Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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序章 2

 現瀬場邸に現れたのは、やはりというべきかアサシン陣営であった。

 とはいえ、サーヴァントは現界はしておらず、目に見えるのは雪白辰向、マスターのみである。

 

 彼らは今、瀬場邸入り口にあたる山門の少し手前にいる。

 そこで恐らく感知用と思われる魔術が作動したのだ。

 ならば、下手に入らず、ここで待つのが理想だろう。

 

(いい結界だな。……まぁそりゃあ、瀬場は鬼道というか、神道に近い純和製魔術師一門だから、当然か)

 

(そうなのですか? どうにも魔術には疎いもので)

 

 さすがに英霊となる器である以上、魔術を全く知らないということはないにしろ、本格的に魔術の世界を関わったことはないのだ。

 

(まぁ、俺もこういうのは基礎だけだな。なにせ――っと、来たか)

 

 気配。

 人の気配とは少し違うだろうか。

 ――サーヴァント、であるように思える。

 

(――敵意はないようです)

 

(……あぁ、解る)

 

 それはゆっくりと、歩行の速度で辰向達へ近づいてきた。

 山門のよこから、すっと、滑るように。

 

 現れたのは女性。

 巫女服姿の、若い少女であるようだった。

 年齢にして、十五かそこらか、少なくとも辰向よりは年下の年代だ。

 

「――ようこそ。ご用件をお聞きしたいのですが」

 

「俺は雪白辰向、恐らくご存知だろうが、聖杯戦争のマスターだ。唐突な訪問で申し訳ないが――貴方のマスターとお会いしたい」

 

「……しょうしょうお待ちください」

 

 言って、それから沈黙は一分とかからなかった。

 やがて一つ少女が頷くと、「こちらへ」その一言と共に反転する。

 

(……サーヴァント、でしょうか。些か“隙”が見えました。――下世話な話でしょうが、()()()

 

(もしかしたら違うかもしれないな。瀬場は鬼道の家系だ。となれば、アレは死者の霊か何か……だが、あんなにはっきり見えるようにできるものかな)

 

 念話での相談を行いながら、後に続く。

 屋敷は、門をくぐってすぐに入り口がある。

 ――だが、少女はそちらへ通さなかった。

 曲がって右手側、そちらに辰向達を誘導する。

 

 警戒はしたが、同行に躊躇いは無かった。

 ――する必要が、かけらもないのである。

 

 やがて開けた庭に出た。

 すでにおおよそ気がついてはいたが、人が居た。

 その場だけが気候が異様に涼しい――先程までここで休憩をとっていたのだろうことがすぐに解る。

 

 出迎えたのは、少女。

 ――無論、それは瀬場朝海である。

 瀬場家当主にして聖杯戦争のマスター。

 

 縁側に腰掛けていた朝海が、ゆっくりと立ち上がり、辰向達へ振り返った。

 

「はじめまして、わざわざご足労ありがとうございます。……“雪白”さん?」

 

「あぁ、はじめまして。改めて、俺は雪白辰向。よろしく、瀬場」

 

 互いに数歩の距離。

 ――刃を向けるには遠く、拳銃を向けるには対処の余裕を与えない距離。

 あえてそこまで、辰向の方から近づいた。

 

(――アサシン、サーヴァントの気配は?)

 

(……、)

 

 答えは、無い。

 それを待たず、辰向は続けた。

 

「よくぞおいでくださいました。歓迎します。――さて、いかなご用件でしょう、雪白さん。セカンドオーナーたる瀬場の元へ、一体何がお望み?」

 

 ハキハキと、明朗な声で語る少女だ。

 淀みはなく場数の多さを感じさせる立ち振舞だ。

 

(……その年で)

 

 アサシンが、何やら思うところがあるように言う。

 

(気にすることはないさ。案外子どもは頭が良いもんだ、それに日本は教育の機会が豊富だ。案外、足元を掬われかねないぞ?)

