Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第十一章 2

「――と、これで大体完了だ。おつかれさん、辰向」

 

「おう、ありがとうな――弓弦」

 

 ――赤紫羅弓弦と、雪白辰向。

 両名は、ある部屋にて作業をしていた。

 

 そこにはもう一つ、人影がある。

 

 ――雪白真華。

 光のともらない瞳で、ぼんやりと辰向達を眺めている。

 状況としては先ほどの辰向と朝海の時と変わらず、彼女は布団に横たわっていた。

 

 顔に疲労は見られないが――常人であれば辛いだろう。

 何せ、四騎のサーヴァントの魔力をその身に宿しているのだから。

 

 小聖杯として改造されたときから、やむないといえばやむないことだ。

 だが、決して許されることでもない。

 今も彼女は、辰向と弓弦という二人の兄を前に、何も思うことができないのだから。

 

 何も思えない。

 しかし生きている。

 ――ただ、精神が崩落したのであればともかく。

 “精神を殺され”、しかも“生かされている”ともなれば、それは地獄の他に無い。

 

 もはやそこに人としての“権限”はない。

 それは“尊厳”ですらない人が人として持つ“概念”そのもの。

 ――死ですらそれは奪うことができず、

 

 ゆえにこそ、ただ“奪われた”故に真華は人の権限を失った。

 

 ふと、弓弦は真華へと視線を向けた。

 それはどこか、安堵に満ちているようであった。

 真華はぼんやりと天井を、辰向達を見上げている。

 ただそれだけが――弓弦には、しかし幸福と思えるだろうか。

 

 なんとはなしに見る少女は、弓弦にとっては、“弓弦が人として在れた証”だ。

 きっと、彼女を守ることができたのは、誇りであったに違いない。

 

 ――だが同時に、そこに負い目を感じていないはずはない。

 それを感じさせないのが赤紫羅弓弦という人間だ。

 

 現に辰向は、手を開閉し、その様子を確かめている。

 ――右手に浮かんだ令呪を、確かめている。

 

 そこに浮かぶ令呪は“四画”。

 二つは辰向のモノ、そしてもう二つは真華のモノだ。

 弓弦はこのためにここにいるのだ。

 つまり、令呪の移譲である。

 簡単な契約ではあるが、何分初めてのことだ、契約の魔術を本懐とする弓弦が、そのサポートをした、というわけである。

 

「――調子はどォだ?」

 

 弓弦は、努めて平静に問いかけた。

 そこに彼が思う“罪悪感”は一切にじまない。

 心を“装う”ことを天才的に得意とする弓弦――自身を偽ったのだ。

 

 ――彼が“天才”である所以は、“押し殺した感情”を自身の中で消化し切ることの巧みさだ。

 心を偽るものなどいくらでもいる、しかしそれにより溜まった鬱憤は、やがてその誰かの中で爆発する。

 それを上手く消化し、“爆発させない”からこその、天才。

 ――赤紫羅弓弦。

 

「問題ないよ。ありがとうな――弓弦」

 

 言いながら、見やった令呪は、今までのものから少し変じる。

 最初、辰向に浮かび上がった令呪は、三つの曲線が中央に集中する、いうなれば渦のようであった。

 これに四画目の令呪が宿ると、中央にその渦を惹き寄せるような“円”が生まれる。

 まるで“四画”の令呪で、それが完成するかのように。

 

「ま、どーてこタァはねェさ。そンじゃあ俺は向こうの方に行く、伝言はあるか?」

 

「そうだな……」

 

 少しばかり、辰向は考えて。

 

「――――絶対勝ってくるからな、と伝えてくれ」

 

 ぽかんと、弓弦はそれに呆けて――

 

「……そいつは俺への伝言じゃネェかよ」

 

 ――ふと、そう苦笑した。

 

 

 ――そして、弓弦が部屋から離れ、後には辰向と真華だけが残る。

 

 

「……まったく――変わらないよな、弓弦はさ」

 

 ふたりきり。

 正確には、別室の朝海達の喧騒が通信されてくるためそうでもないが。

 それでも――恐らく、こうしてふたりきりになるのは、数年ぶりのことだ。

 

 そして先程まで弓弦がいた。

 ――辰向達三人が一堂に会することも、数年ぶりだ。

 

「――だが、背は伸びた。考え方も、六年前とはえらく違うだろう」

 

 六年。

 実際に数字にしてみれば、それは長いようで短い――否、長く、そして同時に短い年月だ。

 

 光陰矢のごとし。

 気がつけば、もうこんな所に辰向はいる。

 真華も、そして弓弦も。

 

「――そう、――だね」

 

 真華は、機械のように返答した。

 声をかけられたことは解るのだ、そしてその問いかけに対し、無難と思える返事を返す。

 機械としては優秀――最低限の“思考力”は残されているのだ。

 

 けれども、それは明らかに人間の所有する知能ではない。

 

