Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第七章 9

 ――カリュドーンの猪。

 それはすなわち災害の化身だ。

 周囲に破壊を撒き散らす猪、自然の暴力をかつての人間たちが暴れ猪と同一視したもの。

 そして、それを打ち取る役割にあるのが、ギリシャの英霊メレアグロス。

 

 彼は独断的で、我の強い英雄であった。

 典型的なカリスマの持ち主であり、乱暴者ではあるが、それを剛勇無双と謳わせるほどに裏付けるような、実力が彼には備わっていた。

 特に得意としたのは投槍で、やり投げの競技会で優勝するなど、その実力は世間に轟くものだった。

 とまれ、彼は我儘な質だが、それが人を惹き寄せるだけの魅力であったのだろう。

 カリュドーンの猪を討伐する際には、多くの英雄が彼のもとに参じた。

 その中には、狩人“アタランテ”の姿もあったという。

 

 彼がカリュドーンの猪を討伐する際、トドメと成る一撃を猪に放った。

 それが彼の宝具、二撃必殺を体現する投槍と手槍。

 というのも、彼はまず、投槍を猪に直撃させた。

 そののち、痛みにもだえ苦しむカリュドーンの猪に、手槍でとどめを刺したのだ。

 

 双槍使いなどという、現実味の無さ極まりないそれは、そんな逸話から来ている。

 もとより彼は片手の手槍使いにして片手の投槍使い。

 その同時が襲いかかるのが、彼の強みであると言えた。

 

 ――獣屠る騒乱の槍(カドゥケウス・オブ・カリュドーン)

 

 それはまさしく破壊であった。

 二つの戦場が同時に存在しうる瀬場邸の庭。

 住宅そのものに被害は、精々縁側と外を区切る戸が、縁側ゴト吹き飛んだ程度。

 ――だが、

 

 それ以外は絶大であった。

 

 余波は、等しく歩き巫女達を襲った。

 弓弦によって無力化された一人を除く、計六名。

 それが、一瞬にして薙ぎ払われた。

 

 もとより意思が希薄とはいえ、まもりのための鬼道は操れる。

 多少の薄壁があったにもかかわらず――そこには、痕すらのこらなかった。

 

 

 ――地が爆ぜていた。

 

 

 丁寧に平にされた地面が、もはやつぎはぎしか残らないひしゃげたものへと変えられた。

 たった一撃、そう、一撃。

 ――それだけで、この威力。

 

 純粋な対人用の攻撃系宝具は、この聖杯戦争ではこれが初お披露目か。

 静けさに溶けた夜の市街に、圧倒的なまでの爆発が満ちて、消えた。

 

「カ、ハハハ――」

 

 ランサーが、立っている。

 後方には弓弦、こちらもまた、健在だ。

 

「俺は全て殺した。あの面倒な巫女共は片付けた、その上で、その根源である従者と主人も滅殺した、その確信があった」

 

 本来、単なる二撃必殺の片翼で会ったはずの投槍は、メレアグロスの圧倒的な技術により、単体の必殺技として昇華している。

 通常は量産礼装槍と、片翼の宝具である手槍により二撃必殺をなしているわけだが――

 

 この刃、それ以上である。

 まさしく究極に等しい必殺の技。

 

 そう、呼ぶほかない。

 

「――だが、」

 

 ――と、そこでランサーは声音を変えた。

 どこか感嘆にそれは満ちている。

 訳は単純。

 

 

「――それを、耐えるか」

 

 

 彼の視線の先には、キャスターがいる。

 朝海をかばったのだ。

 物理障壁に近い結界をはり、宝具からマスターを守った。

 その瞳には疲労がみえる――戦闘時のそれもあるだろうが、あの圧倒的な一撃を間近で受けたのだ。

 精神的な疲労の方が、むしろ彼女を苛んでいるだろう。

 

 ――それでも、立っている。

 倒れ伏すこと無く、立ち尽くすこと無く。

 ただ、前傾姿勢でランサーを睨んでいるのだ。

 

「さすがに、令呪を切っただけの事はある。でもなければ、あの一撃はお前には耐え切れまい」

 

