Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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本話あとがきはネタバレが含まれます。


第一章 6

 ダグラスは怒り狂っていた。

 

 どうしようもない現状に対する理不尽ではない。

 

 逃げるしかない自分自身に対してではない。

 

 その原因を作ったアサシン達に対してではない。

 

 彼生来の、怒れる人格に対してではない。

 

 今もじんわりと肩から広がり続ける痛みに対してではない。

 

 ――全て。

 

 それら全てにダグラスは怒りを覚えていた。

 こんなはずではない。

 こんなこと、在っていいはずがない。

 

 怒りは、一つではなかった。

 芯が、思考が、感情が、あらゆるダグラスを形成する部分が、怒りと共に暴れまわっているのだ。

 

 もはやダグラスに人と呼べる感情は存在しない。

 ――狂気。

 怒りによって派生して、更に人を怒りに導く狂気のそれである。

 

 正常な思考は望めない。

 精神が、恐怖という感情と、激痛という感覚に冒されている。

 ただ解ることは、自身を抱え逃げるバーサーカーが、右往左往するのをやめたというだけの話だ。

 そうなれば、後はどこへでも逃げるほかない。

 

 彼の後方には、幻覚があった。

 何かがダグラスを追いかける――追い詰める。

 逃げても逃げても、それは同じ距離にただひたひたとひたひたと、着いてくる。

 

 逃げ無くてはならない。

 逃げ切らなくてはならない。

 

 思考すらおぼつかない狂気のなか、ただそれだけがダグラスの意思となった。

 

 ――風が吹いた。

 

 どこか生暖かい、夜には場違いな風。

 言うなれば、人の吐息とでも呼ぶべきそれ。

 ぞわりとダグラスを刺激して、やがてどこかへ消えていく。

 

 ――違う。

 否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否。

 そうではない。

 

 充満している。

 ――一瞬にしてその何かに、ダグラスは適応してしまったのだ。

 沼に入り込んだかのような感覚。

 人の気配ではない――気配。

 

「あっあっあっ、ば、ばば、ば」

 

 なにか、いる。

 なにかが、追いかけてくる。

 

 理解してしまった。

 感じてしまった。

 

 ――今、ダグラスの後ろに、――何かがいる。

 

 

「にににに、逃げろ、バーサーカーッ!」

 

 

 それ以上は、言葉にならなかった。

 言葉とすることすら、ダグラスには不可能であろう。

 

 

 ――ひた。

 ――――ひたひた。

 ――――――――ひたひたひたひた。

 

 

 ひた。

 

 

 いる。

 解る。

 いる。

 それが、いる。

 何かが居て、追っている。

 誰を? 自分を。

 ダグラス=イングルビーを。

 何で?

 

 何で?

 ――何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で? 何で?

 

 分からない。

 分からない。

 だけれども、いる。

 何かが居て、追っている。

 追っていて、追い付いてきている。

 

 逃げられない。

 逃げなくてはいけない。

 警鐘。

 警鐘。

 思考、警鐘。

 だが、そこまでだ。

 

 ぷつんと、何かが切れる音。

 正気の糸だと、何故か気付いた。

 

 気がつけば、バーサーカー達は山の中にいた。

 山道を、訳もわからず走り続けている。

 

 ここはどこだ?

 自分たちは何をしている?

 それすらもわからずに、理解するという選択肢が、欠落していた。

 

 ただ、やはりダグラスを追いかける何かは存在していて。

 ダグラスはそれを引き離せずにいて。

 

「何を、何をしている! 逃げろバーサーカー。逃げなきゃ、逃げなきゃァァーーーー!」

 

 もはや自身でも言葉の意味は理解できない。

 それでも、その願いは、バーサーカーへの令呪に寄る命令とは反しない。

 

 そこに、人間の思考というものは、存在することを許されないのだ。

 

 ダグラスの、あやふやな視線の先に。

 ――光が在った。

 光。

 そう、光。

 

 何かが淡く発光し、在る。

 

