Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第四章 3

「あらぁ?」

 

「うん……?」

 

 偶然の邂逅であった。

 そこはあるホテルの駐車場、昼食を取るために車を留めた辰向一行。

 ホテルはこの街一の高級ホテルである。

 元より信濃のそれなりに涼しい地域に属する都市が、せいぜい避暑地のまね事として立てた代物だ。

 高級の名に違わない豪奢さであるが、経営はうまく言っていないらしい、朝海曰く、明日潰れていてもおかしくない、と。

 

 その割に見えをはったのか、一見さまお断りとでも言わんばかりの格調高いレストランが特徴らしい。

 営業の質はさほど良くないがレストランの食事はとにかく絶品なのだとか。

 

 そのホテルの駐車場で、辰向達は思わぬ人物に遭遇した。

 ――そも、そこは彼女たちの拠点とは遠くかけ離れたの場所にあった。

 わざわざそれを考えて、このホテルを選んだのだが――

 

「――昨日ぶりね、雪白辰向」

 

 何でもない様子で、“ノエミ=ミシリエ”は辰向の名を呼んだ。

 車の中から、ガタガタと慌てたようにアサシンとキャスターが飛び出してくる。

 ――辰向は一歩前にでた。

 睨みつけるように、ノエミとライダーの二人組を見る。

 

「何のようだ、ノエミ」

 

「何のようって、いやね、まさかあたしに何か考えがあると思って?」

 

 ふふん、と挑発するようにノエミは笑みを浮かべる。

 しかし態度とは裏腹に、言葉は彼女の意味を打ち消していた。

 

「無い――が、偶然にしては出来すぎだろう」

 

 辰向が肩をすくめながら即座に断言する。

 ようするに、ノエミはここに来たのはたまたまだと言いたいらしい。

 当然、信じられるものではない。

 

「ま、なんとでも言いなさいな。別に信じてもらわなくても私はいいモノ――さて」

 

 ノエミは辰向から視線を外した。

 続き、彼女が向けるのは朝海だ。

 ――朝海は、立ち尽くしていた。

 

「お初お目にかかります。こうして会話をするのは、聖杯戦争開始前に使い魔を送って以来ですわね、ノエミ=ミシリエ、ノエミと呼んでもらってかまわないわ」

 

 どこか芝居がかった物言いと、ノエミらしい素の言葉が、混同する。

 朝海は、一度大きく嘆息をする。

 ――少し、緊張を解いたように見えた。

 

「……初めまして、この地の管理者――セカンドオーナーを務める瀬場一門が当主、瀬場朝海です」

 

「自分から振っておいて、堅苦しいのが気になってしまうわ。朝海――もう少しフランクになってくれない?」

 

「――同盟を結ぶ、というのであれば考えましょう」

 

「ごめんなさい、忘れてくれていいわ」

 

 チラリと、辰向を挑発するようにノエミは流し目をした。

 辰向は何の反応も見せない、それをわかった上での行動だ。

 

「それで、ご用件は? まさか、昼からの戦闘をお望みというわけではないでしょう? 残念ながら、私は普通の管理者よりも、神秘の秘匿をおろそかにする者へは厳しいつもりなんです」

 

「うふふ、でしょうね。……辰向がわざわざ自分から魂喰いを止めるとは思えない。――やっぱり、主導でアレを止めたのは貴方のよね」

 

 ノエミが言うのは数日前の対バーサーカー戦。

 魂喰いをしようとしていたバーサーカーを止めるという選択をしたのは、間違いなく朝海だ。

 問題は、如何にしてそれを知ったか。

 ――辰向がここへ来る途中に語ってくれた、ノエミの千里眼とライダーの戦闘機。

 両名の組み合わせは、絶対的な強者を産むようなものではない。

 しかし、間違いなく相手取って厄介な、相手にしにくいタイプであることは間違いない。

 

 でなければ、辰向達が敗北することはありえないからだ。

 

「まぁ、本音を言ってしまえば、あたし達はここで食事をしようと思ってきたの。だってこの街で一番美味しいって評判なのよ? 来ないなんてありえない、辰向、貴方なら解るでしょう?」

 

「解るさ、美食家。――つまり、戦闘の意思はないんだな?」

 

「そっちのお嬢さんに釘を刺されたし、元からそのつもりよ、あたしを何だと思ってるの?」

 

「常識知らずの馬鹿」

 

 ド直球な罵倒であった。

 ノエミは、全く気にした風もないが。

 

「それで、ここって一見さんじゃ入りにくいのよねぇ、なんかこう、店員の態度からしてひどいらしいし? ってまぁ、別に暗示でなんとかしてもいいんだけど」

 

 ノエミはずんずんと歩を進める。

 彼女たちと辰向一行の間は十歩程度の間があったのだが、それが数秒にして埋まった。

 

