Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第十章 3

 ――弓弦の離反を、仁はセイバーから聞き届けた。

 既にその様子は知っている。

 

 だが、外からの情報を、あえて仁は取り入れたのだ。

 ――ありえないことだと、そう考えていた。

 アレは、そんな人間ではない、と。

 

 だからこそ、敢えてセイバーの言葉を聞こうとしたのだろう。

 

 セイバーに問いかけた。

 ――最初から、知っていたのか。

 

 セイバーは答えた。

 

「知っていたとも。どうにも初めて見た時から、彼は“場違い”な人間だった。とすれば、その裏にあるものも自然と見れた」

 

 それもそうだろう、とセイバーは言う。

 赤紫羅弓弦はこの戦いの中心人物、その一人なのだ。

 

 それがよもや、アレほどの小者では、赤紫羅という陣営そのものが格落ちしてしまう。

 “何かが在るだろう”というのは、初見で気付くことができたらしい。

 その上で、その何か、が確定したのは、弓弦とアーチャーの会話を聞いた時のことであった。

 

「アレは、彼の“何か”を察していれば、その裏にあるものを読み取ることが容易な会話だ。つまり、彼はマスターを裏切るつもりなのだろう、そう確信したね」

 

 ――あぁ、とそこでセイバーは気づいたように話題を変える。

 

「何故報告しなかったか――僕にそんな義理はないからだ。僕は君のサーヴァントだが、しかしそれ以上に、この場においては単なる駒の一つでしかない」

 

 セイバーには、最初から仁に対する忠誠など存在しない。

 彼の役割は狂言回しだ。

 つまり、盤面の潤滑油。

 

「不幸と思うならそれでいい。これは、彼を見極められなかった君の不幸だ」

 

 セイバーは、そう締めた。

 仁の反応を伺うように、その瞳は己がマスターを向いている。

 

 伺う、というのは正確ではないか。

 ――セイバーは、“見定めている”のだ。

 まるで、自身が世界の裁定者であるかのように、“気取っている”。

 

 わざわざ、裁定者と豪語しているのではない、気取っているのだ。

 セイバーが如何に、周囲への興味が薄いか知れる。

 

 そして、それを聞き届けた仁は、しばしの静寂を周囲に降ろす。

 

 ただ一人の人間が、そうある間を作り――

 

 

「ク、クク、クハハハハハハハハハハハハハハハ――――ッ!」

 

 

 嗤い。

 

 ただ、咲う。

 

 それが、如何にも自身の興味を震わすように。

 

 やがてそれが終わると、

 

「あぁ――愉快だった」

 

 そう、彼は満足気に評した。

 

「いや真逆、俺の息子が俺を裏切るか。――考えもしていなかったなぁ」

 

 まるで解っていなかったのだ。

 解った気になって、それを弓弦と決めつけていた。

 それだけは、――少なくともこの戦いの行く末がなんであれ。

 

 ――それだけ“が”仁の間違いと成りおろう。

 

「謀略の騎士となるか、なるほど如何にも俺の息子らしい。しかし――そこまでなのが息子の限界だな」

 

 戦いの末に、ランサーを弓弦は喪った。

 この叛逆が彼にとっての終着点なのだろう。

 ――とすれば、後を託されるは彼が(いか)した、一人の男。

 

「では――待とうではないか。後は全てを終わらせるだけでいい。もとより、聖杯戦争は、始まりと同時に完結していたのだからな」

 

 仁はそう語る。

 彼の下には最強の英霊たるセイバーと、そして何より大聖杯がある。

 セイバーを、最強たらしめる証。

 

 ――大聖杯。

 

「――明日、これを起動しようか。全てが終わるぞ、その始まりだ」

 

 仁は椅子に腰掛けたまま、セイバーを見遣る。

 

 セイバーは、退屈そうに周囲を見渡していた。

 その視線の先に興味と呼べる感情はない。

 ――もとより、“それ”にそのようなもの期待するべくもないのだが。

 

「あぁまったく――――」

 

 その先は、決して言葉になることはなく――

 

 

 ♪

 

 

 ――正々堂々、いざ尋常に、始め。

 その言葉が、まったくもってそんな意思の下発せられたのではないことくらい、ノエミは理解している。

 

 同時にそこに魔術的な意味が含まれていることも理解できた。

 つまるところ。

 

「――これは正当な決闘である。逃亡はすなわち死を意味する。心せよ」

 

 二の句が、その効用を語っていた。

 ――なんとまぁ、思わず舌を巻く方策である。

 

(これで逃げられなくなった。もっと気軽に、情報だけ抜き取っていくつもりだったのにね!)