 光明だ。

 思考の中の何かが囁いた。

 ――もはやなりふり構わず、そちらに手を伸ばす。

 だんだんと近づいていく光。

 蛍光灯すら逸した月夜の最中。

 

 ただ、手だけを、伸ばし続ける。

 

 ――――掴んだ。

 

 そう思った瞬間に、

 

 ダグラスの身体は、宙を待っていた。

 

 

 ♪

 

 

「いっちょ上がり……っと?」

 

「はい、これでよいかと」

 

 ダグラスが転がり込んだのは、当然といえば当然か、キャスター陣営本拠地。

 瀬場邸であった。

 

「……あ、――がああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 入り口。

 山門から続く石畳に、直接ダグラスは身体をぶつけた。

 辰向により銃撃を受け、その痛みはまだ肩に残っているのだろう。

 ちょうどそこに――衝突したのだ。

 

「ねぇ、見たところ、バーサーカーのマスターも誘導に引っかかっているようだけど」

 

「よほど精神的に狂乱していたようで……バーサーカーに対する結界に、マスターの精神も囚われたようです」

 

 発狂しているダグラスを他所に、朝海とキャスターの言動は冷徹なモノだ。

 地に転がるダグラスを見てすら居ない。

 ――彼女たちは、白くモヤのかかった何かに釣り上げられた、バーサーカーに意識が向いていた。

 

「あ、おおおあおあおあぁぁおあおあぁおぉぉおおおぁぁあああ」

 

 ダグラスの、惨めとしか言いようのない嗚咽が響く。

 痛みに彼は泣きじゃくっていた――痛みを認められない子どもの如く。

 銃撃に、更に追い打ちを掛けるのだ無理もない、が――どうしようもなく無様ではある。

 

「……まずいですね、鎖を突破されます」

 

「だんだん力が弱くなってるよ。……これが一度終息したら、もう鎖は必要ないね」

 

 バーサーカーは、何事か手で空を切り裂いている。

 猛烈な身体の動きに、いよいよ持って“何か”の糸がきしみを上げる。

 

「……無理をしないで」

 

 朝海がそう呼びかける。

 ――対象は、鎖。

 それは、魂魄により形成され、朝海の“依頼”によって現実に作用する霊体であった。

 

 朝海等キャスター陣営のしたことは簡単だ。

 結界を作り出したのである。

 本質は霊に対する神事を執り行うこと。

 それと同様に、“霊を作用させる”という意味合いもある。

 

 命令を通すのではなく、依頼という形で呼びかけることが鬼道の本質だ。

 朝海はそれを信仰という形で補助し、発動を容易にしている。

 さらに言えば、そういった“霊的存在”から副次的に漏れ出る幾つかの力も、キャスターと朝海は得意とする。

 

 心霊スポット、という言葉は昨今何ら珍しくはない。

 これら霊が集うとされる場所は、それだけ死に近く――あの世に近い。

 また、日常とは隔絶された“非日常”が進行される世界でもある。

 言ってしまえば小さな異世界に近い。

 それを“霊”を大量に集めることで擬似的に作成するのがキャスター達の結界作成における基本原理だ。

 

 また同時に、神的地盤の作成というもう一つの結界へのアクセス方法もあるが、それは今は余談である。

 とまれ、異界に迷い込んだバーサーカー陣営は、後方から襲い来る“何か”に追われ、キャスター達の本拠地に押し込まれたのだ。

 

 やがて、弱々しくなるバーサーカーの動き。

 それは令呪により、“ダグラスを逃がす”ということが不可能になったという事実を示していた。

 

 朝海とキャスターが、瀬場邸の入り口に立ち、その手前に、四人の巫女装束の女性が佇んでいる。

 ――バーサーカーを最初に遅い、工場へ誘導した女性と、同じ雰囲気をしていた。

 

「……あ、あ、あ」

 

 ――痛みが、一定の極点に達したのだろう。

 ダグラスがそれらの女性を見て、驚愕と共に思考を再開させる。

 

