Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第七章 6

 赤紫羅弓弦と雪白辰向。

 両者が同一の場所で、兄弟のように育ったのはこれまで語ったとおり。

 

 これは、そんな彼らの始まりの話。

 

 物心がついて少し、弓弦と辰向は魔術を習い始めた。

 素質の違い、魔術刻印の違いから、習う魔術は同一のものではなかった。

 それでも、互いの魔術に思いを馳せて、魔術を練磨を続けていた。

 

 少なくとも、どちらが上だとか、どちらが下だとか、そういった話は大いに野暮であった。

 ――彼らがある程度の成長を遂げるまで。

 その歯車は、まだずれることはなかった。

 

 何かを誰かが間違えたのか。

 はたまた、ただたまたま時計の針がずれてしまったのか。

 ――それはもう、誰かが知れるところではない。

 

 ただ、“ズレ”が明確に生じ始めたのは、雪白真華が、その枠の中に入ってきた頃だ。

 年齢にして、互いに十歳。

 彼らの優劣は、はっきりとではないがつき始めていた。

 

 魔術においても、またソレ以外の分野においても、弓弦と辰向の差は明らかで、また補いようのない“素質”の壁がそこにはあった。

 最初にそれを認識したのは、意外にも辰向であった。

 自分の見る世界と、弓弦の見る世界には差異がある。

 ――それを、辰向はぼんやりとではあるが気がついていた。

 しかし、それをそのまま放置して、重要視することはなかった。

 無理もない、辰向はつまるところ上位者である。

 ――才能の有無など意識する必要はないのだから。

 

 だが逆に、才能の無さをとことんつきつけられる者がいた。

 無論、弓弦である。

 気付いていながらそれを無視した。

 ――そんな辰向の態度すらも、彼にとっては苦痛だっただろう。

 自分だけがやっ気になっていて、相手はまるで自分を侮るかのようだ。

 もはや気が狂いそうなほどに――

 

 ――弓弦の性格の根源は、そこからくる歪みにある。

 彼の言葉は口八丁の嘘八百、道化か、はたまた詐欺師のような言葉選びを好む。

 こういった鬱屈が、“詐称”という分野において、辰向を大きく突き放すことになるのは、もはや皮肉としか言いようが無い。

 

 ねじれ曲がった骨子を、正すものは誰もなく。

 ――それを、更に粉々に“破壊”する、外道だけが、一人いる。

 

 赤紫羅仁だ。

 

 彼は赤紫羅弓弦の感情が、限界の寸前にまで達したのを見極めると、彼を自室に呼びつけた。

 年齢にして十四歳。

 ――運命の糸がほつれ始めたそのときから、既に四年の月日が経っていた。

 

 仁によって呼び寄せられた弓弦を待ち受けていたのは、赤紫羅と雪白の真実であった。

 それは、戦争が起こった、というだけでなく、それ以上。

 ――つまり、赤紫羅仁の軌跡が含まれているのであった。

 

 天才と称された輝かしい出立。

 そのすぐ後に現れた、本物の天才。

 比べ続けられた人生。

 やがて、比べられた相手に抱いた仄暗い感情。

 

 そして――――それを、己がものとした瞬間の、絶頂。

 

 それはまさしく甘言であった。

 闇の中へと堕ちていく者の耳に、囁く言葉だ。

 ――もう、眠ってもよいのだ、と。

 

 仁にはいくつかの狙いがあった。

 辰向と弓弦は、その表層はまるで兄弟かのようだ。

 しかし、その裏には、かつて仁自身が雪白姫香に感じた膨大なまでの感情の、縮図が存在している。

 ならばそれを煽ってやればイイ。

 そうすれば、そこに存在するのは世界で最も理解しうる――哀れな傀儡の出来上がりだ。

 

 もしもそうならないのであれば、全うに前へ進む道を弓弦が選ぶというのなら。

 その時はもう、赤紫羅弓弦は用済みだ。

 ――その場合は、雪白辰向を傀儡とする。

 後の雪白真華と同様に、命令を受諾するだけの人形とする。

 

 それが赤紫羅仁の思惑であった。

 どちらにせよ、全てがうまくいくことは、火を見るよりも明らかだ。

 やがて、仁の甘言を受けた弓弦は、行動を起こす。

 

 

 ――かくして赤紫羅弓弦は、雪白辰向を殺すこととなる。

 

 

 ♪

 

 

 ランサーが槍を構えると同時、歩き巫女――キャスターの使い魔たちがその周囲を取り囲む。

 その行動は嫌に迅速だ。

 ただ魂に外殻を与えたとは思えないほど――当然、そこには陣地作成により得られた魔力による多大なバックアップが含まれる。

 

 フェイントのように、それらに対しランサーは槍を向ける。

 そのたびに、周囲を取り囲み、円を描くように周回する歩き巫女たちの姿がぶれる。

 一瞬でもそれを見失ってしまえば、気配すらも逸してしまうかのような、幻惑のような輪郭だ。

 

