死人に口無しとはよく言ったものだと思う。
死んだ生命体は動く事も無く話す事も無い。
その肉体を構成する有機物のみがそこに存在するだけで、その生命体の生きた証などという物は消え果る。
それがこの世界の結末で正解で辿り着くべきゴール。
万物に与えられた唯一平等なもの。
──頭痛がする。
ガンガンと脳髄を刺激するような爆発音に銃声。
安物の壁を破壊して命を終わらせる為に近付いてくるそれら全てに囲まれながら、隣に倒れ込んだ仲間の死体をみつめた。
もう動く事の無い生命の途切れた肉体。
友人が物言わぬ死体に成り果てて出てくる感想が溜息だった。
「俺もお前みたいに終われたら良かったのにな……」
羨ましい。
生命全てに訪れるであろう死が、本能で恐れる筈の死が、俺はどうしようもないくらいに羨ましかった。
ああ死にてぇ。
いつになったら死ねるんだ。
この一日を繰り返して一体何度目になる?
そして戦友が死んでおよそ三分後、痺れを切らした敵部隊が突入してくる。
数は三十三、制服姿の少女達。
これまでの最高記録は十五人程無力化した所だった筈だ。
意識を切り替えていこう。
俺は死んでも死なない。
何度死んでも死ぬ数分前に記憶が戻る。
痛みも苦しみも残りはするが所詮幻覚だ。
死は救済である。
少なくとも俺にとっては、訪れる事の無い神の一手だと表現できるほどには求めている救いの手だ。
「新人、緊張してんのか?」
話しかけられているらしい。
緊張に身体を強張らせているのは見抜かれている様で、隣に立つ友人共々嘲笑された。
仕方ないだろう、実戦に出るのは始めてだ。
これまで何度も訓練はやって来たけど、いざ実銃で敵を殺せと言われると震えが出る部分はある。
「いいえ、おれは緊張してません」
「ハッ! こっちのガキは良い感じだが、お前はダメダメだ」
隣に立つ友人はどうやら緊張していなかったらしい。
裏切られたという顔で見れば澄まし顔で笑われた。
クソったれが……
コイツは成績優秀で、俺達の代では一番と言われている。
訓練の成績も一番学業も一番リリベルとしての才能もピカ一、将来ファーストになる事が約束されているとすら。
こっちは才能無しの落第リリベルだが?
「おまえはセンスがないんだ」
な、なにを~~!
こっちだって的に弾当てるくらいは簡単だからな!
なめんなよホントに!
「いや、10m先にすら当てるの精一杯じゃん……」
あれは本気出してないだけだから。
訓練じゃ本気出せないんだ、俺。
「座学もおれ以下だけどね」
「仲が良いんだなぁ……」
「どうせ初戦で死にますよこいつ」
は?
ふざけんなお前俺は生き延びるぞ。
リリベル訓練施設で沢山本を読みまくった俺に弱点なんかある訳ないだろうが!
微妙な顔で俺を見る優等生は先輩リリベルと顔を見合わせて苦笑いした。
そして目を瞑って俺に手を合わせた。
おい黙祷するな!
「そこら辺までにしとけよ新入り、そろそろ現場だ」
少々広めの輸送車に立たされていた俺は慌てて最終確認に移行する。
セーフティの調子問題なし、引き金の重さもいつも通り。
スライド部分に歪も無く、なんの問題も無さそうだ。
まあいつも通りやってもダメダメなんですけど……
「ま、おれは優秀だからな。ダメダメなおまえも守ってやるよ」
別に守られなくたって生き残ってやるし~?
