Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第七章 8

 絶対不可避の距離で放たれた斬撃。

 ――絶体絶命どころではない、それは“絶対”の一撃であった。

 

 つまり、回避など端から選択肢にはない。

 できるとすれば、如何に傷を浅く済ますか――だのに。

 

 アサシンの身体は地にあった。

 そこに、“一切の傷は存在しない”。

 

「――へぇ」

 

 セイバーが感心するのも無理は無い。

 あの状況、誰に回避が想像できよう――セイバーは回避の種を知っている。

 それでも――あの状況ならば、回避は不可能であろう。

 そう考えていたのだ。

 

 だが、それを覆した。

 アサシンが持つ、最大のアドバンテージにして彼の切札。

 

「これが星の開拓者――時代を作った英霊の力、か」

 

 ――星の開拓者。

 時代のターニングポイントとなった英霊に対する特殊なスキル。

 有名な所で言えば、英国を二等国から世界の覇者たる大英帝国にまで引き上げた英雄、フランシス=ドレイク。

 時代に社会主義――マルクス主義という新たな概念を持ち込んだカール=マルクス。

 などなど、人類史の転換点となるような英霊が所持するスキルだ。

 

「……ぐ、ふぅぅぅ」

 

 見下ろすセイバー、アサシンは、地面に転がったまま、その場で息を整えている。

 あの状況から回避して、しかしそれ以上の運動を、彼の身体が許さなかったのだ。

 

「立ち上がってみせなよアサシン――最新の英霊」

 

 ――最新。

 それがアサシンに与えられた称号だ。

 

 英霊として、彼ほど現代に“近い”者はそうそういないだろう。

 そして現代英霊にして、現代においてはトップクラスの大英霊。

 彼を越えようと思うなら、それこそ某大戦のカリスマクラスが必要だ。

 

「えぇ……貴方の期待にかかわらず――私はまだ、ここで伏せるつもりは、ございませんので」

 

 促される。

 ――しかし、立ち上がらない。

 セイバーがその程度で気を悪くしないことを理解している。

 臨界点を見据え、その上で自身の身体を休息させているのだ。

 

「――――」

 

「――――」

 

 数分。

 両者の間は沈黙であった。

 やがてそれを、破るのはセイバー。

 

「……ふぅん。興醒めだよ。さすがに、こうも沈黙を保たれると、君への興味は逸してしまう」

 

「それは――誠に申し訳ありません」

 

 頃合いだろう。

 ――そう、判断してアサシンは立ち上がる。

 だが、セイバーはそれに意識を向けることはなかった。

 

「アサシン、君はサーヴァントとしては中々興味深い手合いだ。少なくとも、僕がこれまで知ることもなかった相手。時代が違うのだから当然だけれど――僕と君では、そも住む世界が違う。その相違点は、中々どうして面白いものだ」

 

 言いながら、セイバーは手元で虹光を帯びたままの宝剣を振り回す。

 光が散って――どこかへ消える。

 その光の先に、遠く――届きすらしない場所に、アサシンがいる。

 

「神秘としての格を持たない君は、しかし生粋の英霊だ。魔術の世界に浸らない、“最新式”の英霊というのは、歯ごたえのある相手であったよ」

 

 ――けれども、

 

「でも、それだけだ。君は確かに前菜としては大いに美味だった。とはいえ、それはあくまで前菜だ。それにばかりかまけては、食事そのものに飽きが来る」

 

 つまり、もうアサシンは必要がないのだ。

 時間も十分すぎるほどに稼いだ。

 そうセイバーは言っている。

 

「メインディッシュを頼もうか。アサシン、君じゃない――君のマスターをここに呼んできて来れないかな? 僕は、君のマスターに会わせてもらうよ?」

 

 そこに、依頼と呼べる要素はない。

 セイバーのそれは確認だ――命令ですら無い。

 つまるところ、彼はそもそも、拒否という意識すらアサシンに向けていないのだ。

 

「ふむ、そうですね……」

 

 対しアサシンはあくまでまじめに思案する。

 恐らく、待ち時間は数分もないだろう、必要なのは即断即決。

 ――あくまでアサシンがこうするのは、マスターと念話でやりとりするためだ。

 

 やがて、結論はでた。

 あまり時間をかけられないのがアサシン達だ。

 つまり――セイバーからの提案ならば、それに乗らない選択肢はもともと無い。

 

「――では、マスター。ご足労をおかけします」

 

 

「――いいや、構わないさアサシン。すまないな、無茶をさせた」

 

 

 声は、思いの外近くであった。

 そも――辰向の待機場所は、アサシン達の姿がみえる場所。

 移動までに、数分程度の時間も要さない。

 

「やぁ、はじめまして、アサシンのマスター。僕の名前は――まぁ、語るまでもないね」

 

 知れ。

 ――知らぬならば、知れ。

 セイバーの意思は明瞭であった。

 

「――雪白、辰向だ。お前は俺の敵、覚えてもらう必要はない」

 

