Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第三章 3

 やった――確信ではないにしろ、その情景は十分に辰向には想像できた。

 なにせ相手以上の速度で、辰向はライダーの零戦に“激突”しようというのだ。

 一閃が敵を貫き、それで終わる。

 

 ――かと、辰向には思えた。

 

 しかし、

 

「――え?」

 

 消えた。

 否、違う。

 機体が回転する――ループに入ったのだ。

 飛行機が、飛行機たる所以である幾つもの機動。

 ――基礎中の基礎、そして何より、この状況における打開策がひとつ。

 

 だが、遅い。

 縦回転はあまりにも遅すぎる。

 急激に上昇した機体の速度もそうであるがなにより――辰向の機動は、バケモノの機動。

 機械のそれが、そうそう及ぶべくもない。

 

 言ってしまえば“直角の機動”だ。

 急停止からの、急加速。

 一瞬にして辰向は停止すると、上昇を始めライダーを追いかける。

 ――ここから、いかに動くかは辰向も知っている。

 故に、判断する。

 

 ここからの展開は以下のとおり。

 まず、ライダーがループの頂点から旋回をはじめる。

 その間、辰向は高速でライダーに追いつき、そして旋回を始めたライダーを追い越す。

 その後は、即座に反転、降下を開始するライダーに追いつき、一撃を入れる。

 回避はされるかもしれない。

 ――けれども、ここまでの未来予測はほぼ適確であろう、辰向の高速思考がそう結論づけた。

 

 足に込める力をより一層のものにする。

 何かが変わるわけではない、しかし、そこに潜む気負いが変わる。

 爆発が、連続して置き去りに成る。

 空をかき乱す爆発が、リング上に広がり、そして消える。

 ひこうき雲の後をおい、上がる。

 空へ、空へ。

 

 ――だが。

 

 

 予測は、違えた――旋回を始めたライダーは、恐ろしい勢いでその旋回半径を縮めた。

 

 

 理解が追いつかない。

 本来であればよほどの時間がかかるはずのそれが、おおよそ信じられないほどに短縮された。

 迫る。

 ――緑が、夜に濡れた緑が迫る。

 淡い新緑のようにも思えるそれは――辰向にそのプロペラを向ける。

 

 両者は、完全な垂直線上にいた。

 

 まずい。

 思うが早いか、身体が動くか早いか。

 ――それとも、ライダーの機銃が見舞われるが早いか。

 

(――間に合え!)

 

 思考の信号が、体中に活力を与える。

 動くか、否か――間に合うか、否か。

 

 明滅する。

 ――零戦が撒き散らす、機銃だ!

 

 

 ♪

 

 

 ライダーのしたことはあまりに単純だ。

 少なくとも単語にすれば一言で済む。

 ――左捻り込み。

 かの「大空のサムライ」著者、坂井三郎の代名詞とも言うべき格闘戦技術。

 ループの頂点少し手前で、急激な減速による大幅な旋回速度短縮を目的とした飛行方法だ。

 

 とはいえ、それはあくまで格闘戦技術。

 一撃離脱戦法を旨とした某大戦時においては、おおよそ実戦には不向きな技術であった。

 それでもこの技術は、坂井三郎にとっての支柱の一つであったようだが。

 とかく、その左捻り込みだ。

 

 それをライダーは実行して見せたのだ。

 辰向が想像もできなかったことは無理もない事だろう。

 相手は一撃離脱戦法を得意とするエースパイロット。

 その意識が念頭にあり、さらに左捻り込みという技術が、実戦で行うにはあまりに高難易度な技であるのだ。

 それを考慮に値するのは、不可能というもの。

 

 ――時間は機銃の掃射少し前に遡る。

 

「――ひゅう! やるじゃない!」

 

 Gに襲われながら、ノエミが盛大に歓声を上げる。

 確実に辰向の上を言った。

 この一瞬であれば――駆け引きにおいて上を行ったのだ。

 

「……ライダー?」

 

 派手に騒いだのだ。

 ライダーからは何がしか反応があるだろう。

 それが、無い。

 少し困惑気味に、前方座席のライダーの様子を見やる。

 

