Fate/R avenge Knight   作:暁刀魚

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第十二章 10

 光が晴れる。

 開闢の星が地に消える。

 セイバーはその痕に佇んでいた。

 

 辺りに残っているものは何もない、“全てを巻き込み”宝具は破壊を終えた。

 

「――――」

 

 沈黙。

 セイバーに瞳には、何の意思も宿っていないようにみえる。

 ――それは間違いだ。

 あくまでセイバーは、その瞳に、感情を写しとる機能がないだけだ。

 故に、彼の唇は言葉を震わせる。

 

 そこに、感情がないはずはない、セイバーは理性ある存在だ。

 その理性が――その知性が、一斉に一つの情動を覚えさせている。

 

「……何故、かな?」

 

 疑問。

 誰に対して向けるものであるか。

 それは火を見るよりも明らかだ。

 何に対してのものであるか。

 セイバーが語るよりも明白だ。

 

 決まりきっている。

 この場に、セイバーが言葉を向ける者は二人――正確には、“一組”しかいない。

 それらに対する疑問の言葉。

 

 ――そして、それは“疑問を投げかける”事自体が、その中身であるのだ。

 

 セイバーは最強とも言える切札を切った。

 であれば、どうなるか。

 

 ――少なくとも、セイバーがこの聖杯戦争で宝具の真名を開帳し、放った一撃は、“全てを無に帰してきた”。

 

 故に、口にする。

 ――それらに対して。

 

 

「……何故、生きているんだい、アサシンと、そのマスター」

 

 

 雪白辰向と、アサシンに。

 

 そして、

 

 もう一つ、

 

 ――文字通り、それはまさしくその通りだったのだ。

 

「――何故!」

 

 セイバーが声を荒げる。

 乖離剣エアをアサシン達につきつけ、瞳を鋭くとがらせる。

 

 ――まるでそれは、言い聞かせるかのようであった。

 

 

「何故、大聖杯が破壊されている――!」

 

 

 これは“焦り”ではない、“怒り”である、と。

 

 

 ♪

 

 

「ク――」

 

 赤紫羅仁は、

 

「――――ハハ」

 

 その顔を、

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!」

 

 獰猛なまでに、笑みに歪めた。

 まさしく、牙を剥ける狼の如く。

 

 瀬場朝海とキャスターに、真正面から殺意を投げる。

 

「……ッ!」

 

 単なるむき出しの殺意であった。

 ――通常それは、仁のような武芸者が向けるはずのないものだ。

 こんなもの、あまりに拙い感情の発露である。

 

 怒りに思考が冷静でないのだ、でなければ、こんな無様な殺気は浮かべない。

 

 キャスターはそう、冷静である。

 しかし、体中の殺意が駄々漏れとなったそれは、朝海に対してはどうだろう。

 ――思わず息を呑むのは無理もないことだ。

 

 ――――そして、同時。

 

 世界が、強烈な振動を伴い、歪みを走らせる。

 

「あぁ全く――手の内を読まれていたというわけか! 道端の小石程度の存在に、見透かされていたということか!」

 

 仁は周囲の異質など、全く気にもとめずに言葉を募らせる。

 ――それに耳を傾けながら、朝海達は周囲に意識を向けていた。

 

 世界が、まるで亀裂の入った窓ガラスのように変質している。

 幾重にも“ずれた”世界が、先ほどまでの平らな足場などどこにもなく、異様なほど、年輪は周囲に乱れていた。

 

「全くもって素晴らしい、あぁ、憎らしいほど虫酸が走る。感情は歓喜に煮え立つようだ。それこそ、今こうして、体を焦がす焔のように――!」

 

 積み木が崩れ落ちるように、樹木は形を失い、溶けていくかのようだ。

 この場は正常ではいられないだろう。

 しかし、全てが消え去るのには、まだ時間がかかるようにも思える。

 

 何かはあったのだ、しかし、その何かがこの世界全体に影響を与えるには、しばらくの時間がかかる。

 

「みよ、世界がゆがんでいるぞ! この並行世界はあいつによって運営されていた。その機能が停止したのだ。もはや私に、膨大な魔力のバックアップは望めまい!」

 

 仁は、聞き捨てならないことを口にした。

 ――並行世界の機能が停止した?

