Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第八章 6

 ――もしも、自分が赤紫羅以外の陣営に召喚されていれば、どうなっていただろう。

 

 目前に迫る敵。

 否、後方にも、左右にもそれは群がっている。

 アーチャーは、その脚力を利用し目の前の敵を蹴りつける。

 一発が人体を根こそぎ粉々にする威力は、十分な殺傷性を有する。

 その勢いで、アーチャーは飛び上がった。

 

 ――無論、意味のない仮定だ。

 そもそも、アーチャーが呼び出されたのは赤紫羅の意思。

 さらに言えば、あの恣意的なまでの布陣、赤紫羅が最初から、三騎士を自分たちが呼べるよう調整していたことは明白だ。

 

 現在、アーチャーは森の中での戦闘に移行していた。

 数分もの間、たった一人であの要塞を守りぬいた。

 しかし、宝具の連発による魔力の消費はいかんともしがたく、もう既に、彼/彼女に宝具を放つ余裕はない。

 

 ――たとえそれが無かったとして、相性の良いマスターに恵まれるかは未知数だ。

 もし、そうならなければ、結局は赤紫羅にいるのと何ら変わらない結果になっていたことは、想像に難くない。

 とすれば結局のところ――

 

 アーチャーは更に途中の樹木を踏みつけ、飛び上がる。

 空は夜天。

 既に時刻は夜の半ば過ぎといったところか。

 無論それは、固有結界内部のことではあるが――戦場の空は、あまりに星が瞬いて見えた。

 

 

 ――結局のところ、アーチャーは、“こうなる”ことが当然だったのだろう。

 

 

(ある意味、バツかもしれないな。――まぁ、神である“私”の考えを“俺”が見透かすのはお門違いかもしれないが)

 

 ――アーチャーは、どうやらその人格を英雄ホテルスに寄せているようだ。

 だが、肉体――無論、単なる外見のことで、神としての中身ではないが――は神霊ヘズに寄せている風である。

 体の調子が、ホテルスで会った頃と違うため、何となく解る。

 

(何にせよ、神霊ヘズは生粋のお人好しだ。まだ国を守っていた俺の方がまともなくらい、人を疑うことをしない。神霊バルドルの影でしかなかった神霊は、果たして何を考えていたのか、ね)

 

 ――北欧神話をはじめ、多神教の神はどこか人間臭いのが特徴だ。

 だが同時に、一切合切人間とは分かり合えない、神としての特質をも有している。

 それ故に、英雄ホテルスは、自分がヘズであったとしても、その真意は理解できない。

 

 神霊であるヘズが、人間として当てはめられた英霊であるアーチャーにとっても、それは理解できないことなのだ。

 

(……まぁ、多分だけれど、これは俺が、あの男に対して思う感情と同じなのだろう)

 

 ――トリックスター、と呼ばれる人種がいる。

 破壊をもたらし、その先に再生を残す、いわゆるロキのような存在。

 ヘズとロキ、神霊であるこの二つと、アーチャーと“あいつ”、二人の人間を比べることは、一概にはできないだろう。

 

 それでも、この二人の役割は共通している。

 ――トリックスターには、ある特徴がある。

 それは、何かどれだけの悪さをしたとしても、“こいつならば仕方がない”と許されてしまうこと。

 

(――あぁ、本当に)

 

 ――あいつ、“赤紫羅弓弦”は、

 

 

(――どうしようもないやつだよ)

 

 

 そんな、感傷にも似た思考は、恐らく数秒程度のもの。

 思考の終わりに、アーチャーは森の中からの何かを感じ取った。

 

 ――砲撃である。

 

 対空火器による迎撃が、アーチャーへと向けられたのだ。

 それを、アーチャーは自身の剣戟によって弾く。

 一撃一撃は豆粒のようなもの。

 ただ、当たり続けるのは快くない。

 

 故に、当たりをつけ、一部に刃を這わせるのである。

 そして、砲火が止むと、即座にアーチャーは得物を弓に持ち替えた。

 

 宝具として開帳しないただの狙撃。

 狙いは先の火気があると思われる場所。

 

 着弾は、粉塵をもって証明された。

 だが、その結果をアーチャーは確かめない。

 更に剣を弓と取り換え、周囲の気配を確かめる。

 

 木々が密集していない場所に目をつけると、そこへむけて身体を寄せる。

 降下を始めた彼/彼女は、そのまま刃で周囲の人気を押しつぶすように振り下ろす。

 

