リリベループ   作:恒例行事

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part.4

 

 突入して壁に隠れて銃を構える。

 僅かに覗かせた頭蓋を貫く弾丸と、俺の視界に写り込む真紅の液体。

 突入して壁に隠れて銃を構える。

 ならばと足を踏み出して、その瞬間を狙い澄ました狙撃が足に直撃し身動きが取れなくなり、一斉射撃で死んだ。

 突入して壁に隠れて銃を構える。

 靴を片方放り投げればそれに反応して沢山の銃撃が飛んできた。止んだその瞬間を狙って前に出て、二歩進んだ所で左肩に一発と胸に一発。そして最後におまけと言わんばかりの嵐が全身を撃ち抜いた。

 突入して壁に隠れて銃を構える。

 激痛が全身に及んでいるけど問題ない。傷は何一つ残ってないからこれは幻痛。先と同じように靴を片方ぶん投げて注意を引いてから突撃し、二歩進んでから身を一気に沈み込ませる。二発回避したけどこの後身体中撃ち抜こうとしてくるから、壁蹴りで天井すれすれを跳びながら接近する。

 一歩接近できればいい。

 それだけで未来は変わる。

 そんな動きをしてくるとは予想できなかったんだろう、誰もいない場所を通り過ぎた弾丸と俺に注意を引かれたテロリストの腕を仲間の射撃が貫く。

 そこからは早かった。

 一人殺して二人殺して三人殺して、反撃で二回死んだけどそれだけだった。

 これまでの任務に比べればそう難しくはない。

 数回死ねば終わる程度の任務だった。

 

「相変わらず普通じゃねぇなぁ」

 

 ファーストリリベルのダイチが、物言わぬ死体となったテロリストを踏みつけながら呟く。

 

 今回もリリベルに死亡者はいない。

 数回死んだ俺の骸が積み上がっただけで、つまり人的被害はゼロだ。

 撃ち抜かれた痛みがまだ残り続けるけれど最近は慣れたもので、無くならないけど動きに支障は出なくなってきた。

 死なないとわかっていればどれだけ痛くても怖くない。

 割とそういうものだった。

 そう割り切った。

 

「やっぱ手抜いてたのか?」

 

 いいえ。

 出来るようになっただけで、これまでも真剣でした。

 本当は死にまくってるだけだけどそんなこと言う必要も無い。

 まだ俺の中にリリベルの死体は増えていない。

 それだけで十分だった。

 

「末恐ろしい奴だ」

 

 肩を竦めて言った。

 

 本当に恐ろしいのは俺のようなやつではなくXA-01のような奴だ。

 あいつは天才だ。

 才能に祝福されている。

 リリベルという人殺しの職業で大成できる。

 俺が十五回死んでやっと一手加えられる相手だ。

 敵対はしたくない。

 

「ま、今日の任務は終わりだ! さっさと撤収しようぜ」

 

 ファーストリリベルであるダイチには部下が数名いる。

 サードである俺を含めて四人。

 セカンドリリベルのゼンとリュウとカジ。

 三人とも俺より年下でセンスに溢れた若者だ。

 俺は唯一のサードリリベルでダイチの一個下。

 最初は変な絡み方をされたが、実戦に出てからは何も言われなくなった。

 

「うっす」

「スタバ飲みたい」

「別チームにでもいかないとスタバなんて行けないよ」

 

 ゼンはお調子者。

 リュウは流行に敏感な若者。

 カジはリアリストで悲観的。

 リーダーのダイチは呑気で楽観的だが裏で何を考えてるかはわからない。

 そして最後に戦場で突撃しまくる俺。

 よくわからないチームだ。

 

 でも成績はとてもいい。

 ファーストリリベルの率いる部隊でナンバーワンらしい。

 損耗率も低く、二ヵ月に一回は入れ替わりが発生するリリベルが多い中このチームは半年もの間同じメンバーである。

 