 

「……その前に」

 

 念話による会話と“ほとんど並行的に”、辰向は言葉を連ねる。

 分割思考のまね事――否、これは“高速思考”のまね事だ。

 思考の回転が速いがために、思考を終えると同時に次の思考を展開しているのである。

 

「俺は貴方から信用を得たい。――どうだろう、今この場でサーヴァントを実体化させても構わないだろうか」

 

「――それのどこが、私の信用を得ることになるのです……? いえ、いいですけれど。――どうぞ、ご自由に実体化なさってください」

 

 朝海は言う。

 ――自身のサーヴァントの気配を感じさせずに、だ。

 意味するところは――

 

(……なるほど、いい手だ。俺の陣営のサーヴァントがアサシンではなく――)

 

(――同時に、私達の目的が同盟の締結でなければ、有効だったでしょう)

 

 辰向とアサシン。

 両者の思考のシンクロを伴って、高らかに、辰向は自身のサーヴァントの名を呼んだ。

 

 

「でてこい――“アサシン”!」

 

 

 瞬間。

 ぬらりと、アサシン――軍人姿の東洋人が姿を現す。

 辰向の言葉に対する、朝海の反応は顕著であった。

 

 ――大いに目を見開き驚愕を表した後、大いに面倒くさそうな嘆息を吐いた。

 それはそれは大げさで、そしてどこか“気負った”気配を吹き飛ばすものだった。

 

「……まったく、そういうことなの」

 

 お手上げだ、と両手を上げてみせ、

 

「――出てきていいよ、キャスター」

 

「……はい」

 

 命じる。

 現れるはキャスターのサーヴァント。

 和装姿の、一目見てその美貌に感嘆を覚えざるを得ない女性だ。

 

 この瞬間、それまで感じてこなかった、“サーヴァントの気配”が同時に顕わとなる。

 

「――気配遮断。サーヴァントとしての気配を断った。それにより、相手に自分はアサシンのサーヴァントを抱えていると誤認させたかったんだろう?」

 

「この距離なら、いつでもマスターの首を落とせる、そう脅していたんだけど、端から争うつもりも無かった――そもそも、こっちの策は全部見破られていたんだね」

 

「……さすがに、相手がアサシンではどうしようもありませんね」

 

 ふふ、とキャスターは困ったように笑った。

 

「アサシンは無いと思ったんだけどなー」

 

「ふむ、と云いますと?」

 

 朝海はアサシンの問いかけに、二つ、指を立てて解答する。

 

「アサシンは弱い、だからわざわざ危険を冒して、この瀬場邸に、のこのこ現れるとは思えない。――加えて、アサシンには同盟の利点が薄い。なにせこの戦争最大のジョーカーなんだから」

 

 この聖杯戦争は主催者である赤紫羅陣営が多いに有利な状態にある。

 三騎のサーヴァントを従え、通常であれば、外部からの参加者は彼らに蹂躙されるのが定めだ。

 

 ――しかし、それには例外と呼べるものがある。

 それがアサシン。

 アサシンは暗殺者のサーヴァント。

 マスター殺しを得意とするアサシンの場合、赤紫羅陣営最大のアドバンテージである、三騎士を避けてマスターを狙うという戦法が取れる。

 

 むしろ、それこそが、この聖杯戦争におけるアサシンの勝ち筋なのだ。

 単独での勝ち目が唯一あるアサシン陣営が同盟という選択肢を取ることは、朝海の想定に無かったのである。

 

「ですから、優勝する気概のあるライダー陣営がここへ来ることを想定していたんです」

 

「……それで、用件は何かな」

 

 本題に入る。

 少しだけ戦意をのせて、朝海は問いかけた。

 

「――同盟を」

 

 即答。

 辰向はそれに即座の返答を見せた。

 だが、その返答が、許容できるかといえば、また別の話だ。

 

「あのね……」

 

 朝海が反論に口を開いた。

 到底のめる話ではない。

 アサシン陣営に戦意がないことは分かった。

 ――けれども、性急がすぎる。

 少なくとも、邂逅してすぐに持ち出していい用件ではない。

 

 だが、

 

「そちらにだって利点があるはずだ」

 

 制するように、辰向は続けた。

 続けざま、連撃が如くまくし立てる。

 

「そもそも、キャスターのサーヴァントを召喚し、籠城の構えを取る以上、“攻め手”に欠けているだろう、貴方達は」

 

「……それは、そうだけれど」

 

