Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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―第七章―
第七章『瀬場邸決戦(上)』


 雪白辰向と、赤紫羅弓弦は、一体いかなる言葉で呼称できるだろう。

 親友?

 幼なじみ?

 兄弟?

 

 おおよそそのどれもが正解で、そのどれもが不正確である。

 

 一側面としてはそれは十分な答えとなるだろう。

 一肩書としてはそれは十分な答えとなるだろう。

 

 ただ、そうではない部分があって。

 そうなれない部分もあった。

 

 何が正しいということではなく、何もかもが正しい。

 

 辰向と弓弦は友人であり、また自身の信頼を預け合う親友同士であった。

 故郷を同じくし、同じように、まるで兄弟のごとく育った両名は、幼なじみと呼ぶにふさわしい。

 そして、その比喩どおり、また辰向たちは兄弟でもあった。

 

 もしもどちらかを兄とするならば、どうか。

 辰向ならばこう答えるだろう。

 

「優劣などあるものか、俺達は俺達だ」

 

 もしもどちらかを弟とするならば、どうか。

 弓弦ならばこう答えるだろう。

 

「――辰向が兄で、俺が弟だ」

 

 ――それは等しく視界の違いだ。

 辰向には、自身と弓弦の関係が対等に見えた。

 友人同士として、見えた。

 

 だが、弓弦は違った。

 その最もたる前提は単純だろう。

 

 ――辰向は魔術において特殊な才能を有していた。

 起源による魔術、加えて、回路の質は平均程度なれど、魔力量は十分な才能を感じさせる。

 弓弦は結局のところ平凡だった。

 魔力量はそれなりの優秀さを発揮するが、それも辰向には届かない。

 

 両者の優劣はそんなところで――

 

 ――そんなところから、決定づけられていたのである。

 

 

 ♪

 

 

 一日が何事も無く過ぎた。

 ランサーとアサシン。

 ライダーとアーチャー。

 

 二つの小競り合いとも言える戦闘の次の夜。

 戦闘は起きず、更にその次の朝を迎えた。

 

 めまぐるしく戦局が動く聖杯戦争。

 本格的な開始を告げて以来――はじめて、戦闘といえる戦闘がない一日となった。

 

 その間、それぞれは戦争のための準備を進めていたわけではあるが。

 小競り合いから、二度目の夜を迎える。

 

「――ランサー、こんな所にいたんかい」

 

 赤紫羅弓弦とサーヴァント、ランサー。

 両名は現在、赤紫羅陣営が本拠地のある場所にいた。

 

 そこは街の中央にあるさしたる大きさを持たない山。

 ――本来は、ここはこの街の裏の心臓部、簡単にいえば“魔術的な”文化の中心であった。

 瀬場がこの地を治めていた頃、魔術師はここで練磨に明け暮れた。

 外来から訪れた、雪白や赤紫羅のような、魔術師も例外ではなく。

 

 現在は放棄されているが、中に踏み込めば、当時瀬場や雪白、赤紫羅などの魔術師一門が使用していた小屋を発見することができるだろう。

 

「ほぅ、マスターか。何ようかな?」

 

「いや、それはこっちのセリフだってんだよ。ランサー、何だってアンタ、こんな所にいるんだ」

 

 現在は夕刻。

 日は既に傾き、夜はとうの昔に藍色を朱と同化させている。

 

「なんでもないさ。別に外に興味が有るわけではないがな。退屈がすぎれば、思うがままに振る舞うこともするさ」

 

「……サーヴァントだものねぇ」

 

 納得したように言いながら、弓弦はランサーの元へ向かう。

 隣に並びたち、ぽつりと――口を開いた。

 

「――ここは、俺が育った場所なンだよ」

 

「ほう」

 

「ここで俺は魔術を学んだ。親父は俺に語りかけすらしなかった。だから俺は、親父以外の奴から、俺の兄と共に魔術を学んだ」

 

「――“兄”。それがあの“アサシンのマスター”か」

 

 ランサーは、即座にそれを察した。

 赤紫羅弓弦にとって――この聖杯戦争において、唯一、関係と呼べるほどの間柄を持つ“敵”。

 もちろん、弓弦と瀬場朝海は面識がある。

 だが、両名はその担当分野が別であるため、直接的な会話は、互いに名を交換した程度しかない。

 

「雪白辰向……いんや、まったく名前は覚えて貰わなくてケッコーだけどよぅ、そいつが俺の兄の名だ」

 

