Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第十二章 9

 乖離剣エアの元に、死が集う。

 その死は、死という概念そのものは、しかし形となって辰向の目の前に現れる。

 

 後方には大聖杯。

 無数の枝に包まれた“人”を内包した奇跡の結晶。

 

 乖離剣エア――そのレプリカにして、それと“同種の”兵器そのものは、神造の泥人形。

 ――エルキドゥの手に収まっている。

 エルキドゥ――セイバーはただ立っていた。

 剣を構えることはない、彼にそれを必要とする武術はない。

 

 ただ剣をふるうだけ――それで全てを屠るのだ。

 それができるだけの実力が、セイバーにはある。

 

 光は、もはや見上げるほどになっていた。

 大聖杯すらも覆い尽くし、雪白辰向――セイバーと相対する餌の前に顕現している。

 

 そう、顕現。

 

 それはもはや、一つの“世界”そのものだ。

 これより乖離剣が開闢する世界――“エヌマ・エリシュ”。

 

 それを作るはひとつの泥。

 ひとつの地。

 

 エルキドゥ。

 

「――三度その名を口にしよう。君にこうして直接語るのは初めてか。さぁ、これは世界を“始める”ための破壊だ」

 

 ――――――――来る。

 

「そこにもはや、君の存在はありえない。――死だ、君はこの死に包まれ、消え去る運命なのだ――」

 

 ――その時が、

 

 長きに渡り、こうして相対していた故に、“存在していた時間”が、形となる。

 

 雪白辰向が、

 

 

 ――――――――待ちわびていた、時が来る。

 

 

「――――セイバー――高い気配察知を有する英霊に対し、“不意をつく”とすればどうするべきか、そう考えていた」

 

 ポツリと、

 そんなことを辰向は口にした。

 

「通常、それはどうやったって不可能だ。相手の察知距離は、こちらがたとえどれだけの場所から狙撃できようと、“そこ”すら察知する」

 

 ――ましてや、今目の前で拳銃を構えるなどもってのほか。

 少しでも手を動かせば、その瞬間にセイバーはその意図を察するだろう。

 故に、辰向はこの瞬間セイバーが現れても、何もしなかった。

 “何の意味もないのだから”。

 

「――つまり、それをかいくぐるには、一度セイバーを“別の世界”に送ってしまう必要があったんだ」

 

「……ほう」

 

 ――辰向の言葉が、ようやく現在の状況に追いつく。

 辰向達は決して“時間稼ぎのために”固有結界を展開したのではない、そういいたい訳だ。

 もちろん、“その理由もありはした”のだ。

 だが、本命ではない。

 少なくとも――この状況においては。

 

「――世界を変えてしまえば、その世界の気配しかあんたは読めないだろう? とすれば、その間、俺が何をしていたか、あんたは知らないという訳だ」

 

「……何をした?」

 

 少しばかりの怒気を含めて、セイバーは問いかける。

 裏を書いてみせたのだ――それに対する純粋な怒り。

 否、“嫌な予感”と評するべきか。

 

 ――――この時、セイバーはこの戦争で始めて、焦りに近い感情を覚えた。

 

 ――何故か?

 決まっている。

 

 今、目の前に辰向がいる。

 

 だが、辰向は――明らかに笑っていた。

 

 笑って、

 

 そして、

 

 

 ――勝ち誇っている。

 

 

 目の前で破壊を掲げるセイバーに対し。

 最強のサーヴァントに対し。

 

 まるで、それが当然かのように、勝利を宣言しているのだ。

 

「時間差攻撃、って言えば単純だが――簡単だよ、実に簡単な事だ」

 

 ――雪白辰向は魔術使いである。

 拳銃、現代兵器の類を愛用し、場合によっては多額の金をつぎ込んで“対空ミサイル”を調達したりもする。

 

 アサシンが設置していた地雷も、今アサシンが使用している拳銃なども、基本的には辰向が提供したものだ。

 そして、“それ”もまたその一つ。

 加えて何より――――最大の虎の子、それは“辰向が扱う魔術にも匹敵する”ジョーカー。

 

