Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第十章 2

 ――“それ”は、ライダーの機体が蔓の群れから抜けだした時のことだった。

 その時を待ちわびていたかのように――

 

 ――音だ。

 ラッパの如き、空を鈍重にかき鳴らす鉄の塊の悲鳴じみた金切り声――!

 

 それが何であろう。

 判断する暇はライダー達には存在しなかった。

 勢い紛れに、ライダーは即座に機体を回転させる――

 

 直後、零戦があった場所に、――正確には、その進行方向に、寸分違わず鉄の塊が着弾した。

 ――直後、爆発。

 ガガァッ! と、地を抉るような爆裂音が、蔓を叩き炸裂する。

 

 それが“何”であるか――

 爆撃の出処は、しかし即座に判じられた。

 後方に気配――サーヴァントのモノだ。

 

「……来てるわよ! 真後ろから!」

 

 それはライダー達が駆け抜けた直後に、上空から舞い降りたのだ。

 後ろから追いかけるように、ライダー達を付け狙う。

 

「――なぁ」

 

 それが、誰であるか。

 この場におけるサーヴァントは二人しかいない。

 ライダーと――

 

 

「――やぁ、元気かい?」

 

 

 ――セイバーだけだ。

 セイバーの声は、嫌に近くから聞こえた。

 恐らくは、“何か”がそうしている。

 その“何か”までは知る所ではないが。

 

「……あい、つ――」

 

 ノエミが、驚愕に声をつっかえながらも、その状況をライダーに伝える。

 

 

「――――飛行機に乗ってる! しかも飛行機の“上”に!」

 

 

 セイバーは、仁王立ちであった。

 まるでそれが当然のように、飛行機の上に立っているのだ。

 思わずライダーも、ぶっ、と息を噴出した。

 

「……あれ、Ju-87ね」

 

 ふと、観察してわかったことをノエミは告げる。

 Ju-87、それをノエミは知っている。

 別に近現代兵器に詳しいというわけではなく、触媒にしようと調べたために知っているのだ。

 

「――Ju……ってぇと、“スツーカ”か。おい、アレが誰の宝具か、俺わかっちまったぞ」

 

 急降下爆撃機“スツーカ”。

 ドイツで愛用された傑作爆撃機だ。

 それはいうなれば日本で言う零戦のようなもの。

 

 違いがあるとすれば、日本が零戦の後継機を“つくろうと思ってつくれなかった”のに対し、ドイツは“つくろうと思わなかった”という違いか。

 

 そのスツーカを要いた空の王。

 ドイツのトップエース。

 座の知識ではあるが、同じ飛行機乗りである以上、ライダーはよくそれを知っている。

 

「けどよぉ! 俺はあいつが、古くせぇ剣を持ってるのを見たぞ。そういう英霊じゃねーのかよ!」

 

 後方から追いかけるスツーカを振り払おうと機体を左右に揺らしながら、ライダーは言う。

 

 空をかける二対の刃。

 ――ぐるりと円を描いたかと思うと、上空へと飛び上がる。

 

「不思議そうだが、むしろ喜んで欲しいくらいだ。わざわざ君たちのために、こんな神秘の欠片もない“宝具”を使っているんだから」

 

 ――宝具。

 セイバーは何気ない風にそういった。

 実際彼にとっては単なる雑談程度かもしれないが――それの意味するところはつまり。

 あれが現実のものではなく、ライダーの『竜の顎』同様、伝承によって作られた神秘の類ということになる。

 

 飛び上がった零戦をスツーカが追う。

 しかし、スツーカは鈍間な機体だ。

 その速度は、全速力の辰向を多少上回る程度。

 

 零戦は、それを容易に追い払う。

 

 だが、これにより両者の位置は霧散することになる。

 ――そこでノエミだ。

 

(――セイバー、追撃を諦めた見たい。っていうかあいつ、あんたレベルで操縦旨い感じなんだけど)

 

(騎乗のランクがたけーんだろ、俺はこいつ特化だが、恐らくオールランダーになんでも乗れるぞ)

 

 ――さすがにライダーには及ばないだろうが、

 ライダーはセイバーを振り払うために、蔓の間を通り抜けることもした。

 それについてきた以上、その程度の操縦技術はまず間違いなく存在する。

 

 一応、それがセイバーのクラススキルでもあるのだから、当然か。

 

(とにかく、今度はこっちから仕掛けないと――ってぇ、ライダー、上!)