「井ノ上、クワトロベンティーエクストラコーヒーバニラキャラメルへーゼルナッツアーモンドエキストラホイップアドチップウィズチョコレートソースウィズキャラメルソースアップルクランブルフラペチーノってどういう意味かわかる?」

「なんて?」

 

 リュウの言葉に俺より先にゼンが反応した。

 

「スタバで詠唱される呪文らしい。僕にもよくわからない」

「そういう無駄な知識だけ増えてるよね、きみ」

「そりゃあもう! 僕らピチピチの若者が流行に遅れを取るのはよろしくないものだ」

 

 そう言いながらリュウはメガネをクイッと上げた。

 

「ただ少なくともこれを覚えていればいつかスタバに行ったときに役に立つ。みんな復唱して、せーの」

「クワトロベントーエクストラコーヒーバニラキャラメル……無理。ギブ」

「……ベンティーだろ。トール・グランデ・ベンティー。サイズだ」

 

 カジは博識なので実は一番知識を持っていたりする。

 

「……お前一番楽しみだったりする?」

「リュウがうるさいから覚えたんだよ!」

 

 いいチームだと思う。

 全員腕が良くて協調性もあって仲もいい。

 ファーストを目指し互いを蹴落とし合うような連中も中にはいるが、この三人はそんなことはない。

 ただ任務を遂行する。

 そのためなら自分も惜しくは無いと言える連中。

 ただ只管に護国を掲げる、リリベルの鑑と言っていい。

 

「井ノ上ェ~、お前も覚えろよ?」

 

 善処はする。

 クワトロ……えー……

 キャラメルフラペチーノホイップマシマシくらいでいいか? 

 

 眼をパチクリさせてリュウは意外そうに俺を見て来た。

 

「もしかして頼んだことある?」

 

 無いけど……

 SNSで見かけたスタバなうというツイートにそんな感じのリプが付いてた。

 でもスタバってラーメンも売ってるらしいぞ。

 

「ラーメン!!??」

「マジかよ……」

「…………そんな訳無いだろ……」

 

 驚くリュウとゼンに呆れるカジ。

 行ったことは無いから真偽は不明だけど、ネットの奴らはスタバなうと言いながらラーメンの写真を載せていた。だからたぶんあるんだと思う。

 

「ははは、じゃあ今度任務ついでにスタバ行くか!」

「マジっすかリーダー! 一生ついていきます!」

「安い一生だな……」

「そんくらいスタバはすげぇっす!」

 

 和気あいあいと歩んでいく四人。

 XA-03も生き延びれたら、流行に興味を持っていただろうか。

 XA-01と交友は無くなったが、多分まだ生きてると思う。あいつ強いし、俺なんかよりよっぽどやる奴だ。十五回俺が死ぬ間に十五回敵を殺してるだろう。

 

「おーい、井ノ上! アンタもいくだろ?」

 

 ……了解。

 足元に転がる物言わぬ死体を踏みつけて、その胸ポケットからはみ出た一枚の写真に目が行った。女性一人に子供。

 こいつらの死は一体誰が保証するんだ。

 誰も保証しないのかもしれない。

 それどころか、もうこいつの事は、写真の二人しか覚えていないだろう。

 

 写真を手に取って、懐に納めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがラーメンと同じカロリーらしいぜ」

 

 ズゾゾゾゾとリュウはフラペチーノを啜った。

 甘ったるいクリームと冷たいシャーベット、増やしたソースの味が透き通る感覚がする。

 甘い……

 不味くはない。

 周囲に若者ばかりで、制服を着た女子高生とかが多い。

 男五人でフラペチーノを飲んでる俺達を見る目もちょっと多い。

 

「美味いじゃねーか!」

「……まあまあだね」

「ラーメンねーのかよ……」

 

 ラーメンはスタバに無いらしい。

 これは残念だ。

 あのツイートは嘘だった。

 俺は真偽も見極められないようだ。

 

