Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第七章 5

 無機質な空間は、人をその場から遠ざける。

 ただ一つの人形だけがそこにあり、その両端の街灯に、虫が集っている。

 その中央、光と光が融け合うようなあやふやな闇の中に、セイバーはいた。

 

 二車線の県道は、さほど広い場所ではないが、周囲は駐車場の大きい商店や田んぼが広がっているため、見た目以上に周囲の視野は狭くない。

 ただセイバーだけがあるそこは、セイバーのためだけに用意された舞台に思えた。

 

 だが、その壇上に上がる者が入る。

 ゆっくりと、暗幕の後ろから、湧き上がるように。

 

「――ふむ」

 

 その気配は存在していなかった。

 気配遮断、アサシンのスキル。

 ――とはいえ、どうやらアサシンは周囲の存在に気配遮断を与えるスキルがあるようだ。

 “遮断された気配”を察知したところで、それがアサシンだとは解らない。

 

 けれども、セイバーの場合、“気配遮断の先”すらも察知する。

 スキル「気配察知:A+」、その作用は激烈だ。

 

「……姿を見せても構わない、僕が許すよ――アサシン」

 

 虚空に向けて声を放つ。

 だが、セイバーは既に、そこに“アサシンが”いるということを知っている。

 セイバーの察知能力はあまりに正確だ。

 少なくとも同じ戦場――今回の場合、“市街”に存在するあらゆる気配を察知することができる。

 つまり、どれだけ隠れても、そも“隠れている誰かの正体”すらもセイバーは見透かすのだ。

 

 対隠密のだけのスキルではない。

 ――情報収集において、それはキャスター陣営にすら匹敵しうるのだ。

 

「やれやれ、隠れるだけ無駄でしたか」

 

 嘆息と共に、アサシンがセイバーの目前に現れる。

 距離にして恐らく半キロといった所。

 恐らく、セイバーならば一歩で詰め寄れる。

 逆に言えば、セイバーでも一歩が必要なのだが。

 

「こちらの誘いに乗ってくれたみたいで嬉しいよ。出てきたのが君であることが残念だが――これで、魂喰いなんてマネをしなくて済む」

 

「……ふむ? 魂喰いをしないのは君の方針でしたか、セイバー。そのようなことに頓着するようにも見えませんが」

 

 互いに、よく通る声で語りかける。

 距離はいくらでも空いているというのに、自然とそれは耳元で聞こえているような気がした。

 

「確かに僕は気にしない、けれども僕の“友”はそういう行為を嫌悪していてね、少なくとも、何の興味も持たない他人がするならともかく、僕がそんなことをすれば彼は僕を許さないだろう」

 

 肩をすくめてやれやれと、あからさまな嘆息をしてみせる。

 だが、それはどこか演技めいているとはいえ、嘘を言っている風ではなさそうだ。

 

「それに、僕には何の利益もないことだしね」

 

「……確かに、そのステータスならばそうでしょう」

 

 アサシンは掛け値なしに同意する。

 セイバーには、魂喰いをする利点など一切ない。

 魔力供給は万全で、そしてステータスに関しても、その数値はほとんど最強の域に達している。

 

 最優の英霊にして、この聖杯戦争最強の英霊。

 それが、セイバー。

 まさしく赤紫羅が擁する鬼札の一騎。

 

「別に君をこのまま見逃してもいい。僕の今日の標的は君のマスターだ。だけれど、君は面白い英霊のようだ。いいね、少しばかり興味がわいた。有象無象の雑種どもでは話にならない、君だけの――君特有の力」

 

 来る。

 すぐに解った。

 ――セイバーは、アサシンを一撃で斬り伏せるつもりだ。

 

 構えはない、得物もない、あまりに無防備な姿勢。

 だというのに、アサシンは動けない――こちらから、攻めるという選択肢が浮かばない!

