ゼファー率いる海兵が待ち構える軍艦への移乗攻撃。
通常ならばあり得ない選択を取ったことにより、親衛隊――かつて、マフィアの偽装密輸船に捕らわれていた者達は、かつての同僚たちと刃を交える事になった。
銃火器の名手であり、スリーマンセルでは後方にいる事が多い、藍色のショートヘアが特徴の親衛隊員――キャザリーは、なめし革を巻いて補強した銃床で斬りかかってきた海兵を殴り倒し、更に畳みかけて来る兵士に素早く銃口を向けて引き金を引く。
たん! たん! と、やけに乾いた音が、合戦の喧噪を縫って辺りに響く。
二発。
決して生存を許さないという強い意志。
狙った相手は必ず殺すという決意の下に放たれた銃弾が、また一人敵海兵を沈めた。
親衛隊や本船戦闘員の扱うそのライフルは、ありふれたマスケット銃等ではない。
ジェルマとの戦争を越えて接収した武器の一つ。
試作型ボルトアクションライフル、J-319。
特殊な弾薬を使うために普段はキャザリーでさえも使わない銃火器だったのだが、今回の海軍本部戦力との戦争のために蔵から引っ張り出した、ある意味今の黒猫の持つ武装の中でもっとも高価な物の一つである。
一発一発手間のかかる弾込めが必要なマスケットと違い、五発までは速射できる上に弾込め――装填が楽なそれは、この戦闘において相当な戦果を上げていた。
「この銃の量産……せめて弾薬を自前で製造できればかなり違うんだが……こればかりは要研究か」
―― キャザリーっっ!!
素早く弾丸を装填し、構える。
声がしたのは隣や後方――親衛隊がいる方向からではなかった。
「キャザリー!!」
正面――つまりは海兵の側から、必死に呼びかけている者がいた。
「……君か、久しぶりだね」
そこにいたのはキャザリーと歳の変わらない、若い男の海兵――彼女と同期だった若い海兵だった。
「よかった、見つけることが出来て!」
かつて肩を並べて厳しい訓練を耐え抜いていた男は白い海兵制服を身に纏い、黒いスーツを身に纏う友人に必死な顔で、
「キャザリー、投降してくれ! 今ならまだ間に合う! 君に懸賞金はかかっていないんだ!」
「……よくそんな言葉を気軽に言えるね。私を裏切ったのは海軍だよ。まさか、それすら知らずにここに立っているというのならばお笑いだ」
キャザリーは元同僚を気にせず、その後ろから隙を窺っていた兵士の頭を撃ち抜く。
「キャザリー! 海賊は縛り首だ!」
「そして、海賊にならなければ私は恥辱の限りをこの身に受けていただろう。……ああ、死んだ方がマシだという目に……」
海兵奴隷ビジネスを乗っ取ろうと画策していたベッジは当然奴隷の扱われ方をある程度調べており、親衛隊の面々は後々その詳細を聞かされていた。
かつてキャプテン・クロが、囚われていた自分達を前に行ったカポネ・ベッジとの問答から、どうあがいても自分達は使い潰されて死ぬことが確定しているのは知っていた。
だが、現実はそれ以上に過酷だった。
海賊連合事件の際に共に西の海の安定のために戦った海兵達から、どうにか聖地から解放された兵士達の悲惨さを耳にした時、あの時、あの少年海賊が偽装密輸船を襲っていなかった時の未来が脳裏をよぎらなかった者はいなかった。
だからこそ、誰もがそれまで以上の決死の覚悟でミホークやレイリー相手の特訓に挑んでいった。
地区本部海戦で一度帰還した上でこちらに戻ってきた者達も、遅れを少しでも取り戻そうと必死に剣を振るい、拳を鍛えた。
政府相手に一歩も引かない総督の道を切り開くことでしか、自分達が人として生きる未来はないと確信しているからだ。
苦楽を共にしたかつての同期に向けて、銃口を向ける。
前線維持の邪魔であり、親衛隊内で中距離援護に於いて右に出る者はいないと総督から褒められた自分が、一人の
「邪魔だよ、海兵」
そして引き金に指をかけ――
「きゃ、キャザ――」
―― 三百枚瓦正拳!!!
