とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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107:勝者なき戦の結末―②

 側にいるヒナや海兵達……イッショウも、そして電伝虫の向こう側もベッジの報告を受けて一言も発することが出来ない。

 まさかの凶行――いや、『まさか』と『やはり』という思いが複雑に混じり合っているのだろう。

 

 自分も正直、同じ気持ちだが……黄猿と戦った時との会話からすると……

 

(今まで徹底的に封鎖した上で隠し通していただけで、散々やらかしていたんだろうな……)

 

 だからこそ、こういう緊急事態にポロッとやらかしてしまう。

 しかも今は、原作時での革命軍のようなストッパーになりうる戦力がないんだ。

 

「思い返せば、敵――金獅子やその周囲が何を狙っているのか、手掛かりはあった」

『手掛かり?』

「例えば海賊連合事件の時、海賊に接収されたまま行方不明の海軍艦だ。取り返したけど全部じゃなかった」

 

―― ……二隻は沈められた。いや、そっちも奪われたか?

 

『……モグワを解放した時、奪われた海軍艦は二隻足りなかった』

「そうだ、全体では七隻が行方不明だ。連合との戦いで沈められたとばかり思っていたが」

『金獅子の能力で持っていかれたと?』

「おそらく」

 

 海軍に守られた立派な船に政府の旗を掲げれば、誰がどう見ても政府の船だ。

 疑う人間は――特に民衆には違いなどまず分からないだろう。

 

「それにもう一つ、お前にも話した聖地襲撃事件の中にもおかしい点があった」

『金獅子か?』

「いや、ゾンビだ」

『?』

「詳細こそ話していなかったが、聖地襲撃に使われたゾンビ軍団はパンゲア城を目指し突撃することを命令されていた。実際、奴らはひたすら城に向けて突撃するだけだった」

 

 そう、これだ。

 

 …………。

 

 ホンットこれだ!

 

 これに気付かず見逃したのがあまりに致命的だった!

 

「なのに金獅子と戦った直後、すでにゾンビ兵が海軍の守りを突破し始めていたあのタイミングで、単独行動していたはぐれゾンビ兵と交戦した。あの時はまったく気に留めていなかったが……」

 

 ゾンビ兵は基本的に攫った民衆の影を利用した民兵だった。

 命令に従うほど時間が経っていなかったために、細かい命令の指示がまだ聞けなかったのだろう。

 となると単独で動いていたのは、恐らくその時の誘導役連中と同じくシキ子飼いの海賊の影が入れられていた奴だ。

 

 それがあのタイミングで、あの場所で動いていたとなると明確な理由がある。

 おそらくだが――

 

「多分、あのゾンビは……天竜人の死体(・・・・・・)がないかを調べていたんだ」

 

 あったらあったで、回収しようとしていたんだろう。

 

 あの時点でシキは高所に逃げていたが、死体とゾンビだ。

 高い聖地から飛び降りても、目印か何かを用意しておけば回収は不可能じゃない。

 

『死体を操れる能力者に天竜人の死体。そして奪われた海軍の船。……偽装を狙っていたか』

「おそらく当初の計画では、天竜人一行としてどこかのデカい加盟国で堂々と略奪を行うつもりだったのだと思う。本筋というよりは、天竜人が万が一大人しかった時の火付けの類だと思うが……」

『結果として、天竜人は敵の望む事を望むままにやってしまったわけか』

「……それで終われば、まだよかった」

 

 それだけならば、なんとかなった。

 いや、最悪の中の最悪だけど、少なくとも打つ手はまだあった。

 

「今回は、更に事態がややこしい事になってしまっている」

『ややこしい事?』

「ダズ、海軍が仕掛けてきたのはいつ頃だ?」

『……五日前だ』

「となると、ほぼこちらと同じか」

 

 

 

「……輪をかけてヤバい事になりやがった」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 北の海、スパイダーマイルズ。

 海賊連合事件。いや、それ以前の海兵奴隷事件から裏で糸を引いていた一味は、傍受した通信を聞いて笑っている。

 

「べっへへへへへ! また勝手に追い詰められてるねぇ『黒猫』は! さっさと綺麗事なんて放り捨てればいいのに!! べっへへへへへへへへ!!!!!!」

「おいトレーボル! 酒飲んでる時に近づいてくるんじゃねぇベトベトすんだろうが!!」

 

