あなたと探偵は、数時間前の戦闘を終え、記録者と軽く話をした後、たった今事務所に戻った。
はー疲れた、とフランチェスコから剥ぎ取って、まだ機能の確認も出来ていない強化外骨格の展開を終了しようと四苦八苦すること10分。普通に《エンド》で展開を終えることが出来た。展開を終えると一辺5センチほどの立方体の箱のような形になり、スペースの確保にも困らない。
さて、疲れたし寝るか。そう思って寝袋を広げていると、探偵があなたを呼ぶ。
「助手、良いかな」
なんだ、すごく眠いから手短に頼む。とあなたは言う。
「じゃあ、手短に。
……すまない。《弾罪》」
あなたに光の弾丸が撃ち込まれる。
動揺、焦燥、そして、疑問。
何故――
あなたは叫ぶ。しかしそれが聞こえなかったかのように次の言の葉を紡ぐ探偵。
「……《償還》」
……ああ、
――また? ――
あなたは、確かめたいこと、聞きたいことがあるにも関わらず、意識に縋り付く間もなくそれを手放してしまった。
◆◆◆◆
『起きて』
……オオカミ? 声だけが聞こえる。暗闇の中に居るみたいだ。ここは一体――
『あ、気付いたみたいね。交信も問題ないみたい。自分の名前、覚えてる? 』
あなたの名前。それを、口に出そうとして、体の感覚が一切ないことに気がつく。意識だけが浮遊しているような、そんな気分だ。
『……よかった。自我、今回は安定しているっぽいわね』
自分は、どうなって。探偵は、どうして。オオカミの言葉を聞く間もなくそんな疑問が絶えず浮かんでは、救いのない回答が勝手に想像され、悲観的になる。――だが。探偵が何の考えもなしにあなたを撃つとは思えない。何か理由があるはず。あなたは、探偵を信じている。もし仮にあなたに隠し事をしていて、そのためにあなたを利用していたとしても、だ。
落ち着いたところでオオカミの声が再び聞こえる。
『まったく、酷い飼い主に拾われたものね。助手ちゃん。依頼主を助けるためとは言え、助手から肉体を奪うなんて』
その懸念は必要なかったらしい。なるほど、アガーテ氏のためか。なら仕方がないと言うつもりはないし、あらかじめ何らかの説明があっても良かったのではとも思うが、何の前兆もなく突飛な事をしだすのは探偵にはよくあることだ。
して、あなたは一体どうなるのか。それが気になる。このまま意識のみの存在になるのか?
『……助手ちゃんの肉体はない。けど、一時的にだわ。アガーテちゃんの仮の器として使っている間に、アガーテちゃんの本来の肉体――魔獣体? が原核を再生させる。原核の再生が終わったら、また元の身体に戻れるわよ――って、マクスから聞いてなかったってこと!? あのバカ、説明も無しに実行するなんてどんな神経してんの!? ……いくら急ぎで肉体が必要だからって、それくらいちゃんと許可取りなさいよ、まったく』
なんの説明もなかったが? するかしないかで言えば、探偵ならしない。最近やっと事前に連絡を寄越すようになったが、その頻度はお世辞にも多いとは言えない。バカと呼ばれるのも仕方がない気もする。
『ま、取り敢えず眠っときなさい。肉体が返ってきたら起こしてあげるから。《オプション・スタートアップ・スリープモード》』
意識が、沈んでいく――
◆◆◆◆
『……リアクティブ》さて、これでどうなるか、ね』
「助手さん……大丈夫でしょうか」
「起きるさ。助手ならね」
……ああ、起きたとも。久方ぶりの感覚だ。一体どれくらい寝ていた?
「一ヶ月くらいかな。オオカミの魔術サーバーに意識を移してもらってたんだ。無事、アガーテさんの原核は精製された。助手、君のおかげでね。ありがとう」
「わ、私からも、ありがとうございます! 」
大したことはしていない。事前に言ってほしかったがな。横目で探偵を見る。バツが悪そうに目を背ける探偵。この男、ちゃんと反省してるのか?
まあ、貴重な体験ができたと思う、そうあなたは言う。大部分を寝て過ごしていたようなので体験と言うのは違うかもしれないが。
『経過観察とかは特にいらないか。じゃ、アタシはこれで。代金はまた後日よろしく〜』
「はいはい、分かったよ。……切れたね。よし、助手、重大発表があります」
何だ。
「私から言いますね。……ん、よし。えー、私、アガーテ・シアスは、マクス探偵事務所の経営顧問となります! 今後もよろしくお願いします! 」
――。
……マジか。あなたは一カ月ぶりの肉体でも変わらず絶句する。
「あ、嫌……でしたか? 」
いやいやまったくそんなことはない! むしろ経営顧問は居て欲しかったくらいだ。と、あなたは全力で否定する。
意外ではあったが、納得は出来る。アガーテ氏は記録機関の依頼を受けて稼ぐ短期収入しか無かったわけだし、身元を証明できるものもない。仮の宿は危険だらけ。マルコシアスの羽も壊滅したとは言え、残党がいるかも知れない。まだ狙われる可能性がある。と、なると、あなたたちで仕事を与え、同時に守ることが出来るこの選択は間違ってはいないだろう。少なくとも、あなたはそう思う。
「仲間が1人増える、ってお話さ。仲良くやってよ? 」
「あはは……不慣れなことも多いと思いますが、お手柔らかに……」
先輩は自分だ。きちんと敬うように、ふふん。と、威張るように胸を張るあなた。頑張ります! と拳を突き上げるアガーテ氏。それを見て微笑む探偵。これが、新しい仲間。新しい家族。新しい、日常。
さて、日常の話は、これでおしまい。次は――