「何で、ここに――」

 

 消えたと思っていた女性。

 あの戦闘において、結局アサシンとも何ら関係なく、不可思議な勢力に在った女性。

 

「……貴方が“消した”のは、確かに“消え”ました。まぁ、姿を保てなくなった、というだけですが」

 

 朝海が、そう発した。

 明らかな隔絶の態度――一線を引いた、初めて辰向達と邂逅した時の言葉遣い。

 

「お初お目にかかります。私はこの地のセカンドオーナー。瀬場朝海ともうします」

 

「セ、セカンドオーナー? セカンドオーナーは、この戦争の主催者である赤紫羅じゃないのか!?」

 

 発音の怪しい“間抜け”な日本語で、ダグラスは問いかける。

 

 ――現在、瀬場朝海は自身の本拠を“自身の生家”としていない。

 この戦争に関わるものだけでなく、赤紫羅を知るだれもが知っていること。

 瀬場家はこの地を、実質赤紫羅に乗っ取られたのである。

 

「“正確には”違います。赤紫羅は外来からこちらに来訪し、滞在を許可しただけの家。セカンドオーナーではございません」

 

「……ま、まぁそれもそうか」

 

 朝海の言葉にダグラスも納得する。

 そもそも、そう簡単にセカンドオーナーは変わらない。

 

「さて、では本題と入りましょうバーサーカーとそのマスター」

 

「……何?」

 

 少し、朝海の雰囲気が変わった。

 ――悪化した、と言い換えてもよい。

 

 ダグラスは感じた。

 この怒気、――十五そこらの小娘がだしていいものではない。

 

「――あなた方が、何故、魂喰いをなさったのか。残念ながら、その暴挙、見逃せる“程度”ではございませんので」

 

 一度であれば、黙認する魔術師もいよう。

 しかし、ダグラス等のそれは、一度で済むような風ではなかった。

 ――そも、朝海はその“一度を許す魔術師”ではない。

 

「あ、う――」

 

 目が泳いだ。

 威容と威圧――朝海の雰囲気に呑まれ、そしてこの状況の窮地を理解したため、ダグラスは――日和見を選んだ。

 

 沈黙。

 一瞬ではない。

 おそらく、数十秒ほどのモノ。

 ――その間にも、バーサーカーは勢いを失う。

 

 そうして、飛び出た言葉は、

 

「――し、仕方がなかったんだ!」

 

 ――言い訳、であった。

 

「だってそうだろう。見れば解る。こいつは恐ろしいまでの狂化が施されている。ただでさえ魔力の運用が難しいバーサーカー……魂喰いくらいでしか、魔力を補充できなかったんだ!」

 

 仕方がない。

 ――そう、仕方がない。

 

「そうしたら、いきなり敵に襲われた。あいつは僕を殺そうとしたぞ!? そ、そうだ。あいつらは僕よりももっと危険だ。アレはもはや人間じゃない、バケモノだ。だから、だからあいつらを倒そう。仕方なかったことは水に流して、あの危険なアサシン達を――」

 

 それから何度も、ダグラスはその言葉を繰り返した。

 痛みにより冷静な思考ができなくなっているのも在るために、どこかうわ言のようで、また、あまりに空々しいものだった。

 

「……そう、そうですか」

 

「――――、」

 

 何度か、朝海は頷き、自身の意思を鎮める。

 キャスターは終始無言であった。

 楚々とした淑女のように、目元を伏せ、朝海の数歩後ろに立っている。

 

「…………――――」

 

 氷のように、無感情へ変わっていく朝海。

 それを、怒気を沈めたのだろうと判断したダグラスに、少しだけ、薄笑いが浮かんだ。

 それはさながら、彼が小馬鹿にしていた日本人の――それも、小市民のような態度であり、

 

 

「――――残念です」

 

 

 続く、朝海の言葉は更に冷えきったものに成った。

 

「あ、え?」

 

 意図を知れず、呆然とするダグラス。

 

