☆ログインボーナス☆
一日の計は朝にあり。ロドス後方支援部は休暇を満喫するオペレーターのために様々な物資を提供いたします。
【外れムシ券】×5
ヴィクトリアの紳士の遊びこと賭博オリジムシレースの外れた券。貯めるとある程度の物資と交換できる。
クランタのランナーで同じことをやっている所もあるが、感染者走者への不当な待遇が噂されているので持ち主は嫌っており、騎士競技も敗者が死なないクリーンなものしか選ばない。
ただどのみち荒れ果てた部屋には外れ券しか見当たらない。 俺の愛ムシが!
プリュムは借りたタオルでしきりに汗をぬぐいながら、カタカタと揺れる窓枠を見ていた。
赤茶けた砂で四隅が汚れた窓からは、日が傾きだして橙に照らされる砂丘の峰と、太陽が南中している時よりずいぶん濃くなった影、そして砂塵が見えている。そのような光景が地平線の果てまで延々と繰り返され、地表を覆っていた。
夕陽に照されて金色のベールのようにたなびいている砂塵は、何かのアーツのようだ、とプリュムは思った。幾度ともなく任務を共にしたアーツ術師たちの、敵を蹂躙するあの力の奔流が、砂漠自身によって何度も行使されているように見えた。
「夕方になると風が強くなるんだ。熱せられた砂と他の地域との温度差が生まれて、空気の移動が起こる。自然の力って凄いよね」
原理としてはサイフォンと似ている。そう男は語りながら、手元のカップにコーヒーを注いだ。取り上げられたガラス器具が、わすかな音を立てて台へ戻される。
「さすがケルシー先生は分かってるなぁ。この豆、ボリバル産の良いやつだ。お土産運んでくれてありがとう」
「あ、いえ、これも任務ですので」
急に水を向けられたプリュムはどきりとして男を見た。どう見てもまだ成人しているようには見えない、それどころか幼くさえ見える少年が、ニコニコとしながらコーヒー豆の袋を眺めている。途中で砂漠に放り出されたせいでやや砂で汚れているが、気にした素振りを見せない。彼はおもむろにコーヒー豆のラベルを剥がし、机の脚に貼り付けた。
ロドスが買い上げて事務所として運営している拠点の一つ、展望タワー12のロビーはかなり雑然としていたが、ギリギリの所で趣味の良い部屋の範囲に留まっていた。
入口付近には水耕栽培のラックが並び、センサーとホースが蔦のように天井へ伸びている。コンクリート打ちっぱなしの床には補修跡だらけのソファーが二つ放置され、ガラスのローテーブルの上にはまるで要塞のように本が積まれていた。がらくたと本の山はそのまま床にも広がっている。傘立てには傘と箒とアーツロッドが突っ込まれており、上からボロボロの何かの旗がかけられている。敷かれたラグもやはり汚れきっていたが、それでも良い仕立ての物であることが辛うじて分かる状態だ。
プリュムは基本的に折り目正しい人物であるが、そこまで潔癖症というほどでもなかった。しかしそれにしてもロドスの事務所と言うにはあまりにも人を歓迎しない空間である。
「汚くてすまないね。ウィーディーがここに来たら失神するか僕をぶん殴って窓から吊るすだろう」
「お知り合いなんですか?」
「エンジニア部とは昔からそれなりに付き合いがあるよ。なにかと喧しいけど嫌いじゃないなぁ」
聞きながら、プリュムは任務の前に渡された目の前の男のプロフィールを思い出した。ロドス設立時から在籍の古株。種族はフェリーン。本艦の所属だが、かなり長い間この展望タワーへ外勤に出ている扱いになっている。
「ホワイトノイズさんはずっとここに一人で?」
その男のオペレーター名をホワイトノイズと言った。プリュムがサルゴンへ出向し、護衛に付くということになっている人物の名がこれである。
「うん。手伝ってくれる現地の人は数人いるけどね。オアシスの街の方は優秀な医者もいるし感染者もほとんど出てないから医療支援は必要ない。基本は一人だ」
