコック、ルゥがカウンターに置いてあった箱を確認すると、

 

「ないっ!!敵船から奪ったゴムゴムの実(・・・・・・)が!!!!」

 

「何ィ!?」

 

ルゥはスケッチブックのぐるぐる模様の不思議な柄の木の実を見せると慌ててルフィに詰め寄る。

 

「ルフィ!お前まさかこんな実食ったんじゃ・・・・・・!!」

 

「!・・・・・・うん、デザートに・・・・・・!!不味かったけど・・・」

 

それを聞いたシャンクスが凄い剣幕でルフィの顔を掴み叫ぶ。

 

「ゴムゴムの実はな!!悪魔の実とも呼ばれる海の秘宝なんだ!!!食えば全身ゴム人間!!そして一生泳げない(・・・・・・)体になっちまうんだ!!!」

 

「えーーーーっ!!!うそーーーーー!!!」

 

「バカ野郎ォーーーーーーーーっ!!!」

 

 

 

 

それから暫く経ち、シャンクス達は結局ルフィを船に乗せずに航海へ出た。しかしいつものように落ち込んでるかと思いきやルフィは寧ろ楽しそうだった。彼にとってはゴム人間になった事はシャンクスに航海へ連れて行って貰えないこと以上に楽しい事だった。

 

しかしある日、事件は起こる。山賊達が再び酒場へやってきたのだ。しかも間の悪いことにルフィがいるタイミングで。案の定山賊達を怒らせたルフィは今、酒場の前で山賊達に囲まれていた。

 

「本当に面白ェ身体だな。殴っても蹴っても効いてないらしい」

 

「くそォ!!!俺に謝れ!!!この野郎!!」

 

ヒグマに首を掴まれたルフィが拳を繰り出すもヒグマには当たらず、ゴムの体で遊ばれてしまう。

 

「ゴム人間とは・・・なんておかしな生き物がいるんだろう・・・な!!」

 

グイッと頬を引っ張られ、地面に投げ捨てられる。ゴムの身体にそんな攻撃は効かないがしかし、ルフィの怒りは増すばかりだ。

 

「畜生!!絶対許さねェ!!!」

 

「見世物小屋にでも売り飛ばしゃあ、結構な金になりそうだな」

 

「うわああーーーっ!!」

 

近くにあった木の棒を掴み、ヒグマへ殴りかかるも、

 

「しつこいぞ・・・・・・!!ガキ!!」

 

呆気なく頭を踏みつけられてしまう。

 

「人が気持ちよく酒飲んで語らってたってのに・・・この俺がなにかお前の気に触ることでも言ったかい」

 

「・・・・・・!!言った!!!謝れ!!畜生!!」

 

いくら踏みつけられようとルフィは逆らうことを辞めない。そこへ

 

「その子を放してくれ!!頼む!!」

 

マキノが呼んだ村長が駆けつけてきた。最も村長にも戦う術は無い。ひたすらに下手に出て謝ることしか出来ない。

 

「ルフィが何をしたかは知らんし、あんた達と争う気もない!失礼でなければ金は払う!!その子を助けてくれ!!」

 

「!・・・村長」

 

必死に土下座で頼み込む村長。しかしその甲斐もなく、ヒグマは許すつもりは無い。

 

「駄目だ!!もうこいつは助からねェ。なんせこの俺を怒らせたんだからな。こんな軟弱なガキに歯向かわれたとあっちゃあ不愉快極まりねェぜ俺は・・・!!」

 

「悪いのはお前達だ!!この山猿!!」

 

ゲシゲシと踏みつけるヒグマにたいし尚も反抗するルフィ。しかし遂にヒグマの堪忍袋の緒が切れる。

 

「よし、売り飛ばすのはやめだ。ここで殺す」

 

スラリと腰の長剣を抜き払う。その表情に巫山戯ている様子は無く、本気で斬り殺そうとしている事が見て取れる。

 

「ルフィ!!」

 

「た、頼む!!見逃してくれっ!!」

 

叫ぶマキノと村長。その時!

