Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第五章 3

 空の上では、ライダー達が夜の飛行を敢行していた。

 もはやそれは日課とかしている。

 ライダーの宝具は消費魔力が極端に少なく、またこれは彼女たちにとって最も有効な偵察の手段であるからだ。

 夜遅くまで飛び回り、朝方睡眠、そしてまた夜に備えるのだ。

 

「にしても、何のつもりかしらねあのサーヴァント」

 

 ノエミが口にするのは、ランサーのことだ。

 前日の戦闘中に邪魔をして来たと思われる場所に、何かがいる。

 それはサーヴァントの気配であり、昨日、槍を使ったところから見てそれはランサーで間違いない。

 

 ――人払いと、認識阻害がかけられているのか、視界には何もない高台があるだけなのだが。

 

「囮、じゃないか? 恐らくは俺らか、アサシン陣営。狙いはあわよくば撃破、まぁおおかた情報収集だろう」

 

「斥候、っていう訳ね」

 

 問題はアサシン陣営がそれに引っ掛かるか。

 まぁ、サーヴァントの気配は明瞭だ、そしてあそこは見晴らしがいい。

 そのため、アサシン陣営もまた、あの場所を利用するかもしれない。

 待ち構えるような態勢ではあるが、自身が発見すれば逆に攻めに出ることも可能だ。

 ようするに、遭遇の可能性は、決して低くはないだろう。

 

「ま、あっちはアサシン陣営に任せようじゃないか。俺たちは俺たちでやることがある。……どうする? アレ」

 

「どうするって言われてもねぇ」

 

 チラリと、ノエミは“そちら”へ意識を向けた。

 市街の一角、商業ビルなどが立ち並ぶ、それなりに現代的なコンクリート郡。

 とはいえ、どれも三階建程度の、小さなものではあるのだが。

 

 そこに、誰かがいる。

 パーティドレスか何かのような、肩の露出が激しい風変わりな服。

 現実的では決して無い、気配もある。

 間違いなく、サーヴァントだ。

 

「ランサーは現在出張ってる。セイバーかアーチャーだが……」

 

「セイバーは最優よ。もしかしなくても切札だろうし、多分アーチャーね」

 

 少し癖のあるセミロングの白髪。

 生糸のようだ。

 

「瞳を閉じている。アレは見えているのかしらね。盲目の射手って、それそもそも成り立つの?」

 

「知らんな、まぁでも解ることは――間違いなくこっちを誘ってるってことだ」

 

 屋上の上にいて、周囲を見渡すことはできるだろう。

 しかし、ランサー陣営が陣取る高台ほどではないし、そこに立つ意味があるとも思えない。

 だが、ライダー達にその姿を見せるという意味ならば、筋が通る。

 

「一度近づいてみましょう。アレがもし見えていないなら、アンタの直感か、もしくはそれに類するスキルがあるわ」

 

「だろうな」

 

 肯定し、ライダーは即座に機体を傾けた。

 否はない、幸いライダーの直感は高いランクを誇っている。

 少なくとも、同ランク程度ならば、深入りしなければ避けられる。

 

「にしても、女性の射手か――かなり絞られるわね。問題は、そもそも“盲目”のアーチャーなんて、いたかしら」

 

「坂額御前とかいるだろ」

 

「……アレが日本の武将に見えるの?」

 

 巴坂額とも呼ばれる日本を代表する女傑。

 因みに巴は巴御前だ。

 

「アタランテとか……」

 

「ねぇ、あたしは別に女性のアーチャーを挙げろって言ってないわよ? 盲目のアーチャーなんて、そうそう成り立つとは思えないわ」

 

「無茶だろ、どれだけ感覚が優れようと、盲目で戦場に居られるはずがねぇ」

 

 ライダーが応える。

 ふむ、とノエミは腕を組んで考えこむ。

 

「とすると――戦場に逸話のあるアーチャーじゃない?」

 

 ぶつぶつと、何事か呟く。

 それを、ライダーが何気ない様子で遮った。

 

「そろそろだぞ」

 

「え? あ、あぁそう。暗視できるようにするわね」

 

 オーライ、とライダーは返し――

 

「……ん? お前、アレが女に見えるのか? 俺には瀬場の娘と同じ位の歳の坊主に見えるんだが」

 

「――そうも見える、わね。でもどうでもいいでしょ、そもそも、それだとあのサーヴァントが変態になるわよ」

 

 そんなやりとりをして――零戦は切り裂くように機体を斜めにし、アーチャーへと迫る。

 それは数秒で成った。

 そも、時速数百の速度で駆け抜ける音速は、距離を大凡零にする。

 