 ――魔力のバックアップは望めない?

 

 朝海はそれを事実として飲み込む。

 だとすればつまり――これは、

 

 “聖杯が機能を停止した”、ということか?

 

「――大凡その思考は是であろう。大聖杯が破壊された今、我が大望は断たれたということになる。実に愉快だ」

 

 つまり、それは――

 

「……勝った、の? ――辰向が、あのセイバーに!」

 

 朝海は、すこしばかりの驚愕と、

 その後に、目一杯の歓喜を顔に浮かべて、手を叩く。

 

「正確には、聖杯を破壊されたのだ。全くもって理解できん、あの小僧に、そのような力、在るはずがないというのに」

 

 仁の肯定。

 セイバー自身が消滅したわけではない。

 しかしこれで、セイバーはコレまでのような無茶な戦闘はできないだろう。

 魔力に制限が生まれた、それだけで、この状況は有利に変わる。

 

 そも、仁が炎に包まれ、息絶えようとしている。

 ――戦闘は、終了したのだ。

 

 朝海はそう考え、それは事実である

 

 ――はずだった。

 

「……?」

 

 だが、

 

「…………まぁ、よい」

 

 ――赤紫羅仁は、炎に包まれながら、何かを、少しだけ口ずさむ。

 

「――――――――仕切り直しと、行こうか」

 

 

 しかし、その炎は赤紫羅仁から剥がれ落ちていく。

 

 

「……え?」

 

「な――」

 

 思わず、キャスターすらも音を漏らした。

 どういうことだ?

 ――何故、仁は“無傷”でそこにいる?

 

 彼の顔は、二の腕は、体中は、炎に包まれていたはずなのに――

 

 一切の痕がない。

 

 ――理屈は解る、何かの魔術だ。

 しかし、一瞬で死を回避する魔術など、赤紫羅仁は行使できるのか?

 

 不可能だ、どう考えても。

 

 けれども認めるほかない。

 

 

 赤紫羅仁は健在である。

 

 

 ――これは、キャスターも朝海も、そも他の誰ですら理解の及ばなかったことでは在る。

 訳は単純――“スノーホワイト”の宝具によるものだ。

 

 白雪姫における奇跡とはなにか。

 妖精の存在? ――答えは否である。

 確かに“白雪姫の救世主”はそれを内包している。

 

 しかし、それはあくまで、本来の宝具の効果に“関連付けられて”与えられた効果だ。

 本来のこの宝具――さらに言えば、白雪姫の原典においての“神秘”とはつまり。

 

 ――白雪姫の蘇生にこそある。

 

 前提が違うのだ。

 りんごを喉につまらせての仮死――それは本来の形ではない。

 本来、白雪姫は、“王子の父”により、“死亡した後蘇生された”のである。

 

 つまり、死者蘇生。

 それを模したこの宝具の効果は、“死の否定”。

 急速に死を迎える人間に対し、その死を否定した上で、健常な状態にまで回復させる。

 正確には、死の間際からの超再生。

 

 代償として宝具は崩れ去るが――それでも、

 

 それを使用した赤紫羅仁は、もう一度――健常な状態で、キャスターと朝海の前に立ちふさがるのだ。

 

 

 ♪

 

 大聖杯は破壊された。

 それはなぜか。

 

「――あんたがそうしたんだよ、セイバー」

 

「……何?」

 

 辰向の言葉に、即座にセイバーは反応する。

 理解の及ばない言葉だ、そして何より、その内容もまた衝撃を伴う。

 

「あの爆発は、確かに大聖杯を破壊できない。だけど、あの爆発で、“大聖杯のある機能”を停止させることはできるわけだ」

 