「――バーサーカーのマスター。どうやら、バーサーカーが再び狂気を取り戻したようですよ?」

 

 そうして、二の句。

 はっとしてダグラスは振り返った。

 

「あ、バ、バーサーカー!? よ、よしいいぞ! 今すぐその鎖を引きちぎれ、そうして――!」

 

 バーサーカーは再び暴れ始めていた。

 それがダグラスには勝機と思えた――再びバーサーカーを戦闘に使用できれば、状況は覆る。

 

 だが、彼の思考は正常ではなかった。

 痛みとそれまでの狂乱、そして朝海の威容により、彼は完全に記憶を欠落させていた。

 

 ――バーサーカーを捉えた鎖が力を緩める。

 それは先ほど朝海が語った、無理をしてはいけないという言葉に従っての物だった。

 

「よし、よしよしよし! は、ハハハハハ! セカンドオーナーだかなんだか知らないが、ずいぶんとあまちゃんのようだな! 後悔させてやる、僕をこの場で殺さなかったことを!」

 

 ダグラスの思考の欠落、それは単純なことだ。

 

「さぁ、ぶち殺せ、バーサーカブっ――――」

 

 

 ――バーサーカーを、制御できない、という点である。

 

 

「あ、が」

 

 一撃で、――ダグラスは再び地に叩き伏せられた。

 

「……馬鹿な人。制御できないほどのバーサーカーを、召喚した時点で貴方の運命は決して居たのですよ」

 

 ガス。

 

「――おま、あ、たす」

 

 ガス。

 

「貴方の間違いは一つ。嘘をついたことです。――貴方は自分の意思で進んで魂喰いを選択した。そして、私を前にして命乞いをした。狂気を発露させるのではなく」

 

 ガス。

 

「な、なんで知って――ぼふ」

 

 ガス。

 

「えぇ、まったくもって残念です。――もしもあそこで、私に向かって“彼”に対する言葉と同じように、汚らしい言葉を発することができたなら」

 

 ガス。

 

 

「――何の悔いもなく、あなたを見殺しにできましたのに」

 

 

 ガス。

 

 ガス。

 

 ガス。

 

 

 ――本当に、残念でなりません。

 

 

 ――身を翻し、見下ろす朝海の表情は、あまりにも、何の感情を得てすら居なかった。

 人形のよう――ではない。

 

 それはまさしく、

 

 

 ――死霊、のような、顔だった。

 

 

 ♪

 

 

 ダグラスが死に、バーサーカーはいよいよ姿を保つことが不可能と成った。

 そして、バーサーカー自身、もはや暴れるつもりもないのだろう、血だらけになった手をだらんと垂らし、その場に膝をついていた。

 

 ――暴れるつもりもない、どころではない。

 その瞳には、先程まで存在しえなかった理性が、宿っていた。

 英霊として座に帰る一瞬。

 サーヴァントとしての“棺”から解き放たれた彼が、人としての意識を一時的に有したのだろう。

 

「――俺は……ここは、一体?」

 

 言葉に、すでに背を向け興味を逸していた朝海が振り返る。

 即座に彼女は、問いかけた。

 ――それは果たして、興味であろうか、それとも――――

 

「……英霊。狂気を帯びた姿でこの世に現れたあなたに、その名を問いたい。――真の名を、貴方だけの名を問いたい」

 

「あぁ……なるほど」

 

 男は、即座にそれを理解したようだった。

 一拍置き、改まったように、答える。

 

 

「――俺の名は“帝辛”。またの名を、“紂王”とも言うらしいな」

 

 

「……帝辛、殷――最後の皇帝」

 

 朝海の知識が、即座にその答えを引っ張りだした。

 帝辛。

 ――それは殷を終わらせた暴君である、とされる。

 祭祀をおろそかとし、享楽にふけり、その姿は“酒池肉林”と称された。

 

「狂気の英雄。カハハ――よきかな、確かに俺は狂気に堕ちた男よ」

 

