――そしてここからは、“その後”の話をしよう。
「それじゃあ、行ってきます」
ランドセルを背負った一人の少女が、山奥の山門から、屋内へ向けて声をかける。
扉は閉まっているものの、その奥に人の気配が二つ、あった。
既に少女は駆け出そうとしているものの、そわそわと、その影を待っているようだった。
やがて、ガラガラと戸が開くと、中からブレザー姿の少女が飛び出してくる。
年齢は16かそこら、高校生であろう。
更にその奥には、二十少しの男性が見えるが――少女が扉を締めると、その姿は見えなくなった。
「遅いよ?」
「ごめんね、ちょっと話が長引いちゃって」
そういう少女は、少しだけ嬉しそうだ。
何かいいことがあったのだろう。
ランドセルの少女が、ジト目でそんな少女を見上げる。
ポリポリと、困ったように大きい方は視線を逸らした。
「毎日毎日、飽きないね、ほんと」
「えっと……ごめん」
「ごめんでバカップルは生まれないよ!」
大きい方の少女――瀬場朝海と、彼女が懸想している少女の兄は、別に所構わずいちゃついているわけではないのだけれど――
どうにも、“二人の世界”に入りたがる。
傍目から見ている分にはそれはゲームをするよりも良い時間つぶしになるのだけれども。
どうにも、時間を忘れる嫌いがあるのだ。
言うなれば「隠れバカップル」とでも言うべきではないだろうか。
「じゃあ、バカップルでいいです」
――自分たちは自制ができるのだから。
きっと、朝海――少女にできた、新しい姉と呼ぶべき人は、そう考えているのではないだろうか。
確かに朝海は真面目な気質ではあるが、恋愛事には疎いタイプでもあるのだ。
いうなれば、初心というか、なんというか。
「まったくもう。そんなんだから弓弦にぃにからかわれるんだから」
「彼は関係ないでしょう! そもそも、何故私は十歳の女の子に気を使われてるのかな」
「私はもう十歳なの。大人なのよ?」
――実に子供らしい物言いでは在る。
だが、ここでそれを、あまり強くは言えないのが悲しい所だ。
「そもそも、年齢を言い出したら、別に私と朝海ねぇは元は同い年だし」
――その方が都合がいいから、少女はあくまで十歳と扱われているのだ。
そう、少女は記憶している。
“生”を失っていた六年間のことは、“記録”の中に内包されている。
別に忘れてしまったわけではない。
それでも、少女はあの時、全てが止まってしまったのだ。
「……ま、お兄ちゃん達がやってきた六年間が、無駄じゃなければ、私はそれでいいけどね」
――それは果たして、過ぎてしまった時間だろうか。
きっと、否なのだ。
雪白辰向に、赤紫羅弓弦。
二人の兄が命がけで“再開”させてくれた時間なのだ。
「なので、今日も一日、幸せを噛み締めて生きていくよ」
「……そっか」
――少女は、パタパタと山門と下界をつなぐ坂を駆け下りていく。
やがて朝海を、随分と離し、坂の端へたどり着くと、振り返って手を降った。
急いで駆け寄る朝海へ向けて、
少女は、
「――うん」
――――雪白真華は、答える。
「今日をいい一日だって、思えるように!」
――――雪白真華。
聖杯戦争の景品、小聖杯で“あった”少女。
聖杯戦争においてはアーチャーと組み、アーチャーにその境遇を哀れに思われながらも、真華自身の意思に限らず、主従としてはそれなりに理想的な関係であったようだ。
アーチャーは真華を弓弦達に託し消え、真華は辰向と弓弦の願いによって救われることとなる。
彼女は雪白辰向の妹であり、同時に赤紫羅結弦の妹でもあった。
実を言えばそのことは、辰向がいなくなる前後から少女は何となくであるが悟っていた。
無論、確証はなかったがそれでも、辰向も弓弦も、彼女にとってはかけがえのない家族であったようだ。
人としての機能を失っている間、真華は弓弦に守られ続けた。
自分を救ってくれた辰向と、自分を守ってくれた弓弦。