 

 まずい、と思うつもりはない。

 死が間近にあることなど、いつものことだ。

 覚悟がなければ、こんな場所には赴かない。

 

(死んだらすまんな。神に祈れよォ!)

 

(悪いわね、神は信じない主義なのよ)

 

 ノエミの返答と同時、戦闘は即座に動き出す。

 ライダーは機体を傾け、目前のセイバーから距離を取る。

 機銃を幾つかばらまいて、その内少しがセイバーを掠めるが、傷のようなものは見られない。

 

 複雑怪奇な紋様が零戦の後に刻まれる。

 セイバーは、それに対して剣を構えた。

 しばらく見定め――やがて飛び出す。

 

「後ろからくるわよッ!」

 

 直線を駆け、ライダーの上方を取る。

 速度はセイバーの方が少しばかり上か。

 だが、決定的な差ではない――!

 

(――――逃走不可の契約魔術。こっちがあいつの指定した決闘場、つまりこの世界に訪れた時点で、それを拡大解釈して契約成立とみなしてる訳ね。擬似的な洗脳魔法。――こっちが“了解”している分、防ぐ手立てが無いのだわ)

 

 思考を回しながら、ノエミはセイバーの観察を続ける。

 機体を転がし、セイバーの縦一閃を回避する。

 続けざまの一撃――横薙ぎ。

 それも避けた。

 機体のスレスレを、銀白の宝剣が駆け抜けてゆく。

 

(あたしと赤紫羅仁との会話の中に、戦闘を了承する文言はなかった。こちらが不利になる情報――例えば名前とか――を明言する余地もなかった。つまり、どんな条件であれ、この空間にはいってしまえば、その時点で契約が成立する)

 

 思わず肝を冷やしながらも、思考は止めない。

 この状態から脱する必要がある。

 ならば、ここで思考を止めるべきではないのだ。

 

(――とんだ詐欺ね。なぁるほど、これは“反則”よねぇ。ここに来てしまえば後はセイバーに狩られるしかない。逃走を防いで、情報すら外に漏らさない、か)

 

 ただ敵を待っているだけでいいのだ。

 そうすれば、セイバーがその敵を確実に殺す。

 それだけの能力がセイバーにはある。

 

 全てが噛み合っていると言わざるをえない。

 この主従に勝利するには、純粋な実力でセイバーを撃破するか、もしくは――――

 

(……ともかく、セイバーの情報を引きずりだすわよ! このまま何の反撃もできずに、死んで溜まるものですか!)

 

 セイバーの剣を、ライダー達は器用に避ける。

 それは小回りの効かない機械の翼であるはずなのに。

 人型のセイバーを上回る機動を、ライダーは容易に描いてみせた。

 

 閃きが、十字に、そして網目に広がる。

 それでも、セイバーはライダーを穿てない。

 

 そして、

 

「――取ったッ!」

 

 後方から、今度はライダーがセイバーを狙う。

 機銃の矛先が、寸分違わず向けられた――!

 それが空を叩く音と共に放たれる。

 

 しかし、

 

「甘いね」

 

 ――セイバーは、振り返りざまに一閃。

 既に放たれていた銃弾を、一振りで即座に切り捨てる。

 その速度、音速以上。

 剣の衝撃が稲妻の如く嘶いて、弾丸を弾き飛ばしてしまった。

 

 それを見るよりも早く、ライダーは機体を下降させた。

 セイバーは、ふた振りの剣を構え、それを追う。

 

 再びチェイスが始まった。

 追うはセイバー、速度を越えた一撃が舞う。

 翔けるライダー、その斬撃すらもすり抜ける。

 

 たしかにセイバーは速いだろう。

 だが、敵を殺すのに、その速さは些か余計だ。

 現にライダーは今も堕ちてはいない。

 

 両者は互いに、笑みらしきモノを浮かべてみせた。

 もはや殺意に塗れ過ぎ、形もわからなくなってしまった獰猛のそれ。

 ――視認できるのはただ一人、ノエミだけだ。

 

「は、――っはぁ! 埒があかないね!」

 

 笑いとも、吐息とも取れるセイバーの声音。

 業を煮やしたか、セイバーは距離をとって剣を構える。

 

「――まずいのは解る! 上を取りなさい、ライダー!」

 

「おうともさ!」

 

 ライダーにとっての優位なポジションは上位。

 何かをしようとするのなら、それをくじき、尚且つチャンスに変えるしか無い。

 

 そのための方法が、“上”なのだ。

 

 機体は尾を引いて空へ上がった。

 セイバーはそれを見上げ、剣を構える。

 

「――さぁ、贅沢な魔力の開放だ。特と耐えて見せるがいいッ!」

 

