復興されたモプチ城は、同時に徐々に改築も進められていた。
ボロボロに汚れていた城壁や門の修復はもちろん、城の中には警備を担当する親衛隊や兵士の待機所や見張り台。
ハンコックが留守を務めていた間に試しにと作ったものがいつの間にか拡張されていた庭園。
城と繋がる通路の先に作られた離れの館。
通称、黒猫館。
事実上の黒猫海賊団の本部となった建物の中には、錚々たるメンバーが集結している。
「まぁ、当然だという思いもあるが、我々に懸けられた額の更新か」
黒猫海賊団、副総督。『鋼刃』ダズ・ボーネス。
懸賞金、1500万ベリー → 1億8000万。
「副総督は急激に上がりましたね」
「大将を相手に深手を負わせたんですから、むしろ安いくらいだと思いますがねぇ」
親衛隊隊長、『王佐の剣』アミス。
懸賞金、8000万ベリー。
「……というか、私も初頭でとんでもない額付いてますね……」
「副総督のアシストを務めた上に、我々親衛隊の隊長ならそれくらい当然さ」
「えぇ。隊長だけじゃなく、我々の中でも懸賞金付いた人いますからねぇ。私もそうですけど、皆大体4000万から5000万で、クリスさんだけ隊長と同じ8000万ベリーでしたか」
「ホロホロホロホロ! まぁ、目立つ立場で暴れてりゃあそりゃ額は上がるわな!」
「ぺ、ペローナさんも姿はともかく能力ですっごい海兵さん達を足止めしてたから……すっごく上がってるよ??」
本船クルーにして最高幹部の一人、『ゴースト・プリンセス』ペローナ。
懸賞金、600万ベリー → 3500万ベリー
同じく最高幹部、『オハラの悪魔』ニコ・ロビン。
懸賞金、7900万ベリー → 1億ベリー。
「むぅ……。一応は新参であるわらわが、古参のペローナらよりも高いとはのう」
「ペローナが言った通り、お前は容姿も含めて目立つゆえ仕方あるまい。此度はあまり使用しなかったが、能力も含めた戦力としてのお前の価値は極めて高い。胸を張って受け取れ」
「わらわどころか、客将の身分でほとんどの者を抜き去ったお主に言われてもな……」
そして新たに手配された黒猫海賊団の幹部。
メロメロの実の能力者にして黒猫海賊団第一艦隊提督、『海賊姫』ボア・ハンコック。
懸賞金、1億5000万ベリー。
客将でこそあるが黒猫の最高戦力にして、親衛隊を主とした精鋭を鍛えた剣士。
海賊、『海兵狩り』改め『死の教師』ジュラキュール・ミホーク。
懸賞金、2億8000万ベリー。
「コイツは元々手配されていたんだ。その分に加算されたんだろう」
「ミホーク殿は本部だけでなく、地方の支部でも有名でしたからなぁ」
そして、先日の戦闘で黒猫に加わった者たち。
懸賞金8100万ベリー。
そして海軍の裏切り者となった老兵、『灰の将』タキ。
懸賞金5500万ベリー。
「おめぇら、もう完全に西の海にいていい海賊団じゃなくなったな。クロの奴抜きでも」
「うむ、合計額では
間違いなくこの西の海の支配者とも言える面々なのだが、まったく変わる様子が無い。
調子に乗るどころか、慢心の気配すら出さない。
それを見て同盟者のベッジは呆れたような嬉しいような、複雑な顔をしたまま葉巻に火を付ける。
隣にいる一般兵士の教導を務めているハックも似たような顔だ。
客将までを含めればトータルバウンティが30億を軽く超える海賊団など、間違いなく世界有数の一味である。
それこそ本部勢力が本腰を入れる勢力に他ならない。
実際に投入されて撃退したのだが。
「で、クロが28億だ。……何回も見返したけどこの額間違いとかじゃねぇよな?? アイツ、マジで聖地でなにやらかしたんだ? 聖地守って復興作業の段取り組んでたって定時連絡で聞いていたけど……」
「政府の人間に気に入られ過ぎた……とか」
「なんだそりゃ、ダズ?」
「姫殿下を思い出せ、ペローナ。キャプテンが聖地に出発する直前まで大変だっただろう。話が決まったばかりの時のロビン並みに」
「ああ……確かに。そういうのもあり得るか」
ダズの体から『にゅっ』と腕が伸びてベシベシと叩き始める。
ある意味でいつもの光景なので、その隣で真っ赤にした顔を押さえてうつ向いている少女に皆の温かい目線が注がれ、とうとう椅子に座ったまま丸くなってしまった。
「とはいえポスターは相変わらず