二人の戦いの証が無駄でなかったこと、それを証明するのが真華の今の願いだ。
新たに始まった彼女の路は、果たして過酷な運命《Fate》に阻まれたものであろうか、それとも――――
♪
朝海と真華を見送った辰向は、軽く家事を済ませると、自室へと引きこもる。
最近の彼は主に瀬場邸の手入れと、それから仕事の打ち合わせに追われている。
別にこれまでやってきた仕事を放り投げたわけではなく、今も頼まれれば、封印指定執行などの業務を請け負うフリーランスの魔術師を続けていた。
魔術使いなうえ、かなり無茶をしていることがそれなりに知れ渡っている辰向は、知名度こそあれ、仕事の依頼はさほどない。
案外、今はちょうどいい塩梅であると言えた。
とまれ、自室において弓弦はPCを起動させる。
これから通信する相手は、現代機械を扱える手合いだ。
アナログ至上主義の多い魔術の世界で、これはかなり貴重な相手である。
『Hello!』
『今日も威勢がいいな、ノエミ』
すさまじい速度で、タイピングをしていく。
端から見れば、ガチャガチャとうるさい音だけが響くことだろう。
『そっちも元気そうね、いつも通りで安心するわ、辰向』
それから、数十秒が経ってようやく返事が帰ってくる。
『なんだ、お前まだ日本にいたのか』
『そうよ、ちょっと野暮用で、しばらくこっちにいることにhしたわ』
『……タイプミスってるぞ』
『たまたまよ、慣れないんだから仕方ないじゃない!』
画面の向こう側――ノエミ=ミシリエは、別に機械に精通しているわけではない。
元は、忌避していなかっただけだ。
それを最近、使い始めたらしい。
『あいつら、何かまた愚痴ってたぞ、お嬢が変なことを始めたって』
『そのお嬢を今すぐやめるように言っておきなさい。それに、別にへんなことなんて、いつものことじゃない。何をってるのかしら』
――自覚はあるのだな。
思ったが、スルーされるだろうと、言わないことにした。
『……やっぱ、飛びたいのか?』
『えぇ、そうね。もう一度飛びたいわ』
――変なこと。
朝海を追いかけ、回収するということを名目に彼女の護衛をしている、ノエミの家の者がそういうのも無理はあるまい。
現在ノエミは、ある場所にいた。
なんでも、そこで“飛行機にのれるように”勉強をしているらしい。
態々暗示など使ったりして――もしも問題になれば、絶対に要らない誤解を生むだろうに。
それでも、ノエミはもう一度飛行機に乗りたいそうだ。
今度は自分がパイロットとなって。
『やっぱライダーの夢を、代わりに叶えたい、とかそういう?』
『違うわよ。あたしそんなに殊勝じゃないし。……ま、いろいろ理由はあるけど、あんたが知らないので言えば、無駄にしないためね』
――無駄にしないため。
何となく、意図するところは解る。
聖杯戦争中、暇に任せて調べたのだろう。
受肉し、宝具を失ったライダーは、何かしらの方法を使わなければパイロットにはなれない。
故に、その“何かしら”の方法を軽く調べたのだ。
もしかしたら、かなり本格的に準備をしていたのかもしれない。
そのため、その準備を意味のないものにはしたくなかった、というわけだ。
『後は勝手に察しなさい。別に、何を思っても、それは多分正解よ。答え合わせはしないけど』
『……そうかい』
――空を飛ぶことが病みつきになった。
とか、もしくはもう少し、ノエミの言う“殊勝な理由”があるかもしれない。
まぁ、言うだけ野暮だ。
『んー、まぁ、がんばれよ』
『あら意外、止めたり苦言を呈したりしないのね』
『それこそ、知ったこっちゃないさ。俺はお前が言っても聞かない人間だってのは、それなりに知ってるつもりだしな』
――きっと、これからもノエミ=ミシリエは自由気ままに生きていくだろう。
その中で“責任を追うこと”から、彼女は逃げ出すだろうか。
他人から向けられる信頼に、答えていくだろうか。
――それは、彼女自身が決めること。
