Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第十二章 2

 闇に溶け込んだ世界に、在るのは三騎のサーヴァントと、三人の人間。

 辰向は、軽く朝海の肩に触れた。

 

「――じゃあ、行ってくる」

 

「死なないでよね?」

 

 ニィ、と朝海はそれに応えて。

 辰向はしっかりと首肯すると体を落とした。

 勢い紛れに、セイバーへと突貫するのだ。

 

「――――へぇ」

 

 一瞬の肉薄、速度はキャスターの身体強化もあり、相応の物がある。

 たったの一歩で、辰向は既にセイバーの前にいた。

 

 閃き――剣と剣が衝突する悲鳴。

 ほぼそれは同時であった。

 辰向のギミックナイフと、セイバーが操る宝具“カラドボルグ”。

 振り下ろしたナイフと、受け止めたカラドボルグ。

 直後、セイバーの顔にギミックナイフから噴出した血がほとばしる。

 

 顔に張り付いたそれをセイバーは、軽く拭った。

 回避しようという素振りは、見せることすらしなかった。

 

「……っ!」

 

 辰向が続く二の太刀――出現したもう一つの宝具、“エクスカリバー”、その原典を回避する。

 セイバーは一切動じた様子を見せず、興味深げに辰向を見る。

 さすがに、種くらいは知れているだろう。

 辰向は再びナイフを構え、突撃した。

 

 振るわれるナイフを、的確にセイバーは防いでいく。

 その度に、ナイフに蓄積された辰向の血が彼に注がれるが、時にそれはおかしな方向へ消え、時にそれは彼の服に引っ掛かる。

 その服自体も彼であるために効果はあるだろうが、とかく。

 

 辰向の手が大きく後ろへそらされた。

 もとより、セイバーは様子を見るように辰向の剣を往なしていたのだ。

 少し払うだけで、辰向は攻勢を失う。

 

「――ここまでか!」

 

 言葉とともに、辰向はナイフを持たない手に“何か”を取り出す。

 光の少ない場所ではあるが、さすがにセイバーが見えないということはない。

 

「閃光手榴弾、か」

 

 言葉とともに――

 

 ――彼の周囲は、光に包まれた。

 

 それはすぐそばの赤紫羅仁も同様である。

 

 辰向はセイバーの横を、通り抜けるようにかけていく。

 彼は気配遮断ができるだろう、それをしないのは、セイバーを挑発しているのだ。

 そして、

 

「……一つ、ではないね?」

 

 セイバーの超感覚に、もう一つ存在が認識される。

 ノイズのような曖昧な認識だ、恐らくこちらは気配遮断をしている。

 このレベルの気配遮断に、サーヴァント級の魔力、十中八九アサシンである。

 

「いいだろう、乗ってあげよう!」

 

 そちらへ振り向くセイバー。

 仁は止めることをしなかった。

 無駄だということ理解しているからだ。

 さらに言えば、セイバーと仁を分断した方が、状況が明確化しやすいということもある。

 

 やがて、辰向とアサシン、そしてセイバーがその場から掻き消える。

 光が収まった頃には、そこには朝海達と仁しかいない。

 

 ――否、それ以外にもいない。

 キャスター達の周囲にいた歩き巫女が、消え失せている。

 彼女たちは気配遮断のスキルがある、潜伏したであろうことは想像に難くない。

 

「――状況は整ったようだ。血沸き肉踊るには、あまりにお誂え向きだと思うがなぁ!」

 

 赤紫羅仁は、咆哮と共に立ち上がる。

 その視線の先、朝海とキャスターも同様だ。

 

 既にセイバーとアサシン陣営も戦闘を始めていることだろう。

 

 ――長かった聖杯戦争の終わり。

 最後の戦いが、

 

 

 これから始まる。

 

 

 ♪

 

 

 雪白辰向は空にあった。

 彼が目指すのはこの大樹の最上部である。

 