 ――大聖杯の機能。

 すぐにセイバーにも合点が行った。

 あの爆発――魔術的な調整が施されていた。

 つまり、

 

「――“大聖杯が別世界と接続する機能”だよ。正確に言えば、母さんが統括する魔術全てだ」

 

「起源を……組み込んだわけか、“無力”の起源をあの爆弾に」

 

 そう、その通り。 

 あの爆弾には“辰向の血”が大量に納められていた。

 強力な魔術礼装を機能不全に陥らせるための虎の子であるが、

 

 それでも大聖杯は破壊できなかったのだ。

 

「――“ひと目見た時から気がついてた”よ。聖杯は“俺じゃあ”どうにもできないってな」

 

 ――大聖杯と別世界をつなげる機能。

 それが停止した場合、“この大樹がある世界”すら崩壊する。

 何せこの聖杯がある世界そのものが、並行世界の一つなのだから。

 

 であれば後は簡単だ。

 この世界は、如何様にも歪む。

 

 セイバーと辰向達の間に、複雑怪奇な亀裂が生まれていた。

 かつて空間であった場所が混ざり合い、“足場のあった空間”と“足場のない空間”が交差しているのだ。

 

「……まさか」

 

 辰向の物言いには、違和感があった。

 そしてその違和感をセイバーは“宝具を発動する直前”に察知していた。

 

「君は時間を計っていたのかい? 僕が宝具を発動するタイミングを、――その直前に、あの爆弾が爆発するように!」

 

「――言葉を向ければ、それにいくらでも答えてくれた。あんたは強すぎるんだよセイバー。そして強すぎるがために、恐ろしいほど大雑把なんだ、あんたは」

 

 ――――そして、

 

 宝具が発動する直後に起爆したそれは、雪白姫香の魔術を停止させる。

 ――同時に彼女を人として機能させていた部分まで、吹き飛ばしてしまったわけだが、それはともかく。

 それによって、この世界は崩壊を始める。

 座標がバラバラに歪められたのだ。

 

 当然、セイバーの宝具の行く先も、それによって歪曲する。

 

 後は語るまでもない。

 

 セイバーは自滅したのだ。

 ――自身の宝具によって、よりにもよって聖杯を破壊して。

 

 アサシンがあの場に現れなかったのは、“宝具の範囲外となる場所”を割り出していたからだ。

 魔術に疎いアサシンでも、魔力の流れ程度なら読み取れるだろう。

 後は、その流れによってかき乱される場所を計算してやればいい。

 

「――――は、ははは、ははははは! やってくれるじゃないか」

 

 全てに合点が行って、

 そうすれば、セイバーは狂ったように嗤い始めた。

 それはもはや――誰かを品定めするものではない。

 セイバー個人が浮かべる、非現実に対する侮蔑の笑みだ。

 

 やがて、

 

 それも終わる。

 セイバーは笑みに伏せていた顔を上げて、改めて辰向を見る。

 ――始めて真正面から、完全に同一線上において、辰向とアサシンを見たのだ

 

「そっちのアサシンの名は知っている。――だから聞かせてもらおう。アサシンのマスター、君は名前をなんという?」

 

「――雪白辰向、覚えておけ。あんたを倒した、マスターの名だ」

 

「……まだだよ」

 

 セイバーは、辰向の言葉を否定する。

 

「確かに僕は君にしてやられた。だが、君はまだ僕を消し去ってはいない。僕はまだ、君に貫かれたわけじゃない」

 

「――なんともまぁ、立場が逆じゃないか大英霊。それはあんたの台詞だろう」

 

 セイバーの言葉に、辰向は事も無げに言う。

 あまりに明白な挑発だ。

 

「……あぁまったく! これが、足元を掬われるという感覚か!」

 

 そんな風に、“味わったこともない”感覚を、セイバーは苦渋とともに飲み干しながら、

 体を空に躍らせる。

 

「アサシンッ!」

 

「……えぇ」

 

 狙いははっきりしていた。

 辰向は後方に控えるアサシンへ振り返り、

 