辰向にとって、ノエミは仕事の同僚だ。
きっと、これからも、いつまでも。
『――ま、そういうわけだから、本題に入りましょ』
『そうだな、できるだけちゃっちゃと片付けたい。準備は念入りにしておこう』
――――ノエミ=ミシリエ。
聖杯戦争に、ちょっとした“縁”から参戦した少女。
自由を愛し、それゆえに彼女は聖杯戦争中、独自の立場を貫くこととなる。
最後は一発逆転を狙い、この戦争の主催者であるセイバー陣営に挑むも、ライダーを失い敗退、戦後、なんだかんだの交渉の末、それなりに賞金を弓弦から受け取って、それを今後の活動資金とするようだ。
徹底的な自由主義者は、しかし誰かから信頼されることの重さを知った。
それは彼女が“目をそらして来た”のではなく、“気がつくことのなかった”ものだった。
故に、彼女はこれから、それと向き合っていくこととなるだろう。
次に背中を預けられる相棒が現れた時、彼女はどのように振る舞うだろうか。
――きっと、今までと変わらないのであろう。
それが、自由に生き、そしてこの聖杯戦争においても、自由を貫いた少女の生き様だ。
それは決して否定されることはなく、そしてこれからも――――
少女は、新しい自由を求めて生きていく。
きっと空すらも駆けて、時には自由以外にも目を向けて。
♪
真華は自宅に変えると、けたたましく鳴っていた電話を手に取る。
朝海と辰向は、これから神社の方に行くようだ。
既に改装は終わり、現在はアルバイトを雇って経営を行っている。
もとより、この街最大の観光名所は、現在もそれなりに盛況である。
「そういうわけだから、お兄ちゃんと朝海ねぇは今日も絶好調だよ」
『……だろうな』
電話の向こうから、げんなりとした声が聞こえる。
――聞き慣れた声だ。
真華にとって、彼こそが、この六年間、自分の元にあった存在だ。
親しみやすいという点では辰向に勝る。
『すまねェな、もしこれがもっと気楽な案件なら、お前もこっちに連れてこれたんだろォが』
「うぅん、別に気にしてないよ。端から見てる分には面白いから、あの二人」
『ったって、ちょっとくらいは箸休めするべきだろ。だからよ、コレが片付けば、次の件は単なる会議のはずだ。ついでについてこないか?』
「えー? でも学校もあるしなぁ」
せっかく通えている小学校。
友人だってそれなりにいる。
ぽやぽやとした気質はあるが、真華はそれなりに社交性のあるタイプだ。
そこら辺は、兄に似ているということだろうか。
『学校なんてのはほどほどに熱心になればいいンだよ。むしろ、長期旅行位は学校を休んでも問題はないだろーさ』
「うーん……ま、弓弦にぃが一人は嫌って言うなら、ついてく」
――弓弦にぃ。
赤紫羅弓弦は電話越しに、“言うじゃないか”と愉しげに笑い転げる。
真華も、釣られたようにくつくつと笑ってしまった。
「それに、次は久々に大変な感じなんでしょ?」
『……まぁ、そうだな』
「――聖杯戦争、だよね?」
少しだけいい渋る様子である弓弦の、核心を真華は突いた。
――聖杯戦争。
雪白姫香とその一派によって土台が造られたそれは、世界に模倣という形で拡散していた。
人の口に戸は立てられぬ、漏れてしまうものは漏れてしまうのだ。
しかも、此度の聖杯戦争。
その戦後によるごたごたで、幾つか情報が外に流出してしまった。
弓弦が何をしているかといえば、単純で、その火消しだ。
聖杯戦争は人の思惑が大きく絡む。
何せ願望機を争うのだ、もしも“あらゆる願いを叶えられる”のなら、そこには世界の破滅が伴う。
世の中には抑止力というものもあるが、それに頼らない力も必要だろう。
そういう訳もあってか、弓弦が聖杯戦争の火消しに注力しているわけである。
別に辰向でもよいのだが、フットワークが軽いのは弓弦のほうだ。
知名度が無いのが何より大きい。
また、もと聖杯などという厄い存在である、真華を守護するという意味でも、辰向はこの街にいたほうが良い。