「――朝海! お願い、あたしを食事に連れてって! そのためなら一定期間の不戦くらいなら乗ってもイイし、場合によっては簡単な礼装くらいなら提供するわ!」

 

 思わず警戒した朝海に対し、ノエミは朝海の両手を握り、引き寄せる。

 握手のようにして、それを思い切り振り回した。

 

「え? ……えっと」

 

「――構わないのでは? 彼女のような手合は嘘を尽きませんから」

 

 ――横合いから、アサシンの助言がとんだ。

 アサシンの真名は恐らく、高名な戦術家だ――彼がそういうのなら。

 

「……構いませんよ、ここで会ったのも何かの縁、交渉の余地もありますし、詳しくはレストランの中で」

 

「ほんと!? ありがとう! 感謝するわ!」

 

 バッと、ノエミが朝海の元へ飛び込んだ。

 抱きつこうとしたのである。

 ――ライダーによって止められたが。

 

 突然の凶行に、朝海は思わずガチン、とその場に凍りついた。

 

「ちょっと、何すんのよ」

 

「ちょっと前に、街中で騒ぐなって言ったのはどこのどいつだったかね」

 

 諫めるようにライダーは言う。

 周囲に人の視線はないとはいえ、あまりはしゃぎまわっても、恥をかくのはノエミだ。

 ノエミに恥という概念はないが。

 

「……はぁ、昼間にこいつに会うのは、なんというか、何だな。夜より更にやりにくい」

 

 辰向の嘆息と独り言が漏れる。

 ――夜であれば、話がこじれれば戦闘に持ち込めばいい。

 しかし、今は昼、聖杯戦争の本番ではないために、むやみに戦闘を持ちかける訳にはいかない。

 

「えっと……あの、そろそろまいりませんか?」

 

 ――キャスターが、困ったように苦笑しながら言う。

 朝海は我に返り、にこりと笑む。

 

「ともかく! それでは、ついてきて下さいね?」

 

 ――どうにも、自分よりも奔放な相手には、朝海は弱いらしい。

 人付き合いの無さ、故だろうか。

 

 

 ♪

 

 

「はい、六名です。えぇ、そのように」

 

 ――カウンターの前で、朝海が何やら会話をしている。

 手慣れたもので、ここには何度も訪れたことがあるようだ。

 カウンター越しのスタッフも、手慣れた様子である。

 勝手の解る相手、というのはお互いに気が楽なのだろう。

 

 特に朝海の場合、先程まで、今まで関わったこともない人種であるところの、ノエミに揺さぶられていたのだから無理はない。

 

「……ねぇ、辰向」

 

 ぼそりと、ノエミが辰向に声をかけた。

 周囲に聞こえない程度の声、――この配慮を、何故先ほどできなかったのか。

 嘆息気味に、問い返す。

 

「なんだ?」

 

「瀬場朝海――あの娘と貴方、どういう関係?」

 

「なんとでも言えるな、共闘関係――同盟関係――仲間――友人、でも構わないかもな」

 

 短い付き合いながら、辰向と朝海はかなり濃密な関係を築き上げている。

 

「ふぅん、あの娘のどこがそんなに良かったのかしら」

 

「――付き合いやすい、それ一択だな」

 

 ノエミほど喧しくなく。

 ノエミほど突っ込んでこず。

 ノエミほど引っ張っていくタイプではない。

 

 要するに、そういうことだ。

 

「失礼しちゃうわ。謂れのない誹謗中傷で、あたしの心に傷がついたわ」

 

「自意識過剰が過ぎるな。そもそも俺はお前に何の感情も抱いていない、傷ついたと言われてもザマァないとしか思えないぞ」

 

「奇遇ね、あたしも貴方が傷つけば嬉しいわ。あたし達って、似たもの同士なのかもね」

 

 からかうように、ノエミはくつくつと笑った。

 意地の悪い笑みだ、うんざりとするが、昨日の殺し合いを経ても態度が変わらない彼女の在り方は、辰向としてもありがたい。

 

「――あの」

 

 そこに、

 

「何をしているんですか?」

 

 ――移動を促すように、朝海が声をかけてきた。

 

「あら、大人の内緒話よ」

 

「大人は俺だけだがな、せめてあんたは酒を呑める年齢になってから言え」

 

 ふん、と互いに顔を突き放して、朝海に返事をする。

 

「……二人とも、自分たちが昨夜殺し合いをしたって、覚えているのかなぁ」

 

 ぽつりと、呟く。

 ――誰に聞こえるでもなく、それはどこかへ消えた。

 

 

 ♪

 

 

「という訳ですから、条件は先の通りでよろしいのですね?」

 

「えぇ、構わないわ。対赤紫羅陣営を意識した不戦協定。ただし、そちらの陣営が赤紫羅陣営と戦闘に入っても、こちらは“あなた達がどれほど窮地でも”介入しない。それで状況が完全にひっくり返らない限りね」

