Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第十章 4

「――――――――――――――――エルキドゥ。神々に作られし兵器。人を象る宝具そのもの――形を持たない泥人形さ」

 

 エルキドゥ。

 それは『ギルガメッシュ叙事詩』に登場する人類最古の英雄王。

 ――その“友”とされる唯一の人物。

 否、人物というのは正確ではない。

 

 エルキドゥは神によって造られた“兵器”である。

 神造兵器、それがエルキドゥ本来の姿。

 

 やがて、理性を獲得し、人の形を取ることと成った英霊。

 それが今のエルキドゥである。

 

「――なるほど、貴方。“どのクラスにも適正がある”のね。何せあらゆる宝具そのものだもの、やろうと思えば、魔術師のまね事だって、暗殺者のまね事だってできる」

 

「ご名答。セイバーとして喚ばれたのは、たまたまそうなっただけのこと。まぁ、呼ぶならランサーかバーサーカーがいいかな。特に後者は、理性すら持たぬ僕本来の姿――僕の友すら、それを斃すことはできないだろう」

 

 別になんであれ、セイバーはそのクラスにおいて最適に振る舞うことができるだろう。

 だが、その中でもランサーとバーサーカーは別格だ。

 前者は“速度”というエルキドゥ最大の武器を活かすことができ、後者はエルキドゥが原初の姿を取ることができる。

 

「――この剣は、それぞれ後に“カラドボルグ”、“エクスカリバー”と名付けられることになる剣の原典さ。それを僕は“再現”している」

 

 ――稲妻の名を持つ剣が、カラドボルグ。

 もう一つの剣が、エクスカリバー。

 今はまだ無銘であるために宝具としての名を開放することは敵わない。

 だがそれでも、特上クラスの宝具としての威力は、先ほど示して見せたとおりだ。

 

 エルキドゥは神に造られた泥人形。

 彼は“何にでもなることができる宝具”そのものだ。

 そして彼のふるう剣は本物である。

 つまり、あの剣は恐らく――セイバー自身、なのだろう。

 

「かつて世界がひとつだった頃、僕の友は後に世界へ散らばるあらゆる宝具を有していた。そのほぼ全てを、僕はかつての戦いの中で見知っているというわけさ」

 

 その宝具を、“エルキドゥという宝具”で再現したのが、彼の手の中にある二対の剣。

 ――故にそれは本物なのだ。

 正確には“エクスカリバー”、“カラドボルグ”という本物が存在するのではない。

 

 “エルキドゥ”という本物が、そこには存在しているのである。

 

「さて、ライダー。どうする? 僕の正体は知れた。であれば僕を殺せるかい?」

 

「――どうだろうな」

 

 ライダーは、事実を確定させずにそう濁した。

 それが、希望というものだからだ。

 

(――ライダー、“アレ”を切るわよ)

 

(……了解。――ま、実際の所、どうにも反則臭くて好きじゃねぇんだが。こいつが相手なら話は別だ。反則には、反則で持って相手させてもらうぜ!)

 

(何言ってんのよ、あんたもあいつも、正規の方法で喚ばれ、そして正規の手段で反則じみた性能を誇るってだけなのよ! だったら、そこにはちゃんとした正当性があるんだから)

 

 ――反則。

 言ってしまえば、それは奥の手のようなものだ。

 特に、ライダー達の場合。

 

(――ま、三度しか撃てない切札だものな。実質宝具が無いと同じの俺らにとっちゃ、それくらいのサービスはなくちゃなぁ!)

 

「……三度、ね」

 

 セイバーには、それを聞かれるだろうか。

 音にすらなっていないほどの小声で、誰にも伝わらないであろう単語を口にして――

 

(――勝つわよ、ライダー。この戦争、絶ッッ対にあたしたちの勝利で終わらせましょう!)

 

 念話で、そうライダーに発奮をかけた。

 

(おうともさ! 行くぞ、備えろよマスター!)