 

 気を取り直そうとしたノエミ。

 しかし、急に声を上げ指示を飛ばす――同時か、それより少しだけ早く、ライダーの直感が唸りを上げる――!

 

 ――直後、爆撃。

 再びスツーカは上空にあった。

 

 先ほどの爆弾と同様だ。

 セイバーは、スツーカが最も得意とする方法で、ライダーに襲いかかっている。

 

 だが、それは今の襲撃とはあまり関係はしない。

 問題は――今の一撃、あまりに速すぎた。

 

(おかしい! 私、あいつが下の方をうろちょろしてるのを見てたわ。なのに、いきなり空に――!)

 

(大方空間転移か何かだろ。ともかく、それなら話は速ェな!)

 

 ライダーは回避と同時、機体を反転させた。

 追うはセイバー――地に迫る急降下を、同じく急降下で肉薄する。

 

 距離を詰める。

 同時、セイバーは機体そのものをくるくると回しながら、サイドにスライドを開始する。

 ――否、そこにセイバーはいない。

 

 機体は――墜落しているのだ。

 

 ライダーはそれを追うことなくその場を離れた。

 墜落する機体の意味を、即座に察知したからだ。

 

 直後、ライダーを再び爆撃が襲う。

 

 三度目の、スツーカ――――!

 

「くっ……っの!」

 

 ガタガタと不自然なまでに揺れる零戦は、しかし再び爆発を回避する。

 漏れでた黒煙が、そのプロペラに絡まり解けて消えた。

 

 ――そして。

 

「何度も何度も――」

 

 ライダーの機体が、上方へと飛び上がり、スツーカと向き上がる。

 同時、互いに行き交う機銃。

 セイバーはスツーカを傾け射程から外れ、そこをすり抜けるようにライダーが突っ切る。

 散弾は、ただ一度機体を回転するだけで回避した。

 

 ――反転。

 これで、スツーカの後ろを取る。

 

 

「――いいようにされると思うなよッ!」

 

 

 それは、刹那さながらの出来事であった。

 あっという間にスツーカに狙いを定め、機銃を直撃させる。

 セイバーがその場から飛び退き――直後、鉄の塊が火を上げる。

 

「……ハン。確かに“それ”は傑作だろうが、“そいつ”が優秀なエースだろうが」

 

 それを視界で見送りながら、ライダーは機体を上方ヘ向けた。

 マスターからのオーダーだ。

 このまま、ライダー達は中央へ向かう。

 

 セイバーは一度身を退いたようだ。

 周囲に彼の気配はない。

 だが、この空間の中に気配はある。

 

「――俺を墜としたきゃ、空の王くらいは連れて来るんだな」

 

 ぽつりと漏らしたそれは、誰に聞こえるでもなく消えた。

 まだ戦闘が終わったわけではない。

 

 舞台は、次なるステージへと移る。

 

 

 ♪

 

 

 ライダー達の眼界に広がるのは、もはや樹木としての大きさを逸したそれ。

 樹齢千年以上と目される、この街の神樹をはるかに超える代物。

 

「……見た感じ。あの大きさ、大体赤紫羅の本拠地と同じくらい。後ろの山も含めてね」

 

 目測ではあるが、予てより観察し続けてきた敵の陣地とそれは大凡大きさが一致する。

 つまるところ、この樹は敵の陣地そのものというわけか。

 