『――令呪も出たしな、ちょっくら収めに行ってくるよ』
「……無茶、しないでね? 死んだら、絶対ゆるさないから」
『心配すンな。俺には英霊がついてんだぜ? それも――』
弓弦は、如何にも自身有りげな様子で言った。
『――頑固で騙されやすい、アーチャーさんがよ』
――――赤紫羅弓弦。
聖杯戦争主催者陣営である、赤紫羅の一人息子。
赤紫羅の斥候にして、解りやすい悪性――と周囲に自分を偽ってみせた青年。
契約者であるランサーは戦争中に喪ったものの、最後は自身の願いを叶えてみせた。
人を騙し、世界すらもけむにまく、そんな男の願いの行方は、妹を守りたい、そんな純粋なものだったのだ。
実を言えば、瀬場朝海との相性と印象はそれほど悪くもない。
朝海が彼に無関心であったこともあるだろうが、彼自身は、朝海に“憎まれないよう”な振る舞いをとっていた。
後は“人を化かす天才”である弓弦である、その後に問題なく辰向達の陣営に加われたことがその証明である。
聖杯戦争終了後は、その火消しに奔走、聖杯戦争に参加する際は、ランサーの触媒がドサクサに紛れ消失してしまったため、アーチャーと契約することになる。
かくして、稀代の詐欺師と、盲目な性別不明系従者《サーヴァント》の聖杯戦争は始まるのであるが、それはまた別のお話。
♪
「……というわけで、今回の会議は終了とさせていただきます。お集まりいただき、ありがとうございました」
パチパチと、まばらであるが、今この場所にいる者達とほぼ同数の拍手が上がる。
それを一心に受ける少女――瀬場朝海は、そっと沈黙とともに礼をした。
やがて集会は解散の雰囲気となると、朝海に幾人かの年寄りが近づいてくる。
誰もが、長年瀬場に信仰を送っていた者達である。
無論ではあるが、朝海の両親の代から世話になっていたものがほとんだ。
「いやぁ、感銘だよ。こうしてまた、祭りができるとなるとねぇ」
――朝海達が集まっていたのは、神社を中心に行われる祭りの会議のためである。
瀬場が神樹を信仰し始めてから、それは豊穣祭や一年に一度の宴会などの意味を内包しながら発展し続けてきた。
つい二十年と少し前までは、毎年のように行っていたものなのだ。
それが、赤紫羅にこの神社が乗っ取られたために、行えなくなった。
行おうという声はあったが、それが形になりにくく成ってしまったのだ。
瀬場の当主がなくなってしまったのも、機会を逸するには十分な理由である。
それが、こうして朝海がこの神社を取り戻してから、すぐにそんな話が持ち上がった。
意外なことであるが、二十年たってもなお、信仰が薄れることは無かったのである。
まぁ、神社と神木が健在である以上、当然といえば当然でもあるが。
「ありがとうございます。絶対成功させましょう」
「ハハハ、心配せんでも日本人は祭り好きだ、それに二十年前から行っていなかった祭りをまたやるとなれば、それなりに周囲の関心を買える。多少豪勢にやってやれば、人は集まってくるもんだ」
後は“やりよう”だろうと、その老人は語る。
――そもそも、そこまで意識が向けられなかった。
朝海としては、やろうという話が持ち上がり、そのままトントン拍子でここまで進んでしまったというのが実際である。
まだ自分は、彼らの用に老練とした考えは持てていない、ということだろう。
そんな老人と別れ、朝海は即座に集会場を飛び出す。
それなりに広い境内に、平日も、それも夕方である今、人はまばらである。
――それでも、“いる”という時点で、この場が人を集める場所であることを示すのだが。
ずんずんと先を急ぐ、制服姿の少女。
目を惹く者の、それを意識するのはこの場に馴染みのない観光客だけだ。
やがて、神社の一角、倉庫の辺りにたどり着くと、
「――――辰向!」
大声で、男の名を呼んだ。
しばらくすると、倉庫の戸が開き、中から何やら荷物を抱えた長身の男――雪白辰向が現れる。
