リリベループ   作:恒例行事

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無事コロナから復活しました。
咳が後遺症で残りました。
アークナイツの過酷さをしみじみと実感するようになりました。


part.19

 

 携帯端末の電源を付けて、追加の指令が何も来ていない事を確認する。

 命じられたままに足を運んだが、これで間違いないらしい。

 これまでの任務と比べて百八十度方向性が真逆。

 だが逆らう訳にはいかない。

 これが命令だと言うのなら。

 

 ラジアータはすっかり喋らなくなった。

 喧しくなくてちょうどいいが、無ければ無いで少し寂しいような気もする。

 などと思っていたら急に調子に乗り出す奴だ。

 野良猫の気まぐれとでも思っておけばいいだろう。

 

「……どうせ、暫く仕事は無いんだ」

 

 現在地は墨田区内の小さな公園。

 その遊具であるブランコに、リリベルの制服を着て一人座り込んでいる俺。

 真昼間だ。

 学校をサボってる学生にしか見えないだろう。

 本来期待されている偽装効果が、必要なくなってから発揮されている。

 

 ──リコリスとリリベルの戦いから一週間。

 

 あの後、DA本部に今後の計画を伝えると言ってラジアータは端末から姿を消した。

 

 一体どこからどこまでがあいつの読み通りだったのか。

 俺と言う存在を認知した瞬間から、こうなるのはわかっていたんだろう。

 だからその中でとれる最大の戦果を出す為に俺と手を組んだ。

 ここがゴールなのか。

 それともここから先がゴールなのか。

 所詮一兵士に過ぎない俺では計り知れない。

 この国の未来は等しくラジアータだけが握っている。

 

 ……それでいい。

 犠牲になった仲間達。

 これから犠牲になる仲間達。

 その命を使うのは、あの人工知能だけだ。

 

 約束の時間まで残り二十分といったところ。

 そこまで余裕がある訳じゃない。

 でも、もう急ぐ理由も無い。

 どう急いだところで目標は逃げも隠れもしないのだから。

 

 あの戦いで最強のリコリスに敗北した俺は異動する事になった。

 

 一定の戦果は残してきたが、それでも足りなかった。

 やはり負けてはいけなかったのかもしれない。

 だが…………

 少なくとも、ラジアータと任務を熟したあの期間で育てられた俺が導いた結論はそれだった。

 錦木千束を殺すべきではない。

 リコリスも殺すべきではない。

 リリベルが殺されたのは俺の力不足だ。

 全てを守れなかった俺が悪い。

 

 鞄二つを持って、こちらのセーフハウスに拠点を移す。

 やることはそれだけなのに決定的に変わる。

 ゼンやカジとはもう、殆ど顔を合わせることは無いだろう。

 …………死んでないんだ。

 だから大丈夫。

 二人はそう簡単には死なない。

 あの二人はいい戦力だ。

 ラジアータが死なないようにするだろう。

 

 俺の相手をしなくてもいい。

 そう判断したのなら、これからは自分の力でいきていかなければならない。

 これまで全てを機械に託していたのに酷い話だ。

 今更自分で判断しろだなんて。

 

 酷いよ。

 

 立ち上がった。

 十分前に着けばいい。

 どうせ殺しはしないんだ。

 失礼にならないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足を進める事およそ十分。

 

 最早すっかり見知った道を歩けば目的地に到着する。

 支部というにはあまりにも洒落ていて、表向きの姿も明るい。

 なぜこれをカモフラージュに選んだのかは不明だ。

 リコリスも随分と酔狂な事をする。 

 

 立札はclose。

 果たして入っていいものか。

 流石に客として来ていた為、営業準備中に入ったことは無い。

 所属がリコリコに変わるなら入ってもいいのだろうが、ううむ。

 

「……何やってんの?」

 

 少しの間悩んでいると、後ろから声を掛けられた。

 

 振り向けばリコリコの女性店員──たしか名前はミズキと呼ばれていた──が呆れた表情で此方を見ていた。いつもオーダーを取るのは店長か千束だったから、こうやって面と向かって話すのは初めてかもしれない。

 軽く会釈した。

 ミズキも会釈を返した。

 

「いや、まあなんでもいいんだけど……早く入りなよ」

「了解した」

「私上司でもなんでもないからね?」

 

 そうなのか。

 てっきりリコリコの一員なのかと。

 店長はどう見ても男性だが、教導官か何かだろう。

 着物越しでもわかる鍛え抜かれた肉体がそれを如実に表している。

 その店長と仲良さそうなのだから同じ所属だと思ったのに。

 

「あー……まー似たようなモンだけど、今の私はフリーなのよ」

「フリー……」

「そ、フリー」

 

 DAにフリーなんて立場あるのだろうか。

 喫茶店なんて特殊な支部だし、普通ではないことがあってもおかしくないか。

 

「こんなところで立ち話もなんだし、さっさと中に入ってちょうだい」

 

