だからきっと、あなたは探偵を   作:刹那木ヤクモ

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case1.7 日常の展開は予想できないものである

朝食を終えたあなたたちは、マルコシアスの羽への対応を考えるべく、テーブルの辺りに集まっていた。

 

「さて、どうするかなんだけど」

 

朝食の際に飲んでいたコーヒーの残りを啜り、ほんのりとした苦味を感じながら話を聞く。

 

「『オオカミ』に協力してもらう。助手は知ってるよね? ライフウォントウェイトの彼女」

 

ああ、彼女か。オオカミ。ライフウォントウェイト(人生は待ってくれない)と呼ばれる魔術ハッカー集団──特殊な技法を用いて魔術式にアクセス、魔術式の改竄や魔術の暴発、強制停止などを行う者のことを魔術ハッカーと言う──に所属している一人で、あなたと探偵は以前世話になったことがある。そのツテでまた頼み事をすると言うのだ。

 

「前に構成員から聞き出した情報を覚えてるかい? 彼は実験をする、と言っていたね。と言うことはそこそこ大規模な施設を保有している筈だ。そこの管理システムをハックしてもらう。そうしたらやることは一つ。アガーテさんへ危害を加えようとしているチームの暗殺さ。マルコシアスの羽の拠点の位置、そして主導しているチームのメンバーの情報をオオカミから受け取ったら作戦開始だ」

 

「あ、あの……」

 

アガーテ氏がおずおずと手を上げる。

 

「前もそうでしたけど、躊躇いなく殺しちゃっても大丈夫なんですか……? その、最近は良く分からないですけど私たちの頃は魔術でも人を殺したらいけなくて……」

 

「もちろん、人を殺したら犯罪。でも、僕らは違う。『特殊執行権』ってものがあってね。記録機関の承認を得ると貰えるもので、記録機関に代わって刑罰の執行や殺人の許可が下りるものなんだけど、僕らはそれを持ってるから犯罪には問われないんだよ。今後何かやらかして剥奪されたら別だけど」

 

「な、なるほど……殺人の許可も下りるんですね……物騒な世の中になったものですね……」

 

それにはあなたも同意する。アガーテ氏が生きていたソロモン王の時代だろうと、あなたがかつていた時代だろうと、殺人は許容されないものの筈だった。しかしここ、ローマでは記録機関と特殊執行権持ちは殺人が行える。それが良いことなのか悪いことなのかはあなたは分からない。けれども、それでこの混沌とした魔術時代の治安が少しでも良くなるのなら良いのかもしれない。

話が逸れた。オオカミからの情報はいつ頃になるかを探偵に問う。

 

「それは──」

 

探偵が何かを言う前に《プロジェクション》を唱え何かをテーブルへと投影する。それはマルコシアスの羽の拠点の位置、構成員のリストだった。まさか。

 

『今、よ』

 

ハスキーな女性の声が探偵のもとから響く。これは──

 

『こんにちは、マクス、助手、そして依頼人のアガーテ・シアス。あたしはオオカミ。《コール》越しで失礼するわ。』

 

スピーカーモードにした《コール》の向こう側から語りかけてくる彼女こそ、魔術ハッカー、オオカミだ。実際の姿こそ見たことがないが、探偵とはかれこれ3年くらいの付き合いだそうで、信頼のおける相手だ。勝手に事務所の魔術防壁などにアクセスしてこちらの話を聞いていたのだろう。あまり誉められた事じゃないな、あなたはそうぼやく。

 

『あたしたちの中では誉められることなの。幼い頃から魔術ハッカーとして育てられたあたしたちにとってはね。まあいいわ、本題に移るとしましょう。マルコシアスの羽の情報はそこにあるわ。アガーテ・シアスを狙っている中で最も危険なのは彼、フランチェスコ・カプリオーネ……サーキットを増幅させて、魔術への耐性を高めているだけじゃない。皮下装甲も分厚いモノを入れているし、右腕に至ってはガトリングガンに改造されてる。それも魔術と科学のミックスのね。アガーテ・シアスは置いていった方がいいわ。死にかねない。マクスと助手でもフル装備で太刀打ちできるかどうか、ってところね。助手、あんたの奥の手の出し所なんじゃない?』

 

あなたの奥の手は探偵に比べるといくらも平凡だ。だが、その代償はあまりにも重い。文字通り、命を削るものだ。あなたとしてもなるべく長生きはしたいのだ。なるべく使わないようにしたいが、やむを得ない場合は使う。探偵と、あなたの命を守るためならば奥の手も切ろう。

 

「フル装備で、ねぇ……。アダマンタイト製の防具をお見せするときが来たかな」

 

『え、マクス。そんな高いもの持ってたの? 』

 

「本当だよ。RIWSFからの貰い物だけど」

 

『RIWSF──ああ、記録機関の魔術特務部隊ね。良くそんなところから貰えたわね』

 

あなたも装備の支度をするとしよう。奥の手も含め、準備しておかねば勝てる勝負も勝てない。そんな風に考え物置へと進もうとしたとき、アガーテ氏が待ったをかける。

 

「ま、待ってください! 私も、連れてってください……! 」

 

『……あのさ、話を聞いてなかったの? 命の危険があるんだって。』

 

「……私は、原核を失っています。原核を失った魔獣は長くは生きられない。だから、原核を再生する方法を探していたんです。はじめは、色んな形の原核を集めてもともとあったところにはめてみたり、他の方法も考え付く限り確かめたんですけど、どれもダメでした。だから、私が生きるためには、もっと情報を得る必要がある。そのために、マルコシアスの羽の拠点に乗り込んで、彼らの保有している筈の実験で得たデータが欲しいんです」

 

『待った。今あんた何て言った? 魔獣? あんたが? そんなわけ……』

 

「あるんです。私は魔獣。真名は分かりませんし、信じられないかもしれませんが、本当なんです」

 

真摯に訴えかけるアガーテ氏。あなたもあなたなりに言葉を紡ぐ。彼女は魔獣だが、敵ではないと。横目で探偵を見ると、探偵も頷いていた。

 

『……ま、あんたたちがそう言うなら今は深掘りしないであげる。でも、こんどのネットニュースの記事にはさせて貰おうかな。……こんな都市伝説みたいな話、誰も信じてくれないだろうけどね』

 

あなたは胸を撫で下ろす。クールに見えて好奇心の塊であるオオカミは追求を始めると止まらない。あなたも何回か被害にあっている。その矛先が一瞬アガーテ氏に向きかけたが、振り抜くまではいかなくてよかった。

 

「じゃあ、アガーテさんも連れていこうか。オオカミ、作戦中の援護は頼むよ」

 

『別料金ね』

 

「げっ、そうなのかい……? まあいいや、持っていくといい」

 

『ご利用ありがとね。……っと、あたしは一旦この場からは離脱しようかしら。準備があるからね。じゃ、また。《エンド》』

 

プツン、と通話が切れる。なんだかどっと疲れた気がする。あなたはオオカミが苦手なのかもしれない。だとすればあなたはウサギとかだろうか。

 

それはそれとして、作戦のための準備を整えなければ。こんどこそあなたは物置へと歩みを進める。

 

決戦の時は、近い。

 

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