こちとら正規のリリベルだぞ。
初陣だけど。
成績悪いけど。
でも本は沢山読んだから最近の流行りはよく知ってるのはコイツ以上のアドだから。
「おまえたまに変なこと言うよな……」
そして車は停止して、訓練通り順番に出て行く。
リリベルのお仕事は単純明快であり、たった一つだけ。
拳銃を所持して複数人で行う事なんて決まってる。
悪い事をする悪人を、事前に処理する事。
これだけだ。
人殺しは倫理的に悪らしいけど、それを記述していた書物は俺が発見した瞬間焼かれたので多分良くない思想だったんだろう。
人を困らせる殺人はアウトだけど、世界を平和にする殺人ならセーフらしい。
リリベル、嘘つかない。
俺はそうやって学んだ。
そんな俺を見る優等生君の目は憐れみを孕んでいた。
「XA-01、02、03。お前らはこっちに着いてこい」
XA──新入りの俺達を表すコードネーム。
ていうか名前が無いんだよね。
俺達、戸籍ないから。
戸籍がない孤児として世界中から集められた俺達の存在はどこにも存在していない。
ただ生きている以外の証が無いのだ。
だからここで死んだら終わりである。
終わり、終わりかぁ……
死にたくないなぁ。
でも俺の成績じゃあ死ぬんだろうなぁ。
成績が悪かったから代わりに沢山本を読んで見識を深めたけど、ぶっちゃけた所、俺の役割は肉壁である。成績優秀な同期を守る為に寄越された肉壁。
でもまあそれもしょうがないことだ。
だって俺、成績悪いから。
役に立たない奴が居ても意味が無い。
雑魚なりに出来る事はあるけれど、それは必要かと言われれば否だとおもう。
「……なあ」
うん?
XA-01────先程の優等生が話しかけて来た。
XAは俺達の世代を表す単純な番号。
02は俺、03は友人。
「おまえ、何歳?」
俺?
俺はそりゃあ……もう十五歳だね……
「……なんで初陣?」
…………成績が悪くて……
全然合格できなくて……
肉壁としてしか扱えないって言われた……
「…………雑魚いんだから。逃げてていいぞ」
なめんなっ!
「おしゃべりはそこまでだ。作戦を開始するぞ」
──了解。
スイッチを切り替えるなんて高等なもんじゃないけれど、それなりの覚悟はしている。才能の無い人間が生き残れるほど優しい世界ではない。俺がこれまで見届けて来た、見送って来た奴らの顔が一つも無かったのが良い証拠だろう。
俺の事を待っていると言ってくれた奴は死んだらしい。
二年程前に殺されたんだと。
俺を出来の悪い兄だと慕ってくれた奴も死んだそうだ。
訓練生を卒業して司令部に行って聞いたらこれだった。どうやら俺は全員を見送って取り残されたらしい。
……まあ、最後の最後に役立たずとして駆り出されて、優秀な奴を守る盾になれて嬉しいよ。
階段を駆け上がっていく。
拳銃を持ちいつでも発砲できる態勢でドアの前で突入を待つ。
「XA-02、前だ」
セカンドリリベル──一個上の階級を持つ奴が指示してきた。
あっ、この段階で俺が一番前っすか?
それ即ち死ってことでは……
上司は頷いている。
それは一体なんの同意なんですか?
死ねってことなんですかね…………
引けそうにもないので行くしかなさそうだ。
死にたくねぇなぁ……
いやでもこれそういう事だよな……
ドアノブに手をかけて後ろを確認する。
これしかも引き戸じゃん、かっこよく突入出来ないじゃん。
ふー……
俺の死ぬ場所はここかぁ。
あいつらの死すら悼めないまま死ぬんだな。
まあ、才能ある人間を守れると思えば。
人殺しの才能すら無い無能が役に立てたと思えばそれでいいや。
生きる価値の無い生命体が役に立てるのならば、それで本望だ。
────突入します。
ドアノブを引いて、正面に銃を構えて────
「新人、緊張してんのか?」
…………??
……え……?
