リリベループ   作:恒例行事

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part.5

 

「……なぁ、それ何してんの?」

 

 同室になったリュウが話しかけて来た。

 XA-03が生きた証は何も確保できてなかったから、仕方なく似顔絵だけ用意しようと思って描いた残骸である。

 効率よく対象を殺す為に、俺達は人体に関しても熟知している。

 解剖学と言ってもいい。

 だからある程度マトモに描ける……筈なんだが。

 

「下手すぎだろ!」

 

 俺の芸術を見て爆笑するリュウを小突いた。

 

「精神に異常のある人間が描いた絵」

 

 失礼すぎる。

 まあ下手くそなのはわかる。

 クレヨンで描いたのが良くなかったのかもしれん。

 でもアナログで上手くないならデジタルで描いても無理だ。

 くそっ……

 俺は無力だ。

 

「ちょっと貸せよ」

 

 クレヨンを奪ってスケッチブックにさらさらッと描きこんでいく。

 滅茶苦茶上手なわけじゃない。

 でも確かに人だと理解できる。

 男性。

 SNSで有名な人だ。

 流行の最先端。

 リュウがフォローしてるのは当然だった。

 

「じゃん! どうよ」

 

 上手だ……

 デフォルメされた男性の顔。

 ちょっとおしゃれな帽子をかぶった顔の良い男。

 

「井ノ上も描いてやろうか?」

 

 いや、それより教えて欲しい。

 写真も残せてないし、俺しかあいつを覚えてない。

 XA-01は覚えてるかもしれないけど、俺は嫌われちまった。

 だから教えてくれないと思う。

 自分で描けるようにならないと。

 

「ん~……要するに死んだ奴の事?」

 

 そういう事だ。

 俺は……戦いで死なないと思う。

 だから、せめて死んだ奴らの事は覚えていたいんだ。

 死んだリリベルも、俺達が殺してく奴らも。

 日の目を見る事すら出来ず死んでいく奴の事を、殺した奴は背負う責任があると思う。

 

「ふーん……めんどくさいこと考えてんだなぁ」

 

 誰かにそうして欲しいとは思ってないよ。

 ただ、俺がそうしたいんだ。

 あいつはいい奴だったから。

 

「じゃあ俺が死んだら覚えててくれんの?」

 

 ────…………

 お前は死なないよ。

 俺が守るからな。

 

「おいおい、リリベルが守るのは国だろ!」

 

 それはそうだ。

 でも俺はそれ以外も守りたい。

 どうしても手が届かなくなるまで諦める気はない。

 俺は才能がないから。

 でも、そんな俺に唯一あるのがこれなんだ。

 XA-03の死は無駄にしたくない。

 あいつはいい奴だったから。

 いい奴がこの世界からいなくなるのは寂しい。

 

「……ま、お前くらい強かったら出来るかもなー」

 

 スタバのフラッペの後じゃあ味気ないかりんとうをボリボリ貪りながら、ベッドで寝ころびながらそう言った。

 …………もしも、もしもだ。

 もしもお前が死んだとして、覚えていて欲しいか? 

 

「うーん……」

 

 俺は死なない。

 なんでか理由はわからない。

 でもとにかく、死んでも死ねない。

 だから生き続ける自信がある、ていうか生き続けるしかない。

 どれだけ撃たれても死んだらやり直し。

 だから考える余地すら無い。

 そうしたいから、俺はそうする。

 

「……まあ、安心して死ねるんじゃないか?」

 

 死ぬなんて思ってないけど、そうカラカラ笑ってリュウはかりんとうを口に入れた。

 

 安心して死ねる…………

 そういうものなのか。

 俺はリリベルの仕事に誇りがある。

 多分それはみんなそうだと思う。

 でも俺は、無駄死にはしたくなかった。

 まるで生きた理由が見当たらないような死に方。

 それだけはしたくないと思いつつ、成績が何時まで経っても向上しないから、きっとロクな死に方はしないと思いながら生きていた。

 蓋を開けてみればこうだった。

 だから感覚がおかしくなってきたのかもしれない。

 死ぬのは怖くない。

 痛いのさえ我慢すればいいんだから。

 周りのみんなが死ぬくらいなら、俺が死ねばいい。

 どうせ巻き戻るから。

 

「俺は今を楽しんでるから死ぬのは怖くないけど、中には死にたくないって奴もいるんじゃない? それに、井ノ上みたいな強い奴がいるなら安心だよ」

 

 それはどういう安心なんだ。

 

「俺が死んでもリリベルは安泰ってこと」

 

 ……まあ、理論上は。

 ていうかファーストリリベルもいるからな。

 もし俺が居なくなったとしても大丈夫だろ。

 俺なんかより優秀な奴はいる。

 XA-01のような、将来を約束された天才が。

 

「だからそんな難しく考えなくても大丈夫だって! 任務熟して、国を守って、お金貰って、戸籍がないから何一つ不自由ないとはいかないけど──それでも、楽しんで生きなくちゃ勿体ない!」

 

 リュウは流行に敏感で、若者に漠然とした憧れがある。

 そんな彼に振り回された隊員たちも同じように流行という物を気にするようになった。

 少なくとも、俺はそうだ。

 少しばかり普通の学生というものを味わった……そんな気がする。

 

「今度はラーメン次郎行きてぇ!」

 

