Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第三章 2

 雪白辰向の飛行能力――空間走行能力は、端的に言えば、足場の“空間”という存在をあやふやにすることにこそ、ある。

 本来であれば実体性を持たない空間という概念に、無力という方向性を与える。

 存在しないモノに存在しないモノをあわせる。

 マイナスにマイナスを掛けあわせるようなものだと思ってくれて構わないが、そこに辰向は飛行という力を加えた。

 

 それぞれの機能は別のものだ。

 足元に爆発的な衝撃を与え、加速を得るという移動方法。

 それと、空間に空間を設けるという、反発による足場の形成方法。

 これらを合わせ、そして調整し空間走行という方向性を持たせたのが、彼の飛行という方法の理論である。

 

 それは本来の飛行と呼べる方法には程遠く、また、原始的である。

 それでもその速度は時速にして200キロメートルを超える。

 人間以上の速度であった。

 

 とはいえ、今回の相手はそれ以上――最高時速は500キロメートルを超える、零式艦上戦闘機。

 だが、当然といえば当然か――何の勝算もなく勝負に打って出ることなどありえない。

 それはバーサーカー戦においても使用されたスキル。

 気配遮断である。

 

 正確には、アサシンのスキルによって発生した――おまけとも言えるスキル。

 本来アサシンが持つスキルはこうだ。

 

 ――ゲリラ戦法:EX。

 名の通り、ゲリラ戦を行うためのスキルを付与し、状況に応じて、付与した対象者の能力を増強させる効果もある。

 主に、不意打ちの際には、通常以上の戦闘能力を発揮するだろう。

 とはいえ、気配遮断が“解かれた”際の違和感は、さすがに拭えないのではあるが。

 

 そも、現在のシチュエーションは、ゲリラ戦とは言いがたい。

 恐らく気配遮断の性能もワンランクは落ちるだろうが――それでも、十分といえば十分だ。

 少なくとも、敵の捕捉をかいくぐるステルスという方面においては、間違いなく効果を発揮することだろう。

 

 高速で風を切る辰向。

 たった一歩で数百メートルを踏破し、踏み“越える”さまは、人間のそれとは思えない。

 ――夜空には、すでに高く上がったひこうき雲が横一線。

 やがてどこかへ消えてゆく。

 

 見上げる、その先にはきっとノエミ達がいるだろう。

 しかし、今はただ夜天が黒々とそまり、散らばった金平糖が、自己主張するように瞬いている。

 月はおおよそ満月であった。

 後数日で、完全なる円形となることだろう。

 

 まばらに星を隠す雲。

 闇に溶けて入るものの、それがあることは明白だ。

 ――戦闘は、静かに、しかし二つの爆音と共に、空の上で――――始まった。

 

 

 ♪

 

 

「――ダメだわ、敵の姿がどこにもない!」

 

「どっちだ!」

 

「どっちもよ、辰向の姿まで見えないの」

 

 空の上、ライダーとノエミの怒号が響く。

 せわしなく周囲に視線を向けるノエミと、前方に集中するライダー。

 ――アサシンの姿がない、それは当然だ。

 だが、辰向が見えないのはどういうことか――

 

「だが、追ってきてる“感じ”はあるぜ、恐らくどこかで俺らとぶつかろうってんだろ、下方にいる!」

 

「この空よ、見えないわけがない! なのに見えないってことは、何か種があるわね、あいつ!」

 

 辰向は半端とはいえ、起源覚醒者である。

 とすれば、自前の魔術は使えない――しかし、魔術の恩恵を受けられないわけではない。

 

「――でも、あんたの感覚が終えてるってことは、そこまでハッキリした感じじゃないってことね。……だったら、あいつどこにいる? 正確な方向!」

 

「前だァ! どうも向こうの方が遅いみたいだぜ、割り込もうって算段ですかねぇ!」

 

 ――ライダーの無駄口に意識を向けるでもなく、ノエミは前方下の視界に集中した。

 空中から、ポツンと幾つかの人家の灯火。

 都市の中でも、住宅が密集し、商店は周囲にはない。

 

 その一角――見えた。

 不可思議な陽炎のゆらめきが、こちらに被さるように疾走している。

 

「みつけた! 方向を言うわ、先制して!」

 

「ガッテン、任せときな」

 

 敵があるのなら、それを追えばいい。

 ライダーもどうやら異質な空白を視認したようだ。

 みるみる内に迫る間。

 先のライダーの発言通り、どうにも敵は足が遅い――これなら捉えるのに苦労はない。

 

「ハハ、もらいなッ!」

 

 敵の不意を付く形での強襲。

 先制し、こちらを圧倒するのが辰向の狙いであろうが――甘い。

 速度という面において圧倒的に勝るライダー陣営が、有利であることは必定なのだ。

 

 ――しかし。

 異様な空間――そこから姿を表した辰向は、ライダー達を待ち構えていた。

 

「避けてッ!」

 

「――言うまでもねぇ!」

 

 直後、警鐘が思考の隅から隅までを支配するように鳴り響く。

 読まれていた――否、それを前提にライダーは突っ込んだ――!

