とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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105:真意

「ハッハッハ! とうとう君達親衛隊も本格的にお尋ね者になったか! おめでとうと言うべきかな、トーヤ君!」

「…………レイリーさん、ご機嫌ですね」

 

 長時間に及ぶ会議の末モプチの今後の開発方針――反射炉を始めとする製鉄設備の増設や新たな耕作用地、上水道の設営計画等がついに決定した。

 

 というよりは、ようやくそこまでは決まったという所だ。

 

 キャネット、並びに完全に縄張りとなったモグワのこれからの運用や兵力の再編等に関しては午後から決めると休憩になり、更に資料を整理し直している幹部陣はともかく、警備に当たっていた親衛隊は交代してそれぞれの部屋や休憩所で食事休憩に入っていた。

 

 テーブルや椅子を雑多に並べた城の中庭には、顔合わせにだけ会議に参加していたクロコダイルに加え、食客であるレイリーも集まっている。

 

 なお、同じく客将のミホークはロビンと共に会議室横の控室で軽食を取りながら、事前に用意していた地図や資料と睨み合って、会議に参加している元海兵組やベッジ、ギャルディーノを巻き込んで話し合いを続けている。

 

「なんというか、自分にこんな額が懸けられるなんて意外でした……」

 

 親衛隊の中で屈指の魚人空手使いにして、クロと並ぶ料理上手のトーヤは、自作の昼食の出来に満足しながら、照れくさそうに『冥王』を前に頬を搔いている。

 

「いやいや、謙遜するものではない。むしろ、初頭だからこの程度だったが、実際はかなり高く見積もっていると私は思う。ミアキス君やキャザリー君のように連携に長けた者と組み合わさった君は本当に脅威なのだよ……『潮風』くん」

「や、止めてくださいよレイリーさん」

 

 黒猫海賊団親衛隊の一人、『潮風』のトーヤ。

 懸賞金4800万ベリーという西の海ではかなりの高額賞金首は、いつものスーツの上からエプロンを付けて恥ずかしそうにしている。

 

 

―― いや、ご隠居の言う通りだと思うぞ。

 

 

 その二人に近づく人間がいた。

 トーヤと同じく親衛隊のスーツを、他の人間に比べややラフに着こなしている赤みがかった髪の女性だ。

 

「船の上での戦いは足場が制限される。だからこそ黒猫の対海軍戦は敵を海に落とす事を基本戦術として研究しているが、トーヤの魚人空手は確実に広範囲を吹き飛ばせるので……ついつい要所に配置しがちだな」

「あ、キカさん! 哨戒任務、お疲れ様でした」

「ああ。遅れてすまないが、私も食事を頂いてもいいか? 多めに。午後からはモプチ城内の警備に就くからな……。静かな城の中で腹の音が響いたら決まりが悪い」

「ええ、はい! どうぞどうぞ! 今日は総督直伝の根菜とアサリのシチューです」

「……あの島に隠れ住んでいた頃を思い出すな。ああ、ありがとう」

 

 黒猫海賊団の食事でよく出されるのはシチューだ。

 特に物資が今以上に限られていた時、可能な限り余さず手持ちの食材の栄養を取れる料理ということで推奨されていた頃の名残である。

 

「それにしても『潮風』か。いつも明るい君に良く似合った二つ名だと思うぞ」

「……僕としては、キカさんみたいなカッコいい二つ名が欲しかったというのが本音です」

「ハッハッ、キカ君は……確か、海鷹(かいよう)だったか」

「私はまだいい。トロイの奴なんて『海龍』だぞ? 余りに大それた二つ名だと頭を抱えていた」

 

 元よりその戦闘力と指揮能力の高さで敬意を集めていた親衛隊員は、手配書が出た事で尚更尊敬の目を集めていた。

 

 親衛隊隊長、『王佐の剣』のアミスを始め、『潮風』、『魔弾の射手』、『死を呼ぶ舞踏』、『銀の乙女』、『(つるぎ)の魔女』等々。

 