 

 ライダーが応え、セイバーから距離をとっていた機体を、再びセイバーへと向ける。

 ――それはセイバーも察知したようだ。

 ぼんやりと佇んでいたセイバーが、ニィと笑みを浮かべる。

 

 たった今からライダー達が何を為すのか。

 その意味を、図ろうとしているのだろう。

 少しばかりの興味が、セイバーの視線からは感じられた。

 

 ――つまり。

 セイバーは、ライダー達の“切札”を、把握していない。

 

 ならば勝てる。

 これは初見殺しの類だが、ゆえにこそ。

 

 セイバーを打倒しうる手札となる。

 ――つまり、トランプにおける『スペードの3』。

 

 高らかに、

 

 

「――――令呪をくべとし、さらなる力を開放しなさい、ライダー!」

 

 

 ――ノエミは、勝利宣言のごとく、それを告げた。

 

 

 ♪

 

 

「へぇ」

 

 ――面白いことを考えるものだ。

 セイバーは、少しばかりの賞賛をライダー達へ向けた。

 友ならばこれを蛮勇と呼ぶだろうか――そして、その上で真っ向から打ち破って見せるのだろうか。

 

 そう考え、そしてならばそのとおりに、とセイバーは剣を構える。

 

 ノエミ達のしたことは単純だ。

 令呪を、サーヴァントの強化に使用したのである。

 

 令呪はサーヴァントに対する絶対的な命令権であると同時に、強力な礼装でもある。

 多大な魔力を含んだそれを、サーヴァントの燃料とすることで、一時的にそのステータスを向上させる。

 

 “向上”、そこがポイントだ。

 ライダーの基礎的なステータスは敏捷を除きEランク。

 それを、宝具によって補い、英霊としての強さを手に入れているのである。

 

 ――そこで、宝具はライダーのステータスを“四倍にする”。

 とすればどうだろう。

 令呪によってステータスの母数を一時的に強化されたそれを、四倍にすれば。

 

 その能力は――特に敏捷は、セイバーすらも上回る――!

 

 対処は――速度で上回るならカラドボルグを使うほかない。

 だが、それは恐らくライダーには通用しない。

 セイバーですら、カラドボルグの稲妻の速度は対処できるのだ。

 セイバーの最速を越えたライダーならば――――

 

 語るまでもないだろう。

 

 とすれば――

 

「やはり、真正面から打ち破るほかないか――!」

 

 セイバーは、二つの宝具を十字のように構え、そして魔力を放出させる。

 銘が無いゆえの、十全ではない宝具開放。

 それでも、十分な火力へと到達する開放――!

 

 それが、再びセイバーのてから放たれる。

 

 光が生まれた。

 猛烈な勢いは、高速すら越えて“ライダーのいた場所”を貫く。

 

 ――回避された。

 即座にそれは視認できた。

 気配もそれを是と語る、セイバーは、魔力を放った宝剣を投げ捨てた。

 

 それは虚空へ光となり消える。

 

 ――代わりに、セイバーの周囲に無数の剣が現れる。

 真下から駆け上がるライダーの零戦を迎撃する、数にして十と少しの弾幕だ。

 

 その火力は、一つでも“掠めれば”ライダーを落とす一撃だ。

 それが――

 

 ライダーの複雑な機動によって全てあらぬ方向へ消えていく。

 

「――まずい、ね」

 

 セイバーはわざわざ自分の状況を確認するかのように、思ってもいないことを口にする。

 ――この次はどうする?

 再び弾幕をはるか?

 

 だめだ、密度が足りない。

 必ずどこかに回避の隙が生まれる。

 

 直接斬りかかるか――?

 読まれるだろう、そしてセイバーの“上”を取られることとなる。

 

 ――取れる選択は、どれも次が続かないものだった。

 そして、解決策は生まれない――つまり。

 

「――――とった!」

 

 ライダーの声が、セイバーには届いた。

 

 紛れも無い事実、もはやライダーは、セイバーの目前にまで迫っている。

 

 そして、

 

 その横をためらう事無くすり抜けた。

 セイバーは即座に上方を見る。

 

 ――この時には、既にライダーは宙返りを終えていた。

 もはや信じられないほどの速度。

 機銃が、セイバーの迎撃の手を止めた。

 

 ――――窮地。

 

 それだけは、恐らく間違いない。

 

 とすればここからどう出るか――通常の手では対処しようがない。

 つまり、方法としては二つ。

 

 防御のため宝具、もしくは回避のための宝具に頼るか。

 

 ――真正面から、ライダー達の放った“アレ”を受け止めるかだ。

 

 前者でも何一つ問題はない。

 守りのための宝具ならばいくらでも――アレは結局のところ、神秘の薄いただの爆発だ。

 それを耐えるためなら、何を使っても問題はないだろう。

 

 だが、それではあまりに味気ない。

 

 セイバーを、一瞬ではあるものの上回り、そしてセイバーに新たな手を要求した。

 

「ならばそれに答えようじゃないか――!」

 

 言うが早いか、セイバーは既に行動していた。

 その手には、――それは現出する。

 

 赤い刃だ。

 ――否、刃と呼ぶには程遠い。

 それは赤と黒が交わりうごめく、得体のしれない何かだ。

 

 神秘

 ――莫大な魔力の結集が、それだけがセイバーの“剣”と思われるそれから感じられた。

 

 しかし、それは果たして剣だろうか。

 もっと別の何かではないか?