 ライダーは、少しばかり放心していた。

 何かを成し遂げた後のような顔――この場合は、左捻り込み。

 

「……マジでできちまった」

 

 よもや成功するとは思っていなかった。

 そんな風に言う。

 

「……ライダー?」

 

 聞き捨てならないことを、ライダーは言った気がする。

 そう、気がする。

 ノエミは自分の聞き間違いであることを確かめるために再び問いかけた。

 先ほどはなかった威圧が含まれていた。

 

「いや、できるとは思っていたが、人間、やろうと思えばなんでもできるもんだな――ぶっつけ本番でも」

 

「……ライダァァァ!?」

 

「いや、すまん。悪かった――っと、これでもくらえ!」

 

 謝罪もそこそこに、ライダーは機銃を辰向にお見舞いする。

 ライダーの視点からは、無防備な雪白辰向の姿が映っていた。

 捉えた。

 ――撃つが早いか、避けるが早いか。

 このタイミング、間違いなく前者だ。

 

 であれば、潰せる。

 以下な人外マスターといえど、機銃に蜂の巣にされないわけがない。

 これでこの戦闘――ライダー陣営の勝利だ。

 

 無論、――このまま機銃が辰向を捉えられれば、であるが。

 

「――むぅ!」

 

 直感、ライダーが有するスキルである。

 彼の天才的センス、及び激戦を駆け抜けた経験から培われる、超直感。

 その精度が、自身の命の危機に反応しないはずもない。

 

 それが、ライダーに告げた。

 狙われている、と。

 

 誰か?

 ――考えるまでもない、辰向のサーヴァント、アサシンである。

 

「さすがにこのタイミングでは決めさせてくれないか!」

 

「でしょうね!」

 

 これまでアサシンの姿が見えなかったことに、意味のないはずはない。

 何かを仕掛けてくるだろう――想像はできた。

 そしてそれは、ライダー陣営が勝利を確信しうる状況において発動した。

 

 出鼻を挫くかのように。

 ――否、恐らくは辰向を助けるための行動だろう。

 今、ライダーの直感が発動していなければ、辰向は機銃に蹴散らされていただろう。

 ただし、その場合ライダー陣営はアサシンのはなった“何か”で相打ちに追い込まれることとなるだろうが。

 

 零戦は即座に行動へ移った。

 かくして、辰向に撒き散らされようとしていた機銃は辺りへ散った。

 一部だけが辰向を襲う。

 ――その一部が、彼の右腕を掠める、血が飛び散って、どこかへ消えた。

 

 ライダー達は自身の行動へ意識を向ける。

 全速力であれば、辰向を気にする必要はない。

 ここで気にするべきは――アサシンが放った何かだ。

 

「攻撃態勢に入ったから、気配遮断は溶けてると思うんだけど、――ダメね、もうどこにも見えない。というか、ヤバイわよ――アサシンのアレ、まだ追いかけてきてる」

 

「ふざけんな、どういうこった! 地対空の攻撃が、まだ追いかけてくるのかよ!」

 

 縦横無尽に飛び回るライダーは、すでに数千メートルの距離を稼いでいた。

 それでも追ってくる何か。

 ――ライダーは、そんなもの想像すら及ばなかった。

 

「当然でしょ! あれ、対空ミサイルよ!」

 

 ――対空ミサイル。

 それはアサシン陣営が対ライダー用に用意していた地対空の兵器だ。

 『9K32 ストレラ-2』、ロシア語で矢を意味するそれは、空中での機動を可能とするであろうライダーへの特効兵器であった。

 無論、相手の対魔力を抜くための恐ろしいまでに礼装として手を加えられている。

 それは実に、家が一軒建てられるほどの費用がかけらていた。

 

 結局、対魔力などあったものではない現代のライダー相手に使用することとなったわけだが。

 とまれ、それはライダーを追いかける。

 射程は最高で5500メートル。

 回避できなければ、――必殺だ。

 

