キャスターの個人的な所見において、自身と赤紫羅仁の武力はほぼ同等。
遠距離からの必殺が望める彼の方が、若干優位、という程度。
とはいえ、継戦能力は間違いなくあちらが上だ。
何せ無限の魔力を有するのだから。
故に、キャスターにはジリ貧になる前に何としてでも仁を討つ必要があった。
最悪を想定した場合、歩き巫女は一人であれば失って構わない。
冷徹な思考であるが、それを行えるキャスターの柔軟な思考は美点である。
そも、彼女たちは既に死んでいるのだから、たとえ消え失せたとて死ぬわけではないのだから。
仁は目前に出現した歩き巫女達を、ほぼ意識すらせず軽々と吹き飛ばす。
歩き巫女達の踏み込みが、“甘すぎる”ことを理解しているのだ。
つまり、回避への移行が簡単である。
ならばそれにかまけるのは阿呆のすること。
――だが、
それにしては仁は彼女達を歯牙にかけてもいない。
歩き巫女を排除すれば、手数という優位を、確実にキャスターは失うというのに。
(……歩き巫女を意識していない?)
歩き巫女達を突破したことにより、仁とキャスターの間が開けた。
若干距離が取られすぎている。
とすればここで仁が取る選択は――
「――手折る狼!」
宝具、狼の牙一択だ。
(――もしかして、……キャスター、私が前に出る! 危なくなったらいつでも回収できるように準備して!)
何かに感づいた様子の朝海。
キャスターは防御障壁を展開しながら、それに応じる。
朝海は無茶をするという。
不安はあるが、“守れ”とのお達しだ――勝手に出るよりも、好感である。
朝海は気配遮断によって仁へと近づいた。
如何に高い実力を有しようと、その気配遮断はスキルの域。
人に感知することは不可能だ。
やがて、真後ろから朝海は仁へと接近した。
ここから一撃を放っても、仁を殺すことは敵わない。
だが――これをすることに、大きな意味が存在するのだ。
「――人魂よ」
攻勢に出る、と同時に気配遮断は解かれる。
“不意に気配が現れる”のだ。
その異質は言うに及ばず、仁に感じ取れないはずはない。
「――焔となれ、我が意の下で!」
炎を構え、接近する。
このまま仁ヘ迫っても、意味のない一撃だ。
とすればここで反応する理由はない。
――だのに、仁は即座に振り向き、笑みとともに朝海へ迎え撃った。
♪
辰向へと一直線へ突き進んだセイバーの剣。
稲妻と称されるそれは、しかし、
「――へぇ」
――辰向の脇を、通り抜けていた。
目前にセイバーがいる。
鼻先の距離だ、少しでも接近すれば衝突する。
「一撃が直線的過ぎるんだよ。だから、来るとわかっていれば躱せる」
「……ふぅん。まぁ、そういう一撃を放つのがこの剣だ。雑魚の掃討ならばともかく、達人同士の決闘には不向きな訳だ」
――そも、“カラドボルグ”には、稲妻の如く、という他に、無限のレンジという武器がある。
どこまでも伸びるのだ、この宝剣は。
故に、達人級の相手とやり合う場合、間合いを無視することの方が、有用と言える。
セイバーがそれを使用しないのは、単純に“あまりにも長大な剣”の取り回しが性に合わないのが大きい。
彼は速度のサーヴァントである。
本来の適正はランサーなのだ。
「この“神がかり”な速度は好ましかったのだけれどもね、君に回避されるということは、我がマスターにすら届かないか」
空を切った剣を抜き去り、その場で軽く、血を払うようにふるう。
本来ならばそこに、辰向の朱が混じっていたはずなのだ。
「そうかい!」
辰向は、その場で閃光手榴弾を起動させた。
超至近距離で使う場合に、巻き添えを喰らわないコレは使い勝手がいいのだろう。
そして――
「……そういえば、君も気配遮断を使えたのだったね」
辰向の気配がノイズにまみれた。
潰れた視界にあやふやな気配。
追いかけるには濃厚な罠がそれを阻む、強引に突破することは可能だが、スマートではない。
それに、万が一セイバーの装甲を貫く何かがあるのであれば、この状況での接近は悪手だ。
木の葉の中へと消えていく辰向を見送って、その少し後にセイバーもそれへ続いた。
♪
――中は、意外なほど視界が広く、だが狭い。
周囲に張り巡らされた樹の枝は、この場にいるものの視界を遮り、時に開けさせる。
アミダの如き、無数の路。
どこへ続いているというでもない無作為なそれが、セイバーの視界には広がっている。
気配は二つ、相変わらずノイズに塗れ、“誰が誰”であるかはしれないが、“誰がいるか”はセイバーには解る。
迫る気配がひとつ、その後ろでこちらを観察する気配がひとつ――
攻めてくるのは――
「まずは君か、まぁ同じ相手は……疲れるからね!」
セイバーの真正面からそれは出現した。
こちらが気配察知を有していることを理解した上で、敢えて正面から踊り出るのだ。
言葉と共に、振るわれた剣は“アサシン”を捉える。
回避不可能の距離。
――だが、
銃弾。
既にそれはセイバーへ見舞われていた。
アサシンは銃弾を“放ってから”、この場に現れたのだ。
つまり、セイバーの刃はアサシンではなく、その銃弾に向けて振るわれる。
続けざまに一発。
そちらも、セイバーは切り払う。
そして、三発目――!