「……っ、ふぅ、……ふぅ」

 

 何とか、息を整えるのがキャスターには精一杯だ。

 もとより何かを返すつもりはない。

 あらゆる言葉が、否定にならないからだ。

 

 とすると、認めることになる。

 キャスターはランサーには敵わないのだと。

 もしもそれが明確になってしまえば、後方の朝海に負担をかける。

 この主には――自分だけが背負っていればそれでいい。

 

「――大丈夫!? キャスター、無理はしないで!」

 

 朝海が、意識を急激に回復させて立ち上がる。

 弓弦に吹き飛ばされた痛みと衝撃、そして続きざまの宝具の威圧。

 ここで気丈に振る舞えるのは、だてに修羅場をくぐっていない証明か。

 

 だが、窮地である。

 ――巫女たちは消えた。

 陣地はあれど、これでキャスターたちが、有利であったアドバンテージは全て失ったことに成る。

 キャスターでは、どうあってもランサーには届かない。

 もう、それは確定している。

 

「来てはなりません! マスター、大丈夫ですから、大丈夫。絶対に、大丈夫」

 

 三度、彼女は繰り返す。

 もはやそこにあるのは、意地だ。

 キャスターには守らなければならないものがある。

 

 ――朝海は、既に親のない天涯孤独の少女だ。

 彼女と、繋がりのある者は、誰一人としていない。

 

 そんな少女を、キャスターはいやというほど知っている。

 行く宛も、生きる宛すら失って、それをキャスターに救われた少女たち。

 だが、それを救ったキャスターは、彼女たちを危険に放り込むような教育をした。

 それが“必要だった”からだ。

 ――親を亡くし、ただ孤独の中で死ぬしか無かった少女たちが生きていくには、もう、それ以外の選択肢はなかった。

 “生きていけるだけまし”、“間諜”として育てられること、春売りでしか生きていけない世界。

 それすらも、ただ死ぬしか無い地獄よりは、幾分マシな世界だったのだ。

 

 すくなくとも、当時のキャスターは、それを何ら躊躇わなかった。

 朝海と同じだ――キャスターにも、相応の“合理的な思考”というものが存在する。

 時代の情勢、彼女の上司、あらゆる条件を加味しても、当時からしてみれば、キャスターの行いに悪はない。

 

 

 ――だからこそ、この現代で、キャスターは救われた。

 

 

 今も、まだ救われない少女はいる。

 それでも、かつてであれば死ぬしか無かった少女が、生きていける環境も世界にはある。

 ――もしも、世界のすべてがそうなれば。

 それは、荒唐無稽で無茶な願いだ、キャスターはそれを望まない。

 それでも、そう夢想することが出来る世界が、そこにはあった。

 

 ――そう夢想するには十分な、キャスターの知る少女達と比べれば、あまりに“恵まれた”朝海という少女を、キャスターは知った。

 

 だから、守るのだ。

 

 自身のマスターを。

 己の全てを捧げても、と言うほどに、“女”を知らない幼い少女を。

 ――それほどに前向きで、ひたむきな、一人前の“女”を。

 

 キャスターは、守る。

 

(――勝機は、ある)

 

 確かに、歩き巫女は全滅した。

 もう、キャスターに真正面からランサーと打ち合う余力はない。

 それでも、数分――数十秒程度なら時間は稼げる。

 とすれば、ここまで切っていなかった一手を、ここで切る。

 

 ――気配遮断。

 現在は、朝海がDランクのそれを有している。

 やることは簡単だ。

 キャスターが時間を稼ぎ、意識を引きつける。

 その間に、朝海がマスターである弓弦を、殺す。

 

 もとより、歩き巫女の数が半分を切った場合において、使用するはずだった策だ。

 全滅、という結果は、想定の中では最悪なもの。

 あの投槍で、マスターを殺されていなかっただけ御の字だ。

 

 ――キャスター陣営にとって、気配遮断は鬼札中の鬼札。

 本来であればありえないスキルを使っての奇襲。

 一度しかできない技だ。

 それを切るのは、ここしかない。

 

(……マスター)

 

 作戦の概要を朝海へと告げる。

 単純ではない、その上成功率も決して高くはない。

 