 正確には、幹部の一部だけだ。

 ドフラミンゴは笑ってこそいるが大笑いをしているわけではなく、その側にいる一団の顧問と共に酒を飲みながら、傍受用の電伝虫をボーっと眺めている。

 

『ヤバイ事? 天竜人のやらかしだけではないのか?』

『……ベッジ、スーペリアはいつ被害に?』

 

 遠い新世界で孤立している海賊の口から、先ほどまでの慌てようはなくなった。

 すでに事が起こってしまったがためにそうなったのか、あるいは――

 

『ああ、襲われたのは数日……いやわりぃ、正確に言えば七日前。海軍との戦争の前日だな』

『……その情報は周辺国に流れているか?』

『一応な。とはいえ、やっぱり政府が情報をいじくっている。理由にバラツキこそあるが、世界政府への反逆罪って形だな』

『情報が回り出したのは?』

『三日前後……といった所だ。さすがにどこからどういう風に情報が広がったか知りてぇってんなら時間をくれ、クロ』

『いや、いい。大事なことは大体分かった』

 

 単純な情報のやり取り。

 海賊『黒猫』とベッジのやり取りに、ドフラミンゴの横にいたモジャモジャ頭の男が――『祭り屋』ブエナ・フェスタが虚を突かれた顔で立ち上がる。

 

 ドフラミンゴは怪訝な顔で「どうした?」と問い掛ける。

 だが『祭り屋』はそれにすぐには答えず、呆然と電伝虫を見つめ、

 

『最後に、ベッジ』

『おう』

『……西の海だけで収まると思うか?』

『クロ、お前が聖地にいる間かその後に、天竜人様はアチコチに出ていったか』

『ああ。……いる間にヒューマンショップや親天竜人の加盟国へ』

『だったら決まりだな。間違いなくやらかしているぜ』

『そうか。……そうだな』

 

 通話の向こうで、『黒猫』が深いため息を吐く。

 そのため息に反応したかのように、

 

 

「っ、そういう……ことか!!!!」

 

 

 祭り屋が、世界最大の火付け役が目を剥いて叫んだ。

 

 

「おいフェスタ、どういうことだ? 計画は全て予定通りだ」

「そうだ、全部予定通りだ! 予定通りに天竜人は散らばり、各地で醜態を晒している! 金獅子の情報が正しければ、食い潰された加盟国が世界中でチラホラ出てる! だが――っ」

 

 

 

「くそ、やべぇ……やべぇっ!!」

 

 

 

早すぎる(・・・・)!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 西の海のとある海軍基地。

 物資のほとんど――それどころか海図から書類の全て――それこそ走り書きのメモすら全て持ち去られた海軍基地の一角、将官用に用意された医務室の中に、このような事態に追い込んだ策を立てた男の声が静かに響く。

 

 比較的傷の浅い大将赤犬は用意された椅子に腰を掛け、ようやく回復しだした『黒腕』のゼファーはベッドの上で横になったまま、聖地にて海賊らしからぬ能力を見せた男の言葉に、ある程度海軍組織を知っている将校達は下がりに下がった士気とは違う理由で顔色を悪くしている。

 

『ダズ。ここから先はあくまで推理だ。ただ、俺が戻るまでの間の指揮の目安にしてくれ』

 

 落ち着きを取り戻した海賊の声に、赤犬は地区本部の時を、黒腕は聖地での海賊とのやり取りを思い出し、同時に確信する。

 

 動く。

 

 この声は、何かを確信して事態を解決せんがための一歩を踏み出す時のものだ。

 

 赤犬は覚えている。

 あの執務室に単独で潜入し、姿を見せた『抜き足』の声を。

 

 黒腕は覚えている。

 指揮系統を分断され士気が下がり始めていた海兵達を、通信一つで立て直した『黒猫』の声を。

 

『これから世界中で目も当てられないような混乱が起きる。……が、西の海は思っているほど深刻なレベルにはならないだろう。慌てずに目の前の問題に腰を据えて当たれば、解決は難しくはないハズだ』

『その、根拠は?』

『時間だ』

『……時間』

 