引き金を引いたのと同時に、放たれた弾丸ごと兵士が真横に吹き飛ばされた。
「すいませんキャザリーさん! 力を込め過ぎて全部吹き飛ばしちゃいました!! 怪我はありませんか!?」
「……トーヤ君」
大気中の水分を利用した広範囲の正拳突きを放ったのは、同じ親衛隊の一人。
本船の操舵を担当する、親衛隊内では屈指の魚人空手の使い手であるトーヤが、キャザリーに申し訳なさそうにちょっとだけ頭を下げ、すぐにまた戦場に集中し始める。
「君の役割は効率的に前線を崩すことだ。もっと前に出たまえ」
「はい! すみません!」
「……こちらこそ……すまない。ありがとう」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「凄まじい覇気だな。ミホークよりも上となるとあまり経験したことがない」
「それを真っ向から受けて見せるか、鋼刃! まったく、お前達はどこまでも恐ろしいな! 『黒猫』!!」
―― 能力者が恐ろしいのは当然だが、洗練された覇気使いには細心の注意を払え。レイリーを見れば分かるだろうが、高レベルの覇気を使いこなす敵はちょっとやそっとじゃ手に負えんぞ。
日々の政務の隙間を縫っての訓練の際キャプテン・クロが言っていた言葉を思い返しながら、『黒腕』の放つ拳の一撃を、同じく拳で受け止めていた。
(体格差もあって一撃が重い。ミホークやトーヤとの訓練がなければ、ダメージはともかく吹き飛ばされていた。それに加えて――)
一撃を受け止め、次の攻撃に移る隙が見当たらないため後方に軽く飛ぶ。
それを隙と見てゼファーも一歩踏み込んでくるが、その懐に人影が音も立てずに現れる。
「っ、アミス!」
「
黒猫海賊団親衛隊隊長。
親衛隊の中でも上位に入る剣の腕と共に、状況の判断に優れている将の一撃がゼファーのがら空きの胴へ突き刺さる。
「……くっ! 抜けない!」
「いい一撃だ。剣も銃も、持つ事すら怯えていた娘が……この半年あまりで下手な中将よりも仕上がるか」
だが有効打とはならない。
突き立てられた刃のその部分にだけ集中した覇気によって押し留められていた。
その瞬間、今度はゼファーの真後ろに新たな人影が現れる。
アミスよりも短く切った黒髪の女性――親衛隊の一人がゼファーの首元目掛けて刃を振り下ろす。
「そしてアイリ。銃や大砲の訓練は得意でも白兵訓練はからっきしだったお前が、こうして覇気まで体得するとはな」
だが、その一刀がゼファーの首へと届く直前で、その身体が裏拳で吹き飛ばされる。
普通の海兵ならばまともに入ればそれだけで身動きが取れなくなるだろう一撃を、アイリと呼ばれた親衛隊は衝撃を受け流し、それこそ
(だが、俯瞰して見れば状況はこちらに傾いている)
ゼファーの一撃一撃に戸惑いや迷いがあるのは、それが大きいのだろうとダズは見ていた。
前方ではトーヤとキャザリーのペアが敵勢を次々に薙ぎ倒し、そこに後から移乗してきた黒猫の兵士達が殺到して海軍が戦線を維持できないように引っ掻き回している。
もう一方では刀使いと魚人空手使いのペアの親衛隊員が、ゼファーに加勢しようとしている手練れの海兵達を押し留め、時には倒して敵精鋭を確実に削っている。
そもそも、敵の一般海兵のほとんどは旗艦から飛んできたネガティブゴーストによって無力化されている。
(海戦の方も上手くいっている。船数が足りんかと思っていたが、あの二人は相変わらず上手くやってみせる)
キカとトロイ。
重要局面での前線を担当することが多い親衛隊の中で、刀や魚人空手の腕以上にその統率力を活かした艦隊戦を受け持つようになってきた二人は、完全に他の敵艦隊を足止めしている。
(引いて救助に入るか、このまま押して俺やアミス達を倒してしまうかの選択が拳を鈍らせているか)
感じる圧はレイリーのそれに匹敵している。
これに食らいつけていけるのはこれまでの訓練、そしてなによりアミスとアイリの親衛隊二名との連携の成果が大きい。
(……このまま膠着させて他の親衛隊やハンコック達を待つ……つもりだったが、さて……)
「……殺し屋」
「む?」
「賞金稼ぎとして動き出したお前に付けられるハズだった異名だ。ダズ・ボーネス」
その言葉に、ほんの少し前の日々を思い出した。
一年前。
キャプテン・クロと出会う前の日々を。
「かなりの数の賞金首を狩っていたな。地区本部では話題になっていたようだ」
「……安い首ばかりだったからな」
「だが、生活するには十分だったろう。なぜ海賊になった」
「……金は全て母に渡っていた」
「その年齢ならば当然だろう」
「全て、男と酒に使っていた」
小さく、ゼファーの動揺が伝わる。
「……最初の賞金首は、泥酔していた山賊だった」
今でもあの時の感触は覚えている。
「金額は10万ベリー。母が何に使っても当面のパンと干し魚の代金分くらいは残るだろうと、縄で首を絞めて殺した」
なぜか他の仲間とはぐれて、揺すっても起きない程に酔いつぶれていた。