 暗がりから、辰向の姿は蜃気楼のように揺らめいた。

 瞳が、セイバーと、アサシンを見据える。

 ちょうど、アサシンとセイバーを囲む形になった。

 

「ふむ、でも――今の僕が望むのは会話だ。君には少し興味がある。少しばかり――君の深層をのぞかせてもらうよ」

 

 どこまでも、“既に見透かした”かのような声。

 セイバーは、ニィ――獣のように、笑みを深めた。

 

 

 ♪

 

 

 ドタバタと、ライダーとノエミが拠点内部を行ったり来たりと慌てふためいている。

 特に忙しいのがノエミだ。

 

 現在、彼女たちは空へと向かうべく急いでいた。

 何せ急に、この夜の異変を伝えられたのだ。

 準備など何一つできているわけもなく――

 また、間の悪いことに、ノエミはその時湯船にいた。

 

 現在ノエミは下着姿のみで動き回っている。

 する必要もないスポーツブラが、なんとなくもの寂しい。

 

「ちょっと、アレどこよ! アレ!」

 

「アレってんだ! んなこと言われても俺にゃ解らん!」

 

「アレよ! ――ぁあぁあああもう! 自分でもわかんないわ!」

 

 もはや冷静でないのは見ての通り。

 何が必要で、何が不必要か、それすらあやふやなまま、必要なことは何一つ遅々として進んではいなかった。

 

 このままではクライマックスに乗り遅れる。

 このままでは活躍の機会なく戦争が終わってしまう。

 そんな焦りが、両名を急がせていた。

 

 特にライダーは自身が活躍できなかったとあれば、願いを主張するにも肩身が狭い。

 必死になるのも当然だ。

 

「よぉぉぉぅし、大体準備できたぞ!」

 

 ライダーの声。

 おもわずぱっと、ノエミはライダーの方を向いた。

 既にパイロットスーツに着替え、臨戦態勢に入ったライダー。

 声音はいつもの彼であったが、その顔つきは、戦闘時のライダーに変じていた。

 

「……ん?」

 

 そこで、違和感。

 ノエミはなにかを感づいた。

 

「――あ、服! そうよ、服着るの忘れてたわ」

 

「…………っ! えぇい、さっさとしろぉ!」

 

 ライダーの絶叫がこだまする。

 ――彼らが戦場に踊り出るのは、まだ少し先の話のようだ。

 

 

 ♪

 

 

 ――向かい合う。

 赤紫羅弓弦と、瀬場朝海。

 互いに、互いを射程に捉えるべく、ジリジリと足を動かしていた。

 

 瀬場朝海は巫女である。

 その本質は舞――神に奉納する、豊穣の舞である。

 

 瀬場邸はキャスターの陣地作成により、現在一種の儀式場とかしている。

 つまり、その内部であれば、彼女は“瀬場”としての魔術を十全に発揮できる。

 

 とはいえ、もとより神木有する市街は、彼女を信奉する魂が多くある。

 信者ある場所で舞を踊れば、それ相応の魔術を発動することができるのだが――

 とまれ、彼女は典型的な“ホームグランド”にて真価を発揮する土着の魔術師だ。

 

 対するは赤紫羅弓弦。

 赤紫羅の魔術、その本質は契約である。

 弓弦は特に洗脳や暗示を得意とする魔術師であり、その中には、自己暗示と呼ばれる物も含まれる。

 本来、弓弦は前線で活躍するタイプの魔術師ではない。

 だが――重い腰を上げた彼の使う魔術は、つまり自己に対する暗示だ。

 ――身体のリミッターを外す。

 火事場の馬鹿力と呼ばれるそれを、魔術が行使されている限り、永続的に発揮できる。

 無論、その後に待っているのは地獄だが。

 

 ――一戦闘中であれば、それは何の問題もない。

 あくまで非常手段なのだから、この程度のリスクは織り込み済みだ。

 

 とはいえ、

 できうる限り、戦闘時間を短縮させるのが弓弦にとってのベストではある。

 つまり、そのベストを見極めるための、現在の沈黙であった。

 

 ――ジリジリと、

 ジリジリと――

 

 互いのポジションが変化していく。

 確定的な状況はない、先手を取るにしろ、後手で受けるにしろ、リスクは有る。

 それを承知で、動いたのは朝海であった。

 

 これは両者の状況の違いが大きいといえるだろう。

 何せ、朝海は“弓弦を殺す”以外に勝利の手段はなく。

 弓弦の場合は、あくまで面倒な障害の排除ではない。

 彼に勝利はほぼ必定、後はどんな方法でもいい、キャスターと朝海の首をへし折るまで。

 

 ――朝海が肉薄する。

 一歩、急激に跳んだかと思えば、その場で身体をゆらし、そして前進する。

 彼女の進撃は単なる突進ではなかった。

 その至るところに、無駄と思えるステップがある。

 

 だが、タイミングをずらす、という意味は大いにあった。

 攻めあぐねていた弓弦が、さらに身構え攻撃を待つ。

 掴みきれないはずのペースを、朝海が掴んだのだ。

 

「――応えて、我が意の下へ!」

 

 光の薄い瀬場邸に、ぼんやりと朝海の姿が浮かび出る。

 ――火だ。

 彼女の右手に、青とも、赤とも違う淡い炎が灯っている――!