 ――こんな話をノエミから聞いた。

 この神樹の世界の天蓋は緑色の木の葉に覆われている。

 闇に染まり藍色に変わったそれは、異様なほど異様と言えて、そして決定的に異質を思わせた。

 

 端的に言えば、その場を漂う魔力は尋常でなかった。

 加えて、そちらを直接視界に拝もうとした時、セイバーがそれを遮ったのだ。

 偶然にも思えるが――

 

 辰向は、自身に併せて上昇し続ける、目前のセイバーを睨みつけた。

 

「……そこをどけ、俺はこの上に用がある」

 

「それは困ったね。僕としては、それは非常に困るのだ」

 

 わざとらしいほどに苦笑しながら、セイバーは言う。

 ――偶然、ということはないだろう。

 それをセイバーはあからさまに伝えたのだ。

 何かがある――そしてその何かは魔力に満ちている――

 

 想定されるのは、“魔力の根本”がそこにあるということだ。

 つまり、

 

 ――大聖杯の“核”というわけだ。

 

 とはいえ、辰向の言葉はそれなりのリスクを伴う。

 セイバーに対してケンカを売ったのだ。

 ――実質的な、戦闘開始の合図であった。

 

 セイバーが構える。

 だが、それよりも早く、辰向はナイフをセイバーへと構え突進した――!

 

 先手必勝、明らかな格上であるセイバーに、一手でも攻めを許した時点でそれはすなわち敗北だ。

 

 だが、それだけでは勝利を得ることもまた不可能。

 どうしたって、必ずどこかで手数によって辰向は押し切られる運命にある。

 

 肉薄。

 ――だが、更に辰向はそこで次への駆動を行っていた。

 体をバネに振るった刃、それを、セイバーが出現させた宝剣へ激突させる。

 激しい衝撃と筒音が周囲へはじけ飛ぶ。

 辰向は、その中で躍動した。

 

 セイバーが防いだと同時、辰向の体は後方へ飛ぶ。

 斬撃を相手に浴びせた反発だ。

 多少角度を変えながら、辰向は元の場所より少しずれた場所に足場を置く。

 

 セイバーが追撃に腰を落とした。

 それを迎撃するべく、辰向は彼に銃弾を浴びせつける。

 ナイフを持たない手で取り出し放つのだ。

 

 それらは全てセイバーの手元であらぬ方へと飛び散り消える。

 弾いた、さながら創作の中で行われるそれの如く、剣で銃弾を弾き飛ばしたのだ。

 ――剣閃は、辰向の視界には収まらなかった。

 

「っ――!」

 

 直後には、セイバーが目の前にいる。

 一撃、“カラドボルグ”を、反射的に辰向は弾いた。

 同時、彼の手から銃弾が見舞われる。

 三手が同時にセイバーへ向けられた。

 

 ――弾いて、反撃すると共に、辰向は上方へ飛び上がったのだ。

 セイバーの上を回転するように、体を半回転させて――

 

 “エクスカリバー”が閃く、超至近距離の銃弾が、ひしゃげ散った。

 だが、セイバーの剣はそれで、辰向が上手から繰り出すナイフと激突する――!

 

 更に、銃弾もおまけと浴びせ、辰向はセイバーの後方へ回る。

 だがセイバーはそれよりも早かった。

 手数は同数、ならばそろそろセイバーは辰向の速度を追い越すというもの――

 

 背中合わせであったはずの両者は、辰向の背がセイバーへ向けられる状況へ変わった。

 ――そうなるはずだ。

 少なくとも、地上であれば。

 

 セイバーの後方へ回るはずだった辰向の体は、空中で“静止した”。

 剣は虚空をからっきる。

 風がセイバーをはためかせ、そして――セイバーに、辰向のナイフが見舞われる。

 

 だが、

 

「甘いね」

 

 ――そこへ、空白から刃が強襲する。

 セイバーの宝具射出である。

 

 途端、辰向はセイバーから距離を取り、その場を離れる。

 セイバーの真正面を通り過ぎた辰向の服を、宝具の一つがかすめ切り裂いていった。

 

「ぉ、ぉぉおお!」

 

 思わず、と言った様子で辰向から声が漏れる。

 驚嘆と安堵、それらがないまぜとなっていた。

 

(くそ! 完全に遊ばれている! こっちの攻撃がひとつも通るヴィジョンが見えない!)