放たれたのを理解した後、セイバーは首を傾げ、それを回避した。
空振った銃弾が闇に消え、アサシンはセイバーの少し上にある樹に手をかけ、上へ上がる。
このまま駆け抜けようというのだ。
セイバーは上を見上げ、視線で追う。
そちらに飛び上がるか――そこまで考え、しかしやめた。
辰向がまだ見えていない。
不用意に動くべきではないだろう。
とすれば――
セイバーは空中に名も知れぬ宝具を生み出した。
いくつかの刃。
刃に限らず、槍の穂先もアサシンを狙う。
直接狙う物、アサシンの逃亡を阻む物。
十とそれ以上の幾つかが、同時にアサシンへ向け放たれる――!
銃声が木々を震わせた。
アサシンは拳銃をそれらにむけ、幾つかに発砲、さすがはサーヴァントの感覚か、直撃させる。
それにより向きを変えたそれらはあらぬ方向へ消えていく。
回避はなった。
軽い鍔迫り合いのようなもの。
引き分け、というやつだろう――セイバーはそこまで考え、しかし。
直後、爆発へ巻き込まれた。
――アサシンが上方へ逃げたために意識がそれたのだ。
アサシンの置き土産である手榴弾。
それにセイバーは、直撃を受けるまで気が付かなかったのだ。
――正確には、直撃を受ける寸前に宝具で自身を守るまで、
「ふむ、危ないじゃないか」
言うほど彼は慌てていないが、心底で驚嘆を覚えたのは事実である。
してやられたのは事実、なるほどどうやら、向こうは戦略面で完全にセイバーを上回っているらしい。
――なるほど、
「それは……圧倒のしがいがあるね――!」
言葉と共に、セイバーは察知していた。
直線的にアサシンとは違う別の気配が迫っている。
――辰向である。
彼はアサシンと違い、木々以外の足場を利用しながらではなく、強引に直線を駆け抜けてくる。
セイバーが意識を向けた時には、もう視界に辰向がいた。
鉄が悲鳴を上げる、両者は刃を這わせていた。
あくまで鋭い視線で敵意を込める辰向。
対するセイバーは、愉しげに上方から襲いかかった辰向を見上げていた。
激突した刃が弾かれる。
それにより、辰向が猛烈な勢いで吹き飛ばされる。
セイバーは躊躇わず後を追った。
明らかな誘いである、アサシンが離脱してから動きを見せないのも気がかりである。
それでも、それが枷となることはない。
そこでためらうのは、臆病なモノのすることだ。
目前の枝へ飛び乗り更に足に力を込める。
――そこへ、真正面から銃弾が迫る。
それを払う、辰向は思いの外近くに在った。
二の太刀を引き出そうというのだろう。
故に、それに乗る。
ここで退けばアサシンが追撃をかけるだろう、というのはある。
――単なるサーヴァントとも渡り合える人間でしかない辰向よりも、セイバーすら“可能性の上では”打倒しうるアサシンの方が間違いなく脅威だ。
そんな非常に合理的な意識とは別に、“思惑を踏みつぶす”ことを、セイバーは嘱望した。
一度裏を書かれたのだ、今度はこちらが、真正面から討ち果たさなければメンツが立たない。
セイバーは、確かに二の太刀で辰向へ斬りかかる。
だが、それが“次の一撃”であるという保証はどこにもない。
――そう。
辰向に、セイバーが即座に作り上げた宝具の射出がせまる――!
