リリベループ   作:恒例行事

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恐らくアニメ本編に入るまでドシリアスはあまりないので頑張っていきます


part.20

 

「井ノ上さんに大切な話があります」

 

 初日の営業終了後だった。

 適度に店内を清掃している最中に千束に話しかけられた。

 その顔は非常に真剣で、なおかつ少しだけ逸らしていた。

 

「そのですね~……そのー、腕を見せて頂きたく……」

「腕?」

 

 腕か。

 別にいいが。

 袖を捲って両腕を見せた。

 

「む、紫色…………痛みとかは?」

「特には無いが……あ、いや待て」

 

 言われて見れば痛いような気もする。

 意識するまで全く気が付かなかったがなんとなく腫れている。

 だがまあ痛いだけで別に困っている訳でもないし、どうでもいいか。

 

「いやいやいや、ちょっと待って待って。店長ぉー、ミズキー! これ折れてるよ!」

 

 折れている。

 骨折? 

 心当たりがない。

 そんなただ日常を過ごしているだけで骨が折れる程軟ではない。

 

 その旨を伝えると、非常に微妙な苦虫を噛み潰した渋い表情で見て来た。

 

「……井ノ上さんって痛覚ある?」

「ある。我慢してるだけだ」

「えっと……折れてるよね」

「痛い」

 

 千束は無遠慮にぺちぺち叩いて来た。

 普通に痛い。

 だが骨折している痛みかと言われると微妙な気がする。

 正直なところ、自殺を繰り返し過ぎて痛みに慣れているのはある。

 

「折れてるかもしれないが動くし特に問題は無い」

「折った私が言うのもなんだけどそれちょっとおかしいから」

「リリベルってキリングマシーンでも作る方向に舵切ったの?」

「ミズキ~、それ洒落にならんぞっ」

「別に気にしてない」

 

 俺だけ扱いがおかしかっただけで他の連中はチームを組んでいる。

 そういう点では千束と同類だった。

 千束は歴代最強のリコリスだ。

 電波塔事件を解決した張本人。

 以前の俺がそんな化け物のような強さを得て生まれていれば、なんて羨んだこともあるくらいには。

 そしてその強さと見合わぬ思想を持っている。

 DAもリコリス本部も手を焼いているんだろう。

 ラジアータの計算に彼女も含まれているのは確かだ。

 

「……ううむ、確かに骨折時の症状に見える」

 

 それまで会話に入ってこなかった店長がコーヒーメーカーの清掃を終えて此方へとやってきた。

 

 リコリスの訓練教官をやっていたという経歴を持つ彼にとって見慣れたものなのだろう。

 

「たきと。明日病院に行ってきなさい」

「いえ、日常生活に支障はないので大丈夫です」

「……これまでに負傷した時はどうしていた?」

「負傷を残していたことがないので」

 

 ちょっとした傷ならともかく、大きな怪我をしたときは自殺していた。

 

 欠損や脚部の骨折は見過ごせなかった。

 戦闘に直接影響が出る。

 その負傷さえなければ手が届いたと後悔したくなかったから、死を選んでいた。

 

 なんてことは言える筈も無い。

 だから濁して伝えたが、店長は眉間を抑えて深く溜息を吐いた。

 

「…………千束。わかるな」

「任せて。ちゃんと病院まで連れてくから」

「いや、別に大したことは……」

「いや骨折は大した負傷だから!」

 

 でも動くからな。

 満足に動けるなら別に問題ないだろ。

 死んだわけでもない。

 そもそも死なないから問題ない。

 痛いだけで死なないなら俺にとっては負傷の内に入らない。

 

「……尚更見過ごせないな~」

「なぜ」

「あのね井ノ上さん。痛いの我慢する理由なんて無いんだよ?」

 

 …………? 

 いや別に我慢してるワケじゃ無い。

 動くから問題ないって話だ。

 手が荒れていても活動に支障がないなら問題ない。変な形に整形されるのは勘弁だが、仮にそうなったとしても引き金を引くのに困ることはないと思う。

 だから大丈夫だ。

 

「……もしかして、ずっとそうやって過ごしてきたの」

 

 ああ。

 そもそも大きな怪我をした時点で──……

 ……なんでもない。

 

「む〜〜〜〜っ」

 

 うんうん唸りながら俺の顔をじっと見てくる。

 

「むんむんむん。えいっ」

「痛い」

「ほらやっぱり痛いんじゃん! ね、病院行こ?」

「だが戦闘に支障は別に出てない」

「そういう問題じゃないの! はい決定! 明日十時に駅前集合ね!」

 

 店長に視線を向けると溜息を吐かれた。

 ミズキには信じられない物を見るような目で見られている。

 千束はやや怒ったような表情で、(恐らく)折れているであろう俺の手を優しく撫でている。

 どうやら俺に選択権は無いらしい。

 これも仕事だと思えばいいか。

 携帯端末が鳴ることは無く、俺はリコリコの仕事を熟すほかない。

 