「あぁ、でそのアサシンのマスターが、なんだと?」

 

「――はは、お前らしい切り返しだよランサー。伊達に俺の名を知らんだけはあらァ」

 

 ――ランサーは、マスターである弓弦の名前すら“知らない”。

 必要がないからだ。

 弓弦はランサーの真名を知っている。

 しかし、それはあくまで触媒から想像したが故。

 直接ランサーに問いかけたことはない――必要がないからだ。

 

 その両方は、全く同じ意味を持つ。

 

「――ここは俺のすべてだ。幼いころは辰向と駆けまわった。すぐに真華もそこに加わった。魔術を習い始めたのは、真華が会話をするようになった頃だ」

 

 ――大体、“妹”が6つの歳程度。

 ある人物から魔術を習った。

 その人物は“中立”であった。

 後に知ることになる――その人物は、瀬場朝海の後見人でもあったのだ。

 

「あいつは真実優秀な魔術師だった。起源魔術師であることもそうだが――才能があったんだろうな、今の無茶な改造を、全く無茶とせずにこなしている」

 

「――俺相手に打ち合うほどの改造か」

 

 いくらほどの物であるかは、弓弦にすら想像が付かない。

 ただそれは、本来であれば命にすら関わるほどの改造と、命を人外ほどに長引かせる類の方式を、同時に取っているのだろうと、そう思える。

 何せ辰向の目的は救済であるからだ。

 ――救済は、死を持って行われることはある。

 だが、他者の死が、誰かの救済となることは絶対にないのだ。

 

 だから、自分の寿命を縮めるような真似はしないだろう。

 

「とまれ、あいつはそういう意味では俺の眺望の外にいる――俺の隣にあいつはいながら、俺の視界には、全く入ってこネェんだ」

 

「――ふむ、それはなるほど、分かり易いまでの“嫉妬”だな。賞賛もしないが避難もせん。その感情、実に結構」

 

 ランサーは、まるでドウでも良さげな言葉選びで。

 しかし、決して興味を失うことなくマスターの言葉を聞いている。

 

 そして言う。

 ――それもまた、良しと。

 

 ランサーはカリスマ有する英霊だ。

 彼のもとには数多の英雄が集い、そして共に矛を持つ。

 その一端は、きっとこんな所にあるのだろう。

 

「なぁランサーよ」

 

 だから、語る。

 あまりにも思うがままに、自分ですら想像もできないほど。

 

 その時の、赤紫羅弓弦の口はよく回る。

 

「ここは俺にとっての成長であり、俺にとっての故郷であった。郷愁とでも言うべきかな、その感情は、俺の全てっつーわけよ」

 

 もとより、口八丁を得意とする人間ではあるのだが。

 

「だから、それだけじゃない。俺の心象風景(ノスタルジア)は、それだけじゃあ完結しない。あとひとつ――ピースがある」

 

 そう、

 

 ――ここは、弓弦にとって、

 

 辰向と、真華と、共に駆けまわった大地であり。

 

 あまりに高い場所にある、天空を睨んだ場所であり。

 

 

「――ここは俺にとっての、“始まり”の場所でもあるんだよ」

 

 

 それが、赤紫羅弓弦の起因。

 全ての始まり。

 

「ふむ……いいだろう。それがマスターの旧懐だとするならば、俺はそれを呑み込もう。俺と共に戦う者として、マスターを、認めよう」

 

 それは果たして信頼であったか。

 否――それは、今更言葉にするでもない言葉。

 

「――懐かしいネェ、それ、お前が召喚された時にも、似たようなことを行っていたな」

 

 ランサーは、マスターの意思を飲み込んだ。

 

 問いかけた。

 己は主のサーヴァントであるか。

 

 是。

 弓弦は、そう答えたのだ。

 その時にも、ランサーは似たように言う。

 

 ――是とするならば善しとしよう。

 ――故に、ここに契約は成立し、俺はお前を“呑み込んだ”。

 ――これより、お前を俺と共に戦うマスターと認める。

 

「……ふむ、今更確認するでもないか。ならばいい、それでよい」

 

 満足気に、ランサーは弓弦の顔を見て頷いた。

 そこには言葉など必要がないほどに雄弁で――

 如何にも弓弦らしい、愉しげな笑みが浮かんでいた。

 

 

「――さて」

 

 