 

 食事が運ばれてくるまでの数分。

 朝海とノエミはおおよその交渉を終えていた。

 もともと、さほど意見と意識の相違が在るというわけではない。

 かなりすんなり、話事態は纏まった。

 

「加えて、こちらは“魂喰いをしない”。“神秘の秘匿を厳重にする”。“介入しないかわりに一定の礼装を提供する”。この点を了承するわ」

 

「ありがとうございます。こちらも“赤紫羅陣営と戦闘した際は情報を共有する”。という点を合意いたします」

 

 ――共有する、つまり“ノエミ達が戦闘を行った場合も”情報を共有するということだ。

 実質的にこの協定は、これにより“同盟ではない共闘関係”と言えることとなる。

 とはいえ、それを望んだノエミの思惑は、“単独陣営による勝利”を見るためであるが。

 

「――それにしても、交渉しておいてなんですが、意外です」

 

 朝海は、ノエミを観察するように、言う。

 ――まさか、乗ってくるとは思わなかった。

 現状、かなり有意義な関係を両陣営は築くことができている。

 

 それは、朝海の想像から少し違っていた。

 辰向の口から聞くノエミの在り方は、あまりに自由が過ぎる。

 ――昨夜の戦闘も、かなりノエミの一方的な宣戦布告であったそうだ。

 だというのに、今は普通に話を聞いている。

 

 朝海の中で、ノエミは話もできないクリーチャーとかしていたのかもしれない。

 かなり失礼な話だが。

 

「いやぁ、そこまで意外でもないだろう。こいつはな、常識はとことん無い。自分の価値観以外を常識とは認めない。――が、割りと良識は在るんだよ、割りとな」

 

「良識がなかったら、まぁそもそも封印指定魔術師相手の賞金稼ぎとか、してないよな」

 

 辰向も言う。

 ――ようは彼というフィルターがあったから、朝海はノエミを誤解していたのだろう。

 ノエミの事を話す辰向は、かなりふざけが入っているようではあった。

 

「……なんだか、ようやくノエミ=ミシリエっていう人間がわかってきたよ」

 

 ぼんやりとした声音で言う。

 仮面の用に張り付いていた敬語は、どうやら剥がれ落ちたようだ。

 

「ふぅん……」

 

 観察するように、ノエミは朝海を見た。

 ――視線がかち合う。

 朝海は、ふと思い立ったように、ノエミに問いかけた。

 

「――ねぇ、聞きたいんだけど。貴方の望み――聖杯にかける願望って、何?」

 

「……願い?」

 

「そう、因みに私は特に無い――キャスターは」

 

 チラリと、キャスターを見る。

 それからアサシンと辰向も。

 許可を取ろうとしているわけだ。

 

「――少し、会いたい人がいるのです」

 

 うふふ、とキャスターは恥ずかしそうに笑った。

 清楚で見ている方が恥ずかしくなってしまうような笑み。

 

「アサシンは特に無いだろうな。彼は、喚ばれたから応じたんだ。俺は――」

 

「――妹さんを救いたい、でしょう? 昔、何かの拍子で聞いたことが在るわ」

 

 それぞれが、そこから話を発展させた。

 ノエミは、更に自分のことへ話題を移す。

 

「あたしは――“願いを叶える”っていう事実に興味があった。かける願いは特に無いけど、聖杯を手にしたいとは思っている。ライダーは――」

 

「空を飛びたい。それだけよ――ま、それは召喚されたことで叶ったから、今は受肉だな。現代の空を飛んでみたい」

 

 ライダーは不遇の英霊だ。

 不幸の中で更に不幸に落ちたわけではない、ただ不遇だった英霊。

 ――彼は、その最後に空を見た。

 今は、その更に先を見たいと考えている。

 

「――今の空はいいよなぁ、戦争とは無縁でよ。ま、自分のことってなると、やっぱ俺はあの空じゃねーと飛べねぇんだろうが……っと、来たみたいだぜ」

 

 ライダーが合図する。

 ――ちょうど良く、頼んだ食事がやってくる。

 同時に頼んだ飲み物のグラスがそれぞれに配られる。

 

 朝海が、音頭を取るようにグラスを持ち上げる。

 

「……それでは、乾杯と行きましょうか。――今この時は無礼講、何を食べ、何を口にしても、それはこの場限りのことと致します」

 

 ――では、

 

 キャスターが。

 ――辰向が、アサシンが。

 ――ノエミが、ライダーが。

 

 合わせて、グラスを持ち上げる。

 

 

「――良き聖杯戦争を」

 

 

 ――乾杯。




 いわゆる腐れ縁系。これがもしヒロインなら実はフラグ建ってる。
 本作のヒロインはルート制を採用しておりますので、本編ヒロインは一名のみとなります。
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