Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第三章 4

 ――三号特爆。

 またの名を三号爆弾。

 いわゆる種子爆弾の一つである。

 種子爆弾はひとつの大きな爆弾の中に、小さな爆弾がいくつも詰め込んだものだ。

 母体となる爆弾が破裂すると、それら小さな爆弾は種子のように飛び出し、周囲に散弾の如くたたきつけられる。

 

 これが有効に作用するのが対空だ。

 無数に散らばった爆弾が、敵の機体を切り裂き海の藻屑と変えるのである。

 同じようなタイプに三式弾と呼ばれる艦砲射撃用の種子弾があり、それはヘンダーソン飛行場などへの艦砲射撃などに使用された。

 

 ともあれ、実際にはさほど有効と言える兵装ではない。

 米国が開発し、帝国海軍に辛酸を嘗めさせたかのVT信管などと比べれば、戦場の一兵器としかなりえない。

 

 だが、そんな兵器を必殺の代名詞に変えたパイロットがいる。

 彼が放つ三号特爆は、一度に数十機もの敵機を葬り去る絶対の兵器。

 

 その成功難易度から、彼以外に兵器として実用かつ圧倒的な戦果を遺した男は他になく。

 また、彼の部隊だけがこれを運用した。

 

 そう彼――ライダーこそが、この三号特爆を代名詞とする、日本最強の零戦パイロット。

 

 名を――――

 

 

 ♪

 

 

 ――ライダーの放った三号特爆は、辰向に回避の“余裕”すら許さない。

 回避するにも、その範囲が広すぎるのだ。

 あっという間に周囲に広がり、辰向の身体を喰らい尽くす。

 

 気がついた時にはもう襲う。

 辰向はもう、完全に詰んでいたのである。

 回避しようにも方法はなく、対抗しようにも手段がない。

 

 絶体絶命。

 ――否、“絶対”絶命。

 

 ライダーは勝利を確信し、ノエミは辰向の安らかな眠りを神に祈った。

 ――無論、この程度で死ぬようなタマでも無かろうが、少なくとも、この勝負はノエミの勝ちだ。

 そう、思っていた。

 

 

 ――自身の放った三号特爆が、突如として襲いかかった“横槍”に貫かれるまでは。

 

 

 ただし、その表現は正しくない。

 正確には、零戦を突き刺そうと襲いかかった“投槍”を、回避した結果、置き去りにされた三号特爆に突き刺さったのだ。

 

 結果、三号特爆はあらぬ方向へ歪み、飛ばされ――炸裂した。

 

(――――、!)

 

 脳の意識が再生した。

 死に近い状況に、一瞬にして襲われたのだ。

 回避に対する意識から、死を認識した自覚まで、その最中は数瞬も無かった。

 一秒にすら満たない間、辰向は放心していたのである。

 

 戦場において、致命的ではないにしろ確かな隙。

 それが生まれるほどに、目の前の情報量は異常であった。

 

 再生した意識が選んだ行動は――撤退である。

 理解してしまった。

 この戦闘、完全に自分の敗北である。

 

 ――否、敗北“していた”戦闘である。

 更に、“何か”が戦闘を妨害した。

 結果として辰向は助かったが、これ以上、その何かを交えて戦闘する余裕は辰向にはない。

 故に、墜ちた。

 上空を叩き、地上へと高速で向かう。

 

 回避するために一度上空へ大したライダーには、それを追う余裕はなかった。

 機体の窓から、墜落していく辰向を見送る。

 ――辰向は、ライダー達がのる零戦から、最後まで目をそらさなかった。

 

 瞳は意思を雄弁に語る。

 それは、米粒ほどの大きさとなっても、ライダーに伝わっている。

 無論――それはノエミもまた同様であった。

 

 ――次は。

 

 辰向の表情は歪みに歪んでいた。

 屈辱、敗北感、幾つもの単語でそれは語ることができるだろう。

 だが――あえて端的に言葉にしよう。

 

 辰向は語る。

 口にセずとも、その意思で。

 

 

 ――次は負けない、と。

 

 

 ♪

 

 

 ライダー陣営とアサシン陣営の空中戦を、遠目に眺めていた陣営がいた。

 ――ランサー陣営である。

 

 赤紫羅の三陣営が一翼、ランサーと赤紫羅弓弦。

 彼らは、周囲が開けた高台から、戦闘の行く末を見守っていた。

 何せ空を轟く激戦だ。

 一般人には認識阻害などの対策が施されて入るものの、魔術師に対してはほとんどノーガードである。

 

 むしろ、“何もない何か”があるということが、結界の存在により知れてしまう。

 結果として、空の戦闘はどうやっても筒抜けなのである。

 

 かくしてランサー陣営はそれを観察していたわけだが、偶然にも好機に恵まれた。

 空で戦闘を続けていた二陣営が、極端に地面へ接近したのである。

 即座にその近くへ移動すれば、ランサーであれば射程範囲内に入れることができる。

 そんな距離であった。

 

 当然、そこを狙わない理由はない。

 それは弓弦によって依頼され、ランサーによって了承された。

 結果はすでに周知の通り。

 ライダーの零戦を狙ったものの、回避され、ライダーの置き土産である三号特爆に直撃した。

 

