リリベループ   作:恒例行事

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part.15

 

 死人に口無しとはよく言ったものだと思う。

 死んだ生命体は動く事も無く話す事も無い。

 その肉体を構成する有機物のみがそこに存在するだけで、その生命体の生きた証などという物は消え果てる。

 それがこの世界の結末で正解で辿り着くべきゴール。

 万物に与えられた唯一平等なもの。

 

 ──頭痛がする。

 

 ガンガンと脳髄を刺激するような爆発音に銃声。

 安物の壁を破壊して命を終わらせる為に近付いてくるそれら全てに囲まれながら、隣に倒れ込んだ仲間の死体をみつめた。

 もう動く事の無い生命の途切れた肉体。

 仲間が物言わぬ死体に成り果てて出てくる感想が溜息だった。

 

「…………ラジアータ」

 

 機械仕掛けの神は答えない。

 この戦いの結末に一体何がある。

 目の前にいるのに手が届かない、この現実の後に一体何が待ち受けている。

 

 仲間は全部死んだ。

 逃げ場はない。

 手に持った愛銃一つが俺の武器。

 死んでも死なないこの身体で、この戦場を切り抜けなければならない。

 

 戦う前にラジアータが出して来たオーダーはたった一つだけ。

 

『生存すること。そうしなければ、貴方達リリベルは不必要だと判断されます』

 

 俺達リリベルを切り捨てる。

 そのための戦い。

 DAが下した任務。

 そしてこの一斉射の後に姿を現わす、制服姿の少女達。

 

 リコリスとリリベルの任務がブッキングする訳がない。

 意図的に組まない限り、決して。

 

「……………………」

 

 いつも通り愛銃の状態を確認した。

 手入れは欠かしていない。

 ラジアータの補助が入る様になってから、より正確に出来るようになった。 

 パーツの僅かな歪みすら許していない。

 

 この一日を繰り返して幾度目か。

 もう三十はやり直しているだろう。

 全員殺して殺し尽くすだけならばここまで苦労することは無い。

 だが、前提条件が最悪すぎた。

 

 どう備えても、どう答えても、仲間達は応戦し、死んでいく。

 そして彼女達は俺達をテロリストだと思っている。

 和平のしようがないし、そもそもこれは任務だ。

 彼女らが武装している事実は変わらず、それは向こうから見ても変わらない。

 

 ファーストに権限を集中しているデメリットがここに現れていた。

 

「……………………」

 

 そして、彼女らリコリスを皆殺しにする。

 それはそれで面倒な事態を引き起こしかねない。

 俺達が全滅すれば不必要だと判断されるように、逆もまた然りだろう。

 

 リコリスは必要だ。

 俺達リリベルが暗殺に向いていないから彼女達が重宝されている。

 その事実を捻じ曲げては、リリベルのことも遠回しに否定してしまう。

 どうすればいい。

 一体どうすれば丸く収まる。

 ラジアータ。

 どうして答えない。

 

 俺は一体、どうすればいいんだ。

 

 ラジアータ。

 

「対象沈黙。残りターゲット、1です」

「絶対一人で相手するな! 複数人でやれ!」

 

 此方へ走ってくる音が聞こえてくる。

 

 組織内での潰し合い──というより、より合理的に運営するための処分。

 事前に戦う事を知らせていれば本来のパフォーマンスより上の性能を発揮する可能性がある。ゆえにいつも通りの任務を装い、正面からぶつかり合ってどちらが勝つかを判断する。

 

 そんなものラジアータに計測させればいいのにと思ったが、そこには大きな課題が居る事を、俺はすっかり忘れていた。

 

「…………全部、俺の所為か」

 

 乾いた笑いすら、出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曇天の曇り空。

 なんとなく、今日は一日良くない感じだった。

 

 前髪は決まらないしセット下着はバラバラで全然見つからないし映画も寝過ごすしリコリコに遅刻して怒られるしいいことが全然ない。お店の空気も心なしか少し澱んでいるような感じがして、気張って大きな声を出したり明るくしようとしてたけど改善せず。

 今日は駄目な日だ。

 錦木千束はそう考えた。

 

「……お客さんこな〜〜い!!」

 

 喫茶リコリコは閑散としていた。

 客が来ないのをいいことに昼間っから酒を飲み始めるミズキ、難しい顔をしながら誰かと連絡を取り合ってそわそわしているミカ、退屈で身体を余しているが常連も一人も来ないので一人虚しく暴れる千束。

 めっちゃ暇。

 なんで誰も来ないの。

 ショッピングにでも行っちゃおうかな。

 そんでそんで、そろそろ冬だし可愛いマフラーとか手袋も買って──

 

「…………千束」

「んえ、何?」

 

 妄想に耽っている千束の場所に、これまた一際険しい表情をしたミカが歩いてくる。

 

(あ〜、絶対DA関係だなーこりゃ)

 

 今日はとことん駄目な一日みたい。

 

 天気は良くないし気分も晴れない。

 先生は難しい顔してるしミズキは呑んだくれ。

 そんなんだから彼氏も出来ないし男の人が寄って来ないんだぞ。

 私? 