 そこに、

 

「……そろそろ、こちらに意識を向けてもらおうかな」

 

 声がした。

 それは、声である。

 だが、そこまでだ。

 ハスキーであるとも言える、柔らかいとも言える。

 けれども、それはあくまで“それだけ”である。

 

 それは如何なるか。

 簡単だ。

 

 ――その声には、性別がない。

 

 性別は、人の個――究極的な人の根源。

 たとえどんな場所に生まれようとも、これ一つが違えてしまえば、その後の人生の在り方が変容する。

 その性別が、その声にはない。

 

「――わざわざお前がこんな所に、何のようだ」

 

 振り返る。

 声の主を、ランサーも弓弦も知っている。

 

 そして、知っているからこそ、それは意外な声がけで。

 返すランサーの言葉も、彼が常々感じている感情以外にも、驚きというものが含まれていた。

 

 

「――セイバー」

 

 

 セイバー、と“ソレ”は呼ばれた。

 人形の髪、西洋のビスクドールが如き艶。

 その姿は、見惚れるほど少女的で。

 その顔立ちは、青々しいほど少年的で。

 

 それは、少女であった――少年であった。

 

 アーチャーの様相、とはまた違う。

 彼/彼女の場合、性別はあくまで曖昧で、あくまで周囲に知れないだけだ。

 だが、“ソレ”は違う。

 

 セイバーは違う。

 “ソレ”のは正しく性別がない。

 男ではない、しかし女でもない。

 

 ――“ソレ”とただ呼ぶことしかできない、人ではない何かがそこにいた。

 

「そろそろ時間だよ。あまり外を出歩いていては、“マスター”に咎められてしまう。別に僕はそれでもかまわないが、君の場合はそうではないだろう?」

 

 視線で、セイバーは暗に示す。

 受け答えるように、弓弦は言った。

 

「親父は俺に何も求めちゃいねーよ。だから何の干渉もしない。端から俺は、親父にとっては路傍の石だ」

 

「思うに、その石すらも疑い、そして“砕く”のが“マスター”の習性さ。醜いが――いや、“見ていられない”が」

 

 そういうものだから仕方ない。

 セイバーはそう肩をすくめた。

 ――なんとも含みのある“マスター”という呼称を口にして。

 

「君の父親は疑心暗鬼そのものだ。心の底は鬼そのもので、心の器は疑いに満ちている。不思議な話だけれども、だのに君は生きている。何故だい?」

 

 ランサーには一瞥もくれず、セイバーは確かめるように問いかける

 

「親父はな、俺を信頼してくれてんだ。心の底から、疑いようもなく――疑う必要すら無くな」

 

「……それを、自分で言うことがどれだけ罪深いか――いや、言うまでもないことだったね」

 

 失言だった、とセイバーは言う。

 それ以上はなかった。

 謝罪も、続く会話もない。

 

 あくまでそれが、自分の役割であるかというように。

 

「――ま、そういうわけだランサー。出るぞ、今日はこの戦争の正念場、戦況の趨勢を決めかねない、大一番だ」

 

「……解っているさ、当然な」

 

 ランサーは、弓弦に言葉をかけられようやく起動した。

 その感情はセイバーに対する二律背反的意識にとらわれているようであった。

 

 つまり、自分はセイバーに敵わないという、傍観。

 つまり、自分はいつかセイバーを打倒するという、気勢。

 

 どちらもまた、ランサーのセイバーに対する振る舞いであった。

 セイバーは、そんなランサーのそれを、一切歯牙にもかけはしないのだが。

 

「これより、この戦争を“終わらせに”行く。全ての流れをここで決定的にする。これは前哨戦でも、小競り合いでもない――正真正銘、本物の戦争だ」

 

「……それは、いいな」

 

 弓弦の言葉に、ランサーはニィ、と嗤う。

 

「ふむ、業務連絡だよ。アーチャーには既に伝えてある。予定通り、目標に攻め込むことになる」

 

「――では」

 

 セイバーの言を受け、弓弦がそれに応える。

 

 ――全ての準備は整った。

 あとは、その地へ向かうだけ。

 

 

「――――目標、瀬場邸」




 本作最大の山場にして見せ場にして長丁場。
 瀬場邸決戦は上下構成になりました。多分上のが長いです。
 そしてセイバーがついに本格登場。もしかしたら、この段階で真名が解る人もいるかもしれない。
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