「今まで付き合ってくれてありがとう。――最後の正念場だ、だから」

 

 辰向の手のひらが軽く光を帯びた。

 ――令呪だ。

 

 

「朝海達を頼む」

 

 

 あまりに端的で、しかしそれ以上が詰め込まれた言葉だ。

 ――もはや、アサシンにそれを否と呼ぶ意思はない。

 

「……待っています」

 

 ただ、辰向が後に続くことを考慮した上で、そう述べた。

 

 待っている。

 

 ――その一言は、間違いなく信頼がなければ出てこない言葉であった。

 

 

 ♪

 

 

(……よし)

 

 ――朝海は意識を仁へと向け、動き出す。

 凹凸に変じた空間に、霊魂達のサポートを受けながら、仁の周囲を回る。

 

 最後の攻防が始まった。

 歩き巫女達が飛び出す。

 朝海達は知らないとはいえ、既に宝具の防衛は望めない、仁はそれを“積極的に”迎え撃つ。

 

 歩き巫女達はこれみよがしに左右に展開した。

 同時、朝海の気配が消え失せる。

 キャスターの気配も、霞に消えたかのごとく、だ。

 

 狙いは大凡はっきりしている。

 先ほどの攻防では成果を発揮ししなかったが、キャスター達が何を考えているかは明白だ。

 しかし、それは明白であるがゆえに、シンプルな作戦とも言える。

 対策が打ちにくいのだ。

 

 如何に仁とはいえ――

 

 ――捨て身の敵を、ノーリスクで排除することは難しいだろう。

 

 仁は即座に歩き巫女の懐に飛び込む。

 通常であれば、この段階で既に歩き巫女は後退を始めている。

 ――だが、退かない。

 最初から囮になることが狙いなのだ。

 

 申し訳ない、と朝海は思う。

 が、それを是としたのは歩き巫女達だ。

 ――ならば、負けられない、とも思うのだ。

 

 ここで、退くという選択肢はありえない。

 

 拳が交錯した。

 正確には、仁の拳と歩き巫女のクナイが。

 

 首を傾げた仁の耳元をかすめたクナイは、しかし宙からぽとり、と転げ落ちる。

 対する殴打は、歩き巫女の鳩尾に収まっていた。

 

 ――――、

 

 吐息が漏れる音がして、――それは、歩き巫女のものだっただろうか、朝海自身のものだっただろうか――歩き巫女はその場に崩れ落ちる。

 一撃が、全てを崩壊させたのだ。

 “後方に吹き飛ばされる”余力すらないほどに、それは強烈であった。

 

 ――“同時”。

 

 

 もう片方向の歩き巫女に、打ち付けられていない仁の拳が見舞われる。

 

 

 こちらも、直撃。

 ――攻撃はその暇すら許されなかった。

 タイミングは完璧だった。

 お手本のようである。

 

 故に、そのタイミングに仁は合わせてみせたのだ。

 

 だがこれで、

 ――仁の左右が埋められた。

 

 ――――その時は来た。

 ここで動かなければ、朝海は絶対に“負けてしまう”。

 終局へ向けて動き出し、故に緊張が朝海の体を凍りつかせる。

 

 それでも動けたのは、きっと。

 

 ――――三撃目、後方に気配が生まれる。

 もはや仁にそれを止める手立てはない。

 ただひとつの方法を除いては。

 

 

「――――――――――――――――手折る狼(レッド・キラー)ッッッ!」

 

 

 宝具。

 闇に飲まれた黒塗りに包まれた狼が、白銀に満ちた牙を携え、その気配に迫る。

 

 ――来た。

 思った時には、既に体は動いていた。

 朝海の役割はここまでだ、後は――最後の一人がつないでくれる。

 後方へ、霊魂達が朝海を弾いた。

 通り過ぎる狼の横すれすれを、ゴロゴロと体が転がっている。

 

(――痛い、なあ)

 

 それでも、朝海は即座に仁を視界に収めた。

 