「わかった。よろしく頼む」

「ん! 任せといてっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日朝九時五十分。

 予定より少しだけ早いが問題ないだろう。

 任務に支障が出ないように事前準備を欠かさないのは当たり前だが、ラジアータに任せきりだったため最近はその意識が欠けていた。

 懐に念のため仕込んだ拳銃だけが武器。 

 予備マガジンは一つしかない。

 もしも緊急で仕事を割り振られた時でも対応できるようにしておかなければ。

 

 今日は誰も死んでないのだろうか。

 俺がこんな風に過ごしている間に誰も死んでない。

 それが理想だ。

 俺如きがいなければならない奴らではない。

 でも限界がある。

 もしもゼンやカジに俺と同じくらいの仕事を割り振ってしまえば、何時の日か死を迎えるのは想像に難くない。

 いくら強くても死ぬときは死ぬ。

 それは散々味わった。

 

「おっ待たせ~! あ、待った?」

「待ってない」

「おおっ。わかってるね井ノ上さん」

 

 わかってる。

 一体何のことかわからない。

 だが千束は楽しそうにニコニコ笑っている。

 まあ、千束が楽しいならそれでいいか。

 

「病院と言っていた。DA関係か?」

「うん、そうだね。少なくとも私の事は知ってるし、ここ(・・)をメンテナンスしてくれてるところ」

 

 そう言いながら千束は自身の胸を指差す。

 

 人工心臓。

 あの時抱き着いた千束は確かに鼓動を感じなかった。

 それは嘘でも冗談でもなく本当の事。

 人工心臓にしては随分と逞しい動きをしているが、世の中の技術とは想像よりもずっと進んでいるらしい。

 

「…………じっと見られるのはちょっと困るなー」

「……ああ、すまない。そういうものか」

「井ノ上さんってちょっと抜けてるよね。女の子には優しくしないと駄目だぞっ」

 

 優しくする。

 なるほどわかった。

 これから千束には優しくすることにしよう。

 

「絶対わかってない気がする……」

「大丈夫だ、任せろ。任務遂行率はほぼ100%だ」

「任務扱いって所がもうダメっぽいよね」

「ダメか。難しいな……」

「う~~ん、思わぬ難敵」

「千束の真似をすればいいか?」

「それはちょっと……いやでも……」

 

 笑うのは堪えながら、至極真剣な表情で適当な事を言っている。

 

 確かに俺は殺しばかりしてきた。

 仲間達の命を背負って、その死を無駄にしないために我武者羅に前に進み続けた。

 ラジアータと出会ってからはそれが加速していたが、別にユーモアを理解していない訳じゃないし、気心の知れた友人との会話方法が無いわけではない。

 ゼンやカジ、そしてダイチに感謝だな。

 お前達と過ごした数年間は間違いなく俺の根幹を成してくれた。

 ダイチ。

 俺は生涯お前を忘れることは無いよ。

 

 ごく自然な雰囲気で、これが当然ですと言わんばかりの態度で千束に言う。

 

「抱き締めればいいか?」

「…………ッスゥー、それはですね、あの~……」

 

 俺を止める為にしてくれた行動なのはわかってる。

 それを茶化すつもりは微塵もない。

 だがそれはそれとして、俺も男だ。

 あの時はそれどころじゃなかったし、今でも千束をそういう目で見ることは無い。

 でもまあ、思う事が無い訳じゃない。

 仮にあんな行動を平然と取ってしまうのならば、それは矯正するべきだと思う。

 いくら知り合いを説得するためとはいえ、身体を密着させるのは問題行動だろう。

 

 僅かに耳元を抑えて目を逸らす千束に対して、少しだけ表情を崩してネタバラシをする。

 

「冗談だ。凝視してすまなかった」

「──…………井ノ上さん?」

 

 千束は額に青筋を浮かべていた。

 どうやら気に入らない冗談だったらしい。

 これから共に働くのに不仲になるわけにはいかない。

 俺が千束を嫌いになることはないが、向こうが俺を嫌いにならないとは限らない。

 それは出来るだけ避けたい。

 せっかく導かれた場所なんだ。

 ここにいる事で得られることがきっとある。

 

「いや、悪かった。どうにも冗談が上手くないみたいだ」

「…………はぁ~、もー、心臓に悪いって」

 

 人工心臓にダメージを与えてしまったらしい。

 

 これから暫く冗談は控えておこう。

 千束を観察してユーモアやウィットに富んだジョークを言えるようになった方がいいのかもしれない。

 

「今変なこと考えてない?」

「気のせいだ」

「ふーん……」

 

 ジトっとした目で見られた。

 

 そういえばゼンが言っていたような気がする。

 女の子と出掛ける時は絶対に服装を褒めろとか、細かい部分まで気にしろとかなんとか。

 そうすることで仲良く時間を過ごせるらしい。

 流行に敏感なアイツが言うのだから間違いないだろう。

 

「千束」

 

 此方へ視線を向けつつ、一歩足を進めてしまった。

 機嫌を損ねてしまったのは間違いない。

 

「服。似合っている」

 

 赤いコートに白のシャツ。

 千束の金色がかった髪色とよく似合うと思う。

 その旨を伝え、歩き出した彼女の後ろについて俺も歩き始める。

 

「そーですかっ」

 

 ニコリと笑いながら、千束はこちらを見た。

 

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