「どうした? 集会は終わったのか?」
「んー? そんなとこ。そっちは?」
「ちょっと頼まれてな、すぐに終わるし、まぁ待っててくれ」
――きっと、それは頼まれて、ではなく頼られてなのだろうと、朝海は思う。
彼はそれなりの美丈夫であるし、既に神社には馴染んだ顔だ。
人がいいのもあるし、それなりに頼られる存在である。
「ふぅーん。私も手伝おうか?」
「頼めるか? 後二周で終わるはずだから、朝海が手伝ってくれるとこれで終わりだ」
「了解、まぁぼちぼちね」
一般男性が二周必要とする荷物量は、それなりに多いはずなのだが。
――それを考慮する相手ではないだろう。
なんだかんだ、赤紫羅仁との戦闘を行えたくらい、朝海はタフだ。
「夕飯、どうしよっか」
「昔の知り合いが少しいいもんを届けてくれたんでな、それにしようと思ってる」
そっか、と――そこで、話が途切れる。
急ぎ会いに来たのに、どうにも話が続かなかった。
“届けてくれたものって”、とか、“その知り合いって”と、聞きたいことがないではない。
だが、聞かなくても何となく、それで良いと言う風になるのだ。
なんだかんだと、朝海は怠惰である。
少しして、辰向の方が話しかけてきた。
「そういえば――祭りの方はどうなりそうだ?」
「二十年ぶりにやるからって、随分豪勢になるみたい。気合が入るね」
「……おや、朝海からそんな単語が出てくるとは、意外だな」
――言われて、自分も意外だと思ってしまう。
が、即座に反論する。
何だか、心外だ。
「ひどい物言い。訴えるよ」
「デキるもんならやってみろ」
「今この場で、この人痴漢ですって言ったら、どうなるかな」
――人の人生を破滅させる呪文である。
しかもノーコスト。
「呼ばれてきたスタッフにまたお前らか、と呆れられるな」
「……何か、バカップルに見られてる気がする」
今朝、真華ちゃんにも言われたよ、とぶうたれる。
対して如何にも開き直った様子なのが辰向だ。
「違うのか?」
あっけからんと言い放つ。
「もう、バカにして」
言いながら、神社の本殿が見えてくる。
――一年前に手に入れたこの場所は未だ、どうにもなれない場所である。
自分にとって、取り戻さなければならなかった場所。
しかし、生まれてから、一度として足を踏み入れてこなかった場所。
なんとも、不思議な感覚である。
「……もう、一年立つんだね」
ふと、そんなことが漏れた。
――聖杯戦争が終わって、およそ一年だ。
「早いもんだな。なんというか、生まれてから、一番時がすぎるのが早い一年だった」
「あっというまだよねー」
辰向に、朝海、そして真華に、時折弓弦。
一度、ノエミが遊びにきたこともある。
終わってみれば、意外なほどに意外な――充実した、といえる一年だ。
「何だかこうしてると、魔術の世界とかが、嘘だったみたいに思えてくる」
――今も、時折やってくる外来の敵を迎撃するのは朝海の仕事だ。
それに、この時だって重い荷物を支えるのに魔術を使っている。
それでも、なぜだか魔術の世界が――聖杯戦争の舞台が、遠くに感じられる。
「――それだけ、密度はあったんだろうさ。この一年も、それまでの二十年も」
全てが始まり、そして終わって。
――新しい世界は、きっと光にあふれていた。
そんな世界を、朝海と辰向は生きていくのだ。
――幾つもの繋がりが、それまでにあって。
幾つもの願いが、聖杯戦争に集まって。
それが弾けて、新たな明日が始まった。
「じゃあ、明日はどんな一日になるのかな」
朝海がふと、問う。
――そんなもの、辰向にはわからないだろう。
朝海にだってわからない。
明日は進歩によって訪れるものだ。
誰かと誰かがそれを進めて、そして世界に訪れる。
それは決して怠惰ではない。
――だから、明日はきっとあるのだ。
明日がない世界はありえない。
――ただ、その明日が、良いものであるかは、個人次第だ。