 

 ただ、セイバーのあるがままを、見据える他にない。

 

「……その手練手管――少しだけ、拝見させてもらうよ!」

 

 言葉は、既に置き去りにされていた。

 アサシンは、認識する――自分の体は、既に動いていた。

 考え、そして動くよりも、セイバーは早い。

 気がつけばアサシンは、ソレの通り過ぎた痕を、眺める他にない。

 

「――――へぇ」

 

 セイバーは、ほぼ後方にあった。

 その“痕”はもはや判別のつかないほど粉微塵に変わっている。

 強固であるはずのコンクリートの道路が、荒野の土埃と同様にまで堕ちていた。

 

「やはり、思った通り――君も異常だ」

 

 右手には虹光を纏った剣が収まっている。

 その刀身は、さながら稲妻の如く、また帯びた虹光は、その刀身を少々なれど増幅させていた。

 

 ――恐らくは、宝具。

 虹の光を、帯びた剣。

 

「この一撃、僕は不可避の一撃として放った。だのに、君は当然のようにそれを避けている。どう考えてもあのタイミング――気付けても、普通は避けられないだろうに」

 

「それはそれは、えぇ、そのような一撃を躱す事ができたのは光栄です。――こちらとしては話し合いを望みますが、いかが致しましょう」

 

「……悪くはないね」

 

 否を、セイバーは言葉にしない。

 ――しかし、セイバーは刃を構えた、言葉とは正反対に。

 

 故に、言葉が続く。

 

「――けれど、それはまだ必要ない。もう少し遊ばせてもらおうかな、この稲妻とされる宝剣を、君は一体どれほど回避する?」

 

「――――ッ!」

 

 ――覚悟は、した。

 しかし、ソレよりも早く、“アサシンが認識するよりも早く”危機を察知する直感から放たれた、身体を動かす膨大な意思が、アサシンを突き動かしていた。

 故に、

 

 アサシンは、視認した。

 ――自身が動いた直後である。

 セイバーが動かず振るったその剣が、自身が刹那よりも前に存在していた場所を切り裂くその瞬間を。

 

 身体はゴロゴロと転がっていた。

 無理のある体勢で、二度も回避したのだ、通常であればもはや身体は動かない。

 ――それでも、アサシンはサーヴァントであった。

 その状態から即座に起き上がりセイバーを睨みつける。

 

「ハハハ、いいね! それでこそ“星の開拓者”! 君のような英霊は、どんな存在であれ、僕らの心をくすぐってくれる。前菜程度ではあるけれど、それでもどうやら絶品のようだ――!」

 

 身体を落とし、セイバーが駆ける。

 ――瞬間、彼の周囲と、アサシンを巻き込むように、圧倒的な光が襲いかかった。

 

 

 ♪

 

 

 ――瀬場朝海。

 ――赤紫羅弓弦。

 

 奪われたものと、奪ったもの。

 ――その、子どもたち。

 言ってしまえば復讐者と、その復讐対象者の血族。

 

 端から見てそれは、あまりに危うい関係に思える。

 しかしその実、両者の関係は、たった一言で現すことができた。

 

 ――取引相手である。

 言ってしまえば、ビジネスライク。

 弓弦が朝海に聖杯を狙う侵入者の退治を依頼し、それが解決されれば正当な報酬が支払われる。

 必要であれば、時には仕事の斡旋すら弓弦は請け負った。

 朝海からしてみれば、面倒な事務仕事を全て押し付けられる相手。

 互いにとって、互いは都合のいい存在だったのだ。

 

 この根底にあるのは、あるひとつの事実である。

 それは、あくまで朝海にとって、“復讐は二の次”であるということだ。

 

 彼女の心底を巣食う想いはただひとつ。

 ――この街を守ること。

 そのためであれば、彼女は全てを捧げうる、ただし、そも捧げる相手がいないのだが。

 

 復讐は、彼女の両親によって与えられた感情だ。

 確かに赤紫羅は両親の敵ではある、それでも、赤紫羅を退治することは、自分の地位を取り戻すという利己的な面もまた重なる。

 そしてそれは、彼女の両親が望んだことでもあった。

 

 ――決して復讐だけに焦がれて欲しくはない。

 しかし、自分の意思を、ここで断たれたくはない。

 その終着点が、方法としての復讐だ。

 

 朝海は病的なまでにこの街を守護しようとする。

 だけれども、復讐という方法は、守護という根底の前には時に省略されうる事項であった。

 恐らく朝海の両親にとって、復讐の代わりに何かを手にして欲しいと願って、結果得た朝海の意思は、想像だにしていないことだっただろう。

 

 結論、瀬場朝海にとって赤紫羅弓弦に対する負の感情は微々たるものだ。

 少なくとも表面上は、対等に、そして何の偏見もなく付き合いがあった。

 

 それでも、もしも両者が敵対し合う時があるのなら――

 

「さて、死んでくださいな、赤紫羅弓弦」

 