つまり、君みたいなものだ。
そうホワイトノイズは窓を見ながら言った。
「どういうことですか?」
「ラテラーノ人の見張り番、ロドスでそう呼ばれていたんだろう?」
「それは……前のことです」
プリュムの中でその事実はやや恥ずかしい部類のものだった。
ロドスに到着してしばらく、護衛隊でなくなった自分のありどころに迷い、周囲と交流せずじっと見張りをしていた頃の記憶だ。
別に間違った事ではなかったが、ひどく不器用であった事も今では自覚している。そして迷ってる時の自分の姿を初対面の人間に知られているのは恥ずかしいものである。
ホワイトノイズは少し笑いながらカップへ口をつけていた。というか、プリュムがカップと思っていたものは実験用の耐熱ビーカーだったようで、夕陽に照された目盛りが光っている。
「僕はなにかを見張っている訳じゃないけど、そうだな……ここでずっと立っているんだ。立ちすくんでいると言ってもいい」
「はあ」
「人生の休暇中なんだ」
人生の休暇というのは、つまり無職では? とプリュムは思ったが、口に出さなかった。
ロドスに勤めている誰しもが、なにかさら人には見えない物を抱えていることはなんとなく察していたし、自分もまたそうだからである。プリュムが抱えているそれは、駄目にしたハルバードの刃先の姿をしていた。
「しかしこうして便りが来るんだから立ちすくんでるのも悪いことじゃないね」
ホワイトノイズは嬉しそうに手元の便箋を手繰っている。プリュムが出発時に託されてきた手紙の束には、様々な差出人の名前が踊っていたが、一枚の封筒を前に手が止まった。
「あ、とうとうロドスに
シンプルな封筒をペーパーナイフで開くと、中から手紙と共に黒いなにかが出てきて、テーブルの上にコロコロと転がる。プリュムは思わず立ち上がった。
「源石!?」
「体内に入らなければ基本的に大丈夫だよ。あの研究のサンプルとは、またとんでもないプレゼントをくれたな。ありがたいありがたい」
ホワイトノイズはポケットから手早く防護用手袋を取り出して欠片をアンプルへ封入する。ガラス管の中で、エネルギーを秘めた鉱石片が淡く光っているのが見えた。一緒に入っていた便箋を見ると、そこには読みやすく整然とした文字で、近況の報告が並べてあった。
「前からサルゴンでやるべきことが終わったらロドスに来ないかと言っていたんだが、どうやらロドスで気に入る人を見つけたらしい。心配していたがひと安心だな」
復讐は終わってからが困るんだよなぁ、復讐ロスだよ、と気の抜けた調子で言う彼は、プリュムの目にずっと異様に映っていた。
種族や体質のせいで、体躯が実年齢より幼く見えるオペレーターというのはままいる。だが、目の前の彼──
──ホワイトノイズの場合は、それだけではない。まるで、水面が見えない水瓶を覗き込むかのような、霧深い谷に響く微かなせせらぎの音のような、不思議な存在感を湛えていた。
「こんな大切なものをくれるんだから、ノリで額のあれもくれないかなぁ」
プリュムは彼に感じた神秘性について、即座に全てを撤回することを決めた。
ホワイトノイズは、最後に手に取ったケルシーからの板のごとき厚さを誇る手紙に泣きそうな顔をした。それは嘘みたいに重く、くどかったので、とりあえず二人分のコーヒーを淹れてから読むことに決めた。
日が落ち始め、あんなに熱かったプリュムの体も冷えていく。もうすぐ温かい飲み物が美味しい時間帯が、砂漠にやってくる。
☆構文解読器☆
かつてホワイトノイズが作ったケルシーの発言を解読するためのガジェット。プラスチックの外装にマイクと液晶画面が組合わさった構造をしており、複雑かつ入り組んだケルシーの発言を数語に要約してくれる。Mon3trに破壊された