 そう思うのも無理もないほど、それは剣としての形状から逸脱していた。

 身も蓋もな言い方をしてしまえば、それはドリルだ。

 

 不可思議な形状の、刃のようなドリル。

 

「――さすがに、この宝具の全出力を開放することは敵わない。これは“僕と同格の宝具”なんだ。つまり、これを全出力で放とうと思えば、僕自身をこれに変えなくちゃならない。つまり、僕の宝具の中では、唯一の偽物といえるだろう」

 

 ――だが。

 

「それでもこれは、一振りで君たちの破壊をなぎ払うのは十分だ。――そしてこれは、僕自身ではない僕。とすれば、これこそが僕の宝具らしい宝具といえるだろう」

 

 ――本来であれば本物でなければならない宝具の再現。

 それが“本物にならなかった”時点で、それは“本物とは違う別の宝具”に差し替わる。

 つまり、これは“エルキドゥという宝具ではない”と言えるのだ。

 

 故に――開帳する。

 

「語ろう。この剣の名は“乖離剣エア”、僕の友が保有する、友だけの刃――それを僕は、また別の宝具として放つ――心して消え去るが良い! 不敬!」

 

 まるで、それは彼の友人そのものであるかのように。

 セイバーは、それを目の前の――ライダー達の置き土産。

 

 “三号特爆”へ向ける。

 

 それとほぼ同時。

 ――ライダー達が地に向けて飛び去っていった。

 後に残るは、彼らが残した特爆のみ。

 

 セイバーに新たな宝具を出現させた、それは褒美のようなものだ。

 ――心するがよい。

 

 これが最強にして最古。

 英雄王の名を関する男が、強敵にのみ開帳した宝具の模倣。

 

 そして、エルキドゥという英霊が創りだした、彼自身にして全く新しい“新造”の宝具。

 

 

「――――混沌撹拌す終焉の泥(シャプリシュ・アンマトゥム)ッッッ!」

 

 

 たった一振り。

 

 それだけで、

 

 三号特爆は――その種子弾丸が覆うはずだった一帯は、

 

 ――セイバーの宝具の、破壊の対象となった。

 

 

 ♪

 

 

 それはもはや、単なる光としか認識しえないのであった。

 それでも、一撃に伴う魔力は、ノエミにも――ライダーにすら、感じ取れた。

 

 もはや単なる破壊である。

 

 生存と呼べる行為そのものを禁じられたかのような死の気配。

 つぎ込まれた魔力が、サーヴァントすら飲み込むほどであったのは理解が及ぶ。

 そして故に、異常としか思えないほどに、ライダー達は戦慄を覚えざるを得ない。

 

(どうしたものか……あれほどの破壊となると、そうそう連発も効かないだろうが、しかし、決着をつけるとなればアレをかいくぐる必要があるな)

 

 もう一度接近するとなれば、その時は間違いなく、セイバーはあの剣を抜く。

 どうしたものか。

 ――ライダーの考えは、しかし結論にたどり着かない。

 

(ダメだ、答えが出ん。――こういう頭脳労働はマスターの仕事だ。ともかく、令呪は二画、三号特爆もあと一発。決めるなら、次で――――)

 

 ――ふと、

 

 そこまで考えて、ライダーはようやくその思考に“返答がない”ことに気がついた。

 そも、何故わざわざライダーが主導で思考している?

 この戦闘状況において、そんな余裕は如何にも惜しい。

 そのための役割として、ライダーは戦闘に集中、その間に戦術を組み立てるのは、マスターであるノエミの仕事だ。

 

「……マスター?」

 

 問いかける。

 ――気配は、ある。

 別に、いきなり彼女が消え失せたということはない。

 

 だが、決定的に何かがおかしい。

 返事はない、――どういうことだ?

 

 ちらりと、意識をノエミへ向けた。

 ――そこにあったのは、

 

 

 ――――恐慌状態に陥ったように、ガタガタと体を震わせるノエミであった。




 真名を明かされる最後の英霊。
 本作最強と言っても良い、超特上級の大英霊です。
 七人の英霊の真名が出揃い、いよいよ最終局面へ。
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