「多分、本質的には赤紫羅の陣地が異界とかして、そこを起点にしているのでしょうね。あたし達は空から飛び込んだから、空洞に出たけれど、正式なルートをたどれば――」

 

 言いながら、ノエミは上を見上げた。

 樹に接しながら零戦は上昇を続けている。

 その視界の先に――

 

 ぽかりと空いた、不可思議な空洞があった。

 

「ここに出てくる、ってことでしょうね」

 

 ちょうど樹に空いた空洞だ。

 白の年輪が、目に飛び込んでくる。

 ――そしてそこには、

 

 

 ――セイバーと、一人の男が佇んでいる。

 

 

 ライダーの眼では観察することは叶わないだろう。

 その男の姿を確かめられるのは、ノエミだけだ。

 だが、十分ではある。

 

 ノエミはその男を知っていた。

 写真の向こう側の存在ではあったが、確かに。

 

 ――男は四十かそこらの年齢にみえる。

 だが、その顔には老いこそ見せないものの、老練な経験が張り付いている。

 白髪交じりの黒髪は、肩に掠めるように触れ。

 その様相は、漆黒の和装――喪服であった。

 

 あれが――この聖杯戦争の主宰。

 全ての、始まり。

 

 

「――――あいつが、赤紫羅仁」

 

 

 恐らくは、二メートルに近いかというほどの体躯は、鍛えあげられた肉体によって支えられている。

 見るだけで解る、ああいう手合いは、何かしらの武術を極めているモノだ。

 

 彼は深く蔓でできた椅子に腰掛け、こちらに視線を向けることなく、俯いている。

 

「……どうする?」

 

「セイバーは空中戦ができるのよ。わざわざあっちに乗ってやるつもりはないわ」

 

 零戦の補給は、宝具として呼び出すたびに補給されるため、ほぼ満タンだ。

 ただ待つだけならば数時間は耐えられる。

 

「つったってよぉ、あそこに軽く突っ込むだけじゃだめなのか? あの程度なら、通り抜けられるぞ」

 

 ――ライダーは言う。

 無理もない、大樹の空洞は、先ほど零戦が駆け抜けた蔓の山よりも広大である。

 通り抜けようと思えば、いくらでも通り抜けられる。

 

 だが、ノエミはすっぱりとそれを否定する。

 

「嫌よ、だって怖いじゃない。あんなとこ突っ込んだら、どうなるかわかったもんじゃないわ」

 

「そうかい」

 

 少しだけ、ライダーは嬉しそうに言う。

 

「それに、よ。あたし達はお客様なの、なのにこっちからご足労なんて、とてもじゃないけど割にあわないわ」

 

「……いや、俺達は侵入者だろうがよ」

 

 馬鹿を見る目で、返された。

 

「どうする、上に昇るか、下に降るか」

 

「登りましょ。天井は、どうなっているのかしらね」

 

 空洞の周辺を回転していたライダーの機体が、上方へ向く。

 ちらりと、視界の端にセイバー達の姿を認める。

 ――マスターである仁は動かず。

 

 セイバーは、

 

 ――その眼と視線を合わせるように、“こちら”を向いた。

 

 直後である。

 

「おやおや、君ならもう既に、空にあるものが見えているだろうに」

 

 セイバーの声だった。

 空洞にいたはずの彼の姿は無く――

 

 目前に、零戦に寄り添うようにセイバーは飛行していた。

 

「――今度は、スツーカに乗ってはこないのね」

 

 ノエミはセイバーの言葉に返答するつもりはない。

 あくまで、逆に問い返すように、そう呼びかけた。

 

「別に空を飛ぶだけなら、別にアレでなくともいいわけだし、アレは君たちに落とされてしまったからね」

 

 クスクスと、しかし困ったようにセイバーは笑った。

 

 とはいうものの、スツーカは生還率の高い機体であるため、機体を墜とされても、すぐに基地へ戻り再出撃をするエースもいるのだ。

 再びそれを駆るセイバー。

 

 さして違和感があるものではない。

 

 ただ、彼の流儀に反するということだろう。

 

「“アレ”は僕の魂そのものだ。だから、墜とされてしまったものを、もう一度使うのは、少し無様な気がしないかい?」

 

 事も無げに、セイバーは言った。

 まるでそんな風に思っていないようにも見えるが、問題はそこではない。

 

(――魂そのもの?)