 否定しようがない。

 キャスターが見せた“気配遮断”。

 ――それだけで、目の前にいるキャスターが、“まっとうな”キャスターで無いことはすぐに分かる。

 そしてその正統派でない方向性が、“攻め”に有効な手札ではないことも。

 

「それに、何も今すぐ同盟を結ぼうというわけではない。今日はあくまで方向性の確認だけだ。――未来を見据えた話をしようじゃないか」

 

「何がいいたいの?」

 

「今すぐの不戦、これは今、貴方達が実際に認めてくれた。俺があと一歩、前に出ない限りこれは決定事項だ。これからの不戦。このくらいならば、地盤が固まらない今なら、むしろソッチの陣営にこそ利点があるだろう?」

 

 チラリと、朝海はキャスターを見やる。

 念話による何事かの会話か、はたまたキャスターというサーヴァントの特性を意識してのことか。

 

「――あえて指摘したいが、同盟を組みたいと申し出たのは俺たちだ。だが、同盟を組みたいと、“考えている”のはそっちじゃないか? もしも俺たちが来なければ、“今日の夜”にでも、ライダー陣営辺りに交渉を持ちかけたんじゃないか?」

 

「何故、そう言えるの?」

 

「貴方の陣営は、非常に“同盟する利点”が豊富なんだ。まず、拠点が大霊地であり、その地盤を固める陣地作成を持つキャスターがいる。拠点とするには魅力的な点が多く在る。そして何より――」

 

 ここがポイントだ。

 今まで、話の主導権を渡さないよう、一息に話をまくしたて続けた。

 朝海に思考の暇すら与えないほど、話を先に先にと進めてきたのだ。

 だからこそ、

 

 ここで、それを確実にする。

 

 

「――貴方達には、聖杯にくべる願いと呼ぶべきものがない」

 

 

 返答は――

 

「…………」

 

 沈黙であった。

 

「沈黙は是なり、だ。いやこれに関しては茶番だな、俺はそれを知ってる。俺だから――瀬場朝海、貴方の願いを知っている。そして、貴方は“瀬場”であるからこそ、“雪白”という家を知っている」

 

 雪白辰向という個人を、瀬場朝海は知らないだろう。

 辰向にしたって、朝海という少女のことを、ここに来るまで知りもしなかった。

 だが、“雪白”は“瀬場”を知っている。

 

 そしてその逆もまた、然り。

 

「――まぁそうだね。私の願いは、聖杯戦争に勝利することそのもの。――その上で、」

 

 応えた。

 辰向の茶番に乗っかるように、抑揚を伴って。

 

 

「主催者――赤紫羅を、あの一族を、()()()こと」

 

 

 是と、応えた。

 

「なら――」

 

 続けようとした。

 けれども、朝海という少女は証明だ。

 ――自身の言葉が“引き出された”ものであることは理解した。

 だからそれ以上は許さない。

 

「――でも、それが一体、きみ達の陣営と同盟することに、繋がるの?」

 

「……、」

 

「正直に言って、利点が無いよ? そっちにとっても、こっちにとっても。そもそも、私がきみに求める需要と、きみが私に求める需要。それがそもそもすれ違っているもの」

 

 朝海にとって必要なもの、それは使い勝手の良い攻め手。

 高い火力だ。

 

 辰向にとって必要なもの、それは使い減りのしない同盟者だ。

 “願い”がかち合わない存在だ。

 

「――きみは、確かに私と同じ位赤紫羅を憎んでいてもおかしくない人材だけど、それだけじゃだめだよ。私がきみに何もしてあげれない。だから、同盟の意味が無い」

 

 逆もまた同様に、辰向達が、キャスター陣営にできることは、殆ど無い。

 それはここまで――話をこの地点に持ってくるまでの幾つもの情報が、語っている。

 

 ――入り口で出迎えたあの少女。

 そして、気配遮断のスキルを持つキャスター。

 情報収集という面に関しては、アサシンと同等クラスの能力を有するだろう。

 

「それに関しては――問題ない。そもそも、前提からして間違っている。確かに“アサシン”というサーヴァントが、貴方達に求められることも、貴方達に与えられることも殆ど無い」

 