 ラーメン次郎ってあれか。

 めっちゃ盛ってるって言うアレ。

 インターネットで調べてみれば爆盛ラーメンが出て来た。

 

「遊園地も行ってみたいよな! USJ、ディズニーランド!」

 

 未来への展望を語りまくるリュウ。

 それくらいの希望を持って生きた方がいいのかもしれない。

 XA-03が生きていれば、そういうことを思ったかもしれないし……

 いつかあの世に行った時に、話の種にもなるだろう。

 全員人殺しだ。

 地獄行きは間違いないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬戦のやり直しの回数も徐々に減り始め、セカンドリリベルとしてチームに加わってから三ヵ月。

 ほぼ一年間損耗無しで任務を熟し続ける俺達は特殊部隊として扱われる事となり、任務の難易度が急激に上昇した。これまでのチンピラを殺す、ヤクザ崩れを殺す、テロリスト未満を殺すような簡単な相手じゃない。

 対象は空きビルから山になった。

 より一層犯人の必死度が違う。

 都会の迷彩服は役に立たない。

 リリベルの制服も脱ぎ、誰も助けてくれない孤独の部隊。

 食料や最低限の支援は貰えるけれど、一度潜り込めば対象の死を確認するまで出る事の出来ない世界。

 

 だから、俺の手が届かなくなるのは、時間の問題だったように思えた。

 

「…………クソっ!」

 

 ゼンが苛立ちを露わにして地面を蹴り飛ばす。

 ファーストリリベルのダイチは無表情で、どこかへ連絡すると告げて歩いて行った。

 多分本部に報告するんだろう。

 三度目の任務だった。

 一度目で危険性を認知して皆で気を引き締め直した。

 二度目の任務は俺が狙われた。二十回ほど死んで、五人の戦い慣れた思想家を殺した。

 三度目の任務は、シリアルキラーの殺害が任務だった。

 リリベル・リコリスのどちらにも被害が出ている猟奇殺人者で、嬲って苦しめて殺す最悪の男。

 

 俺は狙われなかった。

 四方に分かれて索敵を行う陣形で、中央にファーストリリベルが張る事で最速で援護に向かい仕留める。

 そういう作戦だった。

 俺は東で、リュウは西だった。

 

「駄目だ。もう……」

 

 カジはあくまで冷静に言う。

 見ればわかる事なのに、明らかに事切れているのに、それでもしっかりと脈拍を測って鼓動を確かめ瞳孔を確認し、そして答えを出した。

 三回死んだ。

 初めは全員が合流してから自殺。

 二回目は巻き戻った時点で全力で西に走って、それでも間に合わなくて。

 三回目に西にいることを報告して皆訝しみながらも向かっていたのに、それでもだめで。

 

 リュウは死んだ。

 草花に包まれて、瞳を開いて硬直した表情のまま、両手足を刻まれて心臓を抉られて。

 死因が毎回違った。

 まるでリュウがここで死ぬのが決まっているかのような、そんな都合のいい終わり方。

 銃口を、側頭部に向けた。

 

「……? おい、なにしてんだっ!」

 

 俺は無力だ。

 無力で非力で弱い。

 こんな便利な力があるのに、仲間一人救えない。

 引き金を引いても変えられない。

 俺の手は届かない。

 誰の手も。

 

 引き金を引こうとして、寸前でカジに止められた。

 

 邪魔しないでくれ。

 死なないといけない。

 リュウの代わりに、俺が死なないといけない。

 守るって言ったんだ。

 死なせたくなかったんだ。

 こんな終わり方はあんまりだ。

 

「気でも狂ったのか!? もうリュウは死んだ! 戻らない! こいつはもう、死んだんだ!」

 

 知ってる。

 もうリュウが死んだなんて事はわかってる。

 それでも。

 それでも俺は諦めたくない。

 手は尽くせるのだから、尽くさなくちゃ。

 俺が死ねば元に戻るんだ。

 だから、邪魔をするなら────まずは、お前からだ。

 

 銃声は二回響いた。

 

 仲間の命を奪ったのは初めてだった。

 それでも死ねば巻き戻った。

 繰り返して、繰り返して。

 思いつく限りのパターンを試した。

 俺はバカだから、限りがあるけど。

 他の連中は違うと信じて、とにかく話して話して。

 ファーストのダイチを必死に説得して、何よりも早く行ってもらって。

 リュウ本人に注意も告げて、それでも。

 

 それでも、駄目だった。

 

 頭を撃ち抜きすぎて頭痛が残るようになった。

 

 何度も死んだ。

 回数は覚えてない。

 百よりは死んでなかったと思う。

 でも駄目だった。

 リュウは救えない。

 リュウはここで死ぬ。

 手が届かない。

 

 そうわかった。

 だからせめて、俺はリュウを引き連れて歩いていく。

 お前の死は俺が引き留めてやる。

 俺が覚え続ける限り、お前は世界に刻まれ続けるから。

 遊園地にだって行ってやるし、カラオケだって行く。

 お前が欲しかったもの全部手に入れて、向こう側に俺が辿り着いた時。

 沢山土産話をしてあげるから、すまない。

 

 最後にやり直した時、リュウの遺体は綺麗だった。

 近付いてくるダイチを警戒して一瞬で殺されたらしい。

 せめて苦しまなければ、それでよかった。

 

 部屋に一枚の紙が増えた。

 相変わらず歪な絵だった。

 

 

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