 

 ノエミは、反芻するように思考した。

 どうにもその言葉には違和感がある。

 まるでこちらにヒントをやるような――

 

「――さて、ここまで来た以上、後にやることはひとつしか無いね」

 

 セイバーは、ことを構えるために出てきたのだ。

 であるとすれば、ここから始まるのは、戦闘の再開以外にありえない。

 

「……おうともさ。悪いがその首――もらうぞセイバー!」

 

「ずいぶん古風な物言いをするね空の侍! いいよ、それじゃあ――――」

 

 ライダーの言葉を嬉しそうに同意する。

 セイバーはそうして、二本の剣を手元に出現させる――

 

 片方は見たことが在る。

 アサシン陣営との大戦時使用していた、虹色の光を伴う剣。

 

 そしてもう一つは――それと多少の似通った点を持つ、しかし決定的に違う意匠の剣。

 

 直線的な十字のそれは、決して飾ることのない直剣。

 ――柄は青、鍔は金。

 間違いなく王が握るにふさわしい、特上クラスの宝剣だ。

 

(――多分、原点を近くする、けれども決定的に出典の違う剣。恐らくは、出てくる神話がそれぞれ違うのね)

 

 ノエミは、即座に判断した。

 どちらにせよ、どちらも脅威に変わりはない。

 

 そして、

 

 セイバーが、

 

 ――戦闘の開始を合図しようとして――――しかし、

 

 

「――――待て」

 

 

 そう、たった一言。

 声がかかった。

 

 渋みの在る、重厚な男性の声。

 それは――恐らく、

 

「……どうしたんだい、マスター」

 

 ――――そして、その推測は正確であった。

 

 赤紫羅仁が、不意に戦闘へ待ったをかけたのだ。

 セイバーもそれを予測してはいなかったのだろう。

 

「――問おう。お前がライダーのマスターか」

 

 それは、察するにノエミに向けられたモノだ。

 

 急にいきなり、何だというのか。

 ――答える義理はない、だが、答えない理由もない。

 

 沈黙で持ってノエミは応じた。

 つまるところ沈黙は金、それで十分伝わるだろう。

 

「では歓迎しよう。あぁ、別に君の言葉は必要ない。君が今この場で、セイバーとの死闘を演じるというのなら、私はそれで良いと言うのだ」

 

 まくし立てるようにして、しかしそこで置く。

 若干の空白。

 

「――ノエミ=ミシリエ。魔眼の魔女よ。聞け、――我が名は赤紫羅仁。ようこそここまでやってきた。歓迎しよう――――君の血を杯に捧げ、その心臓を供物に変えて」

 

 ――――これを、祝おうではないか。

 

 わざわざ。

 そんなことを仁は言った。

 

 それにノエミは――

 

「――お断りよ。誰があんたに血なんか捧げるものですか。あたしはあたし、そこに誰の指図も存在しない」

 

 きっぱりと、否定した。

 そしてそれを――仁は合意ととったのだろう。

 

「では結構。死に沈み、そのプライドに殺されろ、凡夫――!」

 

 ――誰が凡夫か。

 ノエミは、答えるまでもなく、意識を変えた。

 

 最後に、

 

 仁が、さえずる。

 戦闘の開始を――

 

 

「――では、正々堂々、いざ尋常に、始め――――!」

 

 

 そう、吟じた。




 セイバーが何か凄いものを取り出してきました。
 そしてついに登場、本作の黒幕赤紫羅仁です。CVジョージ? 何のことやら。
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