Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第八章 4

 先手をとったのはキャスターだ。

 これはサーヴァント同士――戦場のバケモノ同士の戦闘ではあるが、だからといって達人同士の戦闘ではない。

 それは相手の全てを読みきっての仕合ではない。

 ルール無用、全てが肯定される殺し合いだ。

 

「――はぁっ!」

 

 キャスターの意図は単純。

 押し切らなければ、自分が負けるのだ。

 何せ相手は、“ランサーよりも”高い身体能力を有している。

 ランサーのように不死身ではない以上、アーチャーはまだ対処のしようがあるが――

 

 不死のかわりにアーチャーが持つのは、実質的なキャスターの無力化。

 現在キャスターにできるのは、陣地のバックアップを多大に受けた身体強化のみ。

 鬼道は、その元となる霊魂もろとも滅殺される。

 

 キャスターはとび出すと同時、両手に構えたクナイを放つ。

 黒の刃が、宙に溶け込むのがわかった。

 視認はとことん難しいそれを、しかしアーチャーは物ともせず切り払う。

 彼女に視界は関係ない。

 ただ、あるものを払う――それだけだ。

 

 だが、まだキャスターの攻撃は終わらない。

 刃は二つだけではなかった。

 放つ――数は優に十を超え、しかしなお、更に増える。

 

 それを、

 

 アーチャーは最初から、“わかっていた”日のように避ける。

 身体が踊った。

 一つを弾き、弾いた剣を上空に振り上げる動作を、身を捩り行う。

 続きに、二の太刀。

 ――回避と剣戟は同時であった。

 同義であった。

 

 物量を、完全に往なしている。

 キャスターの連撃が、何の意味も成していない。

 彼女の足音が、どこか強引なものへ変わったのを、誰もが理解した。

 

 アーチャーは努めて冷静だ。

 後方へと退避する。

 その速度は、迫るキャスターをはるかに超える。

 距離を詰めなければならないはずなのに、引き離される。

 

 やがてアーチャーは空中で自身が握る剣を消し、代わりに己が弓を構える。

 引き絞るは一瞬――

 

 ――宝具の開帳ではない、単純な射撃。

 

 キャスターは構え、そして防壁をはった。

 相手は“視界を利用しない”感覚の持ち主、回避は、不可。

 ならば耐える他はない。

 

 ――瀬場に敷設されたキャスターの陣地。

 膨大な魔力を持って建設されたそれは、キャスターの身体能力、そして魔術の効果を劇的に高める。

 それをもって、アーチャーの射撃を受け止める――!

 

 放たれるは宿り木、――ミストルティン。

 構え、そしてアーチャーは躊躇わない。

 

 爆発。

 ――夜闇にまばゆいほどの閃光が奔った。

 

「キャスターッ!」

 

 思わず、だろう。

 朝海が光に向けて声を投げかけていた。

 悲痛とも言えるそれは、しかしキャスターには届かない。

 

 届く必要がない。

 

 ――その心配は、一切無用なものなのだから。

 

「……マスター」

 

 光が張れ、キャスターは果たしてそこにいた。

 大きく息を吐き出しながら、しかし傷ついた様子はない。

 それはランサーの投槍と同じだ。

 

 強力ではあるが、自身の陣地であるこの場なら、キャスターとて耐える芽はある。

 ――実際、それを耐えたのだから。

 

 加えて言えば、間違いなくそれはランサーの物よりも容易に耐える事ができた。

 一発限りの技と、何度でも放つことのできる矢では、その威力に違いが出るのは当然といえば当然であるが――何より、

 キャスターは今、力に満ち満ちていた。

 

 令呪によるバックアップが働いているのだ。

 

「なるほどな――叶うことならば私も、貴様のように令呪を使われたかったものだ」

 

 アーチャーは自嘲するように言う。

 それが無理な話であることは、本人がよく分かっているだろうに。

 

 アーチャーは再び剣を構える。

 連射は意味が無いと判断したのだろう。

 この場でジリ貧は悪手だ。

 

 それを悟り、キャスターは構える。

 クナイを投げての牽制は無意味か、はたまたこちらから攻めていくか。

 方法は、いくらか用意されているように思えた。

 その中から、

 

 キャスターは不退転の構えを取る。

 敵の一撃は全てが脅威、ならばこちらから打って出るはなにより下策。

 

 やがてアーチャーがキャスターへと迫り、縦から一閃、剣をふるう。

 風の嘶きと共に襲いかかるそれは、キャスターの切り払いによってそらされる。

 両者の手に、その鈍みが乗った。

 

 顔をしかめるはキャスター。

 戦意に満ちた笑みを浮かべるはアーチャー。

 

 振り下ろし、見上げるように、アーチャーは構え、そして二撃目。

 反撃はない、そんな余裕キャスターにはない。

 

 キャスターは身を捩り避けた。

 受け流しなどできる状態ではなかった。

 手の痺れが、これ以上の防御を警告したのだ。

 それでも、牽制の用にクナイを向ける。

 反撃のためと見せるフェイント。

 アーチャーはしかしそちらには目もくれず、続けざまに三の太刀を振るった。

 