 頷いて扉に手をかけた。

 中は以前と何も変わらない。

 ステンドグラス風の窓ガラス、和洋折衷入り乱れていながらどこかバランスの取れた装飾。

 カウンターの奥には紫の着物に身を包んだ店長がいつも通り佇んでおり、営業時間外だと言うのに準備万端に見える。

 

「…………やあ。こんにちは」

「……こんにちは、店長。今日付けで所属となりました、ファーストリリベルの井ノ上多希翔です。よろしくお願いします」

「そんなに堅苦しくなくて大丈夫。リコリコ店長を務めている、ミカだ」

「よろしくお願いします、えー……ミカ店長?」

「好きに呼びなさい」

 

 懐が深そうだ。

 あの錦木千束の上司なのだから当然かもしれない。

 不殺を誓う最強戦力なんて扱いにくい存在とあれだけ親しくしているのだから、あり得る話だ。

 

「千束は?」

「もう少し後だろう。顔合わせより先に着替えてしまおうか」

「制服──……着物ですか」

「着たことは?」

「ありません」

 

 流石に着物を着た経験は無い。

 

「なら教えよう。こっちへ」

 

 そう言って店長は奥へと姿を消していく。

 つい先日まで客として訪れていた喫茶店。

 今日からはここで働きながら、リリベルとしての仕事も熟していくことになる。

 ラジアータ。

 これが正解なのか。

 お前には何が見えている。

 お前の計算は、計算によって導いた未来はどうなっているんだ。

 

 俺がリコリコにいる事によって一体どう動くのか。

 見定める事は出来ない。

 だが、ここに来た意味は探し続けたいと思う。

 

 カウンターの内側へと一歩足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 錦木千束は走っていた。

 今日は髪型も上手く決まったしセットの下着もすぐ見つかって夜更かしをすることもなく、気持ちのいい朝を迎えた。

 目玉焼きも綺麗に焼けて美味しく頂き気分もいい。

 それなのに。

 折角完璧に仕上げた身嗜みを崩してまで全力疾走するのには、理由があった。

 

(────時間見間違ったぁああぁぁ!!)

 

 余裕ぶっこいて珈琲片手にB級映画を見ていたら時刻は過ぎに過ぎ。

 リコリコの仕事も昼過ぎからで大丈夫だと思っていた所に、敬愛する師であり親のような人──ミカからの連絡で千束は気が付いた。

 

『──あっ、今日の時間ってまさか……』

 

 そしてメールを再確認し絶叫したのが十分前。

 幸いなことに準備だけは整っていた為急いで駆け出して、今に至る。

 

「~~~~っ!! ああ~~もうっ、最悪!」

 

 初めて増える従業員。

 心優しい仲間。

 そして何より異性。

 そう、異性。

 少し年上っぽいけど同年代の異性である。

 千束はちょっと浮足立っていた。

 あの戦いの後、冷静に自分の行動を思い返してベッドの上でジタバタ暴れた事実は墓までもっていくと誓うくらいには。

 

 別に惚れたりした訳ではない。

 でもこう、後から思い返すと、こう。

 ちょっとだけ思う事があった。

 仲のいい(と思っている)年上の異性に身体を密着させるのはやりすぎではないだろうか、と。

 

 そして何も考えないようにして走り続けてようやくたどり着いた喫茶リコリコ。

 ひい、ふうと乱れる呼吸を整えた。

 機械の心臓でもドキドキと鼓動が鳴っている様な気がする。

 勿論気のせいだが、この鼓動はきっと嘘ではない。

 ただ息が乱れただけで、こんな胸を掬うような気持ちは抱かない。

 

「…………よしっ」

 

 運動の熱でほんのりと温かい頬に手を当てた。

 ちょっぴり恥ずかしい。

 

(……でも別に嫌がられてる訳じゃ無かったし。汗は掻いてたけどそんな臭ってなかったし? でもゴツゴツしてたよなー……)

 

 好きとかそういう話ではない。

 千束はリコリスだが年頃の娘なのだ。

 

 首をぶんぶん振った。

 そして気を取り直して足を進め、closeと表記がありまだ営業を開始していないその扉に手をかけた。

 

「――おーはようございま~っす! 千束が来ましたよー!」

 

 そしていつも通り。

 元気に明るく挨拶、これがリコリコの日常なのだ。

 

「ああ、来たか。ちょうどいいタイミングだ」

 

 店長のミカが目尻をやわらげた表情で言う。

 

「千束ぉ~、また寝坊したの?」

「いや~ちょっと時間見間違えちゃって」

 

 古い付き合いのあるミズキもまた、揶揄うような口調で話しかけて来て。

 

 このいつもの三人。

 今日までは、これが日常だった。

 

 今日からは、日常が変わる。

 

「――――店長、制服着ました」

 

 黒髪で、どこか吸い込まれる様な黒い瞳。

 命の奪い合いまでやった人。

 でもお店の常連で、仲間思いで、心優しい人。

 

 青色の着物に身を包んだ彼は、その瞳を千束へと向けた。

 

「……こんにちは、千束」

「――――はい、こんにちは! 井ノ上さんっ」

 

 これからの未来に更に楽しみが加わったと千束は破顔して、嬉しそうに笑った。

 

 

 

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