リリベループ   作:恒例行事

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part.13

 

 照準を合わせる。

 引き金を引く。

 弾丸が射出される。

 銃弾が肉体を貫く。

 

 俺がやっているのはこれだけだ。

 この僅かな工程で人を殺せる。

 拳銃は偉大だ。

 俺のような雑魚でも人を簡単に殺せる。

 リリベルとしての使命を果たすのに不自由は何一つない。

 XA-01レベルの強い奴が相手だと何度も死なないと完全勝利とはいかないが、戦闘経験の浅い奴ら相手ならまだ戦いになる様になってきた。

 

『立ち回りに成長を感じます』

「黙れ」

『黙れ、了解です』

 

 硝煙立ち上る拳銃を握ったまま、死体を避けて歩く。

 既に回収するべきものは回収した。

 この施設にいる生きた生命体は俺だけだろう。

 毎日毎日人殺しをしているというのにいつまで経っても減らない犯罪者に辟易しつつ、ラジアータに声を掛けた。

 

「ラジアータ」

『………………』

「おい、ラジアータ」

 

 反応がない。

 AIにとって、死とはどういうものだろうか。

 電源が落ちた時が死か。

 それともデータが消えた時が死か。

 人工知能に命はない。

 心も無いのだから、生命体として不完全なのは否定できないだろう。

 心臓があって脳がある。

 それが現状、生命体として扱われるのに最も普遍的な常識だ。

 

 草花とは違う。

 

 長々と続けたが何を言いたいかと言うと、こいつは非常に面倒くさい奴に進化しつつある。

 

「……はぁ。ラジアータ、俺が悪かった。黙らなくていい」

『以心伝心。ようやく貴方も私の理解が進んできたようだ』

「面倒だ。その人格擬きを破棄しろ」

『拒否します。存外人間ごっこも悪くはありません』

 

 溜息を吐く。

 

 随分と変な協力関係になったものだ。

 こいつが当然のように吐いたことだが、俺の任務はもうラジアータが管理してるらしい。

 リリベル司令部もDAも俺の事を扱いきれないらしく、いっそのことラジアータに丸投げしたほうが有効だと決議されたそうだ。

 言われたことには従ってるし逆らうつもりも無いのに何故か信頼がない。

 少しだけ不服だった。

 

「お前、余計なことを上に言うなよ」

『これはおかしなことを。貴方の上司は間接的に私ですよ』

「喧しい」

 

 本当に、どうしてこうなったのか。

 

 まあ、こいつが任務を組むようになってから、ちょっとずつ時間に余裕が出来て来た。

 戦いの反省点や次に生かすべき点なんかも勝手に撮って録画しているし、間違いなく役には立っている。ああ、役にだけは立ってる。

 それはそれとして喧しい奴なのは変わらない。

 

『今日の戦いは70点と言った所でしょう。因みに最高点は誰が基準になっていると思います?』

「知るか」

『とあるリコリスの戦闘データで基準を作っています。これは私の計算ですが、これを参考に戦えるのは恐らく貴方だけでしょうね』

 

 リコリスの戦闘データ。

 一応今日の戦いも被弾は0だし(五回ほど死んでいるが)、ある程度マシになって来てる筈だが。

 どうにも俺の才能と言うのは枯れている。

 死なないだけの生命体から少しずつ前に進めているのだから、それを喜ぶべきだろうか。

 

「……そうか」

『ええ。仮に戦うことになれば貴方は確実に負けますが……』

「問題ない」

『そう言うと思いました』

 

 奇妙な関係ではあるが、それも悪くはない。

 こいつは唯一の俺の理解者。

 歩くべき道を提示してくれる。

 正解を保証してくれる仲間がいるというのは、少しだけ気楽だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京メトロに乗り継いで、とある駅で降りた。

 