 

「港に誰も迎えがないんで何事かと思えば・・・」

 

黒いマント、腰に長剣、団の名前にもなっている鮮やかな赤髪に麦わら帽子を被った男。

 

「何時ぞやの山賊じゃないか」

 

「船長さん!!」

 

シャンクスだった。たった今、航海から帰ってきたのだ。

 

「ルフィ!お前のパンチは(ピストル)の様に強いんじゃなかったのか?」

 

「・・・!!うるせェ!!」

 

「海賊ゥ・・・・・・まだ居たのかこの村に。何しに来たか知らんが怪我せんうちに逃げ出しな。それ以上近付くと撃ち殺すぜ腰抜け」

 

一触即発の空気。今まさに海賊と山賊の争いが勃発しようという中、

 

「・・・・・・何してんの?あんた達」

 

低く、寒い声。その声は思わずヒグマも怯む程だが一番ヤバイと思ったのはシャンクスだった。

 

「お、おいウタ。大丈夫だ。俺達が助けるから」

 

「何してんのって聞いてんだけど。アンタ達だよ山猿」

 

シャンクスを完全に無視して歩いて来るウタ。その姿に赤髪海賊団の面々は冷や汗を流しながら何とか押し止めようとする。が、ブチギレのウタに睨まれてはすごすごと引き下がるしかない。

 

「なんだとガキィ・・・今なんっつった!?」

 

「私のルフィに何してんのかって言ってんだよ!山猿!!」

 

「お、おいウタ、そんな汚い言葉は・・・それに私のって・・・!」

 

「シャンクスは黙ってて!!」

 

「はい!」

 

気圧される海賊達と対照的にその怖さを感じ取れない山賊達は得物を向ける。

 

「おいガキ。今ならまだ見逃してやる。土下座して謝れば頭に風穴は開けずに置いてやるよ」

 

「立場がわかってないんだね、可哀想に。もういいよ。アンタ達は要らない」

 

「あ?」

 

「マキノさん、村長、耳を塞げ!!」

 

次の瞬間、ウタの口から歌が紡がれる。それは本来の歴史であれば赤・・・つまりシャンクスへの怒りの歌になっていた曲のメロディーとよく似ており・・・・・・しかしその敵意は明確に今の敵、山賊達へ向けられている。

 

突然の事に驚くも舐められたと感じた山賊の下っ端が剣をかまえ、突っ込んでくる。しかしウタの歌を聞いてしまった時点で、ウタワールドに引きずり込まれた時点で、既に勝敗は決している。間一髪、歌を聞かなかったマキノと村長の目にはバタバタと倒れる山賊達が、押さえ付けられたせいで山賊たちと一緒に引きずり込まれたルフィの目にはウタの声圧(・・)に吹き飛ばされる山賊達の姿が映る。唯一、ヒグマのみはウタが引きずり込まなかったせいでウタワールドで吹き飛ばされることは無かったが・・・・・・それは慈悲ではなかった。寧ろここからがウタの力、ウタウタの実の真骨頂だった。

 

倒れていた山賊達がまるで糸で操られているかのように不自然に立ち上がる。しかし依然として目は閉じたままだ。彼らはそれぞれの獲物を構えると・・・・・・一直線にヒグマに襲いかかった!!

 

「な!何しやがるテメェら!!殺されてェのか!!」

 

「無駄だよ。他の人はまだ心を痛めつけるだけで済ませてあげるけど・・・アンタはダメだ。仲間に傷つけられて絶望しながら・・・」「そこまでだ、ウタ」

 

トンッとウタの首にシャンクスが手刀を打ち込む。意識を刈り取られたウタが気絶すると同じように操られていた山賊達も崩れ落ちる。

 

「流石にそれはダメだ・・・ウタ・・・・・・。さて、山賊、あとはお前だけだ。どうする?」

 

「ま、まて。仕掛けてきたのはこのガキだぜ!」

 

「どの道賞金首だろう」

 

「・・・・・・・・・!」

 

シャンクスの眼光に睨まれたヒグマがようやく自分達が喧嘩を売った相手の強さに気付く。そしてヒグマがとった行動は

 

「ちっ!」

 

ボウン!