「魔力障壁くらいなら抜いてきそうに見えるわね、びっしり色々書いてある。こっちは魔術的にはポンコツなのよ! もっと加減しなさいよ!」

 

「……対空ミサイル。あぁあれだな――噴進砲、ロサ弾みたいなもんか」

 

「――そんな甘いもんじゃないっての!」

 

 四方八方に避けながら、ライダーはポツンと言う。

 のんきなモノだ。

 もはやジェットコースターなど屁ではないほどの圧倒的な機動だというのに。

 まだ、ライダーには余裕があるというのか。

 

 後方には死。

 ――追いつかれれば、ライダーも自分も持たないだろう。

 それでも、ライダーは笑っている。

 笑って、冗句のようにノエミへ告げる。

 

「安心しろ、あの程度に追いつかれるほど、俺も耄碌なんざしてねーさ!」

 

「信じてるからね! 絶対裏切るんじゃないわよ!」

 

 罵倒するか、というほどの言葉の圧力。

 それでも、ノエミに偽りが無いことは明白だ。

 何せ、令呪をここで切らないのだから。

 

「ハッハッハ――追いつけるものなら追いついてみやがれ! この俺によぉ――――――――」

 

「あぁぁあああああーーーーーーーっ」

 

 もはやわけもわからないほどめまぐるしく変わる景色に、ノエミの悲鳴が響いた。

 そして――

 

 

「交わした!」

 

 

 ライダーの、簡潔かつ明瞭な報告がノエミに届いた。

 途端、むちゃくちゃに飛んでいた機体が元へ戻る。

 あまりに自然かつ唐突な変化に、ノエミは思わず吐き気を覚えた。

 ――何とか、尊厳と共に何かが漏れ出るのだけは防いだが。

 

「油断できないわね! 多分さっきみたいな礼装ミサイルはないでしょうけど、場合によっては礼装スナイプされるかもわからないわ、一気に決着を付けるわよ!」

 

「おう、任せてくれよマスター。……問題ないぜ、次で決めてやる!」

 

 自信に満ちた、ライダーの言葉。

 これまでの戦闘、かれにとっていくつかの思うところが在っただろうか。

 ――故に。

 それは先ほどの確証のない自負とは違う。

 戦闘に勢いを付けるための、言葉だけの意地とは違う。

 

 彼の、戦意。

 ――そこには、エースパイロットとしての、すべてがあった。

 

 

 ♪

 

 

 格闘戦か、はたまた一撃一撃の鍔迫り合い、せめぎあいか。

 ――それが、何度か続いた。 

 空が地天に入れ替わり、地が空天に入れ替わる。

 風が、竜巻の如く宙を巡った。

 

(――すまない、助かったアサシン!)

 

(いえ、あのタイミングが最良でしたので。……狙っていたわけではないのですね?)

 

 ――目前、ライダーがいる。

 しかし、それでは届かない、辰向に、後ろを取るという選択肢はない。

 

(あんな曲芸、予想できるならしてみろ)

 

(そうですね――かもしれない、とは思っていましたが、可能性が低く、切り捨ててしまいました)

 

 ――辰向は考えもしなかった。

 アサシンは、考えたが切り捨てた。

 程度の差はあれ、策士肌のアサシン陣営を出し抜いたのだ。

 あのテクニック――間違いなく、エースパイロットと呼ぶにふさわしい。

 

(――坂井三郎と見るか?)

 

(どうでしょう。坂井氏によると、左捻り込みという技術自体は、当時のエースであれば誰であれ可能であったと語っています。可能性としては、薄いかと)

 

(せめて、代名詞になるほどの何かが出てくれば――なぁ!)