「あと少し、だ。……まだ、全てが終わったわけじゃない。だが、もうすぐ終わる。その時、お前を救うのが俺の願いだ。――六年、お前を置いていってしまった時間を、取り戻すぞ」

 

 それは、あまりに“当然”といえば当然の言の葉だろう。

 しかし、それを口にすることは、辰向にとって大いに意味がある。

 

 辰向は無力だ、それを補い、“普通のこと”を普通にこなすための知恵。

 ――在り方は、きっと辰向そのものなのだ。

 

「これから、世界のいろんなことをお前に見せてやる。そのたびに、泣いてくれ、笑ってくれ、――どうか、楽しんで欲しい。そのための世界を、形にしてやるから、さ」

 

 辰向にとって、妹を救うという願いは悲願である。

 しかし同時に彼を構成する要素は決してそれだけではない。

 

 ――結局のところ、だからこそ人は形取ることができるのだ。

 ただしい形であることができる。

 

 一つのことに妄執することは、決して正解とはいえないだろう。

 ただ前を向く、そのために――最善をつくす。

 

 人が人であるということは、そういうことだ。

 

 ――真華は返す。

 笑いもしない。

 泣きもしない。

 感動も何もあったものではない。

 

 ――それでも、ただ辰向の言葉に“正しいと考える”言葉を返す。

 

 

「――うん、――――待ってる」

 

 

 それは短い言葉では在る。

 だが、辰向にとっては、あまりに尊い言葉だっただろう。

 

 

 ♪

 

 

 ――時刻は昼過ぎ。

 場所は変わらず瀬場邸。

 そこには、いくつかの人影が屯していた。

 

 もしくは――雁首をそろえる、か。

 

 瀬場朝海。

 赤紫羅弓弦。

 そして――ノエミ=ミシリエ。

 

 辰向と真華を除く、生存している“瀬場邸に与する”マスター達が集っていた。

 今、まだ現界しているサーヴァント、アサシンとキャスターも同席している。

 

「――さて、それじゃあ始めようかな」

 

 朝海が音頭を取る。

 ――寝ぼけ眼をこすりながら、ここは朝海の寝室だ。

 本来であれば居間でやるべきなのだろうが、朝海が起き抜けであること、また、布団から出たがらなかったためにこうなった。

 

「辰向はどうしたの?」

 

「別室にいる。ちょっと兄妹水入らずってことで。――話は聞いてるよ? 必要であれば口を挟んでくると思う」

 

 ノエミの問いに朝海が答えた。

 あまり答えにはなっていないためか、ノエミは不思議そうに首を傾げた。

 とはいえ、辰向はこの場にはいないが、実質参加しているという説明はなされた。

 それで納得し、了承とした。

 

「さて、じゃあまず一番大事なところから入るけど――突入と最終決戦は今日の夜行うことに決まったよ」

 

「――ま、親父が何をしようとしているのかはしらんが、あの魔術はどう考えても、“長時間放置するのはまずい”からな」

 

 あまり、猶予はないと弓弦は説明する。

 現在街に展開している異世界は、刻々とその重圧を増している。

 おそらくは、完全に“この世界”に現出する腹積もりなのだろう。

 

「突入メンバーはどうするの?」

 

 ノエミの問い。

 答えたのは、アサシンであった。

 

「……私たちアサシン陣営と、キャスター陣営のみの予定です」

 

 渋みのはっきりとしたお茶を、飲みながらの返答だ。

 因みに、正確に言うなら再び生成された『歩き巫女』達もまた、突入することになる。

 

「……そうかい。じゃあ、残りの全部、オメェらに託してやんよ」

 

 弓弦は何でもないようにそういう。

 彼は突入組に入るだけの戦力を有してはいる。

 だが、突入しなくても、さほど問題はない人間である。

 難しいところだ、思うところがあるのだろうか。

 無論、彼の真意を朝海達が察することは不可能に近いが。

 

「全部任せたわ、敗残兵は去るのみよ」

 

 逆に、端から突入の選択肢を切り捨てているのがノエミだ。

 ノエミは魔術師として、サポートはできても戦闘はできない。

 体力に自身はあるがそれだけだ。

 

「――そういうわけですので、ノエミさん。セイバーの情報を開示していただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 

 キャスターが話題を移す。

 ポリ、と机の煎餅をかじりながら、ノエミは“いいほ”と同意する。

 それを飲み込み、

 

「セイバー、真名はエルキドゥ。ギルガメッシュ叙事詩に登場する、英雄王ギルガメッシュの唯一の友にして、英雄王と同等の力を有するもの」

 

「――エルキドゥ、ですか。……まずは、貴方の所見をお聞きしたい」

 

 更に質問するのはアサシンだ。

 

「まぁ、はっきり言って反則。一つ付け加えるなら特上級の、かな。――これは共通認識でいいと思うけど、まともにやって勝てる相手じゃないね」

 

 ――そして、と。

 ここからが本題だ。

 