 

「!煙幕だ!!」

 

逃走だった。それも眠ったルフィを連れたまま。

 

「ルフィ!!し!し!しまった!油断してた!!ルフィが!!どうしよう皆!!」

 

「うろたえんじゃねェ!お頭この野郎っ!みんなで探しゃあすぐ見つかる!!」

 

 

 

 

 

 

フーシャ村近くの海上

 

「はっはっはっはっは!!まんまと逃げてやったぜ!まさか山賊が海に逃げたとは思うまい!!」

 

果たしてヒグマは海の上、小舟に乗り込んでいた。海賊達の意表を突くいい案だったがしかし、彼はこの海に何が潜んでいるかを知らなかった。

 

「さて、一応人質として連れてきたが、もう用済みだ。死ね!」

 

ドカッと眠ったままのルフィを海へ蹴り飛ばす。蹴られた衝撃で目覚めたルフィは何が何だか分からずに手足をバタつかせる。

 

「うわぁ!なんだこれ!なんで俺海に居るんだ!?がぼ・・・ぶは!!」

 

「はっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 

その様子を見て楽しげに笑うヒグマ。しかし先程も言ったように山賊である彼はこの海を知らなさすぎた。

 

「グルルルルル・・・・・・」

 

突如としてヒグマの背後に現れた黒い影。人なんて軽く十人は同時に食えそうなその大きな口に並んだ牙が、ソレの危険度を物語っていた。

 

「な・・・何、何だこの怪物は・・・!!!」

 

バクン!!とその怪物・・・近海の主が船ごとヒグマを丸呑みにする。その目はまだ食い足りないと、次はお前だとルフィを見据えていた。

 

「うわああがば・・・ば!!ば・・・だれかだすげぼぼ・・・!!」

 

悪魔の実を食べたルフィは海に嫌われ、泳ぐことが出来ない。必然、この怪物から逃げることも出来ない。怪物が大きく口を開け、あわや呑み込まれるというその瞬間!

 

バクン!

 

「・・・!!シャンクス!」

 

再び口を閉じた怪物の口の中にルフィは居ない。間一髪、間に合ったシャンクスによって抱き抱えられたルフィは怪物の口の中に入ることは無かった。そしてシャンクスの眼光が怪物を射抜く!!

 

 

「失せろ」

 

 

それだけで怪物は察知した。本能的に、この生き物には勝てないと。ガタガタブルブルと震えてしまい、仕舞いには海へと逃げ帰って行った。

 

だがその代償は大きかった。シャンクスは・・・・・・左腕を食いちぎられていた。

 

「ジャングズ・・・・・・!!・・・・・・!!!腕が!!!」

 

「安いもんだ。腕の一本くらい・・・。無事でよかった」

 

「う・・・うう・・・うわああああああああ!!!!」

 

シャンクスが航海に連れて行ってくれない理由。海の苛酷さ。己の非力さ。何よりシャンクスという男の偉大さをルフィは知った。こんな男になりたいと心から思った。

 

 

 

 

フーシャ村・シャンクスの船

 

「う、ううん・・・」

 

「ウタ!・・・目が覚めたか」

 

「・・・・・・シャンクス・・・・・・・・・・あれ・・・?私・・・」

 

「ウタウタの能力を使ったんだ。まだ体力がないんだから無理するなって言ってただろうに、全く」

 

「ゴメン・・・シャンクス・・・アイツは・・・?」

 

「あの山賊なら近海の主に食われちまった。海を知らないのに海に出るからだ」

 

「そっか・・・・・・あれ・・・?シャンクス・・・腕・・・」

 

「これは・・・・・・済まない。ルフィを助ける時に、ちょっとな」

 