 

 言いながら、辰向はライダーから離れ、降下する。

 落下による速度上昇を行いながら、上空の零戦を見上げた。

 

 ――それにしても、代名詞。

 それはもはや、宝具と呼ぶべきものではないか。

 つまり、使えば必殺、同時に真名を明かす危険を作る。

 諸刃の刃である。

 

 零戦は少々の休憩か、こちらを見定めるように上空で横に飛行している。

 仕掛ける場所とタイミングを測っているだろうか。

 そして、現在の立ち位置は相手にとって絶好なもの、確実に仕掛けてくる。

 それも本人が最も得意とするだろう方法で。

 

 ――一撃離脱。

 一発で決まる――決めてしまう戦法。

 辰向はライダーを注視した。

 恐らくは、こちらが平行移動に変わり、速度を失うまで待つつもりだろう。

 残念ながら、それに対抗する方法はない。

 できないではないが、ここは回避してしまったほうが早い。

 

 辰向が在るのは上空百メートルと少しの場所。

 ここならば、敵の自爆を誘えるかもしれない。

 ――無論それは、意味が無いからこそ考えてしまう願望ではあるが。

 

「――――――――」

 

 沈黙。

 空と、地。

 辰向は地を這い、ライダー達は天をひっかく。

 瞬間は――来た。

 

 爆発。

 爆発。

 

 二つのそれが同時に起こり、ライダーは背面飛行で辰向を追う。

 逃げ切るべく、辰向は自身の勢いを殺さない程度に、ジグザグに身体を跳ねさせる。

 反発するピンボールかの如く、派手に周囲を直角に暴れまわる。

 

 辰向のそれを動とするなら、ライダーは静であった。

 強烈な辰向の動き対し、それでもライダーは平静を保つ。

 あくまで、それが自分の本分であるかのように。

 

 ――ライダーの後方から彼を眺めるノエミは、普段とは違う、まっすぐな、ライダーの顔を眺めることができただろう。

 

 この一瞬において、両者は対照的であった。

 

 やがて、ライダーは落下を開始する。

 確かに狙いを定め、突き放そうとする辰向の、上を行く。

 

(――あぁまったく!)

 

 愚痴をこぼす用に、辰向はライダーを睨みつける。

 このままでは逃げ切れない。

 ライダーは確実に辰向を穿つ――!

 

(――憎らしいほど、戦闘上手だよ!)

 

 辰向には、サーヴァントに迫るほどの身体能力がある。

 それでも、それがサーヴァントに敵うものであるかというと、そうではない。

 戦いの英霊が、英霊に至る最大の所以。

 

 ――経験と、センス。

 戦術、戦略、ありとあらゆる、身体能力以外の全て。

 

 辰向には、高速で思考し、判断する頭脳がある。

 未来を予測し、それに合わせて行動する力がある。

 

 ――だが、それを更に一段階上の性能で、英霊達は有しているのだ。

 

 ライダーが迫る。

 

(……俺は、英霊でもなければ、人間ですらどうかも怪しい。けれども、負けるつもりもないし逃げるつもりもない)

 

 ――それを、躱す。

 この一撃を避けきってみせる。

 

(こいよサーヴァント! 俺を、倒して見せろ――――ッ!)

 

 辰向は、思い切り前に進んでいた。

 とにかく前に、逃げ切るために。

 ――それを、反転させる。

 一気に身体を捻り、身を翻すと、足に勢いを込める。

 

 ライダーの機銃が、見舞われる場所は、それなりの至近距離である。

 何度かの掃射で、それはおおよそ見切ることができた。

 後は、それに合わせ、回避に全力を傾けるだけ。

 

 果たして、それは――――

 

 

 ♪

 

 

「――ばぁか」

 

 

 ライダーの一言が、あまりに状況を表していた。

 彼は辰向が機銃を避けるギリギリの距離を見極めたことを察知していた。

 だが逆に、ライダーもまた辰向の戦闘を見極めていた。

 

 故に、解る。

 もう彼に隠し球はない。

 ならば――この切札、ここで切れば確実に勝てる。

 

 必殺技は、必ず殺すから必殺なのではない。

 ――必殺の状況で放つからこその必殺なのだ。

 

「あばよ、バケモノ」

 

 言葉とともに、ライダーはあるものを投下する。

 ――機銃ではない。

 それは爆弾、名を――『三号特爆』という。




 真名当てクイズ。
 三号特爆を利用し、左捻り込みを得意としていたわけではないライダー。
 一体誰なんだ(棒)
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