 無論、偶然である。

 少なくともランサーは、三号特爆どころか、零戦すら初見であるのだから。

 

「いやしかし、まさか回避されるとはな」

 

「そんなモンじゃねーかねぇ。ありゃ、間違いなく直感系のスキルが在るぜ。とすると、アーチャーですら射抜けるか解らん」

 

 五分五分ってところか――弓弦は何気なしに笑った。

 

「まぁ、面白いモンが見れたってだけで、今回はヨシとしましょうかね。こっちは投槍ができるってのがバレただけ、あっちは恐ろしいほどの情報を俺らに来れた」

 

「――少なくとも、ライダーについては知れそうだな。どうみる?」

 

「んなもん、三号特爆を使うパイロットなんざ一人しかいねーべさ。ま、それは後だ。向こうはどうにもこっちの居場所を探れそうな感じだしよう、今日はお開きにしようぜぇ?」

 

 空を見上げる。

 ライダー陣営はかすれるほどの小ささで、上空を旋回している。

 超高高度であるわけだが、ランサーの射程ではそれに届くはずはない。

 

 逆に、ライダー陣営はランサー等を観察している風がある。

 このまま戦闘というつもりもない、弓弦の言葉に、ランサーも同意した。

 

「やむを得まいな。あの空の怪物、相手にするのは私ではなくアーチャーだな。……セイバーでも構わんが」

 

「動くか? あのセイバーが」

 

 ムリだろう。

 両者はそんな風に肩をすくめると、高台から姿を消す。

 辰向が撤退し、ランサー等も戦場から退いた。

 空にぽつんとこの戦いの勝者が浮かぶ。

 

 

 ♪

 

 

「――逃したわね」

 

「さすがに空対地はごめんだな、攻めて火力の在る爆弾でも積んでりゃいいんだが、三号特爆じゃあなぁ」

 

 空の上、ノエミの報告を受けて、ライダーは大きく嘆息した。

 戦場において、気を抜くつもりはない。

 それでも、これで戦闘が終わったことを自覚する。

 

「燃料はマダマダ持つが……できることなら補給したいな。さて、帰投しますかね」

 

「ゆっくり休みましょう。初陣ってこともあって、ずいぶんつかれたわ」

 

 そんな風に言葉を交わし合う。

 ――ノエミは、狭い機内で思い切り伸びをして、完全に意識を非戦闘に切り替えていた。

 

「おいおい、油断するな。里心が着いた今が、一番俺らにとっちゃ狙い眼なんだぜ?」

 

「ライダーがいるから大丈夫よ」

 

 あくび混じりに、そう返す。

 ライダーの返答は、更にそこから数秒を要した。

 

「……ま、いいけどよう。にしても何であの坊主の誘いを断ったんだ。同盟、十分旨味があっただろう」

 

 話はそれる。

 そもそも、この戦闘、かなり不毛であった。

 無論、あそこでランサー陣営の横槍が無ければアサシンを落とせていたとは言え、落とせてどうなるというのか。

 アサシンを落とした、となればキャスターとの同盟は難しくなるだろう。

 そもそも、アサシンとキャスターの同盟関係を示唆したのは、ノエミだというのに。

 

「――盤上を動かしたかったのよ。それに、別にあいつを殺すつもりもなかったしね。どんだけやっても、そうそう死なないのよ、あの人外未満」

 

 あっけカランと言い放つ。

 ランサーの横槍があった――それは、ランサーが動いたという意味でもある。

 

「もしも、このまま三陣営で同盟していれば、間違いなく戦局は膠着するわ。それってあんまり好ましくないのよね。向こうが打って出てくれないと、こっちはジリ貧なわけだし」

 

 ――戦力的には、ランサー、アーチャー、セイバーを有する赤紫羅陣営の方が、間違いなく強力である。

 加えて、拠点として使用できるであろう陣地も、相手は霊地の要にかまえているのに対し、自分たちは大霊地がせいぜいだ。

 

「今回のこれで、ランサーが出てることはわかったわ。後は多分、アーチャーかセイバー、どっちかも出ているはず。少なくとも、三陣営が同盟していない間は、これがずっと続くのよ」

 

「――最低でもどっちかを落とす必要があるわけだ。ま、確かに理にかなってはいる。――けどよう、俺はそういう話が聞きたいわけじゃねぇんだ」

 

 ――ライダーは、意思を込めて言葉尻を強めた。

 詰問するように――詰め寄るように、ノエミに問う。

 

「“どういう論理か”じゃねぇ、“どういう感情か”を聞いてるんだ」

 

 ライダーが問うのは客観ではなく主観。

 ノエミの行動の意味は理解した。

 しかし、それはあくまで狙いであり、そうであるという、“必要性”が足りないのである。

 盤上を動かすなら、わざわざ派手に戦闘をする必要はなかった。

 

 無論、それに付き従ったライダーもライダーではあるが。

 そもそも、ライダーに咎める気はないのだ。

 あくまで“興味がある”というだけのこと。

 