「――令呪を持って命ずる!」

 

 辰向は、そこで“アサシン”に命じた。

 これまで“その場には存在しなかった”アサシンに呼びかけるのだ。

 

 ――そも、これまでアサシンは何をしていたのか。

 セイバーという極限の窮地に対し、しかしアサシンは現れること無く、

 

 

「退避するぞ! 俺をこの場から連れ出せ、アサシンッッッッ!」

 

 

「――――了解です、マスター」

 

 直後、アサシンはその場に出現した。

 

「……ッハ! 何をするかと思えば、令呪一画では足りないな、君の右手に集った四画、全て吐き出さなければこの場からは逃れられまい!」

 

 セイバーは、それに、と続けた。

 

「既にもう遅い! 魔力は僕の手の中にある、止まらない、何をしたところで!」

 

「――――そう、“止まらない”」

 

 ゾクリと、

 

 理解した。

 

 辰向は、既に“全てを終えていた”のだ。

 

「あんたは、もはやあんたですら、その宝具は止まらないだろう! ならば、口にしろ、破壊を――全ての終わりを!」

 

「これは、終わりではない、始まりだ。それだけは間違えないでもらおうか」

 

 セイバーは、即座にそれだけを反論した。

 あぁ、なるほど。

 

 ――実に、いい。

 

 いいではないか。

 

 雪白辰向は“何かをする”つもりなのだ。

 恐らくセイバーの“慢心”に近い驕りを利用して。

 

「ならばもはや、言葉はいらない――死を迎合し、そして死ね!」

 

 ――辰向は、セイバーの言うとおり、言葉なくその場を離脱する。

 アサシンによって。

 それが、意図したものであるかどうかは、もはやセイバーにすらわからない。

 

 ただ、セイバーは再び口にした。

 その宝具を発動するために、

 

「――――混沌撹拌す(シャプリシュ)

 

 

 瞬間、セイバーの後方が“爆発”した。

 

 

 既にそれは想定済みだ。

 ――つまり、時限爆弾。

 ただ時間を刻み、そしてその時間が、セイバーですら知覚できない“デジタル”によって管理されたならば。

 

 時計の針が揺れるならまだしも。

 それは、“音も形も”存在せずに、準備を終える。

 

 ゆえの、時間差攻撃。

 たしかにそれは、どうやったところで、既に人の意識を離れているのだ。

 セイバーに、対応するすべはない。

 

 だが、関係はない。

 

 ――この一撃で、聖杯がどうなることはない。

 それは辰向が実際に言葉にしたとおりのことであり、また一目見た時点で、判断が付くことだった。

 

 ――一目見た時点で?

 ふと、セイバーはそれに違和感を覚える。

 

 いいや、

 

 それはいい。

 ――もはや、全てはこの一瞬にケリが付くのだから。

 

 

「――――――――終焉の泥(アンマトゥム)!」

 

 

 かくしてそれは、

 ――辰向達を覆い、

 

 

 すべてを飲み込み、発動した。

 

 

 ♪

 

 

 迫る狼。

 三度の宝具に、いかほどの苦痛を仁は覚えていることだろう。

 ――いや、それはいい。

 

 そんなことは、どうでもいい。

 躱せない。

 キャスターはこの一撃を躱せない。

 朝海を意識せざるを得ないというのはあるが、それでも、この状況を読みきれなかったのはキャスターの落ち度だ。

 

 ――根本的なところで、一枚上を行かれた。

 キャスターはたしかに英霊である、やりようによってはこうして戦闘をすることも可能だ。

 しかし、彼女に実戦の経験はない。

 それこそ間諜という仕事にしても、実際の戦闘にしてもそうだ。

 

 誰かに“女”を使い取り行ったことも。

 誰かと直接刃を合わせたこともない。

 あくまで、“人を育てた”ゆえの、英霊なのだ。

 

 だからこそ、戦場の経験を持つ仁に、一歩の段階で及ばなかった。

 コレを読み切っていれば、後は体の負担を抱える赤紫羅仁がいるだけだ。

 最後の攻防だったのだ。

 ――それに、負けた。

 最後の最後で詰めを誤ったのだ。

 

 それが、この戦闘におけるあっけない決着。

 

 かくして戦闘は、

 

 キャスターたちの敗北となる、

 

 

 ――はずだった。

 

 

「…………っあ?」

 

 ぽつりと、キャスターは困惑を浮かべた。

 自分の体が宙を待っている。

 ――どうして?