 

 下方へ一息に駆け抜けていった辰向は、態勢を立て直しセイバーを見上げる。

 そこには、最強のサーヴァントが、笑みを浮かべて佇んでいた。

 

 

 ♪

 

 

 キャスターと赤紫羅仁、両者はジリジリとその距離を詰めていた。

 言うに及ばず、キャスターは武人たらんという態度だ。

 あくまで毅然としている。

 

 だが、朝海にとって意外であるのは、それが仁も同様であるということだ。

 彼はあまりに自然体であった、先ほどまでの高慢も、侮辱に満ちた態度ももはや消え失せている。

 ただ拳を構え、真正面からキャスターを睨みつけていた。

 

 それは沈黙であり、しかし激戦であった。

 

 一つ、精神に小石が混ざるだけでもその水面は揺らぐ。

 その一瞬には、精神を揺らがせた方が無残に地に伏すこととなるのだ。

 

 一瞬の闘気がその行き先でぶつかり合う。

 形はない、しかし互いの意思が、互いの意図を刈り取るのである。

 

 さながら精神イメージの中でのみ行われる戦闘、というべきか。

 

 二人の思考の中で、次の瞬間飛び出した後の、イメージが完成している。

 それが自身の勝利を確定的に告げない限り、両者は動くことはない。

 つまり、戦略の中でのみ、両者は戦闘しているのだ。

 

 ――そして、最初に動くのはキャスターでなければならなかった。

 仁とキャスターは互いに少しずつ位置を変えている。

 その際に、仁は“武人としての必殺”以外の必殺を有する。

 その間合いに飛び込めば、キャスターは確実に不利を得る。

 つまり、その間合いに入る前に、キャスターは打って出なければならないのだ。

 

 時は、永遠か、しかし瞬間か、そのどちらでもあるような一時に、出現してみせる。

 

「――ッ!」

 

 キャスターは、ついに体を動かした。

 この場所であれば、仁に対して有利に手を打てる。

 

 ――だが、確殺ではないのだ。

 そして仁には、それ以上の迎撃方法が存在している。

 

 

「――手折る狼(レッド・キラー)

 

 

 冷酷な宣言であった。

 瞬間。

 黒に満ちた皮を纏う、殺意を伴う狼が出現する――!

 

 キャスターはその場に防御障壁を展開すると、横に飛ぶ。

 視線は狼に向けたまま、狼の“対応”を見るのだ。

 

 果たして狼は、一瞬直線してみせるものの、即座に方向を転換、キャスターへと迫る。

 

 そこへ、次いでキャスターはクナイを放つ。

 狼はそれを“呑み込んだ”。

 

 まるで意に介さず、更にキャスターへと牙を剥く。

 速度は、しかし決して対応できないほどではない――!

 

 再びキャスターが障壁を展開する。

 それで、十分だった。

 間近に迫った狼が一瞬停止し、そしてその隙にキャスターは飛びのく。

 直後障壁は砕け散り、狼はそのまま真っすぐを駆け抜けた。

 

 ――大凡予想通り。

 この宝具は、ある程度のホーミングはあれど、“反転してまで襲い掛かることはない”。

 これはノエミから戦闘の詳細を聞いた上での推測と一致していた。

 これならば十分に、サーヴァントであれば回避は可能。

 

 ――だが、此度の戦闘はノエミの時と大きく違いが在る。

 赤紫羅仁が暴れまわる足場が存在するということだ。

 

「っ!!」

 