「……辰向ね、あたしが自分の話を断らないだろう、って高をくくっていたみたいなの。だってそうでしょ? メリットしか無いんだもの。でもそれって――すごく不愉快なのよね」

 

「……不愉快、ねぇ」

 

「だって考えても見てよ、あたし、あいつに勝手に決めつけられてるのよ? ノエミ=ミシリエはこういう女だ、って! それって束縛じゃない。あいつはあたしを決めつけで縛ったの! そんなの、絶対にゴメンよ」

 

 自由主義。

 ――ノエミの人間性を語るには、その一言があまりに十分すぎる。

 自由を愛し、自由と共に生きる。

 ――束縛を受ける位なら、死んででもその束縛を壊そうとする、それがノエミという女であった。

 

「だからあたしはあいつにケンカをふっかけた。それが一番、あいつの意識が向いてないことだったから! あたしは自由なの、自由でないといけないの。それを邪魔する? だったらそいつを張っ倒すしかないじゃない」

 

 ――彼女の声は、あまりにそれを平然としていた。

 誰かが、彼女にこう言うだろう。

 “それは自由に縛られているのだ”、と。

 

 否、違う。

 断じて違う。

 

(――そんなこと、こいつはとっくの昔に自覚してるだろうさ。そもそも、人間は完全に自由になんざなれない。こうして空を飛んでいる時も、何かの柵に縛られる)

 

 ノエミもまた、自由以外の何かに縛られている。

 それは倫理であったり、常識であったりする。

 

(そもそも、こいつは、アサシンのマスターが宣戦布告に乗ってくるかどうかは、自由だと言った。あのマスターには、勝負を受けないという選択肢もあったんだ)

 

 ――乗ったのは向こうだ。

 自由というのは、そういうものだ。

 人の数ほど存在し、そして自由というそれ自体、一つの意味では語れない。

 

 例えば目をそらす自由。

 例えば責任ある自由。

 例えば選択する自由。

 

 自由にして、自由の女神。

 リバティーにして、フリーダム。

 

「あぁ本当に――“肩がこった”わ。シャワーでも浴びて、今日はもう寝ましょ!」

 

(……ま、羨ましい限りだよ、自由であることの自由を邁進する、こいつの人生ってのはよ)

 

 ――一歩間違えれば、彼女は倫理観の壊れたバケモノに変貌する。

 気に入らないから殺す――目障りだからすりつぶす。

 そんなモノに、成り果てるのが、彼女の信念であり、主義である。

 

「……どうしたのよ、黙っちゃって」

 

「――いいや、その貧相スタイルで、一体どうやって肩がこるのか、って考えててな」

 

「……ぶっ殺すわよ!」

 

 ――だが、殺さない。

 ライダーとノエミの愉快な歓談と罵り合いは、零戦が拠点に辿り着くまで、続いた。

 

 

 ♪

 

 

 ――辰向は墜落していた。

 文字通り、どこともしれない山中に、クレーターを作り、その中心にいた。

 

 無言で、口を真一文字に結び、空を睨みつけている。

 それは感情の表現としてはあまりに雄弁で、あまりに苛烈であった。

 

 アサシンが、ようやくその場に駆けつける。

 戦闘が終了し、すでに三十分が経過していた。

 

「大丈夫ですか、マスター」

 

 気遣うように問いかける。

 辰向は答えない。

 ――アサシン自身、別に答えを希望していたわけではない。

 反応はあった、チラリとアサシンに瞳が向いた。

 それで十分であったのだ。

 

 やがて、返答の代わりにポツリと、ライダーの事を語りだす。

 

「――零戦を使う飛行士。その時点で、かなり絞り込みが可能だ」

 

 まず、帝国陸軍ではない。

 そして、そもそも中世や古代の英霊ではない。

 現代の――某大戦を闘った日本人エースパイロット、そう考えるのが無難だ。

 

「名前が残ってない、ってことはないだろう。左捻り込みなんて曲芸ができるエース、必ず名前は知られてる」

 

 相手はかなりの熟練だ。

 アサシンが放った対空ミサイルを、直感と操縦技術で回避している。

 そうでなくとも、此度の戦闘を終始自分の有利でこなすだけの実力がある。

 

「そして極めつけは、あの爆弾。確か“三号特爆”だったか。――そんな兵器、使うエースは一人しかいない」

 

 ――帝国海軍最強の零戦パイロット。

 撃墜数は200を越えるとすら言われ、彼を始めとする“ラバウル航空隊”が守護するラバウル航空基地は、“竜の顎(ドラゴン・ジョーズ)”と恐れられた。

 

 

「――零戦虎徹、“岩本徹三”。次は必ず――――俺が、勝つ」

 

 

 ライダーの真名を口にして、

 辰向は、雪辱戦の勝利を誓う。




 なんと、ライダーはあの最強の零戦パイロット、岩本徹三だったのだ(棒)
 撃墜機数202という数字は、帝国海軍随一です。(信ぴょう性は薄いですが)
 その最後は少しモノ悲しく、また彼の聖杯にかける願いは、とても解りやすいかと思います。

 因みにランサーは後々わかりますが、かなりの高台から、飛び上がって槍を投げてます。
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