 暴君。

 その名にふさわしいまでの逸話を彼は有する。

 美女に溺れ、悦楽の宴にふけり、臣を殺し、次代の王を幽閉し、名臣とそれに支援された英雄に滅ぼされた――悪逆の皇帝。

 

 そう、現代には伝わっている。

 しかし――そうではないとする意見もある。

 

「ですが、貴方の時代、殷は決して衰退の一途をたどったわけではない。それに、貴方は旧式の祭祀を簡略かするなどの政策も施した。決して暴君などとは――」

 

 ――ただ、それらの逸話は、次代の政治家達によって、歪められたものである場合が多い。

 喩え暴君とされる人間の、全てが悪性で在ったわけではない。

 

「……ふむ、どうやら俺の記憶によれば、君は俺のマスターを見殺しにしているようだ。……それを悔やんでいるのか? そうして、こう言いたいのだろう?」

 

 ――悪逆非道は、人間の一側面でしかない、と。

 

「それは……いいえ、違います。たとえそうであっても、私はそれを認めるつもりはありません」

 

「――ほう。面白いことを言う。ならば教えてやろう、小娘」

 

 いよいよもって、バーサーカー――帝辛の身体は宙に透ける。

 消滅の時は近い。

 

 バーサーカーは、恐らく狂気をその身に抱いていたはずだ。

 けれどもそれは全てが狂気であったわけではないだろう。

 あの時、“命乞いをした”ダグラスのように、全てが悪であったはずもない。

 

 だが、召喚されたバーサーカーは圧倒的な狂気を有していた。

 理由は恐らく、バーサーカーが“歴史に歪められた暴君”としての側面が大きく出ているからだろう。

 歪みが、さらに歪みと相乗しあい、極限の歪みが生まれた。

 それがあの、制御を許さないバーサーカーの狂気の正体である。

 

 だが、バーサーカーは、いかにも、な笑みを伴って言う。

 それが自身の、最後の言葉となることをしっかりと理解しながら。

 

 

「――俺は、どれだけ言い繕おうと、国を滅ぼした。それだけで、世界で最もどうしようもない、暗君であるのだよ」

 

 

 かくしてバーサーカーは光に消えた。

 朝海は、ただ、それを呆然として見送る他、無かったのだ。




※あとがき登場人物解説※

・バーサーカー(帝辛)
古代の中国に存在した「殷」の国を終わらせた暴君にして暗君。
祭祀を顧みず享楽にふけった、とされる。
しかし、それは後の時代を作った「周」の国の箔付けのために捏造されたものであり、本来の彼は決して暴君というわけではない。
祭祀を顧みない、とはいうものの、その実際は、祭祀を簡略化したことを、視点を変えたというのが実際のところ。

彼は極普通の君主であった。
名君といえるほどの名君ではなく、暴君と呼べるほどの暴虐も、あくまで君主としてみれば、激しい謀略があったというだけのこと。
かのローマの暴君とくらべても、彼はあまりに“平凡”であった。
本来であれば歴史に名を残すようなこともない君主が、しかし、一つの間の悪さによって暗君として名を残してしまった。
生まれる時代が違えば、ただの君主であった皇帝。

歴史に歪められ、歪みの元に召喚されたサーヴァントが、消滅の瞬間、思ったことは――――

・ダグラス=イングルビー
三流魔術師、ほどほどに適正のある詠唱の簡略化は、彼を侮っていた辰向が舌を巻くほど。
決して無能というわけではなく、本来の適格と意識の間にあったギャップが彼を苦しめていた。
もしも、この聖杯戦争を生き残っていれば、それなりの地位につき、毒にもならない人間として一生を終えたはずなのであるが――
結局、魂喰いをする、という選択ミスが、彼の寿命をここで尽きさせてしまった。

バーサーカーとの相性は、おおよそ最悪と言って良い。
そもそも、命令を効かないバーサーカーなど、運用できるはずもない。
決して彼という人物が悪辣であったわけではない。
ただ、“何か”が致命的に悪かった。
ダグラス=イングルビーとは、つまりそういう人物なのである。
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