 幹部勢同様、黒猫の勢力圏の民衆からは自分達の庇護者として、兵士達からは頼れる将として、その見目麗しさも手伝って非常に目立つ存在となっている。

 

「……っち、牢の中にいた時からお前らの層が厚い事は分かっていたが……ここまで化け物揃いとはな」

 

 そして、その会話を傍で聞きながら顔をしかめるのは、つい先日まで捕虜だった海賊。

 

「もう、クロコダイルさん。女性を化け物扱いするのは失礼ですよ」

「そういうお前は、この一味の中でもとびきり海賊らしくねぇな。『潮風』?」

「名前で呼んでくださいってば! ――あ、待ってくださいクロコダイルさん、お代わりでしたらシチューはこっちで装いますので……前のお皿、失礼しますね?」

「…………そういう所だ。ああ、頼む」

 

 基本的に海賊という者は、所属している海賊団以外の海賊は全て敵である。

 ましてやクロコダイルという男は、幹部であるロビンを狙ってきた海賊。

 当然親衛隊の面々は警戒しているのだが、トーヤという男は警戒しつつも歩み寄ろうとしていた。

 

「わっははは! まさかお前まで来ているとはな! バレットとやり合ったという男が、こうして流れ着いて黒猫に来るか」

「……冥王。くそっ、こんな馬鹿げた戦力があるか。次代のロジャー海賊団でも結成させるつもりか?」

「それこそまさかだ。我々の冒険は終わった。ここに来たのは野暮用と……あとは好奇心だ」

 

 トーヤが作ったシチューをとっくに平らげ、酒を楽しんでいる海賊王の右腕はニヤリと笑い、辺りで食事を楽しんでいる親衛隊や兵士の面々を見回す。

 

「この一味を半年足らずで築いた、ロジャーの奴とは正反対の少年が余りに面白くてな。ついアレコレ構ってしまっている」

「……弟子、ということか?」

「戦い方の基本を教えているのは私ではなくミホーク君の方だがな。私はあくまで補助だ」

 

 それなりの数のテーブルとベンチが用意されている、休憩所や調理所も兼ねたこの中庭は事実上親衛隊の詰所であり、情報交換の場になっている。

 

 クロコダイルもレイリーに倣い辺りを見回す。

 こうして近くにいると肌で感じる。

 ここにいる親衛隊の誰もが、倒すにしてもかなり手こずるだろうと。

 

 それどころか、相手によっては一対一でも危ういと感じる程身のこなしが洗練されている兵士を数名確認する。

 一対一でもかなり手こずらされるのは間違いないだろう覇気を感じる。

 

「ところでクロコダイルさん、あの基地に閉じ込めた海軍の動きはどうなっています?」

 

「救援こそ呼んだようだが、思ったよりも動きが鈍い。……最初に出してきた戦力の数と言い、海軍はどうも統制に乱れが出ている。クハハハハ、あれだけ大掛かりに動いておいてこのザマとはな」

 

「……こちらとしてはいいニュースですね。今の内に、ある程度は戦力の補強が出来ます」

「トロイとも話してきたが、海軍屈指の質での攻撃を跳ねのけた以上、次の攻撃があるとしたらなりふり構わず物量を注ぎ込んでくる可能性が高い」

「となると、初動からデカいし目につきやすい。……動きを見つけたら、本格的に戦端を開く前に補給拠点を突いて掻き乱すしかありませんね」

「ああ。可能な限り軍備を整えながら先手を打つ必要がある。今行っている会議で隊長やミアキスが海軍基地への偵察の増強、その結果による威力偵察や先制攻撃の判断許可を上申しているハズだが、どうだ?」

「午後からの議題の一つですね……先日の作戦の間にウチの海域でまた海賊や山賊が活性化しています。するとやはり、そちらの対処にも兵員が必要になりますので……そちらとの割り振りが……」