 気がつけば、仁は既にキャスターの前にいた。

 拳を振り絞り、腰を溜めてのストレート――正拳突きに近い構えだ。

 

 予測の上では在る。

 けれども、目の前に迫る赤紫羅仁の拳法家としての気圧は、まさしく別格のそれであった。

 忍者――スパイとしての最低限の身のこなしが武器であるキャスターにとって、それは言葉を絶するにあまりあるだろう。

 

 クナイでそれを受け止めると同時、彼女は後方へ吹き飛ばされるように跳んだ。

 

「キャスター!」

 

 朝海の叫び、それと同時、赤紫羅仁の視線が朝海へと向けられる。

 

「――ッ!」

 

 一瞬、朝海は思わず息を呑んだ。

 距離は数十メートル。

 戦闘を行うにしても遠いほどの距離がある。

 だのに、仁の圧が、朝海にまで到達した。

 

 ――それでも、

 

 朝海は、

 

 その視線に対し、あくまで敵意で返した。

 

 同時、

 

「――魂魄よ、我が意に応えて!」

 

 朝海の言葉に呼応するように、彼女の周囲に青の人魂が浮かぶ。

 ――鬼火、それは熱を伴っていた。

 

「眼前の敵を、燃やしてしまえ――――!」

 

 祈り、もしくは依頼。

 ――自身を信仰する霊魂達へ働きかけるのが、朝海の魔術。

 彼女の言葉に従い、手元から出現した炎が赤紫羅仁へと襲いかかる――!

 

 ただし、

 

「――愚かな」

 

 どれだけ強靭な精神を有していようと、そこに力が伴わなければ、

 

 ――そこに、意味が伴うとは、限らないのだ。

 

「――――手折る狼!」

 

 再び、仁の手元から“狼”が出現する。

 少女を喰らう、嘘つき狼。

 それは霊ですら――死んでいてすら、たやすく飲み込んでいく。

 

「……ッ!」

 

 ――速い。

 その速度は、サーヴァントであれば回避は可能だろう。

 だが、――人であれば、回避をしようと思うことすら難しいだろう。

 

 朝海の視線は、狼に向けたまま硬直した。

 体は、既に命令を告げている。

 ――間に合わない。

 

 ――――故に、

 

 朝海は、したり顔で、笑みを浮かべる。

 

 直後、朝海の体は弾かれた。

 “横に”、“狼から引き剥がされるように”。

 

 原理は単純。

 朝海はこの状況をみこし、狼が出現するよりも早く、歩き巫女を動かしていたのだ。

 

 かなり強引ではある。

 それでも、狼が朝海の横を通り過ぎたことは、事実であった。

 

 そして、

 

 それを意識するよりも早く、仁へキャスターが強襲する。

 

 クナイの投擲、二本のそれを払ったかと思えば、既にキャスターは懐へと飛び込んでいた。

 ――体重を載せた掌底。

 叩きこむのは人体の急所――みぞおちだ。

 

 それを、仁はなんでもないかのように弾く。

 キャスターは連撃、しかしそれすら仁は対応してみせた。

 

 キャスターの身体能力が、サーヴァントとしては低いのもある。

 だが何よりも、膨大な魔力による強化は、彼を人の外れた道にまで達するに至らせたのだろう。

 

 それでも――

 

 問題はない。

 

 この連撃の時点で、仁は狼を朝海へ向け、更にキャスターの攻撃を生身でさばいた。

 手数を全て、何より同時に開放したことになる。

 

 結果、彼の後方は完全にがら空きとなる。

 

 それを待ちわびていた影が一人――この場に突入した“もう一人の歩き巫女”。

 

 気配遮断により仁の背後へ回った彼女は、手にクナイを構えていた。

 不意打ち、この状況なら、回避する余裕は仁にはない。

 

 故に――既にクナイは振りかぶられていた。

 

 

 黒鉄色の刃が、赤紫羅仁へと突き立てられる――!

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