どういう、事だ……
「いいえ、おれは緊張してません」
「ハッ! こっちのガキは良い感じだが、お前はダメダメだ」
隣に立つ優等生はこちらを見て澄まし顔で笑った。
…………夢、だったのか。
とんでもないデジャヴを感じる。
優等生に一言言われるより先に、先程言われた言葉を返す。
──おれはセンスがないんだ。
「……10m先に当てられないのはセンスだよ」
さっきと言ってる事違うじゃねーか!
やっぱ変な夢だったのかなぁ……
立ったまま寝ていたと考えるとまあおかしな話だが、そんなこともあるものか。
予知夢……正夢……辞書を読みまくって蓄えた俺の語彙力ではそのように表現できる。ふふっ、ちょっと胸と腕と足と腰が痛む気がするけどこれは気のせいかな。
「……なんかおまえ、顔色悪いぞ」
「新入りィ~、ビビリすぎだ!」
はははと笑い飛ばす上司と心配そうに顔を覗き込む優等生。
こいつ思いの外仲間に対する優しさあるよな。
なんかさっきの夢でも呆然とこっちを見てた気がするし、死を看取ってくれるのは確かだ。優秀な奴の心に俺の存在を刻むのはあまり……肉盾一枚程度の扱いして欲しい……
リリベルとして、人殺しの出来ない無能なんかは忘れて欲しいぜ。
そろそろ現場到着だって言われた気がするから席に座って拳銃のチェックをする。
さっき見た。
……予知夢ぅ?
そんなもんあるのか……?
わからねぇなぁ。
「そこら辺までにしとけよ新入り、そろそろ現場だ」
ちゃんとしてるやろがい!
因みにこれは猛虎弁と言って、インターネットの深層で扱われることが多いネットスラングの一種らしい。ネットの触れる部分も制限されてるっぽいけど何故か自由に見れる掲示板で、書き込みは制限されていたがちゃんと目を通して学んだから間違いない。
「ま、おれは優秀だからな。ダメダメなおまえも守ってやるよ」
う~ん、やっぱりさっきのって夢じゃなくないか?
正直今も動転してるから気が気じゃないんだが、だってさホラ、さっき撃たれたと思われる胸が痛むんだ。手も足も首も腹も足も、全身鉛玉をブチ込まれた感覚だけが残ってて、脳は決して幻で片付ける事を許してくれない。
……気のせいで、通したい。
これが気の所為ならばきっと、先程と同じ末路を辿らない筈だ。
もし仮に同じ末路を辿るのならば、きっと幻覚じゃなくなる。
死んだ筈なのに死んでない、そんな意味不明な状況に陥ったことを示しているだろう。
そして車は停止して訓練通り降りていく。
妙な既視感だ。
既視感……ああ、そうだ。
既視感でいい、筈なんだ。
あくまでデジャヴで夢であり、決して先程のは現実ではない。
優等生が言った言葉が脳裏にこびり付いている様な、でも違う言葉だった。だからきっとさっきのは夢だ。
「……なあ」
なにかな優等生。
もしかして君は、俺に年齢を訊ねようとしていないか。
俺は今十五歳で君より五つ以上上で、見送って来た友人や仲間に弟のような奴も皆死んでしまった。
「──……なんで」
優等生、XA-01の顔は酷く驚いていた。
この会話で得られたことは、先程の記憶が予知夢であり正夢でありこの後起きる出来事であることを示唆している。
何一つ嬉しくない答え合わせだ。
つまりこの後俺は上司に扉を開けるように指示されて情け容赦なく撃ち殺される。
はてさて────
全身から灼熱と激痛の影響で汗が噴き出ているけれどそれは無視。
今俺はとんでもない状況を迎えている。
どれだけ現実逃避をしようとも、リリベルとしての教育が俺に現実を見せつける。
前者か後者か、どちらを確かめるか。
仮に前者だったのなら鉛玉は二度と喰らえない。