「ペローナの言う通りじゃと思う。クザンがそうであったように、主殿は海軍との繋がりを強めていたが政府側にはパイプがなかった。となれば、聖地にいる間に当然ソレを補強しようとしたじゃろうが……」
「それが政府上層部には目障りに映った、か。一応筋が通らなくもないが、なぜ今かという疑問が残るな……。まぁいい。とにかく、こういった手配書が出た以上、総督は海軍の追跡を切り抜けているのは間違いない。ならば、連絡が付くまでにこちらも最善を尽くさねばならん」
この場の最年長者であるが、同時にもっとも新入りでもあるタキの表情が引き締まる。
短い間とはいえ共に共同作戦についていた黒猫だが、こうしてその本丸である黒猫館の幹部会議に参加するのは初めてである。
共に黒猫に付いた元海兵組のためにも、ここで無様は曝せないと気を引き締める。
「先日の戦闘でこちらの船三隻が完全に沈み、他の船も損傷した物が多い。幸い本艦隊は被害軽微だが、本格的に造船態勢の組み立てが必要になった。そちらを強化するまでは、今ある船と兵力でなんとか状況を回すしかない」
「そのことじゃが副総督、今回団に参加した者は全員船に乗せるつもりか?」
西海海戦が起こる前の黒猫海賊団の兵力のみで言えば、その数およそ1000。
そこに海兵達の寝返りによって、今回の戦闘で多少脱落者が出たとはいえ、総兵力が3000を超える軍組織になった。
「いや。今回の戦闘でいくつか軍艦も手に入ったために全員を乗せる船はあるが、砲弾や火薬の関係から全てを稼働させるのは難しい」
ダズはここで、同席している親衛隊の二人――トロイとキカに目線を送る。
事実上の主力艦による親衛艦隊となっているソレを熟知している二人は、各艦の状況も当然知っていた。
その二人が同時に小さく頷いたのを確認して、ダズは話を続ける。
「そこで、総督の計画通り兵力を別ける。当初の予定では、兵力が1000を超えてからの話だったが……それを容易く超えたな」
「本来なら300名からの計画を変更。兵500名を選抜し、縄張り内部の陸上防衛と治安維持を専任としてノウハウの研究と積み重ねを行っていく『陸軍』組織を立ち上げる」
「今日はそれを念頭においた軍の再編と、今後の縄張りの運営方針について決めたい」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
―― こんなガキ一人を討ち取るだけで名が上がるんだ! やっちまぶべーーーっ!
―― ちくしょう、横の女を人質にぐはーーーっ!!
―― 待ってくれ降参する! もうアンタに手出しはべぶぅっ!!!
とりあえず襲ってきた連中を蹴り飛ばして上半身を地面にめり込ませる作業を続けて大体二十分。
最初こそちょっと出来る奴が襲ってきたけど、その後はひたすら雑魚つぶしだ。
お前らホント……実力差も見抜けないのに数頼り……いや数で押すのは間違ってないんだがこうも無計画だと意味がねぇっていうか……。
ウチの海賊団なら行軍訓練から今の古参連中に叩き込まれるだろうなぁ……。
最近戦った連中の中だと特に品性の欠片もねぇ連中だし、少し前の俺だったらまた逆さ吊りにしてチン毛燃やしてたかもしれん。
「3000万……5500万……2800万……1200万……あ、今の億越え」
あとヒナ! 冷静に俺がぶっ飛ばした奴の懸賞金をボソボソっと呟くんじゃ――億越え!? 今のが!? ミホークの斬撃一発も対処できなさそうな奴だったぞ!!?
「というかお前手伝えよ!! お前だって狙われてるんだぞ!!」
「対処しようとした瞬間にその海賊が姿消してアチコチに突き刺さったりめり込んだりしてるんじゃない」
まぁそうなんだけど!!
チクショウ、視えすぎるせいで体への負荷も半端ないことになってる!
黄猿レベルの速度と覇気相手なら役に立つけど、このレベルの連中だとあまり意味ねぇなチクショウ!!
もうちょっと未来視使い込んで体と脳に馴染ませねぇとダメだ!!
「ああもう! ヒナ、こっちに! 面倒くさいからまとめてコイツラ吹き飛ばす!!」
「最初からそうしなさいよ」
「数人見せしめにぶっ飛ばせば終わると思ってたんだよ!!」
くそう、この感じは
外見のせいで完全に舐められてる。
数で押せばすぐに疲れて潰せると思われているか!