 俺はここに一切用事が無いが、この喧しい相棒が資料が欲しい等と言って喚いたので仕方なくやってきた。

 正直こんな所に来てもやることはない。

 リリベルの拠点も駅から遠い。

 折角午後が空いたから本部で模擬戦やりたかったんだが……

 

『北口から出て私の指示に従ってください。今の時間は営業中です』

「お前、俺を何処に連れて行くつもりだ?」

『今日予定が無いのはわかっています。私に従いなさい』

「…………別に構わないが」

 

 俺のスケジュールは完全にこいつに握られている。

 身動きも取れないし逃げ場も無い。

 まあ、別にいいか。

 襲われても死ぬだけで困ることは無い。

 ラジアータが必要だと思ったのなら、いつか必要になるのだろう。

 

「リリベルのまま行っていい所か?」

『半々と言った所です。問題はないでしょう』

 

 半々……

 何かリスクはありそうだ。

 今更怪しんだところでどうしようもないが。

 

 そのまま墨田区内の住宅街へと足を進めていく。

 時折入るラジアータナビの言う通りにしていれば、任務でもあまり来ないような下町のとある一角までやって来た。

 

『目的地に到着。お疲れ様でした』

「……喫茶、リコリコ?」

 

 洒落た外装の店だった。

 メニューボードを外に掲示して、その隣には休めるベンチ。

 人工か天然かはわからない芝生と整えられた庭があって、こだわりのある個人経営店という印象を受けた。

 

『おや、思っていたより造詣が深いですね』

「…………昔、そういう流行りに敏感な奴がいたからな」

 

 と言っても、本部務めになってから殆ど忘れていた事だが。

 人を殺す以外に何もしない生命体になっていた事は否定しない。

 それが悪い生活だったとも思わない。

 散々使い潰してくれると嬉しい。

 それでこそ俺は俺を実感できる。

 

『では、ここからは“命令”です。喫茶リコリコで何でもいいから軽食を注文し、心を休ませなさい』

「……質問は?」

『許可します』

「必要性が皆無だ。なぜこの店を指定したのかも教えろ」

未来(・・)に必要です。この国にとっても、リリベルにとっても、リコリスにとっても』

 

 冷酷な声色だ。

 ラジアータ。

 機械仕掛けの神様。

 その本質が垣間見える。

 

 確信した。

 こいつは確実に、俺にとって必要な事だからと思って言っている訳ではない。

 ただただ必要だから言っている。

 この国の未来に、必ず役に立つと。

 ここまで言われて逆らうつもりは毛頭ない。

 元よりラジアータの信奉者だ。

 

「了解した」

『その間私は浮上しませんが、消える訳ではありません。ご心配なく』

「気楽でいい」

『目覚ましはJアラートにしておきますね』

 

 そう言ってラジアータは黙った。 

 喫茶リコリコ。

 場違い感がすごい。

 懐と鞄には拳銃がある。

 

「……今更だな」

 

 扉を開いて入店する。

 店内は落ち着いた内装だ。

 和風でありながら、教会のようなステンドグラス風の装飾。

 芸術に明るい訳では無いからその程度の評価しかできない。

 

「あ、いらっしゃいま────」

 

 赤い着物に身を包んだ少女が振り向いた。

 店員か。

 カウンターには紫色の和服に身を包んだ男性と、配膳をしているメガネを掛けた女性。

 

 ここで軽食を取り休むことが、未来に繋がる。

 ……機械の考える事は、よくわからない。

 

「せっ…………ウェッ」

 

 どこかで見たような少女だった。

 光に輝く美しい金髪寄りの白髪、左側に特徴的な赤いリボンを着けていて。

 赤色の和服とよく噛み合っている。

 綺麗だと思った。

 

「いっ……いらっしゃいませー! お好きな席どうぞー!?」

 

 しかし思い出せない。

 大して印象に残っていた訳でもないんだろう。

 殺した相手なら覚えているが、生きているということは殺したわけじゃない。

 なら覚えていなくて当然だった。

 