 

 歩き巫女だろうか、――否、それではどうやったって間に合わないだろう。

 “発動した時点”で、“全力で吹き飛ばない限り”、この宝具を常人が回避することは難しい。

 あのタイミング、歩き巫女が自分を吹き飛ばしても、間に合わない。

 

 そもそも、自分が回収し、共に狼に呑まれそうになっていた歩き巫女は、まだキャスターの手の内にいる。

 そこでハッとして、ようやくキャスターは着地した。

 歩き巫女を隣に従わせ、周囲の状況を確認する。

 

 

 ――瀬場朝海が、赤紫羅仁の目と鼻の先まで迫っていた。

 

 

「……マスター!?」

 

 仁はもはや動きを見せない。

 動こうとしても、動かないのだ。

 三度の無理な宝具の連発、体にガタが来るのは当然だ。

 

 とはいえ、それでも“通常ならば”魔力が補充され、再び仁は活動を開始する。

 例外的に宝具を発動した“直後”のみ、仁は動きを鈍らせるのだ。

 

 時間にして一秒と少し、朝海では――キャスターですら、その間に接近することは不可能に近い。

 ――ならば、何故朝海はあそこにいる?

 

「――あ」

 

 朝海は、手に小さな炎を抱えていた。

 拳に載せるように、まとわりついている。

 

 直線距離にして、数メートル、一歩でも踏み込めば、そこは朝海の間合いだ。

 ――そして、仁はそれを回避しえない。

 

「――あぁ」

 

 朝海の声が、やがて形となる。

 

 

「――――ああああああああああああああっぁぁぁあぁあぁあぁぁあああああああああああああああぁぁッッッ!」

 

 

 それはもはや叫喚に近い。

 音とも、声とすらもはっきりしない、ノイズのような悲鳴。

 だが、それを苦痛と思う暇すら無い。

 

 瀬場朝海は、

 

 ――もはや回避不能な赤紫羅仁の顔面に、

 

 

 ――手に乗った火の玉を直撃させた。

 

 

 火の玉は意志を持った魂だ。

 狐火、それが即座に仁を炎上させる。

 

 こうなってしまっては、もはや行動など何の意味もない。

 

「ご、あ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!」

 

 燃え盛る炎に、けたたましい苦痛の叫びを上げる。

 同時、ゆっくりと後退する朝海に、疑問に近い言葉を投げかけた。

 

「――何故だ? 何故読めた。あのタイミング、貴様、自分の死を幻視しただろう」

 

 そこまで至って、ようやくキャスターも状況を理解した。

 ――朝海がキャスターを救ったのだ。

 

 まず最初の衝撃、あれは朝海が自身の周囲に纏わりつく霊魂を使い、キャスターを吹き飛ばし、狼から回避させた。

 言うのは単純、しかしあの宝具は常人が回避しようとする場合、“先読み”が必要となるものなのだ。

 

 朝海は完全に、この状況を読み切っていた。

 そうとしか思えない点はもう一つある。

 

 朝海が宝具を放った直後の仁に、接近しすぎていたのだ。

 つまり、“宝具が自分に来ないということを解った上で”、朝海は行動していたことになる。

 仁の手札を、完全に見透かしていたのだ。

 

 無茶だ、と思う。

 仁の言葉通り、通常ならば“あの状況”は、自身の死を覚悟してもおかしくない。

 自分の保身に奔るのが普通だ。

 

 仁の見たてでは、瀬場朝海という人間の戦闘能力は、二流もいいところ。

 あそこで、そんな覚悟のできる人間ではない、知性はある、ゆえに“思考では分かっていても、感情がそれを許さない”のだ。

 