 舌打ち一つ、ランサーは手に宿る投槍を構える。

 ただ槍を放つよりも、こうして“破壊”を伴う事のほうが、成果として期待が持てる。

 

 だが、それは必殺の一撃、つまり十分な警戒を伴う行動だ。

 

「――させません!」

 

 途端、そこにキャスターが飛びかかった。

 動きにくい和服だと思えないほどの瞬発力で、槍が放たれるとほぼ同時、その射線に身体ごと割り込む。

 

 ――即座に槍は炸裂した。

 衝撃が、猛烈な砂煙を周囲に撒き散らす。

 そこに視界と呼べる世界はなかった。

 

 ――だが。

 キャスターは無傷であった。 

 原理は単純、彼女の目の前に槍の進行を妨げる物理障壁が出現したのだ。

 結界には、いくつもの種類があるが、それは大凡、“普通の人間が考える”ような無色の壁だ。

 

 砂埃により、ランサーからはキャスターの様子が伺えない。

 しかし、そこに気配があることから、キャスターが生きていることは知れた。

 

 知れると同時、キャスターがそこから飛び出してくる。

 距離にして数歩ほど。

 キャスターの行動は守りのためのそれであった、しかし同時に、攻めのための接近でもあったのだ。

 

「ッハ! なんのォ――――!」

 

 ランサーは手にした手槍でキャスターへの刺突を試みる。

 風が割れた。

 ――衝撃が、キャスターへと襲いかかる。

 だが、キャスターはそれを弾き飛ばした。

 金属音――恐らくはナイフと思わしき得物が、闇に浮かび上がっている。

 

 槍を弾いたキャスターは、そのまま身を屈めてランサーに接近する。

 肉薄であった。

 近接系のサーヴァントであるランサーは、遠距離支援型のサーヴァントであるはずのキャスターの、その動きに瞠目する。

 

 驚愕は、一瞬のうちに断ち切られた。

 ランサーの意識が、それを理解するよりも早く動いたのである。

 

 キャスターの一撃。

 浴びせられるはずだった一太刀は、しかしランサーの槍に防がれ、しかし。

 その直後に続く第二撃――ランサーは、その時はじめて回避をした。

 正確には、身体をずらし、手の空いた右手を刃に対して差し込めるよう、守りに入った。

 

 二撃のナイフが防がれて、これではもう選択肢がない。

 そこでキャスターは後方へ引いた、もはやこれ以上の小競り合いは無意味。

 ――仕切り直しである。

 

「……やはり」

 

 何事かを、キャスターはポツリと語りだす。

 

「不死なのですね?」

 

「……ハハ、面白いことをいう。いや、それは確かに正解であるが――だからどうだというのだ?」

 

 挑発するように、ランサーは槍をキャスターへ向けた。

 構えは取らず、ただ穂先を相手の瞳に向けている。

 距離はそこから更に数歩分がある。

 十分な、程度。

 

「不死の英霊。投擲において驚異的な才能を発揮し、投槍の使い手としては、ギリシャ神話のなかでも相当な使い手――」

 

 キャスターは、敢えて情報を整理するように、羅列する。

 これまでのことで、見えてきたものは幾つもある。

 

 その一つが、ランサーの真名。

 それをキャスターが――

 

 

「――貴方は、カリュドーンの猪を狩った英霊――メレアグロスですね?」

 

 

 果たして、ランサーは。

 

「――は、正解だよ」

 

 そう、答えた。

 弓弦はそれに静止をかけない、ただ何でもない風に、戦闘の行方を見守っている。

 

「二対の槍。カリュドーンを狩る際に、まず投槍を命中させ、その後に手槍でとどめを刺した。貴方の宝具が手槍と投槍に分けられるのは、ここから来ているというわけですね?」

 

「そう、それも正解。俺の投槍は必殺だ。どうやったって外さないし、外したとして、その余波で殺せない相手もいない。だが、同時にそれは、回収できなければ使い捨ての槍でしかない」

 

 そこで弓弦の用意した、量産品に少し手を加えただけの即席礼装槍だ。

 威力はある分、重傷を負わせられるだろうが、英霊に致命傷を与えるほどではない。

 だが、それこそランサー――メレアグロスの真骨頂。

 二撃必殺、カリュドーンを屠った時と同様だ。

 

 本来であれば宝具の投槍がそれを為したであろう役割。

 しかし、その投槍があまりに必殺であるが故、二撃殺しの役割は、安物の量産品で済まされたのだ。

 ――だが、それが逆に、必殺の機会を不安こととなる。

 

「――そして、だからこそ解るだろう? 俺が不死であるということの意味を」

 

 ランサーは後方に飛び退いた。

 ――否、消え失せ、そしてまた出現した。

 キャスターにはそれに追いつく速度がない。

 弓弦の間近にランサーが寄ると、弓弦は投槍を取り出した。

 彼の肩に提げられている、竹刀を入れる布に収められたそれを、ランサーは得意気に抜き去った。

 ――ちらりと、その布には、まだ数本の槍があることが見て取れる。

 