浴びたが最後俺の人生は終わる事になる。
別に終わってもいいけどな……
折角よくわからん現実に包まれているんだ。
死ぬまで試してやらないとそんな気分になる。
「おしゃべりはそこまでだ。作戦を開始するぞ」
了解。
ここまで完璧に一致してる。
実技も筆記も最底辺の俺だったが、流石にリリベルとして叩き込まれた最低限の教訓は胸に刻まれている。だから戦闘時に冷静になるために、任務を果たす為に思考を落ち着かせる程度の事は出来た。
初めて通る筈の道を、一度歩いたかのようにスムーズに。
そして件の扉の前に辿り着いた我が上司は振り向いた。
「XA-02、前だ」
────……ふー……
当てられもしない拳銃を握って、汗が滝のように流れ落ちる額を拭って、震える右手でドアノブをガッチリつかむ。
ああー、死ぬ。
死ぬ。
死ぬぞ。
この扉の先には死が待ってる。
なんでかわかるんだ。
初めて開く筈のこの先が、きっと俺の墓標だって感じてる。
「……XA-02? どうした」
どくんどくんと心臓が脈打つ。
緊張感。
俺の心を支配する重さ。
恐怖感。
俺の頭を支配する重さ。
懐疑感。
俺の身体を支配する重さ。
なあ、本当にこれ開けて。
──……俺は死ぬと思うか?
「……隊長、ちょっと待ってください。こいつ様子が──」
優等生が何か言った瞬間、鉄製の扉を貫通して銃弾が飛び出した。
狙いは正面に立つ俺、射撃箇所は胴体。
甲高い金属の弾ける音と共に衝撃を受けて後ろへ一歩、続けざまに何発も斉射された鉛玉が俺に飛んでくる。
自分の肉体が灼熱と激痛を訴えるのと同じタイミングで気持ち悪い出来損ないの生命体のような動きで舞う俺の肉体を横目で追いかけて、声すら上げることなく、優等生と目があった。
……おせぇよなぁ、何もかも。
「新人、緊張してんのか?」
……ああ、なるほど。
これは勘違いでも夢でもない。
先程撃たれた銃痕は残っていないが間違いなく撃たれた感覚が残っている。
この熱も痛みも幻じゃない。
俺は確かに撃たれて貫かれて、無様な屍を晒した。
「いいえ、おれは緊張してません」
「ハッ! こっちのガキは良い感じだが、お前はダメダメだ」
鞄の中に入っている拳銃を取り出す。
念のためもう一度だけ確認だ。
グリップの感覚、
マガジン中身。
安全装置を外して、訝しむ周りの視線も気にせずに、未だ心の底にこびりついた恐怖感に震える手を押さえつけて、側頭部に銃口を当てた。
「……おまえ、なにして」
引き金は重くなかった。
「新人、緊張してんのか?」
確定だ。
既にこの言葉を聞くのも四回目、これはデジャヴなんてもんじゃない。
側頭部を貫いた弾丸は存在せず、今もまだ拳銃に籠められたまま。
肉体のどこを触っても負傷部位なんてなくて、俺は健康そのもので、何度も死んだ等ととてもではないが考えられないくらいだった。
「いいえ、おれは緊張してません」
そうか、俺は、死なないんだな。
あれは夢なんかじゃない。
この痛みは幻にはならなかった。
だからあれは現実だ。
現実に起こるわけが無い現実が、なんでかわからないけど、俺の身体を蝕んでいる。
拳銃を手に持って握り締める。
俺の命を一度奪っただろう。
そんな痕跡何処にもないのに、先程握った感触と一致するお前は間違いなく俺を殺した。
「……なにしてんだ?」
優等生が俺を見る。
さあ、なにしてんだろうな。
俺にも訳がわからないんだ。
「へんなやつ……」
変な奴か。
そうだな、変な奴だ。
死んでも死なない変な奴、それが今の俺らしい。
バカは死ななきゃ治らないと言うそうだが、バカな俺もそれに当て嵌まるのだろうか。