 

「――――集え、人魂!」

 

 それは、鬼火。

 朝海の依頼を受けて動き出す、人の念の、恨みの結集。

 相対する弓弦の顔面へ向けて這う。

 

「……っとぉ!」

 

 弓弦が、即座に身体を落として回避した。

 それは螺旋上の炎が直線的に進む、言ってしまえば地味なモノ。

 回避は容易――だが。

 

「甘い!」

 

 キャスターが育て上げた『歩き巫女』は総勢七名。

 うち、二名が朝海の護衛として付き従っている。

 

 ――その内、一人が伏せた弓弦の上にいた。

 飛び上がり、足のかかとを持ち上げ、振りかぶる。

 あとは、極大の踵落としが、脳天へ向けて炸裂する――!

 

 暴力的な肉の音。

 ――そして、周囲は静寂に変わる。

 

「……!」

 

 朝海、驚愕。

 ――弓弦は片手で巫女の踵落としを受けきっていた。

 スリットからはみ出したナマ足を、直接右手で受け止めている。

 

「……返すぜ、――甘いな。その程度じゃあ、俺は倒せん」

 

 右手を払うと同時――歩き巫女の首をぐい、とつかむ。

 体勢は崩れていたが、それでも何ら問題はなかった。

 

 そして、

 ――思い切り引き寄せた歩き巫女の顔が、弓弦の鼻先間近まで迫る。

 何事か、そう思った時には、既に捉えられた巫女は、カクンと意識を落としていた。

 

 ――洗脳。

 それが弓弦の得意とする魔術の分野だ。

 超至近距離から、おおよそ一秒ほど視線を向け合うことで、相手の意識を奪うことができる。

 実質的な洗脳はこの先にあるわけだが――それはとまれ、今は必要のない技能だ。

 

 すでに巫女は無力化されている。

 意識を失い、現世との繋がりが薄れたことで、それを補うべく、歩き巫女としての身体を得た魂はしかし、また下の霊魂へと成り下がる。

 

「……ッ!」

 

 朝海は、身構えながら後方へ跳んだ。

 弓弦の追撃を恐れたためだ。

 ――しかし、

 

「遅ェんだヨ――!」

 

 弓弦は、それをたった一歩で詰める。

 異次元にある、辰向やサーヴァント等とは違う、目で終えはするが、絶対に反応しようがない、猛烈な死の気配。

 

 気がつけば、朝海は思い切り地を転がっていた。

 何とか両の腕で、顔を狙う弓弦の一撃を防いだのは、幸運だった。

 

 まだ、死んではいない。

 けれども、無傷ではない――これでもし、両腕の骨が、折れてないというのなら奇跡だ。

 激突を理解した朝海の腕に、じくじくと響くような痛みが広がる。

 

「……あ、ぁぁ」

 

 ――やがて吹き飛ばされるのも終点。

 地に伏せて、真正面にいる弓弦を見る。

 そして、

 

「――今なら、行けるか。――――ランサー!」

 

 彼女の身体に、あまりに不穏な、“悪寒”が奔る。

 

「――“宝具を開帳”しろ!」

 

 朝海の動きが停止したことで、弓弦を妨害するものはいなくなった。

 これならば、多少意識を攻めに向けたところで、ランサー陣営が脱落することはない。

 故に、ランサーを弓弦は引き戻した。

 

「……よくぞ待ちわびた! というものだ!」

 

 自身の直線上。

 どころか、その周囲――キャスターすらも巻き込むほどの一撃を、ランサーの宝具に期待している。

 そしてそれは事実――何ら誇張なく、ランサーの宝具は、この状況であればキャスターごと朝海を葬れる。

 

 キャスターは急いだ。

 ――まずい、このままでは、まずい。

 ランサー達と自身のマスター、その間に入っていくために。

 

 だが、

 

 間に合わない。

 

 ランサーの手に現れるのは、自身が普段手にする槍と同様の装飾が施された、対の槍。

 漆黒に映える宝具のフォルムが、その威容を朝海等に告げる。

 

「――いくぜ」

 

 この場において、朝海が取れる手は一つだけ。

 それを、

 

「――――令呪を持って命ずる」

 

 朝海は、一切躊躇わない!

 

 

「――獣屠る騒乱の槍(カドゥケウス・オブ・カリュドーン)ッッッッッ!」

 

 

「即座に私を守って、キャスターァァァッッッ!」

 

 

 それらは、

 ほぼ、同時の瞬間に、開放された。




 一応ライダー陣営がごちゃごちゃしてるというか、出撃が遅れてるのはいろいろあるけど、後で語ると思うので省略します。
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