 アーチャーは――正確にはそうと判断される彼/彼女は――自身の弓を取り出した。

 

「確定ね! そして――こっちに対して仕掛けてくるわ!」

 

 弓は、無骨であり、また良く磨かれた、洗練されているフォルム、と言えた。

 ムダのない作りは、逸話のある弓とは思えない。

 せいぜい、その先端に若葉のような葉が揺れている程度か。

 

 ライダー達は旋回し距離を取る。

 正確には、同じ距離を保ち続ける。

 アーチャーは手にしたまま空の機体を見上げていた。

 言葉はない、そも、言葉を交わす位置に両者はいない。

 

 ただ、戦場の、敵対した者同士のあちらとむこうに、立ち尽くしている。

 

「――この距離じゃあ、攻めてこない。あのランサーみたいにおもいっきり跳んで、無理やり射程に入れてくるわけじゃないのね」

 

「そりゃあそうだろ、必要がねぇ。手前さんはこっちがわを迎え撃つ状況なんだ――手を出すほうが馬鹿だろうよ」

 

 不意をつくことは不可能だ。

 攻めに出るにも無茶が残る。

 とすれば、万全の体制で、迎え撃てる状況が先決。

 ライダーは攻めざるをえない状況にあった。

 

 無論、このまま撤退するという選択肢もあるが――

 

「令呪を持って命ずることも辞さないわ」

 

 そんな雰囲気をライダーが出したところ、ノエミが即座に返答してみせた。

 実際に令呪を持って命じないところが如何にも厭らしい。

 

「ま、俺も否とは言わないさ――そらよっとォ!」

 

 ライダーが機体をアーチャーへと向けた。

 即座に、アーチャーは弓に矢をつがえてみせる。

 ――それは木製の矢であった。鏃から何から、すべてが一本の木から削られ作られているのだ。

 特徴的な姿、何の変哲もない弓という組み合わせから見て、恐らくはあちらが本命――!

 

 その矢は疑いようもなくライダーを狙っていた。

 

 ギリギリと、

 ギリギリと、

 ――矢が大いに引き絞られる。

 

「――――」

 

 ノエミは言葉を発しなかった。

 すでに、彼女の領域からは逸脱していた。

 

 一瞬の、しかし紛れも無く疑いようもなくそれは――サーヴァント同士の戦闘であった。

 

 ただ、沈黙が。

 ――ただ、緊迫のみが世界とかして。

 

 やがて、

 

 ――ライダーが、

 

 ――アーチャーが、

 

 ―――矢を放つ。

 

 機体を反転させる――――。

 

 

 それらは、全くの同時に起こった。

 

 

 風が生まれた、一点を穿つような槍の風。

 アーチャーの矢は、彼/彼女の口元から何事かを紡がれて、飛び出した。

 空に浮かぶ斜め上方への花一輪。

 切り裂いた風が、尾を引くようにしてみせた。

 

 そう、切り裂かれ、そして矢の線条は消えた。

 ライダーの翼は、未だ空にある。

 放たれた一条の下を、滑るように駆け抜けて、回避してみせたのである。

 

 回避が終われば、それ以上ライダーはその場に長居することはなかった。

 再び上空に飛び上がり、アーチャーの手の届かない場所へと消える。

 もう、戻ってくることはないだろう。

 

 それはアーチャーにも理解できていた。

 ――故に、アーチャーもまた、弓をかき消し、三階建ての小さめのビルから飛び降りる。

 霊体化がそれに伴い、その姿は、建物の影に融けていった。

 

 

 ♪

 

 

「よくやったわ! ライダー!」

 

 あの一撃を、回避してみせたことに、ノエミは甚く感激しているようであった。

 手放しに褒められるのは、悪い気がするものではない。

 

「ま、当然よ」

 

 ライダーは何気ない様子で、しかし言葉尻に誇らしさをにじませて応じた。

 

「さて、情報を纏めましょうか」

 

「さすがに、今の交戦で全部が知れるわけじゃないだろ」

 

「そうね、それに――」

 

 ノエミはそこで、急に脱力したように身体を伸ばした。

 

「――今日は、十分空を飛んだわ。このくらいにして、情報を纏めるのは明日にしましょう」

 

 ライダーに反対はない。

 よく晴れた星空を背にするように、ライダー達は、一夜のフライトを終え、帰路につくのであった。

 

 

 ♪

 

 