恐る恐ると近づいて、震える手でまずは手を縛り、そして足を縛ってから首に縄をかけた時のあの感触は、今後も決して消えないだろう。
「そして軍の換金所に死体を持っていって金をもらった。手配書の通り10万ベリー。生まれて初めて見る大金だった。……怒鳴るか殴るしかしない母でも喜んでくれると思っていた」
攻防は続いている。
黒く染まった拳を同じく覇気と能力で硬化した拳で受け止め、即座に手や指を刃に変えて斬撃を放つ。
「だが、怒鳴られたな。生かしたままならもらえる金が増えたのに何をしているんだと」
「……そうだな、そういう制度だ」
政府は増える賊徒に対して、見せしめを多く必要としている。
海賊王ゴールド・ロジャーがそうだったように、今も毎日どこかの処刑場では見物客を多く集めて、捕まえた賞金首の公開処刑が行われているだろう。
そのために生け捕りならば、その分追加で賞金が出る。
「次は頑張ろうとしたが……やはり駄目だった。生かしておくのが怖かった。……だから隙をついて殺した。次も、その次もだ」
揺さぶりのための問いかけなのは分かっている。
三人目の首を持ち込んだ時に、海軍から誘われたことも確かにあった。
ある程度は詳細を知っていてもおかしくない。
「……悪魔の実を見つけた時は、転機だと思った。ようやく強く成れると思ったんだ。強くなって、ベリーを稼いで……母から褒められて……」
貧乏だった。
母の酒代の他に、なんとかパンを買うのに精いっぱいだった。
硬くなって安売りに出されたパンとしなびたキャベツを齧っては、ゴミ拾いや荷運びで日銭を稼がされていた。
だが、殺すことで大金を手に出来た。
同じように泥酔させたり、罠を作ったり弓矢で遠くから狙ったり……あの手この手で、出来るだけ弱そうなやつを殺していった。
「そうしている内にあの実を齧って、この身体を手に入れた。剣も弾も効かない鋼鉄の体だ。だから……ソラのようなヒーローに、海の戦士になれると思っていた」
だが、
「だが、なれなかった」
―― 親はどうした。
―― ……ファミリーに殺された。なにをやったかは知らないが、報復だそうだ。
かつて、金を稼ぐつもりで襲った海賊――今の自分の頭と出会った時の問答を思い出す。
あの時、俺は躊躇ってしまった。
躊躇って――ウソをついた。
「鋼の体を手に入れて、初めて生け捕りに成功した。怖かったが、ナイフや銃弾をこの身で受けて、それでも正面からマフィアのそこそこの大物を取り押さえ、軍に引き渡して、大金を持って家に戻って……でも」
―― 馬鹿! なんだってよりにもよってマフィアに手を出したんだ!
「俺は母に認めてもらう事は出来なかった」
―― こうなったらアンタがマフィアに頭を下げてきな!
―― 気味の悪い身体になったんなら価値があると見てくれるだろうさ!
―― ……なんだいその顔は……おい。
―― や、やめろ、こっちに来るんじゃないよ!!
―― この……っ
「結局俺は……母を……」
「ママを――」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
鋼刃の口から力のない言葉が漏れる。
だが、それでもその覇気は揺るがない。
それどころか、僅かにとはいえ力を増している。
鋼刃の話を自分と同じく耳にした、左右を固める親衛隊も同じく。
「鋼鉄の体になって、親を手伝い、悪者をやっつけても……俺は憧れていたヒーローになれなかった」
「ダズ・ボーネス……っ」
「母は弱かった。俺が殺してきた賞金首も……弱い奴から死ぬ。弱い奴から殺されて、俺は強かったから殺す側だった。そう信じていたが……」
小さく、ほとんど表情の変わらない『鋼刃』の顔が確かに緩んだ。
「大ぼらのような話を実現させようとしている男に出会ってからは、どうにもな」
黒く染まった足による回し蹴りが飛んで来る。
動作が大きいために予測しやすかったそれは、だが受けた途端に斬撃と化す。
無論、防げる。
だがそれでも、覇気をわずかに貫いたその斬撃が肌を斬り裂く。
「海賊であるのに略奪は避け、悪党であると何度も言いながら民衆を治めようとしている男の下にいると、自分は随分と狭い世界しか見えていなかったのだと自覚をせざるを得ない」
防御の体勢に入ったためにわずかに出来た隙を目掛けてアミスがすかさず連続した斬撃を飛ばして来る。
「弱かったのは俺だ。だから、過ちを犯した。たとえどん底だろうが、確かにあったのだろう正道から目を逸らし続けた」
避け様のないそれを覇気で受け止めるが、こちらもわずかに覇気を貫き、少しずつこちらの血が飛び散り、海兵服が徐々に赤く染まっていく。
「俺は……キャプテンのようなどこにでも瞬時に現れる程の足はなく、知略もない。ヒーローになりそこなった、ただの能力者の海賊だが」
(違う――)
ダズ・ボーネスという少年の中で、何かが固まった。
(確かに君は罪を犯した。だが――!)