 先程から、沈黙したままのアサシンが、首をすくめてにこりと苦笑する。

 対して、同じく沈黙しきりのキャスターもまた、困ったような、母性を含んだ笑みを深めた。

 

 ――相対するマスター同士は、いよいよ話を締めくくりへ入る。

 

「それに、俺には願いが在る。そのために、サーヴァントは必ず討たなくてはならない。無論、暗殺でもいいが、俺が呼んだのは暗殺のためのアサシンじゃない」

 

「なら、何?」

 

「――俺を、戦闘面でサポートしてもらうためのアサシンだ」

 

「……は?」

 

 思わず、素の声音が飛び出した。

 普段語る声ではなく、凛として整然としたものでもない。

 

 間の抜けた、空気に音がこびりついたような声。

 

 それを――呆然と呼ぶのだと、朝海は知っていた。

 

「サーヴァントと戦うのはアサシンじゃない――――()()

 

 嘘ではないことは、すぐに理解できた。

 ――そもさん、雪白辰向は、コレを伝えるために、キャスターと朝海の陣営にやってきたのだ。

 ここまで話を続けて、その結論とも言える内容が、よもや嘘であることはありえない。

 

 そして、それが理解できてしまったからこそ。

 

 朝海の思考は停止した。

 処理が落ち、フリーズという結論に至った。

 

 

 ♪

 

 

 結局、それから話もそこそこに、今後の両者のスタンスを取り決め、その場では解散となった。

 内容は“今日一日の不戦の確定”。

 そして、条件付けによる、今後の不戦協定だ。

 条件は、赤紫羅陣営が敗退するまで、また互いに、互いのスタンスにおいて看過できない状況に至るまで。

 

 前者は明白だ。

 後者は複雑であるが、この場合互いに看過できない行動は、言ってしまえば一般人への被害である。

 神秘の秘匿を行わない場合などの、魔術師として基礎的な部分もまた、この看過できない行動に当たる。

 

 また、前者はともかく、後者は表現が曖昧であるため、敵対時に改めて一度、話し合いを持つことを確認し合った。

 

「――さて、どうかな、アサシン」

 

「及第点ではないですか? 少なくとも、今この時点で同盟を組む必要はありませんし、するつもりもないですしね」

 

「同盟は、バーサーカーかライダー、どっちかが落ちてからが理想だ。主催者陣営も、俺たち参加者陣営がどれか一つでも落ちない限り動かないだろうしな」

 

 四対三という不利な状況にでもならない限り、赤紫羅は不動の一手を取るだろう。

 それでも、状況は間違いなく動くはずだ。

 

 例えば、ライダー、キャスター間の同盟が確定すれば、これらニ陣営同盟は、他の参加者陣営二組を落としにかかるだろう。

 

 そうでなくとも、朝海の人格を考えれば、――状況が動かないはずがないと、辰向は考えている。

 

「――なぁアサシン、魔術師という人種における、典型とは何だと思う?」

 

「……科学者、では?」

 

「偏屈という意味では少し近いが、違うな。魔術師の典型は――“貴族”、だよ」

 

 少ない知識の中からイメージを語るアサシンに、辰向は言う。

 

「偏屈で、見栄っ張り。それでいて、庶民というものを、自分の食料としか思っていない。もしくは、存在すら認識していない」

 

「なるほど、そんな存在が集まる聖杯戦争という場であれば――」

 

「……ま、すぐに動きがあるだろう。それに合わせて俺たちも出るぞ、――そこで、できればキャスター陣営を口説き落としたいものだな」

 

「それは、困りましたね。あいにくと、女性との付き合いというものが薄いものでして」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 ――言葉を交わす両名は、冗句を交える程度にはすでにそれ相応の信頼関係を築いていた。

 これから起こる戦争は、――そも、戦争というものは、“信頼”こそが大きな意味を有する。

 

 であれば、まずはそのための緒戦。

 重要度は、決して低くはないだろう。




第一戦
アサシンVSキャスター
アサシンの判定勝ち。そんな話でした。

―文末設定集―
キャスター
 気配遮断:E
  サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
  ただし、サーヴァントとしての気配を絶っているだけである。
  気付かれた場合、相手はキャスターを人間として扱う。
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