「……ッッッグ!」
それは弾くのがギリギリだっただろう。
辰向はナイフを使用し、無理な体勢で剣を逸らした。
だが、それが辰向の隙となる。
その状態に、――セイバーの刃が見舞われる。
だが、
――刃は弾かれた、辰向ではなくアサシンによって。
セイバーは、自身の手に異様な衝撃が生まれたのを感じた。
それにより思わず剣を取り落としたのだ。
――若干の驚愕。
(なるほど、スナイプされたわけだ)
言葉にしてみればそれだけのこと。
アサシンに撃たれた、というわけだ。
先ほどまでノイズに毛羽立っていたアサシンの気配が、今はずいぶんクリアになっている。
――けれども、
(ここで引くは下策も下策、まだ踏み込ませてもらう――!)
セイバーは、即座に剣を“再生成”した。
取り直すのではなく、新造するのだ。
故にタイムロスは、ほんの数瞬にすら満たない。
それでも、辰向はその間に持ち直していた。
互いの能力差ゆえ、それはかなりギリギリではある。
だが、その“ギリギリ”を理解した上で、辰向は間に合わせてみせたのだ。
(――お互いの手でお互いが封殺された)
ギィッッ――ナイフと剣が激突した。
それだけでも、風圧が生まれる。
(引き分け、だな)
二度、三度、セイバーの剣が行き交う。
辰向はそれを良く避けた。
しかし、途中でそれが“立ち行かなくなる”のは、自明の理。
――捉えた。
だというのに、それを阻む者が入る。
――アサシン。
間近の気配が銃弾を放つのをセイバーは察知した。
即座にそれを切り払う。
――同時、更に辰向が銃弾を放った、それも払う。
そこへ、
アサシンが急速に接近する――!
「――ック!」
――――疾い。
セイバーが、この場に置いて唯一警戒するに足る力。
アサシンのスキル、“星の開拓者”。
明らかに、アサシンはアサシンの出せる速度を逸している。
マスターの窮地に駆けつけるという不可能を“不可能のまま”可能にする力。
この聖杯戦争において、“唯一”真正面からセイバーを打倒しうるサーヴァント。
実質、挟み撃ちにされた形となる。
――牽制に近い形で、宝具を乱射アサシンへ弾幕を叩きつける。
しかし、届かない。
まるで“最初から見えていたかのように”アサシンは隙間をくぐり抜けてみせるのだ。
回避が不可能な部分は、拳銃の銃弾で無理やり回避する空間を作り上げる。
――小手先の対処は不可能。
とすれば、ここで取るべき方策は――
「――マスター!」
セイバーは構える。
それと同時、アサシンが辰向へ向けて呼びかける。
――セイバーの握る宝剣、“エクスカリバー”に“カラドボルグ”。
両者へ、尋常ではないほどの魔力が通るのが周囲へ知れ渡る。
つまり、宝具の全力開放。
銘が存在しないがために後の“最大火力”には及ばないものの。
それは“本物”が開放した魔力の一撃。
周囲一体をなぎ払う回避不可の必殺。
無論、それを何とかする方法は幾らでもある。
アサシン陣営はこの戦闘、令呪を切ることに何の躊躇いも覚えないだろう。
何せマスターの手のひらには四画の令呪がある。
一つの戦闘につぎ込むには、それはあまりに潤沢であった。
――セイバーの考えはこうだ。
どちらか単体に打っても、それは“ただ逃げられるだけ”。
辰向に放てば話は変わるが、その場合宝具を放つ間、アサシンを完全にノーマークへする必要がある。
故に、“どちらもがセイバーの射程にある”この場面でなければ、宝具は開放できない。
しかしこの場面であれば、“アサシンはノーマーク”にならない。
辰向達は令呪を切るほかないわけだ。
そうなれば、令呪を使い退避した辰向達へ、“もう一度”宝具を放てばいい。
その後は――アサシンの“星の開拓者”に賭けるか、はたまた再び令呪を切るか。
「――――吹き飛べ!」
どちらにせよ、この盤面であれば、確実に状況を優位に引っ張れる。
それがセイバーの結論であった。
――しかし、辰向の行動は、セイバーの思考の上を行く。
先ほどのアサシンの呼びかけに応えた辰向は高らかにそれを宣言する。
「――あぁ、“宝具を開帳しろ”、アサシン!」
放たれる閃光。
決定的な死の暴圧。
だが、それと同時――
「――――――――“
アサシンの宝具が、
破壊すらも飲み込み、セイバーを対象として、展開された。
明日から旅行に出かけてくるので、更新はできますがストックは貯まりません、毎日更新で完走できなかったらきっとそのせいです。