 直後、両の剣の気配が増大する。

 宝具の開帳――それには至らずとも、擬似的にそうとすら言えるほどの莫大な魔力。

 

 ――まずい、そう思う暇すら無かった。

 

 

 ――――思う前に、セイバーはライダー達の前にいた。

 

 

 人には、認識にすら至らぬ神の域。

 雷の速度が、セイバーをそこまで運んだのだ。

 距離にして数百はあろうかというそれを、一歩、一秒未満で詰めて来た。

 

 回避など、しようと思えるはずもない。

 

 確実に、殺す。

 

 

 ――だが、回避をしようとする前に、動く者もそこにいる。

 

 

 結局のところ、不可能なのは、“回避する”と思考した上での回避なのだ。

 例えばアサシンは、思考した上で回避した。

 それが星の開拓者というスキルである。

 

 例えばそれがライダーならば――

 

 思うまでもない。

 すでにセイバーが視界に収まるその前より、彼は既に動いていた。

 

 ――――再び機体の上方を、此度は膨大な魔力が駆け抜ける。

 

 解き放たれた魔力の一撃だ。

 二本の剣が、その全力とは至らぬまでも出力を開放した。

 少しでも触れていれば、即座に消滅していてもおかしくないほどの威力。

 それを、事も無げにセイバーは操るのだ。

 

(――おい、なんだあの馬鹿火力! 普通じゃねぇだろあんなモン!)

 

 ライダーの抗議がノエミへ飛ぶ。

 機体は降下し、一度セイバーとの距離を取ろうと試みる。

 

(普通じゃないに決まってるでしょ! あんなもの贋作よ贋作。つまりあいつは贋作者(フェイカー)の英霊なわけ。クラスじゃなく、本質としてね)

 

 贋作を作成したことが、多くの逸話を残した英霊ならば多少の数はいるだろう。

 盗作でも構わない。

 つまり、“何かの真似事をする”という宝具を、彼は有していると考えられる。

 

 けれどもライダーは、そのノエミの言葉を否定する。

 

(――違う。そうじゃない。“アレ”が偽物のはずはない、あの機体は、間違いなくスツーカだったはずだ!)

 

 ――それは、空を翔ける者の感。

 自分の相対した“得物”――それを、果たしてライダーが間違えるだろうか。

 彼の直感がそういうのだ、ならば、

 

(――そういうこと、なんでしょうね。アレが贋作じゃないとすれば――答えはひとつ、あいつは“本物”を所有しているか、あいつそのものが宝具ってことよ)

 

 その答えは、ノエミ自身も行き着いてはいた。

 だが、その想像は、あまりに最悪が過ぎるため、意図して蓋をしたものなのだ。

 ――故に、もしもその想像が当たっていれば、

 

 否、大体それは間違っていないだろう。

 

 あの宝具――意匠、つまり出典の違う、しかし原典を同じくするであろう二つの宝剣。

 アレだけの魔力放出は、間違いなく“史実体系”の英霊では敵わないものだ。

 無論、逸話を再現するという意味では可能かもしれないが――そも、史実で原典を同じくしながら、大きく意味を違える剣は存在しない。

 

 史実に登場するものならば、あれは“同じもの”でなければならないのだ。

 だが、違う。

 間違いなくあのふた振りは、それぞれ“別の名を冠する剣”だ。

 

(それを原典とするならば、神代の時代に遡る必要がある――とすればあの英霊は、まさか――――)

 

 視線の先――セイバーは剣を構えライダーの零戦を追っていた。

 やたらめったらに動きまわるライダーに追いつくことができないのかしないのか。

 少なくとも、今は攻撃をしかけてこないようだ。

 

 そのセイバーに、ノエミは問う。

 独り言のような声量であるが、それでもセイバーには届くだろう。

 

「あんた――まさか、その宝具は“本物”だというの?」

 

 ――その言葉に、セイバーはふと、足を止めた。

 

 ふむ、と興味深げに考えこみ、自身から離れていくライダー達を見る。

 

 おそらくは、セイバーの真名、その答えに“たどり着いた”と察したのだろう。

 やがて“パチパチパチ”と、ライダーたちを称えるように拍手をする。

 

「お見事――その通り、この宝具は“宝具としては”本物だ。まぁ、あくまで“あらゆる宝具を再現できる宝具”の一端にすぎないわけだけれど――」

 

 ――事実、ノエミの考えは全く間違ってはいない。

 全てが一人の――否、一つの英霊にたどり着くのだ。

 

 それをセイバーは、実に愉しげな声で告げる。

 

「では名乗ろう、僕はセイバーとして喚ばれた英霊。名を――――――――」




 本作最後の真名当てとなります。
 本物の贋作者。――さて、ではその真名は?
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