「そんな・・・・・・もしかして・・・私のせい・・・?」

 

「そんなことは無い。ウタが何もしてなくてもこの腕は無くなってたさ。気に病むことは無い。それと・・・・・・ウタ」

 

「なに・・・?」

 

「この村とは今回でお別れになる。前に言ったこと、よく考えておけよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

前に言われた事、それはこのままフーシャ村に残るということだ。シャンクスと行くか、ルフィと居るか。どちらかを選ぶという事だった。

 

「俺は別にどっちでも構わない。あの調子だとルフィはいずれ一人で海へ出るだろう。その時、一緒に行けばいい。それに・・・・・・」

 

「?」

 

「『私のルフィに何してんの』、だったか?」

 

ボッ!!!

 

ウタの顔が一気に赤くなる。朧気ながらもそんなことを口走ってしまっていたことを思い出したからだ。

 

「いやっ!・・・それは!・・・・・・その!・・・」

 

「だっはっはっはっは!顔が真っ赤だぞウタ。ま、そこら辺もちゃんと考えるんだな。言っておくが俺達と来たら、ルフィとはもう一生会えないかもしれない。それだけは覚えておけ。出航は明日だからな」

 

「・・・・・・ぅん」

 

恥ずかしそうに布団に顔を埋めたウタを見て若干の寂しさを覚えながら、シャンクスは部屋を出る。

 

「・・・・・・私、なんて事言っちゃったんだろ。もぉぉぉぉ!!」

 

ボフッと枕に顔を埋め、足をバタバタさせるその様子は完全に恋する乙女そのもの。それを自覚したウタは更に顔が熱くなる。

 

「ルフィ・・・・・・シャンクス・・・・・・」

 

ルフィとは一緒にいたい。でもシャンクスとも別れたくない。出航は明日。ウタが出した結論は・・・・・・

 

 

 

 

翌日 フーシャ村・港

 

「この船出でもうこの村には戻ってこないって本当!?」

 

「ああ、随分長い拠点だったが、遂にお別れだな。悲しいだろ」

 

「うん、まぁ悲しいけどね。もう連れていけなんて言わねえよ!自分でなることにしたんだ海賊には」

 

「どうせ連れてってなんねーよー」

 

べー、と舌を出したシャンクスはその心とは裏腹にルフィを揶揄う。

 

「お前なんかが海賊になれるか!!!」

 

「なる!!!」

 

それはいつもの様に売り言葉に買い言葉では無い。ルフィが心から叶えたいと思う夢。人生の分岐点。

 

「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!!」

 

憧れていた男は想像以上に大きく、偉大だった。ならばそれを目指すならば

 

「世界一の財宝をみつけて!!!」

 

更に大きくなるしか無い。そんな覚悟を決めて

 

「海賊王になってやる!!!」

 

今は亡き、ただ一人の男にのみ与えられた称号。シャンクスですら辿り着けていない境地。海賊王。

 

「ほう・・・!!俺たちを越えるのか」

 

果たしてその宣言はシャンクスの予想通りだったのか、それとも上回っていたのか。

 

「じゃあ・・・」

 

いずれにせよその覚悟は、シャンクスにとって無下にできる覚悟ではなかった。

 

「この帽子を、お前に預ける。俺の大切な帽子だ」

 

涙は、見えないふりをして

 

「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」

 

そしてもう一人。人生の岐路にたっている者がいた。

 

「さて、どうする?ウタ。アイツは海賊王になるそうだが」

 

「・・・・・・」

 

ウタはスタスタとルフィの元へ歩み寄ると、問い掛ける。

 

「ルフィ、アンタは海賊王になるの?」

 

「・・・・・・?おう!!」

 

一瞬、呆気に取られるも、覚悟は変わらない。シャンクスを超える男になる為に。その奥底に、ウタが懐くシャンクスよりも優れた男に、という思いもあることはまだ誰にも、本人も気づいてはいないが。

 

「私は歌で皆を幸せにする、新時代をつくる。アンタはそれに見合う男になれるの?」

 