「“呪われた祝祭の薪(モイメイ・ヴィオグルタ)”――我が人生の不死を司る、燃え尽きぬ薪の名だ」

 

 ――――メレアグロス。

 その誕生に際して、モイメイと呼ばれる呪術師がこんな呪いを授けた。

 その薪が燃え尽きる時が、その者の生命が消える時。

 メレアグロスの母は即座に火を消して、薪を誰にも知れぬ場所に隠した。

 

 不死の呪い、無敵の呪い。

 それはその不死が解かれ、英霊が死することによって完結する。

 メレアグロスも例外ではない、彼は波乱の人生を送った末、自身の母にこの薪を燃やされ死している。

 

「俺の願いは、この忌々しい薪を破棄すること――が、少なくとも、今この瞬間に置いて、これは絶対無敵の力となる。俺がこの薪を手放さない限り、お前らは俺を殺せない――!」

 

 その言葉に嘘はなく、また自惚れもない。

 不死の薪はランサー自身が所持している。

 もしもランサーを屠ろうと思うなら、不死の薪をランサーから奪うほどに彼を傷めつけるか――マスターである弓弦を殺すほかはない。

 

 だが、――それをさせるランサーではない。

 

「……殺したくばかかってこい。俺は死なぬ、今の俺は――――無敵のサーヴァント、ランサーだ――!」

 

 絶叫。

 

「たとえ殺すことが叶わなくとも、それでも、私は“殺してみせる”。マスター」

 

「……うん、お願いキャスター、勝ってね?」

 

 互いにそれ以上の言葉はなく。

 ランサーとキャスター。

 両者は再び、激突する。

 

 

 ♪

 

 

 ――光。

 それはセイバーによるものではない。

 アサシンが、彼を足止めするべく放った手榴弾だ。

 つまり、炎。

 ――爆炎である。

 

「おっと!」

 

 だが、セイバーに届くことはない。

 爆発そのものを、セイバーは回避してみせた。

 何の事はない――たとえそれがどれほどの勢い、威力であっても、セイバーはそれが迫る以上の速度で避ける。

 

 ならば、どうやったって当たり用はない。

 だからこそ――

 

「……ですが、これならば!」

 

 アサシンは構えた。

 ――拳銃、である。

 アサシンがそれを要いた時代から大きく時間が過ぎ、それは現代のモノだ。

 

 破壊工作のスキルを持つアサシン。

 ――英霊としての格は、驚くほど低い。

 彼の一撃に、神秘と呼べる物は最低限しかないのだ。

 すくなくとも、辰向が用意した礼装弾と、それは左程変わらない。

 ならば、現代における最先端のほうが、よほど高性能だというわけだ。

 

 爆炎にこがれるセイバーがいる。

 彼は空中を漂っていた。

 どこか愉しげに笑みを浮かべて、アサシンに瞳を向けている。

 ――それが、自身のモノと交錯したことを、アサシンは知った。

 

 直後。

 ――発砲。

 音は、光に遅れて周囲に紛れた。

 

 音速にまで及ぶほどの銃弾は、しかし。

 ――セイバーはそれをひらりと、まるで待っていたかのように回避する。

 動きは、銃弾が発砲された“後“に起こった。

 

 そのままアサシンは連射。

 だのに、銃弾は一向に届かない――

 

 どころか、セイバーは地面に着地した途端、そこを狙った銃弾を、己が得物で切り払う。

 弾丸が周囲に飛び散った。

 ――そのどれもが、セイバーを掠めることはない。

 

 銃弾には限りがある。

 やがて、弾切れをセイバーが察知して、アサシンヘ向けて突進を開始する。

 即座にアサシンは拳銃を投げ捨て、新たな拳銃を懐から取り出し――

 

 ――構える。

 

 ――――それは、セイバーが首元に刃を添えるのと同時であった。

 セイバーは首に――アサシンは、額に。

 それぞれの死が、向けられていた。

 

「もしも僕が間に合っていたら……さすがに相打ちだったかなぁ?」

 

 ――セイバーには解る。

 この礼装は特別製だ。

 とすれば、もしもここで刃を留めていなければ、セイバーには死が待っていた?

 おそらくは否、だがそれでも、互いに致命傷に至らないダメージを与えることになっていただろう。

 

「ふむ、なら――」

 

 何かを思案するセイバー。

 

 ――だが、アサシンは躊躇わなかった。

 待ちわびていたかのように、引き金を引く。

 

 

 ――それは、しかし、セイバーが首を逸らすことで、回避された。

 

 

 発砲よりも遅く、しかしそれ以上のスピードであった。

 弾丸は、セイバーの額があった跡を駆け抜けて。

 ――消えた。

 

「残念でした――本当に、残念だ」

 

 後は、ただセイバーが刃をふるうだけ。

 ――もはやそれは、回避不可能の、死の斬撃だ。




 別に執筆が進んでいないわけでなく、単に忘れているだけです。
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