「そこら辺までにしとけよ新入り、そろそろ現場だ」
了解。
とりあえず、当面の目標を決めないとな。
ただ茫然と繰り返すだけじゃ永遠にこのやりとりを聞く羽目になりそうだし、ゴールは定める。
XA-01──優等生の生存を優先する。
元々俺の役割はそうだ。
肉壁として少しでも役に立て、優秀な者を生かす為に生贄になれ。
それに関して文句はないんだから、死なない身体を生かしてどこまでも歩かせてやるのもいいだろう。いつの日にかこの繰り返しが途切れてしまうかもしれないけどそれはきっと今日じゃない。
車から降りて上司の後ろを小走りで着いていく。
XA-01の背中は小さい。
当たり前だ。
俺より五歳近く下の年齢なのに、俺より優秀で、俺が守るべき相手だ。
リリベルの教えは絶対だ。
親の教えは絶対だ。
自立など求めていない。
ただ従順に役割を果たす歯車だけを求めている。
他の連中よりずっと長く教育を受け続けて、俺はそれを理解している。
だからこそ肉盾として処分する事を決めたのかもしれないが……
生憎と俺は死ねないらしい。
肉盾としての役目すら果たせないのだから、どうにか生き延びる他ない。
XA-01、安心しろよ。
俺がお前を生き残らせてやる。
「XA-02、前だ」
頷く事すらせずにドアノブに手をかけた。
ここから、ここからだ。
何度死んでも死にきれないなら、行きつくところまで行ってやる。
頭がおかしくなっちまったのかもしれない。
恐怖で見栄もしない幻想を見ていて、本当の俺は何度も死んでいて、俺は俺じゃないのかもしれない。俺の正気を保証する存在はどこにもない。
それでいい。
俺を正気に戻すのは鉛玉一発あれば十分だ。
扉を開いて、一気に身を屈めて前に飛び出す。
リリベルの教えからはかけ離れている。
一回目は規則通り扉を開いて警戒状態になって、蜂の巣になった。
二回目は扉越しに撃ち殺された。
三回目は自殺した。
そして四回目で理解した。
だから、これまでと同じ死に方はしてやらない。
初弾が腹部を貫くと分かってるんだからそれを回避しようと動くのは当たり前の話だから。
扉の先は通路で、遮蔽物は無く、およそ15mの廊下の先に三人の男が立っている。
手に持った拳銃を此方に構えて驚愕の表情を浮かべているがその手が緩むことは無い。まぐれだと思われたんだろう。
さあ、覚えなければ。
1に腹部狙いはわかった。
廊下を走る敵に対してどう動く。
「おいっ、XA-02──!!」
上司の怒号と男たちが引き金を引くのは一緒だった。
初めに右脚、バランスを崩した背中に一発、転んで受け身を取ったところに追撃。
わかった、足だ
「新人、緊張してんのか?」
いきなり顔面を狙ってこない辺り、そこまで精度はよくない。
俺が言えた話ではない?
まったくもってその通り、15m先のチンピラ三人くらいなら優等生なら一瞬で撃ち抜いてしまうだろう。
先に行かせるのが正解だとは思うけれど、その場合多分、先手必勝と言わんばかりの壁抜きであいつは一瞬で死ぬ。あの男三人は俺達の奇襲に気が付いているんだ。
だから俺が先陣を切って肉盾になる、上司殿のいい判断と言わざるを得ない。
屈んで突撃は問題なさそうだから、攪乱しながら行くか?
足に射撃が飛んでくるのがおおよそ一秒後それに合わせて跳ぶ。
銃弾を見てから避けるような特殊技能は持ち合わせていないから、とにかくトライ&エラーしかないか。
「……おい! 聞いてんのか、XA-02」
ふと顔を下に向ければ優等生がこちらを見ていた。
「おまえ、どうした?」
……?
何の話だ?