 それでも、

 

(……うん、それしかないよね。――やろう、キャスター)

 

 朝海はそれに同意した。

 心配など、言葉にする必要もなく。

 キャスターを朝海は信じているのだ。

 

(問題があるとすれば、未だこの場に現れない“アーチャー”。ですが、それに関しては問題はないでしょう)

 

(――何せ、“気配はある”からね、近くにいることは確実だ。でもって、戦闘態勢には入っていない。つまり、矢を番える必要があって、回避行動の余裕はある)

 

 気配遮断は――抜かれるだろう。

 相手は心眼(偽)のスキル持ち、大気の中に、“動かない気配”があることを察知されれば、気配遮断は無意味となる。

 とすれば、もはや残る問題は――この作戦が困難であるということだけ。

 

(……最後を、お任せする形になってしまいます。心苦しいですが)

 

(――ううん、構わないよ。もともとランサー達を倒そうとするなら、私の行動が必須だし――今更だ、自分が死ぬかもしれないなんて可能性)

 

 ――あぁ、本当に。

 瀬場朝海は、聡明で、強い少女だ。

 キャスターの知る教え子に、聡明な娘はいた。

 心が強い娘もいた。

 だが、そのどちらもある少女はいなかった。

 ――それだけ、世界は過酷であったということだ。

 

(……ご武運を)

 

 ――キャスターの念話による声がけと同時。

 

「……ふむ、その心身(からだ)でなお、お前は俺に歯向かうか。――いいぞ、お前のような女は屈服のしがいがある。麗しのアタランテを思い出すな」

 

「――その方が何方かは存じませんが、よほど高潔な方だったのでしょう」

 

「いいや、高潔、というわけでもないぞ、奴の思考はそれなりに野蛮だ。――が、アレは生粋の戦士だ。姫騎士、とでも言うべきかな――つまり、“汚しがい”がある」

 

 キャスターの瞳が苛立ちに歪む。

 それは、どちらかと言えば憎悪に近い。

 だが、初対面の相手に向けるそれは――殺気の類いだ。

 

 女を踏みにじるものへの憎しみ。

 そしてそこからくる、ランサーへの殺意。

 

「ふむ――いいぞ、その殺気。俺もなんだかんだと言い訳をつけてアタランテを狩りに参加させたが――結果として、それが俺の死因であったとしても――それだけは後悔せんぞ?」

 

「あなたは――」

 

「まぁ、なんだ」

 

 ――キャスターが言葉を告げるよりも早く。

 ランサーは、改まったように、言葉をつなげる。

 

「――殺し合いをするのなら、話は別だ。良いぞ、許す。――存分に殺し合おうではないか!」

 

 投槍は、既に量産品が手元に収まっている。

 殺し合いには、これで十分だ。

 互いに――後は死をぶつけあうだけでいい。

 

 ランサーと、そしてキャスターが駆け出した。

 手槍の突きと、キャスターのクナイ。

 ――万にも及ぶ連撃の雨が、両者の最中に生まれ出る。

 

 戦闘は、かくして始まった。

 キャスターは良く受けている。

 だが、それでも一手、ランサーに足りない。

 ジリジリと、押されていくのは目に見えていた。

 

 ――だからこそ。

 

(――私の出番だ)

 

 朝海は駆ける。

 距離は、ほどほどにしてない。

 気配遮断はある。

 後は、アーチャーを出し抜き、一息で弓弦の下へ駆けつけ、殺す。

 手元には、戦闘前にキャスターから受け取ったクナイ。

 ――歩き巫女には、必ずこれを渡すのだという。

 

 朝海に戦闘の経験はない。

 だが、それでも――人を刺殺した経験くらいなら、ある。

 

 肉薄していた。

 ――弓弦まで、後数歩。

 

 殺す。

 

 そんな殺意は、彼女の極限なまでの意思によって、封殺された。

 

「――――ッ!」

 

 声はなく、ただクナイを構え――しかし、

 

 

 ――――朝海は、“何か”に吹き飛ばされていた。

 

 

 遠く、気がつけば弓弦の身体は遠くにあった。

 気配を察したように、ガバっと、弓弦が朝海の下へ振り返る。

 