 ただ剣を地面にたたきつけるだけでも、その余波は人をズタズタのボロ雑巾に変える力がある。

 一振りが、数十の命を一度に刈り取るのだ。

 だが、それでも気配は消えない。

 

 周囲に、殺気を保った兵士の気配がある。

 相手は現代兵。

 とすればその手には――

 

 アーチャーの行動は、思考が結論に至るよりも早かった。

 手近な、最も前方にいる兵士の“銃”を切り捨てる。

 更にその兵士の胸ぐらをつかむと、既に銃の引き金に手をかけていた別の兵士ヘ向けて投げつける。

 銃弾が、投げられた男に蜂の巣を作った。

 

 ――更に斉射。

 しかし、そこにアーチャーの姿はない。

 

 再びアーチャーはその場から離れたのだ。

 ――だが、ここでアーチャーはミスを犯した。

 そもアーチャーは銃に目をくれるべきではなかった。

 そんな猶予、彼/彼女には存在していなかったのだ。

 

 ――アサシンとアーチャーの戦争。

 それは実際瀬戸際の危ういものではあったが、均衡を保っていた。

 

 というのも、それはアーチャーの持つスキル故だ。

 軍略:A、相手の対軍、対城宝具への対応力を上げるスキル。

 対してアサシンもまた、それに相当する効果を持つ、ゲリラ戦:EXを有していた。

 ただし、このEXランクは、軍略スキルとしての効果、ゲリラ戦時に気配遮断を与えるという効果など、“ランクに囚われない”がためのEXランクだ。

 故にゲリラ戦スキルが保有する軍略スキルとしてのランクはA、つまり同格である。

 

 これ故に、戦争は均衡のママ推移していた。

 アーチャーが周囲をなぎ払い、離脱。

 足をつかせないようにし、対するアサシンは物量を活かしてのゴリ押し――に見せた誘導だ。

 

 互いに、アーチャーは敵を出来る限り漸減するべく。

 アサシンはアーチャーの一瞬の隙を付くべく、戦闘のさなかに多数の策略を混ぜ込んでいた。

 

 ただ、それがここに至るまで、効果を発揮することがなかったのだ。

 じゃんけんで例えるなら、アーチャーとアサシンは、互いに引き分けだけを延々と続けてきた。

 

 

 ――それが、ここに来てようやく崩れる。

 

 

 そもそも、アーチャーは自身の敗北を、無理やり引き分けに持ち込んでいた。

 今は、将棋でいう詰めの段階だ。

 アーチャーはアサシンの王手を躱すほかなく、またアサシンは全力を持って相手を詰みに持っていけばいい。

 

 そんな、追走戦染みた戦場が、

 ――そこでようやく決着を見る。

 

 アサシンの手は、兵士で足止めをし、それに気を取られている間に砲撃の照準をあわせるというもの。

 飛び上がった瞬間を合図に、アーチャーを仕留めるというもの。

 

 対してアーチャーは、少しでも魔力を温存するため、その場で少しの格闘をした。

 それ故に、アサシンの策にかっちりハマってしまったのだ。

 アーチャーは、向けられた砲撃をもって、自身の失策を悟った。

 

(――まずい)

 

 ただ、そう考えるだけの余裕しかなく。

 

 アーチャーは、砲撃によって撃ち落とされる。

 

 一撃は、さして大きなものではない。

 故にアーチャーにダメージはない。

 それでも――これでアーチャーは、空をとぶことができなくなった。

 撃墜されたことで、アーチャーは地に落ちる。

 そこは、これまで彼/彼女が避け続けてきた兵士たちが密集する地点。

 

 ――否、“兵士たちしか”存在しない場所。

 

 アーチャーは何とか体勢を立て直し、刃を構え着地する。

 兵達はアーチャーの着地時の攻撃を避けるため、距離を取る。

 だが、それは余波を顧みない距離だ。

 

 警戒はしつつも、この場でアーチャーが着地と同時に剣を振るわないことを読んでいた。

 ――振るえるはずもない、そうすれば、自身の行動にラグが出る。

 この場でアーチャーが取れる唯一の方法は、即座にこの場から飛び退くことなのだから。

 

 だが、

 

 それは叶わない。

 アーチャーがそれを飛び上がろうという場所を、通過する銃弾がある。

 それを浴びれば、また、飛び上がろうとした行動がキャンセルされる――!