「これだけ戦力が増強されても、敵が強大である以上まだまだ足りないか」

 

 

 

 

 

「軍事力という物は……ほとほと扱いに手を焼くな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「能力者っていうのは、やっぱり凄いわね……」

 

 目の見えない人を騙してお金を稼いでいた男達は、その当人が容易く蹴散らしてしまった。

 

 ――いや、

 

「す、すいやせん。ついやっちまった結果お店に大穴を……」

「ああ、大丈夫です、修復はこちらでやりますので。店主、それで構いませんか?」

「ええ、まあ、直していただけるんならこちらとしては……。もう穴もだいぶ埋めてくれてますし」

 

 床ごと大地の底に叩き落し――結果としてお店が壊れてしまった。

 結果として占拠してしまった酒場に船に残っていた兵士達を集め、その修復の指揮を執っているのは海賊。

 いや、今では大海賊と呼ぶべき男は酒場の一角のテーブルに着いたまま、元帥から頂いた書類やここ数日の新聞等を読み直している。

 

「何か分かった?」

 

 上司であるワイアード大佐からも出来るだけ海賊の側に付くように命令されている。

 イッショウさんという盲目の能力者と共にテーブルに着いているクロの肩に手を掛けて、手元を覗き込む。

 

 相変わらず、武器よりも本や手紙が似合う海賊だ。

 

「ああ、少しは。……まぁ、だからこそ分からない事が山ほど出て来たんだが」

 

 戦闘が終わってからも、全体の指揮を執りながら出来るだけ保存食を残すために魚を取ったり船を沈めようとする海王類を狩ったり料理したりと忙しかった海賊は、穴の底から伸びてるチンピラを救出した後は土の手配や木材集めなどを指示しながら、ため息を吐く。

 

「複雑化した暗号は、政府が動いた件に関する警告文のみ。残る暗号はシンプルなもので、政府と海軍との間の協定の内容に関してのモノだった」

 

 手のひらで眼鏡のズレを直し、クロは続ける。

 

「まぁ、大体は賠償金の事やその他の補填についてだが……ミソなのはコレだな」

 

 そうしてクロがバサバサっと出したのは、黒猫海賊団の一味の新たな手配書の数々だ。

 

「貴方が28億、それに加えて『鋼刃』に『オハラの悪魔』に『海賊姫』、『死の教師』と億越えがゴロゴロ……」

「だが圧倒的に安い」

「貴方に比べればそうでしょうよ」

「いや、センゴクさんからの情報だと大将二名が送られている。それを撃破したにしては安すぎる。安すぎるからこそ、見えて来るものがある」

 

 キャプテン・クロ。

 またの名を千視万計。

 そして海兵からは静かに『軍師』と呼ばれていた男は、渋い顔をしたまま首をひねっている。

 

「おそらく政府は、西の海を仕切り直すつもり……だと思う」

「というと?」

「西の海は、海兵奴隷事件の情報が最も広がった海だ。……政府からすれば、その存在全てが苛立たしいのだろう」

「まさか――わざと蜂起させるつもり!?」

「いや、それはない。さすがにここで海軍が割れて蜂起でも起これば長くは隠しきれん。ただ……政府への反目が目につく将校の暗殺なんかはやらかすかもな。軍だけじゃなく、加盟国の王族が対象に含まれていてもおかしくない」

「……じゃあ、貴方の部下の懸賞金が貴方に比べて安いのは初頭だからではなくて……」

「これから西の海で起こる事を可能な限り漏らしたくなかったから、ギリギリあり得そうな額にしたって所だろう。余りに高額すぎると、西の海に変な注目が集まる」

 

 

 千の事象を見据え、万計を以ってそれを迎え撃つ男の言葉には説得力がある。

 

 

 ――だが、

 

 

 

 

「ねぇ、億越えがこんなにゴロゴロ出てる以上、もうすでに十分注目を集めていると思うけど……」

「…………あ、うん、その……それはそうなんだけどさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(そもそも、海軍大将を二名もぶち込んだって事は、政府もモプチに置いてきた戦力は潰す気満々だったろうしなぁ)