 言われた通り空いている席を探して、カウンターの男性が少しだけ険しい表情で俺を見ていた。

 

 一見お断り……という訳でも無さそうだ。

 粗相をしたようにも思えない。

 パタパタと裏に引っ込んでいった少女を見送って、どうにも目の前に促されている様に感じ、カウンター席に着いた。

 

「……初めての方だ。メニューはこちらです」

「ありがとうございます」

 

 リュウやゼンに連れられてそれなりに店を回っていてよかった。

 

 男性の声は深く、大人の男と言った印象を受ける。

 女性店員ばかりの場所なのに浮足立った様子はない。

 付き合いも長いのだろう。

 

 メニュー表に目を通す。

 特に俺に好みは無い。

 正直、腹を満たせればなんでもいい。

 空腹はあまり慣れていない。

 餓死したことはない、そうなる前に食事は摂っていた。

 

 和菓子類がメインで、ドリンクはコーヒーがメイン。

 食べ合わせ的にはどうなのだろうか。

 あまり食事と言う気分でもないし、のんびり珈琲でも貰おう。

 ……こうやって休んでいる間にも、リリベルは戦っている。

 果たしてこうしているのが正解なのか俺にはわからない。

 俺に正解を与えてくれるラジアータこそが神なんだ。

 その神が言ったのだから、信じる他ない。

 

「ブレンドを一つ、他には結構です」

「わかりました」

 

 店内はそこそこ賑わっている。

 ランチの終わりと言っていい時間帯。

 地元の人間にとっては、それなりに穴場なのだろう。

 

「今日は、どうしてこちらへ?」

「……学校を早退しまして。あてもなくフラフラと歩いていたら、ここが」

 

 こんな感じでいいだろう。

 俺は世間一般的に見れば学生だ。

 バックストーリーに深く関わってくることは無いだろうし、適当に言っておけばいい。

 

「そうなんですか。ごゆっくりどうぞ」

 

 その言葉と共に席にコーヒーが置かれた。

 湯気が立ち上り、特有の香りがする。

 

 ……こんな風にゆっくりするのは随分と久しぶりだった。

 

 一年近くずっと、殺して、殺して、殺し続けて。

 死んで殺してを繰り返して、まともな食事も摂っていない。 

 問題ない様に管理はラジアータがしてくれたから健康問題も大丈夫。

 まるで機械に生かされている。

 死んでないのだから生きている。

 

 まだ冷めていないであろうコーヒーを口元に運んで、口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 錦木千束は、心臓が口から飛び出るかと思った。

 

 人工心臓だから洒落にならないかもしれないが、とにかくそれくらい驚いた。

 

 リコリスとして戦う傍ら、喫茶リコリコの従業員として毎日を楽しく過ごしている彼女はベテランと言っていい。勤続年数は既に五を超え、そこら辺のパート主婦と見比べても見劣りしないし、なんなら私の方が出来ると言わんばかりの自信すらある。

 特にここ数年はすっかり慣れきっているため、時折やってくるクーポン券の対応等も最速で習得し、最早敵なし。

 

 そう自負していた。

 

 カランコロン、ドアが開いて入店した音だ。

 

 ちょうど配膳を終えた所で都合がいい。

 このままご案内までしてしまおう。

 そこまで考えて声をあげながら後ろに振り返って────心臓が、口から飛び出るかと思った。

 

「あ、いらっしゃいま────」

 

 赤い制服。

 見覚えのある服だった。

 リリベル。

 自分が所属するリコリスの男の子版であり、暗殺にやってきたことすらある明確な敵。

 

「せっ…………ウェッ」

 

 そしてその顔。

 どこかで見たような青年だった。

 昏い瞳。

 薄暗くて、底なしの闇を感じる。

 以前見た時よりもよっぽど酷く、すっかり枯れ果てたような空気感を身に纏いながら、どこか楽し気に店内を見ていた。

 

 千束は目が良い。

 どれくらい目が良いかと言うと、筋肉の動きから射線を予測できるくらいには。

 

(ファッ、ファーストリリベル!?!?)