 

 乱射される機銃、もはやわけもわからないほど、熱を帯びた弾幕がばらまかれた。

 同時、辰向が右手から何かを振りかぶる――

 

「……手榴弾!」

 

「う、おおおおおおッ!」

 

 ライダーは勢い紛れに絶叫し、機体を上方へと引き上げた。

 直後、起爆。

 ――猛烈な赤と黒の閃光。

 零戦は、黒鉛の最上部を切りさくようにかすめて抜けた。

 

「敵はどこだ!」

 

 ライダーが叫ぶ。

 周囲にいることは解る、けれどもそれ以上はわからない。

 

「――消えた! 見失ったわ……!」

 

 畜生。

 ――ライダーの口から漏れた言葉は、ノエミの言葉と同義であった。

 

 

 ♪

 

 

 爆風と、零戦の機銃から逃れ、辰向は一度零戦から距離を取った。

 敵機の姿はすでに無い。

 ――離脱された。

 

 たったの一撃を確実に加え、そしてその場から飛び去る。

 いわゆる“一撃離脱戦法”というやつだ。

 元より想定通り、それが主流となった後の航空戦におけるエース。

 

(絞り込みはできないが、候補の確定はできる。帝国海軍ってことは、加藤建夫じゃあないな)

 

 知名度で言えば、まず上がる日本のエースの片翼。

 もう一人は、大空のサムライ、坂井三郎だ。

 

(一撃離脱を得意とした、っていうのは特徴にはならないだろう。とすれば――ダメだな、最低でもコレだ、っていう特徴がわからないと)

 

 ノエミがどういう意図で、誰を呼び出したのか――

 ――想像するだけ無駄だろう、彼女は、そういったことを気にする手合ではない。

 

(……ノエミ=ミシリエ。あいつは生粋の自由主義者――いや、自由ジャンキーだ。自由でないことは絶対にやらない、自由でなければ生きている価値を有さない。そう断言する人間――)

 

 何せ、不自由だからと自身の婚姻を放り投げる手合だ。

 制約となりうる形で、ノエミはサーヴァントを召喚しないだろう。

 恐らく、自分が一番自由に振る舞える相手を喚んだ――縁召喚というやつだ。

 

(ともかく、こちらから打ってでないと――)

 

 思索の最中――そこに、いいえも知れない感覚が襲った。

 それが何かも解らず――しかし、辰向はそれに動かされた。

 後方に、飛ぶ。

 

 直後――彼のいた空間に、無数の鉄槌が振り落とされた。

 丸く、そして小さい幾つもの弾丸――ライダーの駆る零戦の奇襲である。

 

「なっ!」

 

 直後、垂直に落下していく零戦が機銃の後を追った。

 

(何で――ッ! こっちは気配遮断で姿を消してる――一体どこから俺をッ!)

 

(恐らくは直感でしょう、ああいった戦局を左右しうるほどの兵です、――人間の感覚を逸した直感は、最低限のスキルでしょう)

 

 ――それでも恐らく、正確に辰向のいた場所を狙えたのは、完全な偶然であろうが。

 ともかく、この場所はまずい。

 もう一度狙われれば、今度は回避も難しい。

 

(とにかく、次はこっちが打ってでるしかないか――!)