 間近で余波を受けた、消えかけの歩き巫女の気配が溶け去り。

 

 ――――最後の一人が、その場に殺到する。

 

 キャスターが、クナイに死を込めて構えていた。

 状況は最悪だ、ここで回避は不可能と行って良い。

 

 故に、仁が取れる選択肢があるとすれば、それはひとつしかないだろう。

 そもそもこれは、大聖杯が破壊された時点で既定路線だ。

 最も有効であると思われる場面で、それを切るだけのこと。

 

「――令呪を持って命ずる」

 

 令呪。

 ――三度のみ許された、切札にして契約の証。

 

 これまで、一度として切られてこなかったそれを、ここで切る。

 

「我もとへ参ぜよ――セイバー!」

 

 セイバーは令呪を一度であれば無視できる手合いだ。

 ――だが、自分の為そうとしていたことの支援を、蹴る類ではないはずだ。

 

 故に。

 

 

「――――言われずとも、ここに居るよ、マスター」

 

 

 上空。

 声がした。

 ハッと、キャスターがそちらに意識を移しそして――

 

 吹き飛ばされた。

 

 猛烈な勢いで、仁を飛び越え、朝海の元へと押し返される。

 キャスターは健在であった、即座に着地、それを朝海は後ろから支えた。

 ほっと、嘆息が朝海から漏れる。

 

 仁と朝海達の中央に空いた暗闇。

 そこに落ちていく何かが在る――短剣、宝具である。

 

 セイバーが生み出したものだ。

 宝具を放った件のセイバーは仁の目前に着地した。

 その横に、再び短剣が生み出される。

 

「喰らうがいいよ――死をもたらしてくれる贅沢な刃だ!」

 

 それは朝海達に狙いを定めていた。

 

「――ッ」

 

 朝海は息を呑む。

 ここまでは、想定内ではある。

 想定内ではあるが――それでも、

 

 どうにも肝を冷やしてならない。

 

 ――結局。

 

「……ぬぅ」

 

 仁とセイバーは、即座にその場を飛び退いた。

 

 ――直後。

 銃弾が、空中で静止していた短剣にたたきつけられる。

 

 同時、仁がいた場所の足元に、焦げ付いた銃痕が現れる。

 

「――そこまでです。申し訳ありませんが、彼女達に手を出させはしません」

 

 声。

 

 

 ――アサシンが、キャスター達の前に現れる、庇うように、セイバー達との間にだ。

 

 

「――――セイバァァァァァァ!」

 

 仁が、即座に叫び声をあげた。

 拳を突き出し、セイバーにつきつける。

 

 令呪がその手のひらにはある。

 ――それが、全て同時に光となる。

 

「令呪をくべる。宝具を開帳せよッッッッ!」

 

 仁には、もはや宝具を放つ魔力はないだろう。

 自身の宝具を放っているからだ。

 ――そして、ならば、自身の令呪を魔力とし、セイバーに宝具を開帳させるほかない。

 

「――宝具の開帳は正しくないな。ならば、一言命じればいい」

 

 セイバーは否と告げることはない。

 不要な言葉だった。

 

 

「ただ一言、“殺せ”と命じるだけでいい」

 

 

 ――朝海の視線と、セイバーの視線が交錯した。

 ――否、した“気がした”。

 セイバーは朝海とキャスターを一瞥したのみだ。

 

 それでも――

 

 もうダメなのではないか、

 そんな思考が、

 頭をよぎる。

 

 ――違う。

 そんなことはない。

 絶対に無い。

 

「……キャスター」

 

「――はい」

 

 仁がそうであるように、

 

 朝海もまた、令呪を魔力とする。

 

 

 ――三画、全てを光に変えた。

 

 

「耐えて」

 

 

 ――そして、

 

 

「そして、勝って」

 

 

 キャスターは、

 

 

「はいっ!」

 

 

 即答であった。

 

 

 一瞬、アサシンと視線を合わせて前に出る。

 アサシンが朝海を背後に、一歩下がる。

 先ほどまで、キャスターがいた位置に収まった。

 