「・・・・・・新時代なら、俺も作る!!」

 

それは少し前に二人で話した夢の果て。ルフィの最終的な目標を、ウタは思い出した。

 

「・・・そう。わかった」

 

クルリとシャンクスの方へ向き直り、しかしそこから歩みはしない。

 

「シャンクス。私は・・・ルフィと行く!ルフィは私が居ないとダメだし、それに・・・・・・」

 

チラリとルフィを振り返り、クスリと笑う。

 

「海賊王の船員(クルー)なら、私みたいな世界一の歌い手が必要でしょ?」

 

その言葉を聞いたルフィがパァ、と満面の笑みを浮かべる。

 

「そうか、わかった。ならウタ、お前も立派な海賊になって俺の元に来い。だがな、」

 

「?」

 

「離れていてもお前は一生、俺の娘だ」

 

「!!」

 

「元気でな」

 

「・・・ゔん!!」

 

頭を撫でながらそう言ったシャンクスの目元にも、涙が浮かんでいた。だがそれを零すような事はしない。

 

「マキノさん。悪いがこいつの事、よろしく頼むよ」

 

「ええ、分かってますよ。船長さん」

 

船に上がる直前、ベッグマンが問い掛ける。

 

「いいのか?ありゃ将来強力なライバルだぞ?」

 

「フッ・・・それくらいでなきゃな。俺の娘とそいつを奪った奴だぞ」

 

「違いない」

 

ここを離れた後にギャン泣きする事になるだろうが、今だけは。ルフィとウタの記憶に残る最後の姿はかっこよくしておきたい。

 

「錨を上げろォ!!!帆を張れ!!!出発だ!!!」

 

「「「「オォ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

そして少年と少女の冒険は、10年後のこの場所から始まる。

 

 

 

10年後

 

 

「とうとう行っちゃいましたね、村長。さみしくなるわ」

 

「村の恥じゃ!海賊になろうなんぞ!」

 

「本気で行っちまうとはなー」

 

「ウタちゃーん!!行かないでーー!!!」

 

 

 

 

フーシャ村近くの海上

 

「やー、今日は船出日和だなー」

 

「そうねー、歌でも歌っちゃう?」

 

「お!いいな!!」

 

ギーコギーコと小舟を漕ぐ二人のすぐ近くに突然、いつかと同じ近海の主が現れる。

 

「お!出たな近海の主!!10年鍛えた俺の技を見ろ!」

 

「シャンクスの腕の仇!取ってね!」

 

「おう!ゴムゴムの・・・・・・(ピストル)!!!」

 

ルフィの腕が伸び、主の頬に突き刺さる。その拳はかつての宣言通り(ピストル)の様に強力な一撃。

 

「思い知ったか魚め!!」

 

見事にノックダウンされた近海の主は海中に沈んでゆく。グルグルと腕を回しながらルフィがウタに話し掛ける。

 

「まずは仲間だな!10人は欲しいなァ!!あと海賊旗!!」

 

「どちらにしろこの舟じゃ小さすぎだよね。舟も大きくしないと」

 

「よっしゃ行くぞ!!」

 

「うん!!」

 

「海賊王に!!!」

 

「新時代をつくる女に!!!」

 

「「おれは(私は)なる!!!」」

 

蝶の羽ばたきによって、歴史は大きく変わった。彼らがおこす風はまだ見ぬ仲間も巻き込んでさらに大きく時代を吹き抜けるだろう。

かくして大いなる旅は始まったのだった!!!

 




第一話は割とカットせずに書いたらめちゃくちゃ長くなっちゃった。これ以降はこんなに書かない・・・というかかけないと思うのでご安心ください。
ウタが出てくる二次創作でよく楽曲使用してるヤツあるけどやり方わからないしこのIFの場合多分歌も大分変わってるんじゃない?と思ったのでやらないと思います。そのまま使うのは多分世界のつづきと風のゆくえ、あとTot Musicaくらいでしょう。
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