 

 辰向が思考し、見上げるは上空。

 足に力を込めた彼は、勢いままにさらなる高さへと足を進めた。

 

 

 ♪

 

 

 上を目指した辰向。

 それを当然。ノエミ等は追った。

 上昇するには速度が落ちる、とはいえそれでも半分の速度しかでない辰向に、追いつくことは十分可能だ。

 

 かくして辰向は後方から零戦に狙われた。

 辰向が方向を転換するが速いか、零戦が機銃をまき散らすのが速いか。

 それは果たして同時であった。

 多少はどちらかが速いであろうか、その程度。

 

 辰向が横に吹き飛ぶと同時、機銃の雨を追いかけるようにライダーの零戦が浮上していった。

 上を取られれば、後はもう、それに辰向が追いつく方法はない。

 だが逆に、上に向かうだけでは、ライダー達も攻撃に手を向けられない。

 

 そこから両者の思考は同一であった。

 辰向は上を目指し、それに切り返すようにライダー達が急降下する。

 一瞬の交錯となるであろう。

 ――さながら、剣士が一太刀を相手に伝えるか、そのタイミングを計る、意思と意思の鍔迫り合い。

 

 その場合においては、恐らく焦れた方が負ける。

 しかし、今回は状況に限界というものがある――辰向がライダーに追いつくか、それよりも先に攻めに移るか。

 状況の決定権は、ライダーにあった。

 

 機体を水平に保ち、辰向を待つ。

 ライダーに促されたノエミの声が、辰向と零戦の距離を伝えた。

 

「――距離、1200――1100――1000――――」

 

 一瞬を決めるのはライダーだ。

 故にノエミは、あくまで正確かつ小刻みな報告を行う。

 ――そこに、疑いようのない信頼があった。

 全てをライダーみ任せて構わない、その信頼が。

 

「――――らぁ!」

 

 瞬間、ライダーの機体が降下する。

 背面飛行で軽く敵を見やる――揺らめくような軌跡が、上空へ直進しつつあるのが見えた。

 ――これを、墜とす。

 

 即座に急降下をはじめる零戦。

 彼が最も得意とする状況とは違う――しかし、その動きは彼に取ってみればあまりに手慣れたものである。

 

「――200、190、180――――」

 

 言われたとおり、二百からは十刻みで距離を伝える。

 一気にライダーは辰向へ接近していた。

 垂直に上がる辰向に対し、ライダーは斜めから、切り裂くように、それに突入する。

 ――そして。

 

「――――150!」

 

 そこで、カウントは止まった。

 必要がなくなったからだ。

 ――距離、150メートル――――ライダーの、必殺の間合い。

 

 取った。

 機銃の乱射が無色の空白を叩き割る。

 連続し、音となり周囲に見舞う。

 

 ――だが。

 

 

 辰向は回避する、機銃が通り抜ける少ししたの地点で“急停止”したのだ。

 

 

「お、おぉぉぉお?」

 

 通常ではありえないような動きだ。

 だのに、辰向は物理法則などお構いなしと言った風に全速から零へと至る。

 空振りとともに、零戦は地上へと向かっていく。

 即座に機体を動かし、ライダーは上空へ上がる。

 ただ、状況が逆転した。

 先ほどの自身と、先ほどの辰向が、今は逆の状況にいる。

 

 ――上を許した。

 そうせざるを得ないとはいえ、失態であった。

 しかし、

 

「――何だありゃ、小回りが効きすぎる。喩えこっちが速度で上回ってても、あんなバケモノじみた機動相手にできるかよ!」

 

「あいつ、身体半分が礼装でできてるのよね。多分、あそこから落ちても生きてるわよ」

 

 ノエミのぼやき。

 ライダー、そしてノエミ、どちらも高く飛び上がった辰向を見上げている。

 これ以上は仕方がないと、ライダーは前方に意識を戻した。

 

「――さすがに、アレと格闘戦は無理だな、逃げるぞ、逃げて攻撃を交わして、それから反撃だ」

 

「できるの? あの馬鹿みたいな小回り相手に」

 

「できるさ――多分な!」

 

 ――力強く、可不可の不透明さをライダーは言った。

 凄まじく不安の募る言葉である。

 しかし、それでもそれに頼らざるをえない。

 辰向に上を取らせたのはまずかった。

 結果が今の状況なのだから、否が応でも理解せざるを得ない。

 

「――来るぞ!」

 

 ライダーよりも上で、滞空中の辰向が、動きを見せる。

 辰向の考えは至極単純だ。

 自身の速度に、上層から下層への落下の速度を加えようというのだ。

 対するライダー機は、平行移動によりその落下の速度を抑えようとする――が、ダメだ。

 距離が近すぎる。

 猛烈な勢いで迫る辰向に、ライダーの速度は遅すぎる。

 

「ちょ、ま、大丈夫なんでしょうねええええええええええええええっっ!」

 

 爆裂が、決してなだらかとはいえない弧を描き、ライダー陣営に接近する。

 悲痛なまでのノエミの叫びが、どこへ消えるでもなく、響き渡った。




――文末資料集――
ライダー
直観:A
 戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
 研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
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