「そいつァ困る。だったら俺のかわりに死んでくれネーかぃ? 俺はこのままのうのうと生きさせてもらうからさァー」

 

 ――毒を浴びせることくらい、平気でできるのが、朝海と弓弦の因縁であった。

 

「それにしても、因果よな。お前、辰向と同盟を組んだわけだろう? 俺にとっての因縁の相手が、こうして俺に牙を剥く。カァ――因果よなァ」

 

 ちょうど直線上に向かい合って、互いが互いに睨みを利かす。

 朝海は柔和な表情を浮かべ――その口元に牙をのぞかせ。

 弓弦は、普段であれば細めた瞳を、この時ばかりは刺すような見開きに変える。

 

 カッカッカ――愉しげに弓弦は笑った。

 

「だが、その因果もここで切られるのは惜しまれるが、喜ばしいことだ。なぁヨウ知ってるか? 俺ってば、お前のこと――割りと嫌いだったんだぜ?」

 

「心外ですね、なぜです? 私のようないたいけで人畜無害な少女、嫌えというのが難しいでしょう」

 

「――その眼が気に入らねぇ、お前の眼はまっすぐだ。誰に言われるでもなく、誰がそうしたでもなく、生まれた時から前を向いてる。そういう奴が、俺はとびきりきれぇなんだよ」

 

 誰かさんを思い出すから――そんな言葉の続きを、朝海は聞いたような気がした。

 ――幻聴だ、そこに意思はあれ、明確な言葉とはなりえない。

 

「……そうですか、私は別に“どうでもいい”です。貴方のことは、好きでも嫌いでもない。ですから、貴方がどうなったところで、どう思ったところで、私は気にしませんよ」

 

「――ハッ! いよいよもって、癪に障ることをしなさる娘だ!」

 

 ――そして、ここまでだった。

 言葉は、もはや両者の間で交わされることもなく、必要もまた、無く。

 

 気配が、敵意として増大し――大気を揺らす!

 

 

「――――やってしまえ、ランサァーッッ!」

 

「――――迎え撃って、キャスタァァーッ!」

 

 

 両者の声が重なりあうようにぶつかって。

 ――意志の確認する暇もなく、アサシンとランサーがその場を飛び出した。

 

 

 ♪

 

 

 ――一つは、セイバーとアサシンの戦闘。

 ――一つは、ランサーとキャスターの死闘。

 

 ほぼ同時と言ってよいタイミングで、それは開始した。

 大凡、ここまでの展開は、既に描かれたシナリオ通り、

 

 ライダー陣営は動きを見せない。

 連絡はいっただろう、しかし、どのように動くか決めかねているのだ。

 

 失態だ。

 たとえ不可能に思えたとして、瀬場邸同盟はライダーに擦り寄るべきだった。

 ここまで、数日の猶予はあったのだ。

 特に、昨日は一切の襲撃がなかった。

 その際に何の手立ても講じなかったのは、間違いなく同盟側の失策である。

 

 ――そして、これはなるほど、実にイイ。

 

 赤紫羅仁は自身の息子である赤紫羅弓弦の対話を見て、思う。

 弓弦は実に嫉妬深く、そしてあまりに“三下”である。

 小者、と言い換えても良い。

 あの男に、挟持と呼べる挟持もなければ、意思と呼べる意思もない。

 

 赤紫羅仁にはよく分かる。

 痛いほどに、息子の気持ちが理解できる。

 あのひねくれた言葉は、実に彼“らしく”、あまりに彼の意思の矮小さを語るにふさわしい。

 

 ――それでこそ、息子だ。

 ――それでこそ、世界で唯一自分自身が信用する、どうしようもなく、愚にもつかない劣等種だ。

 

 まっすぐな瞳が嫌いだと息子は言った。

 あぁそのとおりだ、でなければアレは息子ではない。

 まっすぐな意思に反吐が出ると息子は示した。

 あぁそうでなくては、でなければアレが息子である意味が無い。

 

 盤面は流転する。

 キャスターとランサーの戦場が、瀬場邸で展開される。

 同様に、セイバーはいたぶるようにアサシンを追い詰める。

 

 状況は赤紫羅陣営に味方している。

 だからこそ、赤紫羅仁は、なじるように、侮蔑するように、息子の行く末を眺めるのだった。




―文末資料集―
セイバーステータス
『筋力A+ 耐久A+ 敏捷A+ 魔力A 幸運C 宝具EX』
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