ディミレス過激派が転生したらエーデルガルトだった 作:まあじょ
1話 短剣の誓い
「……エル! 本当に帰ってしまうんだな」
「仕方ないじゃない。わたしだって、急で驚いてるのよ」
「エル……」
伯父様から急に帰国を告げられて、広場で馬車を待っていたら、慌てた様子の"ディー"が駆け寄ってきた。
彼は霞んだ青空のような色の瞳を真っ直ぐに私に向けている。
わたしだって寂しいわ。アンヴァルに帰れるのは嬉しいけれど、ディーともっと一緒に遊びたかった。
「……そうだ、これを」
ディーはそう言うと、懐から銀色に光る小さい刃物を取り出した。
「エル、どんなに苦しい時でも負けては駄目だ。きみの望む未来を、切り拓くんだ」
ディーは刃物をこちらに手渡した。
「これは……え、短剣? 何で、こんなもの……」
………………!
短剣を手に取った瞬間、稲妻に打たれたような衝撃が全身に走った。
その直後、わたしの頭は言葉の洪水に呑まれていった。
金髪碧眼の王子が亡命した隣国の皇女に短剣を贈った。
アドラステア帝国、アンヴァル、伯父様のアランデル公、ファーガス神聖王国。
フォドラ、セイロス教、大司教。
初めは混乱していたが、徐々にむしろ今まで長い眠りについていたかのように意識が覚醒していくのを感じた。
ああ、どうして今まで何も気づかずにぼんやりと生きていたのかしら。
目の前にいる少年のフルネームはディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッド。
そして、わたし、私の名前は……。
エーデルガルト=フォン=フレスベルグ。後にアドラステア皇帝になる女。
そして、ここはファイアーエムブレム風花雪月の世界。
「え? あ、いや、ごめん……。これしか、思いつかなくて……」
ディー……いえ、ディミトリは私が短剣を気に入らなかったと勘違いしたようで、ばつが悪そうにしている。
私が呆然としたのはもっと別の理由なのだけれど、それを伝えることはきっと許されない。
「エーデルガルト、何をしている。時間だ、早く馬車に乗れ」
全てを思い出したことで、聞き覚えのある台詞が予想通りのタイミングで届いた。
「あ……ご、ごめんなさい、伯父様!」
私は念のため原作通りの台詞で返答し、アランデル公の元へ向かった。
ごめんね、ディミトリ。贈り物にお礼も言わずに去ってしまって。
アランデル公はこちらを一瞥すると、黙って馬車に乗り込んでしまった。
私も続けて馬車に乗り、彼の隣に座る。
馬車内の空気は張り詰めていて、息苦しい。
伯父として信頼していたアランデル公が「敵」だと思い出したからだろうか。
アランデル公がタレスに成り代わられたタイミングは原作で明言されていないから、現時点で彼の中身が本物かどうかはわからないのだけれど。
あるいは、自分がこれから直面する運命への恐れからだろうか。
この物語の中で、私エーデルガルトはアドラステア皇帝として戦争を起こし、たった一つのルートを除いて敗れ、死ぬ。
「……ディー」
私は貰った短剣を両手で握り、伯父様に聞こえない小声で彼の愛称を呟いた。
どんなに苦しい時でも負けるつもりはないわ。
私は、私の望む未来を切り拓くから。