 私はいいの、こう見えて結構モテるし! 

 

「緊急の連絡だ。楠木司令から」

「はいはーい、お電話変わりました千束ですよっと」

 

 今度は一体なんだろう。

 ごくたまにこうやって本部から割り振られる仕事は大体が緊急事態だから、どうせ今回もそんなんだろうと半ば諦めて更衣室へと足を進めた。

 

『楠木だ。三十分前、ある現場でリコリスが全滅した』

 

 ──んん、想定していたよりよっぽど重たいな? 

 

「……ちょっと物騒すぎじゃないですか?」

『ファーストリコリス率いる2チーム合同での中規模作戦だった。通信途絶して十五分後に控えに回っていたチームも突入したが、五分で同様に壊滅。たった一人、という通信記録だけを残して消息不明だ』

 

 もうそれ手遅れじゃん……

 

 先程よりも気持ち急ぎ目に、それでも電話は落とさないように首と肩で器用に挟んで着替えながら千束は続きを促した。

 

「たった一人って、文字通りの意味?」

『……少なくとも、目標人数のほぼ全ては殺害したと報告を受けている。残っていても僅かだ』

「そりゃまたとんでもない」

 

 パッパとリコリスの制服に身を包み、特殊銃弾を込めた愛銃を手に取る。

 

 四十五口径、ガバメント系をカスタムした一品。

 己の戦闘スタイルに合わせて魔改造されたそれは、常人が扱うには性能が尖りすぎており、必ずしも効果を発揮できるようには作られていない。

 目の良さを活かし超近距離での銃撃戦を得意とする千束だからこそ手に馴染むものだ。

 

 いざとなれば殴打にも耐えうる頑丈な相棒を鞄にしまって、貴重な弾薬を無くさないように丁寧に詰めたマガジンも一緒に装着。

 

「……私、それでも殺さないよ?」

『ふざけるな────と、言ってやりたいところだが……今回に限ってはそうも言えない事情がある』

「ほ? 珍しいじゃん、いっつも職務を全うしろだのなんだの言ってくるのに」

『言って欲しいのか?』

「まっさか〜!」

 

 口では戯けているが、本当に珍しいことだと千束は思った。

 

 リコリスは殺しの許可を与えられている。

 超法規的な極秘治安維持部隊。

 それがDAの正体だ。

 国の援助を受けた、いや、むしろ……国の運営する暗殺部隊と言っていい。

 

 だから誰もが殺害を常識だと思っている。

 

 千束はそれがあまり好きではない。

 無論、殺さなければ殺されてしまうような瞬間があることは知っている。

 自分以外の全員にそれを強制できるほど、世界が甘くないことは知っていた。

 

「ね、楠木さん。本当に何も知らないの?」

『……上に嵌められた。そういうことだ』

「ん、了解です」

 

 話せるギリギリまでは話してくれたんだと思う。

 上──DAか、それとも国家か。

 ファーストリコリスが率いる優秀な部隊を全滅させるような敵。

 

 嵌められた、という言葉。

 

 DAにはもう一つ、リコリスと対をなす部隊が存在する。

 

「…………まさかね。まさかまさか」

 

 悪い思考を振り払うように頭を振って、千束は更衣室を出る。

 

「千束、気をつけるように」

「大丈夫大丈夫、なんとかなるって!」

「あ〜? 行ってらっしゃ〜い」

 

 酔っ払いはさておき、ミカの心配する瞳に元気に手を振りかえして扉に手をかけた。この調子じゃ店に人も来ないだろうし、今日はしょうがない日だったと割り切ろう。

 そして外に出て、店の外に鎮座しているメニュー表の日付を見て、ふと思い出した。

 

「…………今日水曜日じゃん。井ノ上さん、来なかったな〜」

 

 毎週来てくれていたのだ。

 きっと今週も、いや、きっと私が帰ってきたら来てくれると思う。

 だってあの人はリリベルだけど、リコリコのことを、気に入ったと言ってくれたんだから。

 

 もしかしたら少し忙しくて──それこそリリベルの仕事が──まだ終わってないだけの可能性もある。

 

 超特急で終わらせれば大丈夫。 

 きっと彼は来てくれる。

 

(……井ノ上さん)

 

 不思議な関係性だった。

 それが長く続かないような気は、なんとなくしていた。

 それでも、それが今日じゃないことを祈って。

 まだまだ彼と話したいことはたくさんある。

 組織同士が敵同士だったとしても、私達が睨み合う理由はどこに立ってない。

 

 もやもやと。

 胸の内で燻る不快感に気がつかないように。

 千束は現場へ急いだ。

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