 

 読みが甘いというか……政府の弱点がまた一つ分かってきた。

 おそらく、上っ面の数字と地図でしか状況を判断していない。

 

 政府の方針に所々ムラがある理由の一つはそれだろう。

 

 これまでの流れで集めた数を頼って散々好き勝手してきたようだが、政治的にも軍事的にも現場を欠片も把握していない。

 

(となれば、ダズ達は想定以上に圧勝したかもしれんな)

 

 声を聞かないと安心できないが、用意していた対海軍戦術はおよそ十五隻から二十隻の敵艦隊相手の基本三種の戦術に、奇策を用いられた場合のサブプラン+α。

 

 それが政府の判断で隠密寄りに編成されたとすれば……レッドポート付近の五つの基地を密かに軍需物資のハブにしたとして……統合して出せる最大戦力……。

 

 周辺加盟国を海賊から守るための哨戒戦力を確保すれば、出せるのは十隻から十五隻といった所だろう。

 

 本部戦力も余り出せない。こちらを優先したといってもシキやその他海賊への抑えは必ず必要だ。

 その程度ならば被害を最小に抑えた上で勝てる。

 

 その上今回大将クラスを抑えられたのならば、万が一クザンが物量率いて来ても抑えられる。

 念のために補給線を断つための戦略も組み立ててテゾーロと協議している。

 兵の再編と状況把握が終わり次第、ダズかアミスが現場の状況に合わせて動くだろう。

 

 最悪レイリーを防衛戦力に組み込むことになるかもしれんが、今後どう流れようと、海軍が他の海を捨てて大戦力でも投入しない限り十分勝ち目は用意している。

 敗北したとしても撤退用意を念入りにしてあるし、崩壊レベルの完敗はまずない。

 

(あとはどう帰るか……)

 

 左肩に手をかけてこちらの手元を覗き込んでいるヒナの顔を見上げると、散々見て来た質問の多い時の顔をしてやがる。

 さて、次の質問は――

 

「あの、すいやせん」

「? あ、あぁ、すみません。ほったらかしにしてしまって」

 

 顔を戻すと、目を潰した男が所在なさげな顔をこちらに向けていた。

 イカン、西の海に帰れそうな手段持ってる人間なんだからもうちょいコミュ取らないとな。

 

「その、声をかけてくださったお嬢さんは海兵さんということでしたが……そちらは――」

「ええ、海賊です」

「……どういった関係でございやしょうか?」

「どういうって……」

 

 えぇと、海兵と一緒に海軍の追撃艦隊切り抜けて西の海に帰ろうとしてる海……賊……。

 

「…………」

「…………」

 

 ヒナと思わず顔を見合わせる。

 西の海でコイツを一方的に蹴り飛ばして、連合騒ぎで再会してからはなんかずっとコイツをロビンやアミスと並ぶ俺の秘書みたいな扱いしていたけど……。

 

 ヒナも言葉に詰まっているのだろう。

 口を開いたり閉じたりして、だが言葉が出てこない。

 

 関係……関係、かぁ……。

 

 しばらく互いにパクパクしていると、イッショウはなにか不味い事を言ってしまったのかと微妙にオロオロしている。

 

 たっぷり十秒ほどそうしている内に、ようやく互いの答えが決まった。

 

「いずれこの男をボコボコにした後に海軍の狗として死ぬほど扱き使う事になる女よ」

「この女がいずれ敵になった時にシバき倒して降伏させて秘書として使い潰す男です」

 

「…………へ、へぇ……さいでやすか」

 

 うむ、納得してくれたようでなによりである。

 ヒナも頷いているし問題ない。

 