(よぉし分かった。よぉし分からせてやろう。――死ぬがよい)
ヒナを引っ張って、肩と膝の裏を支えて抱きかかえ、空中にいったん逃げる。
待て、ヒナ。いきなりアクション起こしたのは悪かったから肋骨の隙間に抜き手を差し込もうとするんじゃない。
「……これ食らってもし耐えられる奴がいたら勧誘してやるよ」
―― というわけで久々の噛猫・極!!
「……大将黄猿を行動不能にしたって聞いても実感わかなかったのだけれど……貴方本当に化け物になったわね」
「人間辞めたみたいな言い方は止めろ。本当の化け物はこんなレベルじゃねぇぞ」
その場にいた海賊全員を空中からの一撃で地面にめり込ませて、とりあえず場は収まった。
やっぱり耐えられる奴はいなかったか。南無。
まぁ、新世界とはいえスパさんが逃走の場として用意したんだから、四皇の目を盗んで隠れ住んでた比較的弱い連中の島だったんだろう。
間違いなく新世界でも序盤の中の序盤の島だし。
(暴れている間に観察したけど、CPっぽい気配は無し)
CP9が先回りしている可能性も考えていたが、この分では問題なさそうだ。
(さて、どうするかな……)
だいぶ街中で暴れてしまったが、騒動に参加してない連中は俺がぶっ飛ばした連中を肴に酒飲んでゲラゲラ笑っている。
肝が太い……というか、どうでもいいのだろう。
野心はあるのだろうが、それよりも享楽に気が向いているといった所だ。
(さて、一応それなりにベリーは持っているが……手持ち分だけで足りるかな)
とにかく水と食料、燃料に着替えの服は確保しておきたい。
幸い、ここは治安こそゴミカスだが一応売買の場がそれなりに機能している様子だ。
「ヒナ、とりあえず衣類を売ってそうな店を――」
「駄目ね。コイツら全員持っているのは普通のログポースよ。新世界を航行するには不足だけど……一応剥ぎ取っておくわ」
「おい海兵」
「なによ」
「なんでお前が海賊の俺より先に略奪始めてんの?」
「使える物を手に入れるためなら仕方ないでしょう」
おかしい。
海賊の俺が取引優先してんのになんで海軍のお前がノリノリで略奪してんだよ。
……ヒナ、待て。
ポケットまでまさぐるんじゃない。
「クロ、適当に台車か何か持ってきてくれない? 武器の類と有り金は根こそぎ頂いていきましょ」
「待て、止めて差し上げろ。……小銭まで回収しようとか貴様鬼か!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
とりあえず通常のログポースと、俺が使うのにちょうどいい刀――『猫の手』ほど馴染んではいないが一応レイリーとミホークに叩き込まれている――、そしてある程度のベリーは頂いていく事になった。
ちょっと迷ったが、ホームじゃないこの新世界では念のために金は持っておきたい。
なんとかヒナを説得して根こそぎ持っていくような真似は止めさせたが……。
あれでアイツら、手持ちの金は大丈夫かな。
「ちょっと貴方達。卑怯じゃない?」
そうして奪った金を使って食料や水を補給しようと、見るからに『ザ・酒場』と言った雰囲気の店を見つけて扉をくぐった所で……まぁ、またトラブルである。
「なんだぁ、ガキが」
「見た所海兵のようだが、ここにゃここのルールがあるんだよ」
「痛い目に遭いたくなきゃ引っ込んでな」
「何がルールよ……よくもまぁ――」
入り込んだ先は確かに酒場だったのだが、同時にギャンブルを用いた社交場――つまりは賭場だった。
うん、まぁそれはいい。
そしてヒナが、カモられている人を見て思わず関わってしまったのも別にいい。
想定の範囲内だし、多分俺もそうしただろう。
――が、
「
…………。
「いけやせん、お嬢さん。あっしの事に構いなさんな」
「でも――!」
額からその両目へと続く、十字の傷が入った
うそやん。
「いちゃもんつけられちゃあコッチも黙っていられねぇなぁ」
「嬢ちゃんはツラはいいし海兵って肩書があるから、いい金になる。騒動の代価を払ってもらおうじゃねぇか」
うそやん!
ステイ! チンピラ共ステイ!
そんな死亡フラグ自分からおっ立てなくていいから!
大体お前らレベルが十人いたって今のヒナにも勝てねぇのに!!
「コイツはいけねぇ。お嬢さん、お下がりくだせえ」
止めろミスター
こんなレベルに刀を抜くな!!
「悪い人には――地獄に落ちてもらいやす」
大将藤虎!!!
……じゃねぇ、イッショウ!!
なんか若いけども!!
お前さんって海兵じゃなかったっけ!!!
なんでこんな海賊の島に!!!?