 

「――足元がお留守だぞ、ランサー」

 

 

 弓弦と朝海の中心に、誰かがいた。

 ――彼、もしくは彼女。

 性別の知れない不確かな誰かだ。

 

 ――――そう、アーチャー。

 

 妖精のようなドレス姿の彼/彼女が、“剣”を携えてそこにいる。

 ――脇には、十歳程度の少女。

 

 ――恐らくは、マスター――アレが、雪白辰向の最終目標。

 雪白真華。

 

 ――剣は、目に見えて解るほどの礼装であった。

 間違いなく、宝具。

 柄には、何か――結ばれた帯がみえる。

 

 ――帯。

 

 あの宝具の、本命とも言える身体強化は、恐らくあの帯のモノだ。

 

(――あのアーチャーが、憎き敵を滅ぼす際に使用した、勝利の呪いを受けた帯。――そうか、“彼”の得物であった“魔剣”と、一体化していた、というわけ)

 

 朦朧とする思考で、朝海はそこまで当たりをつけた。

 朝海達はアーチャーの真名に大体の予想をつけている。

 その中で、“彼”が使用する宝具は、自身の身体能力を強化する“帯”であろうと結論づけていた。

 

 だが、間違いだった。

 “彼”の宝具は、剣と帯の一体型。

 誰がそれを予想できよう。

 ただ“剣を握る”だけでステータスを倍加できるなど、反則の極みだ。

 ――恐らく、朝海はアーチャーに弾き飛ばされたのだ。

 

「……おやおや、優しいことだ。今の“殺そうと思えば殺せていた”だろう」

 

 弓弦の声が、アーチャーヘ向けて。

 ――だが、それは朝海にも衝撃であった。

 

「――その必要がどこにある。マスターを殺さずとも、聖杯戦争から離脱する方法は幾らでもある。加えて言えば、この状況――どうあってもあちらの詰みだ」

 

 アーチャーは、わざわざ朝海を殺さなかった。

 それ自体は、いい。

 ――けれどもあの場面。

 もしも相手が相手なら、間違いなく殺されていた。

 

 ――死。

 その概念を間近に見て、最初に覚えたのは“敗北感”であった。

 勝てなかったという悔しさ。

 恐怖ではない、朝海に浮かんだのは、それだった。

 

「ふぅん。にしても、気配遮断か、――アーチャーでなければ俺が死んでたねェ。……ま、感謝しろよ、もしもセイバーだったら、死んでるのはお前だ」

 

 ――――負けた。

 

 もう、どうしようもない。

 

 朝海達は、負けたのだ。

 

(――まだ、)

 

 ――立ち上がる。

 吹き飛ばされはしたものの、あるのは痛みだけ。

 足を動かす機能はある。

 とすれば、後は気合で補える。

 

 キャスターを見る。

 ランサーから距離を取り、こちらを警戒していた。

 対するランサーは動かない。

 ――恐らく、ここからの展開を見定めているのだろう。

 

(――まだ、ここは私たちのホームだ。歩き巫女は破壊されたけど、霊魂は……)

 

 

「――ふむ、この周囲には“死してなお死んでいない”連中が多いな。まあ、“俺”が祓えばそこまでだが」

 

 

 ――対不死特化英霊。

 それがアーチャーだ。

 

 分かっている。

 

 ――そんなこと、分かっている!

 

(じゃあ! こんどはキャスターが気配遮断で、)

 

 朝海の思考が回転する。

 まだ。

 

 まだ。

 

 ――諦めない。

 

 ――――――――だが、

 

 

「――おいランサー、恐らくそいつは“望月千代女”だ。日本のくノ一――やもすれば、そいつも気配遮断を持ってるかもな」

 

 

 ――弓弦の言葉が、それを崩壊させる。

 

 なぜ、など考える意味もない。

 情報を与えすぎた。

 “巫女”に気配遮断を与える――スパイとしての技能。

 そんなものを与える英霊は、さすがに数が絞られすぎる――!

 

(――じゃあ、じゃあ、じゃあ!)