「――明らかに、あのステータスは異常だよ。そもそも、どれだけ大英霊であっても、アレだけのスペックを引き出すには、どう考えたって魔力が足りない」

 

 ――加えて言えば。

 セイバーは宝具を“作り出している”。

 その度に魔力を消費しているはずで、アレだけの連打、通常であれば不可能なはず。

 

 だのに、それが可能であるという理由がノエミにはわからない。

 何かからくりがあることは確か。

 とすれば、その答えを知っている人間など、この場には一人しかいない。

 

「簡単な話だよ」

 

 弓弦である。

 如何にも、と言った風に気障ったらしい笑みを浮かべて。

 何かの意図あってではないだろう。

 

「親父は大聖杯につながってやがンだ。正確には、大聖杯のある機能にな」

 

 ――そもそも、“現在の世界”に出現した“別の世界”。

 あれの根源はなんであるか――聖杯である。

 正確には、聖杯が持つ、機能そのものだ。

 

「聖杯には、平行世界とつながる力がある。正しくはその術式を、常に聖杯は“吐き出し”続けている。できることっつえば、今回みたいに“聖杯を保管してある世界”を、この世界に引き出したり、みてーなさ」

 

 引き出して、何をするか。

 それを敢えて弓弦は語らない。

 正解を持たない、という点もあるが――想像させるにはあまりある情報だ。

 少なくとも、赤紫羅仁に何の意図もない、なんてことはありえない。

 

「他にもあるんだけどよ。――少し疑問じゃねぇか? 聖杯戦争は莫大な魔力を必要とする。無理にやろうとすれば霊脈が枯れ果てるほどにな。――それを、一体どこから、たった二十年で親父は工面したんだ?」

 

 ――答えは簡単だ。

 

「――――並行世界からだよ。それもこれも、雪白姫香の“平行世界の運営”一歩手前の魔術があってこそ、だな」

 

 もしも、宝石翁(キシュア・ゼルレッチ)が第二魔法を行使できなければ――

 第二魔法の使い手は、雪白姫香であったかもしれないのだ。

 ただしそうするには雪白姫香には“最後の壁”が残されていたのだが。

 

 簡単にいえば、姫香は平行世界の“XとYどちらか”しか運営ができない。

 宝石翁には“どちらも”移動する力がある。

 これを覆さない限り、姫香の魔法はあくまで、“魔法一歩手前”でしかないのだが。

 

「後は、まぁ基本は二刀の剣を要いた接近戦を主体とするわ。時折、宝具を連発してくるけれど、コレは速度があればなんとでもなるわね。問題があるとすれば――」

 

「――消耗戦は望めない、そして何より、彼の最大出力ですね」

 

 アサシンの言うとおり、前者は言うまでもない。

 そして、“最大出力”、つまり――乖離剣エアを使用された場合。

 

「正直、アレを受けるのは手に負えないでしょう。令呪一画は欲しいですね」

 

 とはキャスター談。

 アサシンに関しては、そもそもそれを防御する方法がない。

 

「攻略法としては、大聖杯を破壊してしまうのがよいでしょう。確か、大聖杯は破壊しても、小聖杯さえあれば問題はないのですよね?」

 

 アサシンの問い、弓弦が答える。

 

「あぁ、そもそも大聖杯は“聖杯戦争の舞台を整える”という目的と、“小聖杯を使って根源へ至る穴を開ける”という目的の補助器だ。願望機を争う聖杯戦争を開くなら、大聖杯は必要ない」

 

 元は、大聖杯の重要度の方が高いのだ。

 だがこの聖杯戦争の場合、根源へいたろうという魔術師はいない。

 つまり本来用をなすはずだった大聖杯は、ほとんど用を成さなくなっている。

 

「コレに関しては私とマスターが行いましょう。……キャスターとは連携が上手く行きません。念話を使用できる主従がセイバーにあたるのが賢明かと」

 

 念話だけは、どうやっても妨害されない通信手段だ。

 故に、サーヴァント二体でセイバーにあたるのではなく、サーヴァントと、それに類する力を持つ辰向が、サーヴァント“セイバー”と激突する。

 

 コレに関しては、異論はない。

 

「そして攻略法――もう一つについて」

 

 朝海が、話題を移す。

 この場は“情報を共有”するための場だ。

 対策は後ほど、朝海と辰向、及びそのサーヴァントで行う。

 余談であるが、現在この瀬場邸はキャスターの陣地となっているため、仁のレーダーは届かない。

 というよりも昨日の時点で撤去されている。

 

「まぁ単純な話だけれど、セイバーは“マスターを殺せば”、現界できなくなる。――正直な所、セイバー陣営の攻略法はマスターを殺す他ないだろうね」

 

 コレに関して異論はない。

 ――まずは、情報の整理だ。

 

 周囲の視線が弓弦とノエミ。

 赤紫羅仁の息子と、仁と直接相対したものへと注がれる。

 

 ――――状況は、次の段階へと移る。

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