 夜の街を、アーチャーは駆けていた。

 服の端を持ち上げて、その速度が人の目で捉えきれないほどだという前提を除けば、端から見たその姿は、王城から逃げ出す姫そのものだ。

 本人としては、裾の長いローブに苦慮をしているという程度なのだが。

 

「ふむ……直感持ち、か。それもAランク」

 

 アーチャーは一人考察する。

 すでにライダーの真名は知っていた。

 なんでも、昨日の戦闘時に使用していた爆弾の種類を調べれば、即座にその使用者として名前が上がるらしい。

 

「なんと言ったかな……あぁクソ、日本人の名前はどうにも覚えにくくて敵わないな」

 

 文化圏が違い、そもそも「日本」などという存在を、召喚されてから初めて知ったアーチャーは、どうにもそれがなじまない。

 何とか自分のマスターの名前は覚えたが――

 

「――あの“クズ”が言うには、病気に弱いらしいが……あのステータスなら、そもそも宝具を破壊した時点でこちらの勝利だな。落ちてきた所を射ればそれで終わりだ」

 

 ――同じ赤紫羅陣営のマスター、弓弦の名前を思い出そうという気にすらならない。

 一応、覚えてはいるので顔を合わせれば思い出すが、それだけだ。

 また、赤紫羅仁に至っては“面識がない”。

 サーヴァントの中で、赤紫羅仁と直接顔を合わせたのは、恐らく直接の主従関係にあるセイバーしかないだろう。

 

「病気をバラマキ自滅を誘うにしても、そもそんなことは“俺”が許さん。空に病気を放つなど、現実的でもないしな」

 

 真名が判断できた所で、そこから弱点として割り出せるモノはない。

 「岩本徹三」、日本最強の零戦パイロット。

 戦闘中に被弾することは会ったそうだが、逸話として残るような撃墜の事実はない。

 つまり、戦闘中に、有効打となりうる方法は存在しないのだ。

 

「一般人より少しマシ、あれで良くも英霊などを名乗れたモノだ。――いや、あの宝具とそれを扱う技術は驚嘆に値するがな」

 

 移動しながら、アーチャーは思索にふける。

 アーチャーの弓を回避した。

 ――完璧だと自分自身が確認したタイミングを外された。

 それに相応するスキルは、なるほど確かに英雄らしい。

 

「……空を延々と飛ばれるのは厄介だな。だが、高い射程が必要とはいえ、形が固定化されているというのは良いな」

 

 素のステータスは寂しいものだが、それを補って余りある戦闘スキルと宝具であろう。

 現代のサーヴァント。

 神秘という点から見れば大したことはない手合いではある。

 しかし、それでも英霊は英霊。

 

「セイバーならば相手取るのに苦労はしないか。“私”もそれは問題はなかろうが、ランサーは無理だな、散弾が厄介に過ぎる」

 

 彼/彼女の戦争への才が加速する。

 不思議なものであるが、それは本来の“彼/彼女”には存在しない、“彼”のみのスキルだ。

 それが、聖杯戦争という場に置いては“無くてはならない”ものだというのだから、不思議なものだ。

 

「……む? 人か――陽の暮れた世界に、人が躍り出る。なんとも、人が傲慢に見えてならないなぁ」

 

 ――アーチャーの感覚は、遠く離れた人間の存在を感知できる。

 その両の目に光はない。

 しかし、周囲の建物や何かを、感覚的に感じ取ることは可能だ。

 少なくとも射手として存在を認識するという点に関しては、“眼という情報フィルター”があるよりも、よっぽど優秀だとアーチャーは考える。

 

 ただ、結果としてそれは、アーチャーにとっての悲劇であり、またアーチャーは、“肝心なもの”が見えていないのではあるが。

 

 悪態をつきながら、アーチャーは進行方向を少し逸らした。

 今現在の彼/彼女は霊体化しているとはいえ、それ一個が車など比べ物にもならない怪物だ。

 それを、余波とはいえ人に感じ取らせる訳にはいかない。

 神秘の秘匿というものを、考える時代にアーチャーは無かったが、それでも。

 そうすることが、秩序であるということは知っていた。

 

 アーチャーは赤紫羅の本拠地へ急ぐ。

 もう、やるべきことは済んだのだ。

 ――マスターをこれ以上一人にはできない。

 戦略的に意味があることは理解できたために今日は動いた。

 しかし、アーチャーは常にマスターの守護をすることを望んでいる。

 

 闇夜を駆ける足は、自然と力が込められた。




 個人的な所見として、アーチャーが一番わかりにくいです。
 正確には、すぐに解ると思いますが、そのすぐに解る人、がいろいろと問題なわけでして。
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