 

 故に、身を伏せてやり過ごした。

 そこへ、兵士が一人、飛びかかる。

 アーチャーを確保しようという腹づもりだろう。

 対し、アーチャーはそのうち一人を切り伏せる。

 後方に在る複数の兵士、もろともに。

 

 だが、理解していた。

 ――この時点で、既に自分は詰んでいるのだと。

 

 同時に襲いかかる兵。

 四方八方からアーチャーを抱え込もうと兵士が集まっていた。

 さながらそれは出来の悪い食屍鬼(グール)が如く。

 

 だが、それは人だ。

 確固たる意思をもつ軍隊。

 アサシンによって極限まで統率された――(つわもの)である。

 

 タイミングは完璧だった。

 まず前方を切り裂き、左回転、そこを切り捨て、さらに左回転。

 アーチャーは三方向へと剣を振るい、その尽くを退ける。

 だが、そこで四方向めが間に合わない。

 そうなるよう、計算され尽くした行動であった。

 

 結果、

 

「な、っぁぁ――!」

 

 数の暴力、一人ひとりであれば吹き飛ばせる兵たちが、しかし束になることで、アーチャーはそれから逃れられない。

 万事休す。

 

 

 ――否、チェックメイトだ。

 

 

(……ここまで、か)

 

 アーチャーは、自身の右手にある剣を構える。

 後一発、その名を開放することはできる。

 そうすることで、あと少しならばこの戦闘を続けることができるだろう。

 

 だが、ここで一度詰んでしまったことで、此後が如何に動くかは、大凡アーチャーにも見当がついた。

 

 ――ならば、

 

(これ以上は、マスターの魔力に負担がかかる、な)

 

 アーチャーは一人の少女の顔を思い浮かべる。

 この戦争で、アーチャーが救いたかった少女。

 

 救うことが、叶わなかった少女。

 

 守れないのは、もしかしたら不幸なのかもしれない。

 彼女の行く末を知ることができないのは、間違いなく不幸だろう。

 

 ――それでも、託すことのできる者がいる。

 者達がいる。

 

 

 ――それを思い、アーチャーは自身の消滅を、待った。

 

 

「後は頼むぞ、キャスター、アサシン、そのマスター。そして――あぁ」

 

 ――ふと、最後に思い浮かべる男の顔を、何故かアーチャーは照れくさく思った。

 彼の本音を知ったことで、すっかりほだされたとでも言うのだろうか。

 そんなことはない、彼の言動は、アーチャーの怒りを招き、それは今も解消されていない。

 

 

「――弓弦。必ず、我がマスターを守れよ。守れないのなら、もう一度蘇って、お前を恨み殺してやるからな」

 

 

 だから、そんな彼に向ける最後の言葉は、どこか悪態めいた言葉であった。

 

 

 ♪

 

 

 ――アサシンの固有結界は、発動している最中は、そこに“別の世界”があるのだと誰であれ理解できた。

 なんとも不思議な感覚であるが、しかし、決して不快なものではない。

 

 それがアサシンの固有結界であるからだろうか。

 ――恐らくは、そんなことはないのだろう。

 この結界は、あくまで彼の逸話を再現したものであり、彼の心象風景ではないのだから。

 

 やがてそれは――うたかたの夢が如く消え失せる。

 展開から、およそ二十分が経っただろうか。

 つまり、それだけの時間、アーチャーは粘っていた、ということになる。

 

 恐らくは十万対一という状況下にも関わらず。

 二十分、あまりにそれは驚異的な時間だ。

 

 だが同時に、この宝具が解かれたということは、その時間闘いぬいたアーチャーは、既に消滅したということになる。

 赤紫羅弓弦はその事実を、どこか残念そうに受け入れた。

 

(――これで、アーチャーが落ちた。あいつは最後、俺にどんな想いを残したのかねぇ)

 

 その考えは、すぐに顔に出てしまった。

 ――ランサーを自害させて以降、彼の中で、緊張の糸が溶けたのかもしれない。

 既に、種は全て明かされたのだ。

 ――赤紫羅弓弦が、赤紫羅仁の息子である理由がなくなった。

 だからこそ、弓弦は自身を偽る因果がなくなった。

 

 それに――

 

「……真華」

 

 ――雪白辰向の声がする。

 それは、どこか感極まったもの。

 少しだけ、申し訳無さそうなもの。

 

 無理もない。

 辰向とその妹、雪白真華が再開するのは、実に六年ぶりのことである。

 

 ゆっくりと、彼は真華に近づいていく。

 ――恐らくもう既に彼女が行動することはないだろう。

 アーチャーという手札を喪った以上、彼女に意味はなくなった。

 