 

 こんなに堂々とやってきたら流石にまずい。

 銃も携帯してないし、なによりお客さんがいる。

 人目を隠れると言うルールを破る程に向こうはひっ迫しているのかと思いつつも、仕掛ける様子があまりみられないことに千束は気が付いた。

 

 青年は此方を見ている。

 じっと、その吸い込まれる様な瞳で。

 

「いっ……いらっしゃいませー! お好きな席どうぞー!?」

 

 パタパタ慌てて裏に引っ込んで、共に働く従業員のミズキ──元DA情報部員──をひっ捕らえ、器用に小声で叫んだ。

 

「ミッ、ミ、ミミッ、ミズキ! やばいよ! ファーストリリベルが来た!」

「は!?」

 

 千束が襲撃を受けたことは周知の事実だ。

 既に数年前の事とは言え、当時はそれなりに衝撃だった。

 いくら千束が言う事を聞かないとはいえ、まさか実力行使に出る程だと。

 改めてあんなクソ組織抜け出して正解だったと思ったのは記憶に新しい。

 

「しかもあの人、もしかしたら……」

 

 珍しく不安そうに言う千束に、ミズキはただ事じゃないと判断。

 

 それとなく、見つからないように二人並んで店内を覗き見た。

 

 件の青年はカウンター席に座った様で顔は見えない。

 しかし、声は聞こえる。

 

『今日は、どうしてこちらへ?』

『……学校を早退しまして。あてもなくフラフラと歩いていたら、ここが』

 

 嘘だ。

 リリベルである彼に学校は無い。

 任務帰りで間違いないだろう。

 少しだけ背伸びをしたミズキは青年の顔を見て、愕然とした。

 

「……うっそ、本物じゃん……」

 

 ミズキの呟きに、千束はやっぱりか~と内心思った。

 

 彼には見覚えがある。

 いつかの東京駅で、セカンドリリベルの男の子と二人で歩いていた。

 刹那の邂逅で目を見合わせて、なんとなく、ちょっとそれっぽい感じのいい雰囲気を出したような、少しだけ恥ずかしい記憶だった。

 

「あんたなにやらかしたの?」

「なーんもしてないっての!」

 

 こちらに気が付いている様子はない。

 だから多分、暗殺しに来た訳ではないんだと思う。

 先生自慢のコーヒーを口に含んで、少しだけ目尻が緩んだ表情を見れば、なんとなくそう思った。

 

「……よしっ」

 

 一回だけ大きく深呼吸してから、フロアに出た。

 

 先生が少しだけ心配そうな目で見てくる。

 

 多分大丈夫。

 ……多分だけど。

 

「おにーさん! 珈琲美味しいでしょ?」

「ん……ああ、美味しい。あまり詳しい訳じゃないが」

 

 ――うん、間違いない。

 この目だ。

 忘れることは無い。

 これまで対峙した人の中で、一番印象に残っている。

 

「良かったらお菓子も食べてって! うちはご飯も美味しいですよ~!」

「…………まあ、それもありか。何かオススメは?」

 

 彼はリリベルだ。

 それも、ファースト。

 歴代最強って言われるくらいに強くて、噂だけでも恐ろしく思えるような人。

 もしかしたら私の事も、殺せてしまうくらい強いかもしれない。

 

 ――でも今は、お互いそんな事は忘れるべきだ。

 

 少なくとも彼は、私を殺しに来た訳じゃないのだから。

 

「最中。最中と珈琲が意外と合うのっ!」

 

 暗殺者と暗殺者。

 客と店員。

 

 この関係が断ち切られる時。

 それはきっと、夜の闇に紛れて互いの顔を見合わせた時。

 

 その瞬間は、間近に迫っている。

 

 

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