「話を戻すけど、元帥は最初から貴方を攻撃するつもりだったのかしら?」

「いや、それはない。……というか多分、政府にすら予想外というか緊急だったんだろう」

「……どういうこと?」

「政府と海軍の協定内容の中に、海軍関係者とその家族のより強固な保全って項目があった」

「……保全?」

「基地やその近隣国の中に、政府直轄の海軍関係者やその家族のための街――というか、区画を作るらしい。全兵士の賃金も上げた上で、そこに住まう事を選んだ人間の生活水準を大きく上げるってさ」

「……それ、人質というんじゃなくて?」

「入るのは個々人の判断に任せるらしいし、過去に海兵の家族が海賊に狙われた事例もある。そういった者から守るための壁に囲まれた海兵のための区画……ある程度そういう狙いがあるのは間違いないだろうが、本質はそこじゃない」

 

 なんというか、実に世界政府らしいというかなんというか……。

 

「政府の狙いは海兵という存在をただの役職じゃなくて、階級にしようと企んだんだろう」

「……それは……意味ある事なの?」

「ああ。中々に悪辣だ」

 

 海兵達の安全を担保にした、市民との暮らしから切り離した一種のゲーテッド・コミュニティの構築。

 政府はおそらく、家族や常駐する住人や管理人にはそれなりに贅沢な生活を用意するだろう。

 これが長く続けば、現場にいる海兵はともかくとして、勘違いし始める人間が出てくる。

 壁の中にいる自分達は、外の連中より上の身分なのだと。

 

 ……そうなると、必ず海軍関係者と民衆との間に摩擦が発生する。

 摩擦が続けば続くほど、海軍に近しい人間は徐々に、そしてますます民衆を下に見始める。

 

「立場。特に階級や特権ってのは……容易く人を狂わせる」

「つまり政府は天竜人未満平民以上っていう、王族や貴族に近い上位階級という『立場』の席を用意して、民衆寄りになっていた海軍を、政府寄りの組織に塗り替えようとしている?」

「していた……というべきかな。これは長期的な視野で組み立てられた計画だ。だからセンゴクさんも、しばらく政府は静かにしていると判断した。……政府もこういった策を進めていた以上、今回の件は本当にイレギュラーだったのだろう」

 

 だから暗号文の中に、いずれ極秘裏に会談を行いたいという文面があった。

 明らかに海軍の主導権を、長期的な視野とはいえ奪おうと動き始めた政府への対応を考えたかったのだろう。

 

(過去に海賊に家族を殺された海兵がチラホラいるっていう事実があるし、断る材料が不足してたんだろうなぁ……。下手な理屈で無理やり断れば政府に叛意ありと見なされるだろうし)

 

 センゴクさんは政府を盲信していないし、政府もセンゴクさんをどう扱うか困っているのだろう。

 消せるなら消したい。そんな状況で俺達が大将戦力を撃破した。

 

 それを責任問題としてセンゴクさんを海軍組織から排除するか、それともますます戦力が足りないと現状維持に動くか……。

 

「貴方は、どう動くつもり?」

「海軍と改めて交戦したことで、休戦協定は破れた。……戦うしかないんだろうが……」

「ノリ気じゃない?」

「当たり前だ。無駄に世界を荒らして民衆を圧迫するような真似なんてお断りだ」

 

 そのため『緑の狐』を始めとしてアレコレ計画を進めようとしていたのに……またオジャンか、ちくしょう。

 

「それでも、こちらにも海兵にも戦死者が出てしまったのは違いない。……どこかで互いの落とし所を見つける必要はあるだろうが……」

「非があるのはどちらかと言えば我々海軍側。なにせ、裏切りを働いた上で貴方達『黒猫』に負けている。である以上、『黒猫』としては生半可な条件じゃ元の関係には戻れない、と」

「そういう事」

「で、海軍としては政府が貴方達を排除したがっている以上、貴方が海賊という立場もあって話し合いも難しいだろうと」

「そういう事」

「政府を潰しましょう」

「待ちたまえ、若き海兵」

 

 海兵が容易くクーデターを思いつくな!!