「……それは、確かに普段通りであればそうでしょう。――ですが、もしも自身の推測に絶対的な自信があれば? もしもそれを決断するのに、圧倒的な自信が存在していたとすれば?」

 

「――真逆。ありえん、あってはならないことだ。貴様のような二流に、生まれるはずがない、そのような自信!」

 

 即座に仁は反論する。

 少なくとも、コレに関してキャスターに異論はない。

 朝海の行動は、“現実それが起こった”ということを差し置いても、不可解だ。

 

「まぁ、わからないのも無理は無いでしょう。さすがに、貴方に自覚があってもそれは困る」

 

 少しばかり、安堵と共に朝海は言う。

 言葉は如何にも、といった様子でも、さすがに本音を隠し切れないようだ。

 当然といえば当然ではある。

 

「――要する所は貴方の“性質”と言っても良い。貴方は確かに外道のたぐいです、人を陥れ、こうして聖杯戦争の主催者をしている」

 

 仁は、朝海の言葉を炎を振り払いながら聞いている。

 ここまで接近を許し、炎上させてはもはや宝具の使用すらままならないだろう。

 熱に精神をやられないだけ、上等なほうだ。

 

 顔は苦痛に歪んでいた。

 もはや、彼は“敵対者”としての様態を保てない。

 

 ――戦闘はすでに、集結していた。

 

「けれども、本来貴方の性質は、それとは違うものだった。――別に善人であったと言うつもりはありませんが、別に卑劣漢ではなかったでしょう」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 つまらなそうに、仁は言う。

 もはや、男に戦意と呼べるものはない。

 

「思い当たる節はあるでしょう、――貴方の息子のことですよ。彼は貴方を“完璧に”騙してみせた。……実のところを言えば、ある意味それは当然だったのです」

 

 ――朝海は、弓弦の裏切りという形で、ある程度それを悟っていた。

 弓弦からも確認し、それはほぼ確信に近い形で朝海の中にある。

 キャスターに伝えなかったのは、あくまでそれが確信に近い、というだけで推測でしかなかったからだ。

 

 もしも、あそこで朝海の読みが外れていれば、朝海は狼に呑まれていた。

 ――もちろん、それを防ぐために令呪を切る準備はあったが、それだけだ。

 

「貴方は結局のところ――敵対者をその圧倒的な“格”でもって、撃破するのがセオリーだったのです」

 

 ――それは、考えても見れば当然のことだ。

 赤紫羅仁は魔術師であり、また武芸者でもある。

 その実力は人類に置いては最高峰のクラス、加えて宝具という特級の切札も有している。

 人類に、彼を上回る存在はほぼ無いと言っても過言ではない。

 

 しかもそれにくわえて、彼の陣営には必ず“雪白姫香”がいたのだ。

 今世代最大級の魔術師――二人の天才を相手に、勝利をつかもうなど馬鹿の考える事。

 

 ――だからこそ、

 

 

「貴方は、“慢心”していた訳です。その力に酔い、人を疑いはしても、問題はないだろうと高をくくっていた。――それがこうして貴方に巡った、“ツケ”なのですよ」

 

 

 そう、ツケ。

 瀬場朝海に興味を示さず捨て置いたこと。

 赤紫羅弓弦を愚息であると侮ったこと。

 ――雪白辰向の人生を、狂わせたこと。

 

 全てが、赤紫羅仁の破滅という結末によって精算されるべきツケなのだ。

 

 もはや仁は燃え尽きる他にない。

 それは不可避、故の結論。

 

 戦闘の終結であった。

 

 朝海は歩き巫女を伴いキャスターの元へ復帰する。

 少しだけ安堵したキャスターの様子が、朝海に多少の罪悪感を与える。

 

 それでも、これで戦闘はおしまい。

 

 そう、終わったのだ。

 

 残るは未だ炎に包まれ健在である赤紫羅仁のみ。

 

 ――その赤紫羅仁は、はたして、




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