「ッ!」

 

 慌ててクナイを引き戻し、それを受ける。

 クロスしたクナイの間に挟まったそれは、一瞬の拮抗と共にクナイを弾き飛ばした。

 だが同時、キャスターは後方へと身体をずらす。

 後退だ。

 何とか、一瞬ではあれアーチャーから距離を取る。

 

 だが、

 

「甘いな」

 

 ――アーチャーは、そこにいた。

 目と鼻の先。

 数センチも存在しない両者の空白。

 アーチャーはキャスターの行動を読み取っていた。

 

 ぞっとするほどの、戦闘技術。

 

 回避と同時、キャスターは再び跳んだ。

 二度目は、左方。

 更に意識を集中させ、今度は盾も用意する。

 魔術に寄る防御障壁、この場において最も彼女が容易に行使しうる、守りの術。

 だが、“集中を要する”という弱点がそれにはある。

 刹那を舞う剣戟の合間に、それを用意するのは至難の業だ。

 

 激突は必然であった。

 ――魔力障壁を、けたたましい爆音がかき鳴らす。

 だが、それ以上はない。

 アーチャーは障壁を突き破らない。

 

 ――一撃では。

 

「……ぬぅ!」

 

 二撃。

 それだけで、壁は崩れた。

 もとよりキャスターの魔術が神性に近い類のものである、という相性の悪さをとっても、それは異常としかいいようがない。

 白兵戦のランサーをも圧倒しうるパワー。

 それが、キャスターの全てに突き刺さる。

 

 距離を取ろうとしたキャスターに、しかしアーチャーは連撃で答えた。

 速度が、――キャスターの思考に追いつかない。

 

 左から、右から。

 上段、下段。

 それら全ての一撃を、キャスターは両のクナイで弾き、そして躱す。

 風が、ランサーの宝具によって破砕した土埃が、両者の視線を覆った。

 

 それでも、アーチャーは気に留めることすらせず、キャスターはそれを務めて無視し、刃を這わす。

 撫でるような、舐めるような剣の行き交い。

 ただ、金切り声の如く、金属の悲鳴があがる。

 

 ――そして。

 

 キャスターはクナイをクロスさせて一撃を防ぐ。

 押し返されるように流された剣を、即座にアーチャーは構え直した。

 受けなければ――幸い、この程度ならば何も問題は――

 

 そう、考え、

 

 ――しかし、腕は動かなかった。

 

「――――あ」

 

 それは、誰の声だっただろう。

 マスターである朝海だろうか――否、彼女はこの戦闘に追いつけない。

 であれば真華は? ――そも、彼女に意思は存在しない。

 

 では、誰か。

 

 ――紛れも無い、自分である。

 キャスターは、それすら解らなくなっていたのだ。

 

 ――まずい。

 ――――まずい。

 ――――――――まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。

 

 避け、きれない。

 

 理解は――早かった。

 意外なほどに、死を認識するそれは、一瞬だった。

 

 

「――キャスター!」

 

 

 どうしようもない。

 それだけは、朝海にも理解できたのだろう。

 

 漏れでた声は――あまりにも聞いていられない。

 どこまでも悲痛で、救い難いものだった。

 

 ――だから、だろうか。

 

 キャスターは、自身の目の前に、“何か”があるのを自覚した。

 

「――な、まっ!」

 

 声を駆けるよりも早く。

 ――アーチャーの一撃を受け、キャスターはもんどり打って転がった。

 

「――っ!」

 

 衝撃は痛みとなる。

 だが生憎と、キャスターは痛みには強い。

 歯を食いしばり、決して言葉は漏らさなかった。

 ――なにより。

 

 それはあくまで“衝撃”のみであったのだ。

 

 本来襲いかかるはずの裂傷も、キャスターの身体には見当たらない。

 それもそのはずだ。

 アーチャーはすぐにからくりに気がついたのだろう。

 

「かばわれた――か」

 

 きっと、それは朝海の言葉に応えたのだ。

 かばったのは“死者の霊”。

 つまり、朝海を信奉する者達の一角。

 

 死を賭して――既に存在しない死を代償として、キャスターの敗北を防いだのだ。

 

 消滅を危惧し、外野に追い出されていたはずのそれらが、しかし。

 朝海の声に応えたいがため、あの場所に現れた。

 

 ――アーチャーが感じたのは、一種の感慨であった。

 人を信じるのは美しいことだ。

 特にそれが、混じりけのない善意であれば、なおさら。

 

 だが、それは感動と同時に、嫉妬であったのかもしれない。

 とまれ、アーチャーはキャスターへと向き直る。

 吹き飛ばされたキャスターは、朝海の元へまで戻されていた。

 何とか立ち上がろうとするが朝海に押しとどめられている。

 

「――キャスター、前に出ろ。そして己が全霊を賭けて見せよ」

 

 それは、アーチャーの立場における、唯一の情けとも言える。

 そのマスター、守りたくあるのだろう。

 