「――さぁ」

 

 セイバーが囀る。

 

「最後の地獄だ。釜を開こう、僕と、マスターと、それ以外の全てをここで区切ろうじゃないか」

 

 それは、光であり、そして死でもある。

 ――セイバーの右手に宿る乖離剣エア。

 

 “始まり”を告げる、剣ですらない“刃物”。

 

 力はセイバーとキャスターの元へと集う。

 

「――マスターが託した魔力、想い、全ては私の手の中に流れているのです。貴方がどれほど確固たる大英霊であろうと、それを崩すことは、能わないと知りなさい!」

 

 キャスターのそれは、まるで花弁のような壁。

 展開した無色の防護障壁。

 三画の令呪によって支えられたそれは、セイバーの破壊を遮る。

 

「この場は、未だ破壊が核よりも進んでいないようだ。空間はねじれているが、物理的には“ねじれただけ”のようだね」

 

 セイバーは、何やら一人そう呟く。

 意図することは知れずとも、大凡“何ら問題はない”だろうことだけは伝わる。

 つまり、セイバーはこのまま宝具を放つ。

 

 やがて、セイバーの口から語られる。

 

「――未だ名付けられぬ天。故に名を与えられぬ地」

 

 それは、宝具がそうであるという由来。

 在り方と言って良い。

 

「さぁ、全てを切り裂き、そこに名を与えよう! ――それは、君たちの死という世界の結末だ」

 

 かくして。

 

 

「――――――――混沌撹拌す終焉の泥(シャプリシュ・アンマトゥム)

 

 

 それはキャスター達を飲み込むべく。

 

 振るわれた。

 

 

 ♪

 

 

 やがて、

 

 

 光は、払われる。

 

 

 それは全ての決着であった。

 

 

 それは結末であった。

 

 

 旅の行く末、あらゆるもののたどり着く末路。

 

 セイバーはふと、笑みを浮かべた。

 

 思い出すのは――かつて友が語っていたこと。

 

 “強者”とはつまり、打ち破られること。

 

 “絶対”とはつまり、否定されること。

 

 であるなら、

 

 敵対者は、敗北で持って終わるのが、当然なのだと。

 

 それは、語った友自身が笑い飛ばしたことだ。

 だが、友が最も自覚していたことなのだろう。

 今まで――それをセイバーは理解しえなかった。

 

 しかしこうして、最強の如き振る舞いをする自身が、こうなることは、ある種の必然であったのだと理解する。

 

 ――そう。

 

 セイバーは“それ”を視認し、腕の力をそこで抜いた。

 もはや言葉は不要であった。

 

 

 ――そこには、キャスターが、アサシンが、そして瀬場朝海がいた。

 

 

 未だ健在である。

 渾身の宝具は、彼女たちによって防がれたのだ。

 

 よもや、という意識はある。

 

 しかし、当然だろう、という想いもある。

 

 なるべくしてなった。

 結果とはすなわち、必然によって導き出されるものなのだ。

 

 仮定を運命と呼ぶことはできるだろう。

 しかし、結果には運命は存在しない、偶然はありえないのだ。

 既に“終わって”しまったことなのだから。

 

 

 ――そして、

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――ォ」

 

 

 赤紫羅仁は、空を見上げる。

 

 

「――――――――ォォ」

 

 

 そこには、“誰かがいる”。

 

 

「――――ォォオ」

 

 

 それが誰であるか、セイバーが語るまでもない。

 

 

「――ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!」

 

 

 その男の名を、赤紫羅仁は口にする。

 

 

「――雪白――――――辰向ゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」

 

 

 そこに、果たして如何なる意思があっただろうか。

 

 

 刃は目前へと迫っていた。

 

 

 雪白辰向は、高速で仁へと飛来する。

 

 

 死を伴う鉄のナイフが、殺到する。

 

 

 一閃。

 

 

 雪白辰向は、仁を――その一刀でもって、貫いていた。

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