これまで多くの海兵を育ててくる中で、大成するだろうという兵士に感じたのと同じ物を目の前の海賊から感じる。
「ああ、決めた」
「海賊になる事を決めた時、こんな戦いの日々など想像もしていなかった。だが、それでも……いや、だからこそ」
「俺は――どこかの、誰かのために戦おう」
かつての――ゼファー自身の幼い記憶が脳裏をよぎった。
(違う。違うんだ、ダズ・ボーネス! 君のソレは彼と同じ――!)
海軍の寄港地である港町で、海の戦士ソラの真似をしてボロ布をマントのように翻して遊んでいたあの頃を。
「俺が欲した物は、ありふれた物だった。家族との幸せな日々。それを欲した事自体は、間違いではなかったハズだ」
まだ少年だ。
少年の身で多くの賞金首を倒し、今では海賊として多くの強敵を倒している。
多くの業を背負ってしまっている。
「それでも、欲した物はあまりにも遠かった。今思い返してもどうすれば正解にたどり着けたのか分からない」
その業を背負ったまま、こうして本部大将を前に堂々と立っている。
「そして夢から目を逸らし、正道からも目を逸らし続けた結果目の前の賞金に飛びつき、他者を殺める道しか目に入らなくなった。……結果も含めて、罪だ。背負い続けなければならない罪だ」
「……
「だから今一度、海賊の立場と言えど向き合う事になった正道から、再び目を逸らす事は出来ない」
討ち取らなければならない。
ここで「鋼刃」を確保し、親衛隊の面々を政府の横やりが入る前に確保しなければ、本来悪名を背負うべきではない者たちを過酷な運命へと追いやってしまう。
だが――
「問おう、海軍。我らを討ち取り、モプチを制圧する。それは民に平和をもたらすものか?」
答えられない。
「殿下と天竜人の婚姻は余りに一方的だが、それは誰のための物だ。殿下を――あるいはモプチの民を幸せにするためのものか?」
答えられるハズがない。
黒猫を捕縛するにせよ、ここから追い出すにせよ、その先のモプチの民がどうなるのか想像するのは容易かった。
喰い潰される。
彼らが救い出した王族も、守ってきた民も、築いた町も。
美しい娘は王族だろうと慰み者にされ、男達は農奴に堕とされ、それすら適わない老人や子供は殺されるか殺人ゲームの的にされるだろう。
――まるで、海賊に占領された国のように。
「……そうか、答えられないか」
「ならば、尚更引けない。負けられない」
その『鋼刃』の言葉に頷くように、アミスとアイリの二人の重い斬撃が左右同時に襲ってくる。
覇気が込められていたそれに、更に強くなった意思が乗って攻撃の一つ一つを強くする。
守るという意思だ。
弱者を、戦う力を持たない民を、国を守るという強い意思。
本来この背にあるべき意思を、目の前の海賊達が背負っている。
受け止めるために両腕に覇気を込めようとする前に、反射的に飛びのき躱した。
不味いと思った。
受け止められないと感じてしまった。
再び距離を取って、『鋼刃』とその左右を固める元教え子と対峙する。
「我らが進むべき正道がここにある以上、敗北も逃走も許されん」
この少年は、クロと違い王の器ではないのだろう。
あの海賊から感じた王の威圧は感じない。
「黒猫海賊団、副総督。ダズ・ボーネス」
だが、改めて行われたその名乗りは一団を率いる者に匹敵するほど威厳に満ちている。
かつて、なりたかった姿を。
子供の頃に――いや、大人になってからもなりたかった在り方を強く思い起こさせるほどに。
「名乗れ、海兵」
―― ちくしょう、覚えてろーーーっ!!
かつて住んでいた港町で、女の子をいじめる卑怯ないじめっ子の前に立ちふさがった事があった。
―― ハッハッハ! いつでもかかってこい!!