 キャスターは、立ち上がることで、それを是とする。

 

「我が宝具を、開帳する――!」

 

 手にするは剣でなく、弓矢。

 アーチャー――ヘズにとっては、ある種の災難であるが、しかし彼/彼女に躊躇いはない。

 “それ”にためらうほど、アーチャーの精神はやわではない。

 

 ――神殺しの宝具。

 不死なる神、バルドルの唯一の弱点にして、神殺しという“結果”による、強烈な対神性を得た宝具。

 矢として削りだされた宿り木。

 

「――っ!」

 

 キャスターが、静止する朝海を振り払い、防御障壁を展開する。

 耐える。

 ――これを耐えなければ、自分たちの勝利はありえない。

 

 ただ、それだけだった。

 

 そしてアーチャーは――

 

祝福叶わぬ(ミストル)――――――――』

 

 弓を構え、それを――

 

 

 ――後方、キャスターとは正反対の方向へと、

 

 

「――――死条の宿り木(テイン)ッ!!」

 

 

 わけは、単純。

 自身に向かい迫る、“何か”に気がついたからだ。

 

 それは、決して速度あるものではない。

 だが“何かがまずい”、自身の心眼めいた直感が、それを告げるのだから、仕方がない。

 

 ――何か、の正体は爆発物であった。

 

 それも、周囲一体をその爆発でおおうほどの。

 

 アーチャーの宿り木はなにかを襲う。

 それは、正確に何かを射抜いて見せた。

 直後、起爆。

 

 アーチャーを、多少の熱がおおう。

 彼/彼女はマスターをかばい、爆発へ背を向けている。

 それを覆う、黒煙が、淡い光に満ちた瀬場邸の夜を隠してしまう。

 

 ――朝海は、即座に理解した。

 その爆発は間違いなく“現代兵器”であった。

 

「あ、あぁ、」

 

 言葉は、しかし意図を持たずに漏れて出た。

 それが、

 

「あぁぁ、あぁぁぁあぁあああああああああああああああああああっ!!」

 

 猛烈な叫喚となって襲いかかる。

 

 ――煙が晴れた先には、アーチャーとキャスターを隔てるように、一人の男がそこにいた。

 名は語るまでもない。

 彼は、ゆっくりと口を開く。

 

 

「――――すまない、待たせてしまったな、朝海」

 

 

 ――男、雪白辰向の声は、どこかもったいぶったように朝海へ届いた。

 無論、それは朝海の勘違いではあるのだが、

 

「……ッ! 遅い、遅いよ! 辰向ぅ」

 

 なぜだか、その勘違いが。

 ――朝海には、どうにも嬉しく感じられてならない。

 

 辰向は、体ごと朝海へ振り返り、どこか照れくさそうに笑った。

 

「危険な目にあわせてしまった。許してくれとは言わないが――もう大丈夫だ、俺が今、ここにいる。だから、何の問題もない」

 

「……あるよ、馬鹿」

 

 煙はまだ周囲を覆っている。

 だが、それでも、朝海と辰向を隔てるものは何もない。

 

 ――帰ってきたのだ。

 辰向は今、朝海の目と鼻の先にいる。

 

 それを――

 

 

 阻むように、アーチャーが煙を切り払う。

 

 

「ふふ、ふふふふふ、ははははは! このタイミングで、この状況で! 援軍か、救いの神はいるものだなァ!」

 

 強敵の出現が、純粋にアーチャー――ホテルスとしての側面を持つ“彼”は嬉しいのだろう。

 しかし――だが、とアーチャーは付け加える。

 

「一体どうするのだ? この状況で、キャスターは既に戦闘不能、貴様はマスターとしては腕は立つだろうが――アサシンと二人がかりだったとして、俺は倒せん!」

 

 さぁ、どうする。

 とばかりに、アーチャーは言う。

 

 だが、

 

 ――辰向に一切の動揺はない。

 

「いいや、俺達の勝ちだ」

 

 端的に、そう答える。

 

 その瞳に、自負以外の何かはない。

 切り払われた爆風を風に受け、辰向はいよいよもって、それを口にする。

 

 今コレまで、聖杯戦争の最中、一度として語られることのなかった言葉を。

 

 

「――アサシン、許可する。――――宝具を開帳しろォ!」

 

 

 どこからか声がした。

 ――かしこまりました、と。

 

 アーチャーはそれに対して即座に構えてみせた。

 今すぐにでも、辰向の首を刈り取る構え。

 

 だが、それよりもアサシン達は早かった。

 

 告げる。

 ――アサシンは、自身の代名詞とも呼べるそれを。

 奇跡とも、必然とも言えた、あの伝説の舞台の名を――!

 

 

「――――――――決戦要塞陥落(ディエン・ビエン・フー)ッッッッ!!!」

 

 

 直後、アーチャーの感覚は光に呑まれた。




 というわけでついに開帳するアサシンの宝具。
 コレが出てしまえばこの人の真名が解るも同然です。
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