 無論、無いではないが、仁が興味を示すことはないだろう。

 つまり、雪白真華は――

 

 

 ――ようやくこの時、赤紫羅から開放されたことになる。

 

 

 まだ、彼女は人間としての機能を失ったままだ。

 故に弓弦はまだ、手放しにそれを喜べない。

 むしろ、彼女が人間をやめてしまう際に、何もできなかったという罪悪感が先に立つ。

 

 だが、辰向は違う。

 辰向の場合――弓弦がそうしたというのもあるが――彼は純粋な被害者なのだ。

 故に、そこに真華がいるのなら、彼は純粋にそれを喜べる。

 

 辰向は真華の元へ近づくと、膝を落とした。

 そうして視点を、彼女にあわせる。

 

 何度か、彼の口は、開いては閉じた。

 そこに言葉は伴わない。

 ――だが、やがて意を決したように、声をだす。

 

 絞りだすような、本当にか細く、小さい声だ。

 

 

「――あぁ、真華。お前――少しだけ、背が伸びたか?」

 

 

 それが、辰向の精一杯だったのだろう。

 それでも、辰向の言葉は、弓弦にとっては衝撃だった。

 

 辰向が弓弦によって“殺されて”から、真華が人としての機能を失うまで、半年ほどのタイムラグがある。

 

 その際に、多少ではあるが身長は伸びた。

 その後はそも、成長すら彼女はしなくなったのだが、それでも。

 ――半年の間に、変化はあった。

 そして辰向は、それに気がついた。

 

 はぁ、と一つ弓弦はため息を付く。

 敵わない、きっと、昔からそうであったように、赤紫羅弓弦は雪白辰向のその言葉に、敵わない。

 

 ――だが、それでもいい。

 それでもいいのだ。

 確かに嫉妬の一つも弓弦はする。

 だが、それ以上に、――雪白辰向という親友を持てたことが、弓弦は堪らなく誇らしいのだ。

 

 そして――雪白辰向と雪白真華の話は、ここで終わらない。

 最後に一つ、雪白真華の、口が動いた。

 

 

「――お兄、――ちゃ、――ん?」

 

 

 どこか、確かめるような声。

 それは疑問――つまり、感情と呼ぶことが“できるかもしれない”ものを載せた声。

 

 雪白辰向の肩が、ぶるりと震えた。

 ――だが、それ以上は決してなかった。

 

 きっとそれは――辰向の持つ、最後の意地というやつなのだろう。




 ようやく瀬場邸決戦が終わりました。
 残すはラスボス戦を含めたあと二戦、どうか最後までお付き合い頂ければ幸いです。

 ※あとがき登場人物解説※

・アーチャー(ヘズ/ホテルス)

 神代の英霊を呼び出すことに定評のある赤紫羅のアーチャー。
 本来であれば聖杯では呼び出せない神霊だが、ホテルスという英霊としての側面が召喚可能であった。
 彼/彼女は“肉体はヘズのもの”、“性格はヘズとホテルスの混合”、“主観はホテルスの者”である。
 精神的に盲目で、敵でありながら反骨的な思考という、如何にもアレな立ち位置であったが、見事にその役目を果たすこととなる。
 ただし、本人は軍略のスキルゆえ、この展開は読めていた模様。
 その最後も、決して不満の残るものではなかったようだ。

 彼/彼女が喚ばれたのは、“ランサー、及びセイバーに対してのメタ”としてである。
 ランサーに関しては言うに及ばず、“一切ランサーが勝る点がない”。
 セイバーに関してはマスターである仁本人が令呪を切れば、一方的に殺すことができると判断できた。
 マスターである真華は人形、つまり仁にとって最も信頼のおける相手であったがために、こういった処置が成されたようだ。

 なお、彼/彼女の性別に関してだが、詳しくは不明である。
 “ホテルス”は男だ。
 しかし、“ヘズ”の性別は不明、何せ本人が盲目故に知らないのだから。
 ただ少なくとも容姿は女性然としており、それにより、かのトリックスターロキが、女性用の衣服をヘズに着せたというのが言える。
 それはつまり、アーチャーは“男性でありながら女性の姿をする”という道化じみた理由か、はたまた本当に女性か、の二択である。
 ロキはトリックスター、“尤もらしい”と自分を決めつけられるのは嫌うだろう。
 つまり、わざわざこの服を着せたということは――
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