「でもラーメンと同じカロリーだから実質ラーメンって事で」

 

 お前がそれでいいならいいけど……

 ラーメンフラペチーノを飲み尽くしたリュウが周囲をそれとなく観察している。

 俺達のような戸籍無しのリリベルとは違い、両親から愛を受けて周囲の環境と折り合いを付けながら育ってきた子供達だ。こういう風景に溶け込めるように訓練を受けていても、本物を見ると少しだけ違和感がある。

 

「井ノ上ってなんでサードなの?」

 

 一息ついてる所に、ゼンが問いかけて来た。

 

「いやだって、なあ。……それでサードだったら俺達の立場が無いって言うか……」

「ファーストでもあんなことはしません」

「つーか出来ないし」

 

 ファーストリリベルのダイチは笑いながら言った。

 

「噂だとリコリスに同じくらいヤバい奴がいるってのは聞いたことがあるぞ」

「リコリスに? ……考えたくもないなぁ」

「こんな弾丸躱しながら走ってく奴が複数いるとは思いたくない」

 

 ドン引きである。

 ずるるるるとフラペチーノを最後まで飲みこんで、なんか視線を向けてくる四人に顔を向けた。

 

「怖くないの?」

 

 カジが聞いて来た。

 一番最初は怖かった気がする。

 怖くて痛くて、いつまでも弾丸の感触が身体に残っている感覚がする。

 複数回死んだ後なんか最悪だ。

 今でも慣れることは無い。

 ふとした瞬間、意識が外れている時がある。

 死に過ぎた影響なのかもしれない。

 でも別に呆けてる訳じゃなく、なんだかこう……無意識にどこかを眺めるような癖。

 頭が疲れてるのかもしれない。

 でもそれで困ったことは無い。

 どうせ死なないし、気にするだけ無駄だ。

 

「……で、怖くないのね」

 

 返事をするのを忘れていたが、カジは諦めた様に呟いた。

 

「結構気を抜いてる時多いよな。特に戦闘時以外」

「戦うために生まれて来たみたいだな」

「成績最悪だったからそれはないでしょ」

 

 おうおう、気にしてる事ザクザク言ってきやがる。

 事実だしまあいいけど。

 

「あ、井ノ上はサードから昇格決まってるから」

 

 …………? 

 

 空気をぶち壊してダイチが言った。

 

「……あ、これ言っちゃダメだったかも」

「…………これがファーストなんだから結構適当なのかもね」

「言いすぎだろ!」

 

 ダイチのポロリ、辛辣なカジ。

 このチームは良い感じだ。

 俺が居なくても問題ない。

 出来る事なら弱い奴と一緒に居たい。

 強い奴は死なないし、死んだとしても誰かの記憶に残り続ける。

 弱くて若い奴は死んでも誰も覚えていない。

 XA-03の事を覚えてるのはもう数える程だ。

 セカンドリリベルに昇格出来るのならば有難い。

 それだけこの手で守れる。

 それだけこの目で見送れる。

 それだけこの世界に存在を刻み込める。

 俺はリリベルだ。

 この世界に証を刻み続けるリリベル。

 唯一枯れない鈴蘭として生き続けてやる。

 

「ファースト候補か。羨ましいなぁ」

「あれ見れば納得だけどね」

 

 話している内容はロクでもないが、五人で駄弁る姿だけは男子学生に擬態できていると思う。 

 特に今の時代、ゲームやなんかでそういう話(・・・・・)をすることすらある。

 だから何の疑問も抱かれないだろう。

 

「さ、そろそろ帰るか。明日も任務だ」

 

 ダイチの言葉に全員気怠気に反応して立ち上がった。

 

「次カラオケ行こうぜ、カラオケ」

「歌う曲なんもないけど」

「国歌斉唱でいいじゃん」

「嫌すぎ~~!」

 

 いい奴らだ。

 

 本当に、良い奴らだった。

 

 

 

 

 

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