「……いや、気付いてないならいいよ」
そう言って優等生は座った。
どうせもう着くのだ、座ろうが座らなかろうが変わらない。
先程銃撃を食らった足を摩っても痛みは和らがない。どうせ戻るなら痛みも残らないようにしてくれれば良かったのに。
ま、こんな都合のいいよくわからんSF能力が宿っているんだ。
例えばこれが夢で、例えばこれがあの世で、俺が見たい世界だけを永遠に映しているものだったとしても構わない。今こうやって銃を握る俺が出来る事は一つしかないから。
「そこら辺までにしとけよ新入り、そろそろ現場だ」
そして先程までと同じように展開し、銃弾を避けて突入し残り10mと言った場所まで接近して、俺の頭蓋は撃ち抜かれた。
「新人、緊張してんのか?」
他の連中の弾は外れていたため、やはり腕は良くない。
俺よりはいい。
あれ以上に近付いて連中を処理できる自信もない。
でも近付かないと死ぬ。
扉を空けて即逃亡なんてしてもいいけれど、それで他の連中が無駄死にするのは気分が良くない。
死んでも死なない俺が死に続けるのが如何に効率的だろうか。
敵には当たらない癖に俺の命を奪う事だけは得意な拳銃を握って、次はどうしようかと考える。無能な俺が役に立てている様な気がして少しだけ気が晴れる。
……頭を銃弾で撃ち抜かれる感覚は、あんな感じか。
少し気持ち悪いな。
今も脳漿が飛び出てないか不安だ。
「おい、XA-02」
優等生ではなく上司が話しかけて来た。
その顔には憐れみが浮かんでいる。
「あまり気負うなよ」
…………ああ、そういう事か。
アンタから見れば、俺はXA-01の肉盾として呼ばれた落第リリベル。
自分の末路に悲観してるように見えてもおかしくないよな。
でも大丈夫、全然何も気負ってない。
XA-01がくたばるその瞬間まで、何処までだって歩いていくから。
「……XA-02、よくやった」
大体十五回くらいくたばってから、俺はようやく男どもを制圧した。
マガジンに籠められていた弾丸は全部打ち尽くして、俺の拳銃は引き金を引いてもカチカチと無気力な音を発するだけ。ただその代わり、俺の事を散々殺してくれた三人はきっちり殺し切ってくれたのだから、俺の命を吸わせた価値はあったと思う。
「XA-02、貴様……訓練所では手を抜いていたのか?」
上司が訝しむような表情で問いかけて来た。
返り血がこびり付いて汚れた頬を手の甲で拭いながら、隣に立つXA-01が信じられないと言った表情で此方を見るのも気にせずに答える。
――いいえ。自分は常に真剣であります。
「……そうか。俺が先導する、着いてこい」
ああ、でも待てよ。
今になって思えば死ねないってことは、先に逝った連中に会えないんじゃないだろうか。
つまり、俺が覚えている限り、お前らの存在は証明できる。
ドッグタグも無い名前も無い痕跡も無い、初めから世界に存在しなかったと切り捨てられたお前たちの生を、俺だけはどこまでも肯定できる。
そしてついでにこの優等生も守る。
俺は肉盾だからな。
お前の代わりに死ぬくらいの事は出来るし、それでいて死なないのなら理論上お前は不死身だ。
「…………なに、みてんだよ」
優等生、XA-01は俺の顔を見る事も無く嫌そうな声を出した。
安心しろよ優等生。
お前は俺が守るから。
どんだけ死んでもお前だけは生かしてやる。
将来ファーストが約束された奴を守るのが、俺のリリベルとしての役割だからな。
「……気持ちわる」
この日、上司に率いられた俺達三人は一人も欠けることなく初陣を終えた。
キルスコアは
二十回近く死んでようやく死なずに制圧できたのだからつくづく俺に才能はない。肉盾として運用する事を許した上層部の判断は間違いなかった。慧眼だぜ。