「さてな。まぁ、それは明日が教えてくれるさ。俺達は――」
――――瀬場朝海。
聖杯戦争の開催された舞台のセカンドオーナー。
親を赤紫羅に殺され、その復讐を目論むのであるが、彼女の本質は、彼女が管理する土地の守護である。
それこそが彼女の最後の一線であった。
瀬場朝海は、それはそれは頑固な少女なのである。
戦争を終えた後、彼女は神社の管理者として、周囲の助けを借りながら手腕を発揮しいている。
また、高校生としても、学生生活を満喫し、今を忙しく生き抜いている。
当面の目標は、二十年ぶりに行われることになったお祭りを成功させること。
それまでの人生の全てをかけた、聖杯戦争と比べれば規模は小さいが、それでもコレは、朝海の目指す、新たな形の一つだ。
これからも、朝海の隣には辰向がいて、そして世界は、明日へ向けて進み続けるのだろう。怠惰な少女は、自分を急かす世界へ、うんざりとばかりの嘆息をした。
――――雪白辰向。
聖杯戦争の勝者にして、アサシンのマスター。
妹を救うという願いのため、自身へ無茶な改造を施したりなど、がむしゃらでひたむきであると言える。
その起源は『無力』、自身は無力であるために、彼は、周囲の協力を得るための力を、つけるのであった。
それまでの年月が激動であったためか、現在は老後に近い人生を送っている。
隠居、と言えばそのとおりだが、別に彼の寿命は差し迫っているわけではない。
憑き物が落ちた、というべきだろうか、神社のために奔走する朝海をサポートしたり、真華のために朝食を考えたり、聖杯戦争に対応する弓弦を助けたり、時折ノエミと会話をしたり――など。
誰かのために、という行動も、随分と穏やかな形になっている。
これから先の人生に、どれだけの苦慮があるかは知れないが――それでも、辰向は彼の周囲の人々を助け、生きていくことだろう。
明日へと向かう、聖杯戦争の勝者たち。
多くのやりとりと殺し合いがあって、その痕に残った者達は、
「俺達は――誰かとともに、生きていくしか無いんだから」
今日も、世界に急かされ、生きていく――――
『Fate/R avenge Knight』
完。
ご愛読いただきありがとうございました。
これにて本作は完結となります。
出来る限りコンパクトにまとめようとして、書いてみればこの始末。前作より五万字短いだけじゃないですかー!
本気で書こうと思ったら一体どれくらいかかるのでしょうね。
とはいえまぁ、大型の休暇とかぶったおかげか、非常に筆が進みに進み、なんと二ヶ月で完結にまで至ることができました。
毎日更新ということで、追うにも大変だったかもしれませんが、ここまでお読みいただき大変光栄の極みです。
さて、これにて本編は終了となりますが、それ以外のことも少しばかり進めていこうかと思います。
まずは感想でも聞かれましたが、もしも本作がノエミルート、ないしはキャスタールートに進んでいた場合。
これを明日辺り割烹に載せていこうと思います。
更に、本作の次回作として考えていた作品(没になりました)のプロローグ的な何かと、その作品に登場するサーヴァントのデータを上げてみようかと思います。
データはプロローグが終わってから別であげます。
要するにサーヴァントの真名当てですね、それなりにヒントを出してみたいと思いますが、果たしてたどりつけるでしょうか。
後他には、次回作案の一つである、完全な続編ではなく、世界観を同一にした、もしくは別にした聖杯戦争モノの簡単な紹介辺りも、割烹にて。
これからのこの作品に類する更新は全て割烹にて行います。
お気に入りユーザーに登録しておくと追いやすいのではないでしょうか。
というわけで、ここまでお付き合い頂い、重ねて御礼申し上げます。
また次の作品で、お会いできれば幸いです。
PS.続編(プロローグ)をチラ裏に、各ルートを活動報告に、それぞれ置いておきました。