とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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プロローグ:黒猫になった男

 自分が転生したことを理解していた。

 

 自分がどの世界にいるかも理解していた。

 

 自分が誰なのかも理解していた。

 

 なにせ自分がいるのはかつて読んだ漫画の世界。

 

 なにせ地図を見て飛び込んできたのは『グランドライン』という言葉。

 

 なにせ成長してから鏡を見たら、見覚えのある顔が幼くなった感じの人物が自分を覗いている。

 

「いたぞぉぉぉぉぉっ! 賞金首だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 だから絶対海賊にはならず山賊にもならず――というかお尋ね者にはならずに知らない土地に行こうとしてたらどうしてこうなるのか。

 

 

「天竜人に逆らうどころか暴言を吐いた罪状によりお尋ね者!」

 

 

 すいません。でもドン・クリークの筋肉と脂肪入れ替えた上で性転換したような知らん女に可愛がってあげるから奴隷になれ言われて「チェンジ!」って叫ぶのは普通だと思うんですよ、ええはい。

 

 

「数々の山賊を潰して金品を強奪すること三十を優に超え!」

 

 

 すいません。略奪するなら山賊相手の方が気持ちよく略奪できると思ったんです。

 

 

「人狩りの連中を逆に叩きのめして身ぐるみ剥いでから人買いに売り渡す手腕!」

 

 

 すいません、襲ってくる連中の中で一番効率がいい宝箱だったんです。

 

 

「しかも売り渡す時の宣伝文句が『人売ってきたやつが売られる絶望の顔は高値が付くんじゃないか?』 鬼か貴様! この外道!!」

 

 

 すいません、それは限りなく本音です。

 

 

「挙句の果てには海軍の船を沈めて中身をいただく凶悪犯!」

 

 

 すいません違うんです。海軍の船なら船底に海楼石たくさんあるんじゃないかと思って漁ってただけなんです。

 あれただの座礁船だし乗組員はちゃんと助けたんです。

 

 なのにこうなりやがってちくしょう海軍の連中絶対に許さねぇ。

 

 

「13歳にして懸賞金2300万ベリー! 『抜き足のクロ』! その首よこせぇ!」

 

 

 助けて、助けてクレメンス。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぢ、ぢぐしょう……追いづげねぇ……」

 

――ドサッ

 

「…………片付いたか」

 

 よ、弱い奴らで助かった。

 さすが作中でも最弱の海と明言されている東の海。

 ワンピース世界――それもクロになったのならばと、とりあえず足だけ鍛えた俺でもどうにかなってる……。

 

 クロの身体スペックやっぱやべぇ。

 まだ『猫の手』はないけど近々作って……いや俺に使いこなせるか?

 

「どうしたもんかなぁ」

 

 今回俺を襲ってきたのは賞金稼ぎだ。

 

 というか、俺を襲ってくるのは大体全部賞金稼ぎだ。

 天竜人のガキのわがままっておかげで海軍も手加減してくれたのか、そもそも最初の懸賞金なんて1000ベリーという、ちょっと高い小遣いレベルの額だった。しかもオンリーアライブ。

 

 おかげで俺を狙おうとするのは、賞金稼ぎとして始めたばかりの連中ばっかだったからどうにかなっていた。

 

 それでもお尋ね者はお尋ね者で逃げざるを得なくなって、しかたないからそれまで鍛えていた足を頼りに色々やってたら……額がとんでもなく跳ね上がってしまった。

 オンリーアライブも気が付いたら生死を問わず(デッドオアアライブ)である。くそわよ。

 

 なんでだ。山賊吊るしあげたり村襲ってた海賊吊るしあげたり身ぐるみ全部剥いで金に換えたりしたけど殺したりしてねぇぞ。

 

 全裸で逆さづりにしたりはしたけど。

 あれか、チ〇毛に油垂らして火を点けたのが駄目だったのか。

 

「とりあえず、こいつらの身ぐるみ剥いできて適当な島で金に換える。問題はその後かぁ」

 

 俺の小舟、壊されてないだろうな。

 さすがに海賊漫画の舞台だけあって、基本的にここは船がないとまずどこにも行けない。

 

 懸賞金が付く前に、航海術の勉強がてら他の海の海図も手に入れてみたけど、どこもかしこも島だらけだ。

 

(どっちにせよ、もう俺は裏で生きていくしかない。となると、基本平和な東の海じゃあ稼ぎ口を見つけるのが大変だ)

 

 となると、違う海にいく必要がある。

 だがそれには海路を使うのは無理だ。

 また違う危険があるが、レッドラインの陸路を伝う必要がある。

 

 あまりにもお先真っ暗すぎて、思わずため息が出てしまう。

 

 ボロボロの手鏡を取り出す。せめて外見だけは整えようと、逃亡生活からこっちずっと持ってたものだ。

 最初は縁起が悪いと、短くそろえていた髪も、逃亡生活で伸びてしまった。

 前は整えられても後ろは手を出すのが怖いので、伸びた分はもう縛ってある。

 

 そこまで鋭くはなかったハズの目つきはもうアレだ。

 完全にアレだ。

 

 

 

「結局中身が変わってもキャプテン・クロということか……」

 

 

 

「頭は『百計』に程遠いけど……どうしたものか」

 

 

 


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