 イッショウ! 貴様吹き出してるんじゃねぇ!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

―― 総督、木材の回収完了いたしました。

 

 

―― 中心部に念のための支えの柱を用意した上での穴の埋め立て、完了しました。

 

 

「よし。木材の千切れた部分はすでに切断している。それに合わせて新しい木材を裁断、修復してくれ。釘や工具はすでに揃えてある」

 

 

―― ハッ!

 

 

 私が肩に手を置いている男は、海賊連合事件の時と変わらず頼もしいにも程がある。

 やってる事は野良仕事の指揮とは言え、手は抜かないし念入りだ。

 そのせいか、この店の店主もクロという海賊に普通に接している。

 

(まぁ、28億なんていう馬鹿げた懸賞金と表でそれなりの海賊達をまとめて吹き飛ばしてれば認めざるを得ないか……)

 

「店主、申し訳ないが電伝虫はないでしょうか。あれば使わせてほしいんですが」

「あぁ、ここにはないけど港の管理所にあるぜ。床打ちまでやってくれた上に質の悪い奴を追い払ってくれたんだ。取って来てやるから待ってな」

「申し訳ない。お願いします」

 

 おそらく、『黒猫』の仲間――あの仏頂面のダズ・ボーネスや生意気なペローナ、愛らしいニコ・ロビンらと連絡を取るのだろう。

 

(盗聴の危険があるっていうのに。……でも、そうね。連絡を取ってあげないと、ロビンは泣いちゃってるかもしれないわね)

 

 最初は怯えられて、慣れてきたら少し笑うようになった女の子。

 多分、クロが表に立って戦う最大の理由。

 

 出来れば、もう少し話をしてみたかった。

 

「ヒナ、悪いけどテーブルや椅子を戻してくれ」

「ハイハイ」

 

 いや、このままいけば話せるだろう。

 海兵という事で、憎悪の目で見られるかもしれないが……。

 

 この男は必ず西の海に帰還する。

 

 そして三本爪の旗の下に、混乱しているだろう西の海をまとめ上げ、新たなる秩序と平和をもたらすだろう。

 

 疑う余地すらない。

 

 この男は、そういう男だ。

 

 ……だけど、政府はきっとそれを認めない。

 それを認められる度量があるのならば、そもそもこんな事態に陥っていない。

 

(さっきはああ言ったけれど、もし、本当に貴方と戦う事になれば……)

 

 戦いたくない。

 戦いたくはないのだ。

 戦うには余りに見ている理想が近すぎる。

 

 誰かを守りたい。助けたいと、同じことを考えているはずなのに。

 それがわずかに違うだけで、その違いを許せない者達の意向によって戦わなければならない。

 

「――ねぇ、手が空いてるなら貴方も手伝いなさいよ。もう仕上げだけでしょ」

 

 能力による攻撃によって床のアチコチに被害が出たため、修繕の邪魔にならないように外に出したテーブルや椅子がテラス部分に雑多に並んでいる。

 手の空きそうな兵士数名をつぎ込んでも少々時間がかかるだろう。

 

「ちょっと……聞いてるの、クロ?!」

 

 そんなに重い物ではないが、一人で運び込むのはさすがに手間だ。

 屋内に唯一残しているテーブルで茶をシバいてる化け物級の体力持ちに手伝ってもらおうと叫ぶと、

 

 

―― ああっ!!!!??

 

 

 突然、海賊が叫び出した。

 

「……クロ?」

 

 振り返ると、つい先ほどまで雑談をしていた男がなぜか立ち上がっていた。

 立ち上がり、こちらの様子を見ていた。

 

 側にいたイッショウも突然の事に驚いている。

 

 

「……まさか」

 

 

 これまでどんな状況でも自信満々に笑っていた男が。

 

 

「聖地襲撃のもう一つの狙いってのは――」

 

 

 真っ青な顔で。

 

 

 

 

「……やっべぇ」

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