 

 朝海は、視線の先でキャスターが周囲に意識を向け続けているのが解った。

 

 彼女も何かを考えている。

 

 この状況。

 

 ――手立てを探し続けているのだ。

 

 そして、

 

 ――そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、

 

(――これも、ダメ。……じゃあ)

 

 数多の思考がうたかたの如く消え――

 

(――どうすれば、いいの?)

 

 そんな疑問に行き着いた。

 

 

「――――――――ぁ」

 

 

 そこまで、だった。

 

 ただ気合だけで立っていた朝海の身体が、糸が切れたように崩れ落ちる。

 もう、

 

 そこには、

 

 ――戦意はない。

 

 どころか、

 

 ――――人として、思考するという機能すら、失っていた。

 

 あとに残るのは、最後の意地。

 ――最後の、我儘だけだ。

 

 

「――――令呪を持って命ずる、そいつらをぶっ殺せ、キャスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!」

 

 

 最後の切札。

 ――たった三度だけ許された、令呪という札。

 それは、回数が限られているという点においては、“宝具すらも上回る”鬼札だ。

 

 残されたのは、もうこれだけだ。

 

「ふぅん。自棄になったにしちゃ、まだ現実的な判断ができるわけだ」

 

 キャスターの瞳に“活力が戻る”のが見えた。

 だが、そこに人としての高潔さなどありはしない。

 ただ自棄になっただけ。

 

 もはや、全てを投げ出す覚悟を決めただけ。

 

 ――だが。

 

 

「甘ェな」

 

 

 対するように、

 弓弦もまた、令呪を構える。

 

 ――これはそう、宣言だ。

 

 

 名を、――チェックメイトという。

 

 

 ♪

 

 

 夜。

 ――そこにあるのは、セイバーと、そしてアサシン、辰向。

 戦闘の末、辰向はセイバーによって引きずり出されることと成る。

 

「――ようやく出会えた。君がアサシンのマスターか。――なるほど、面白い眼をしている。趣が違って、これもまた面白い」

 

 セイバーはやはり強大だ。

 目前でその威風を確かめるだけでも、それが解る。

 

 圧倒的。

 

 ――ランサー、バーサーカー、ランサー。

 これまで相対してきた英霊とは“根本”がそも、異なる。

 

 “これ”はなんだ?

 ――そう、バケモノだ。

 

 破壊でもって語られるバケモノ。

 

 それが、セイバー。

 

「手短に頼みたいものだな。こちらは急いでいるのだ」

 

「ふむ、それはわかるが。僕としてはこの歓談を少しでも楽しみたい」

 

 嗤う。

 あまりにもあっけカランに。

 それは、無邪気に草原を駆けまわる少年に思えた。

 そして同時に、世界すらも甘く溶かす妖艶な娼婦の少女にも思えた。

 

 ――だが、わかってしまう。

 

 このセイバーに、隙はない。

 背を向けて逃げるにしても、それは下策だ。

 ――今、自分たちはセイバーによって“生かされている”。

 そういった面も、また存在してるのだ。

 

「では――問答を始めよう」

 

 ――言葉とともに、辰向は悟る。

 

(……すまない、朝海。どうか耐えてくれ)

 

 どうあがいても、

 ――間に合わない。

 

 

(――どうやら俺は、まだ、そちらへ戻れそうにない)

 

 

 それは、

 戦意すら折れてしまった彼女には、あまりに酷な願いであっただろう。

 

 

 ♪

 

 

 全ての終わりを、朝海は確信した。

 もう、どうあれ何もかもが無駄なのだ。

 

 辰向が戻ってきてくれれば、

 

 ノエミが救援に駆けつけてくれれば、

 

 

 ――全てが、希望でしか無い幻想だ。

 

 

 もう、希望でしか状況を突破できないことは、明確化した。

 後は弓弦が、その刃を振り下ろすだけ。

 

 最後を告げる――言葉を口にするだけ。

 

 

 そして、

 

 

 ――いよいよもって、

 

 

 ――――それは、形をなす。

 

 

 弓弦は、ただ、無慈悲にそれを言葉にする。

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――令呪を持って命ずる、自害せよ、ランサー」

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