母からもらった余り物の布のマントに、父の大きなサングラスを付けた子供の自分は、
「俺は……」
―― 俺の名は!
―― 正義のヒーロー!!
「海軍本部……特別大将……っ」
―― ゼェーーーーーーット!!
ずっと考えていたヒーローらしい名乗りを上げていた。
「ゼファーだぁぁぁぁぁっ!!」
倒す。倒さねばならない。
本部特別大将として、倒さねばならない。
誰を?
悪を。
海賊を。
悪の象徴である海賊を。
覇気を込め、黒く染まった腕を振るうために突進する。
動いたのは教え子たちだった。
アイリが素早く、当然覇気を込めたナイフ二本を投げて来るのをそのまま受ける。
一本は僅差で外れ、もう一本は左肩に突き刺さる。
躱しても弾いても勢いが鈍る。
多少の傷を負おうと真っすぐ突き進むしかない。
「先生!」
「覚悟を!!」
その先に、刀を抜いたアミスとアイリが待っている。
刀身を黒く光らせ、両者とも突きの体勢に入っている。
(いい覇気だ!)
同時に放たれる突きに合わせて大きく踏み込む。
最大のインパクトをずらしたその二撃は、自分の渾身の覇気を貫くには及ばず、だが勢いを完全に殺した。
二人の姿が一瞬で掻き消えたその背後には――『鋼刃』がいた。
「おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
だいぶ削がれてしまった覇気をそのままに、拳を突き立てる。
『鋼刃』もまた同じく拳を突き出し――衝撃が船を揺るがした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
近くにいればそれだけで吹き飛ばされんばかりの衝撃。
それによって周囲の戦い――黒猫に大分偏っていた戦いが一度止まる。
衝撃が起こった所から離れた所に、小さい身体が横たわっている。
ダズ・ボーネスが――『鋼刃』が地に倒れていた。
ゼファーが――『黒腕』が甲板に膝を突いていた。
「み……」
気絶しているダズ・ボーネスを見て、ゼファーは微笑んでいた。
微笑んで、そして泣いていた。
涙を零して、
「見事じゃないか」
そして
拳と拳をぶつけ合い、衝撃が走るのと同時に斬撃へと変換された一撃。
何度も見ておきながら、それでも防ぎきれなかった四本の斬撃は、その内一本は相殺出来たが他は防げず、
「……ヒーロー……」
その胸に深い
海軍本部軍艦の甲板に、海賊の歓声が響く。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夢だ。
ダズ・ボーネスは一面真っ白というあり得ない光景を見て、即座にそう判断した。
もしここが死後の世界とやらとしても、あの感覚ではゼファーに深手を負わせたのは間違いないと確信していた。
真っ白などこかでダズは立ち上がると、すぐに目に入る物があった。
自分だ。
自分がうずくまって泣いている後ろ姿がそこにあった。
「……ずっと、お前と別れたかった」
静かに泣きじゃくっている自分の声が響く中、ふと声をかける。
他ならぬ、自分自身へ。
「お前と別れれば。……切り離して、置いていけば俺は大人になれると思っていた」
頼れる人間が誰もおらず、隠れて泣いていた自分へ、一歩近づく。
「転機だと思ったんだ。悪魔の実を食べた時も……キャプテンの大ぼらに付き合って海賊になった時も」
うずくまる背中は、今のダズとそう変わらない大きさだ。
それでも今のダズよりも少し小さく、そして大分幼い。
「だが……ああ。すまない。すまなかった」
「転機、などという物は……ないんだな」
確かに、今の自分へと繋がる幼い自分へ、ダズは己の内を零していく。
「あとから振り返って大きく流れが変わったきっかけはあっても、それはきっと振り返ってから見つかる物で……」
あの眼鏡をかけた少年海賊と出会ってから、想像していた日々は一度もなかった。
思いもよらない日々で、自分はそれほど変わったつもりはない。
泣くことを止めたあの日から、自分は変わっていない。
「転機が訪れたから変われるのではなく、成長するのでもなく……お前が突然無くなるなんて事も決してないんだ」
ただ、まだ泣いていた日々から積み重ねた物は確かに感じていた。
「今の俺は間違いなく、お前から続いているのに……」
これまでしてこなかった他人と関わる事を繰り返してきた中で、ダズ・ボーネスはようやく泣いていた頃の自分を見る事が出来た。
「……すまなかった。置いていこうとして、無かった事にしようとして。それはお前が一番嫌がる事だと、俺は一番知っているハズなのにな」
「ああ……」
「行こう。共に」
ワンピ世界は技術レベルが本気でバラバラで、特に銃は平均値がわっかんねぇw