 小さく、「どういうこと?」という少女の声が混じる。

 恐らくクロのすぐ隣にヒナがいるのだろう。

 聖地でいつもそうしていたように。

 

『確実に俺を押さえたいのならば、まず俺を聖地から出すべきではなかった。……まぁ、実際そういう気配はあったから復興関連の仕事の上限を設けて聖地を出たんだが……』

 

 赤犬はともかく、黒腕はそこらの事情を良く知っていた。

 普通の部署ならばパンクしかねない仕事量を増やされ、クロの傍に付いていたスパンダインという男が目を剥いていたのをよく覚えている。

 

『海軍側――センゴクさんに仕事の上限を決めて、帰還することを明言したために政府も焦ったのだろう』

『先ほどの話からすると、キャプテンやモプチの襲撃まで随分と時間が空いたが……』

『そうだ。重視されたのはおそらく西の海。ヒナには説明したが、政府はおそらく西の海の状況を仕切り直そうとしていたのだと推測する。特に海兵奴隷事件で燃え上がった地域の『リセット』を狙ったのだろう』

『……対立しそうな人間の排除か?』

『そういった手段も含めて、薄暗い行動を隠すなり理由付けなりするには、人員が大量に必要だ。だがモタモタしていたら、新世界に孤立させられたこっちはともかく、西の海のお前達が政府の裏切りに気付く』

『キャプテンの聖地出航から襲撃までの間は、その準備期間か』

 

 クロが出航するまで聖地で政府の動きを見ていた黒腕は、ある時から政府の役人が大きく減ったのを思い出した。

 そのおかげでクロの仕事が大きく増えるのと同時に権限も増えたので、海兵の誰もがさして気にしていなかったのだが……。

 

『そうだ。だが、それはつまり――』

 

 

 

 

『他の海から、動かせる人員をかなり西の海に持ってきたという事を意味する』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 黒猫館の大会議室では、クロの話を聞くのと同時進行で各地の情報収集のための準備に親衛隊や兵士が走り回っている。

 緊急の哨戒部隊の指揮を執るために離れたアミスに代わり、ミアキスが指揮を執って追加の調査部隊の編成を急がせている。

 

『ベッジ、スーペリアの噂にはバラつきがあったんだな?』

「ああ。内乱が起こったために政府が介入って話から、他国への不当な軍事介入の気配を見て調査が入ったとか色々だ」

『……おそらく、元々の命令はモプチ制圧の理由付けと、黒猫の名声を落とす事だったんだろう。そこに天竜人の突然の凶行が耳に入り、それぞれがとっさに情報統制に入ったと思われる』

「統制っていうにはまとまりがねぇがな」

『よほど焦ったのだろう。無理もない。ともかく、政府の人員もこれから天竜人の尻ぬぐいに走り回らなければならない』

 

 この混乱の尻ぬぐいという事は、全てとは言わずともある程度暴走しかねない民衆を押さえてくれるだろう。

 クロの言葉にある程度納得したのか、政務を担当するテゾーロ達は今回襲撃されたスーペリアがある旧エリアAに関しての資料――ギャルディーノやクロコダイルが海軍基地から回収した物を集めさせて、何かを地図に書きこんだり、書いた紙を他の者に乱暴に手渡したりしている。

 

『多少、我々やモプチに関して捏造した情報が出まわるかもしれんが、問題とまで言う程にはならん。対処はお前達に任せ――』

 

 

『――どうなるの?』

 

 

 クロの発言を慌ててメモしているロビン達や、涼しい顔でココアを啜っていたペローナの動きが止まる。

 

 

『ねぇ、西の海以外はどうなるの!!?』

 

 

 突然クロの代わりに聞こえて来た少女――幹部や親衛隊とそれなりに親交を結んだヒナの叫びに、かつての上官であるタキの顔が険しくなる。

 その先が、なんとなく予想出来てしまったからだ。

 

『クロ!!』

 

『……先ほども言ったが、西の海で俺達『黒猫』を抑えるために、かなりの人員を無理やり運んでいる。……実際には聖地に控えていた人間を西の海に送り込み、その代わりをかき集めたという所だろうが……』

 

 クロの言葉は、先ほどと違い歯切れが悪い。

 ヒナという海兵の少女とクロの仲の良さをある程度知る者は、その歯切れの悪さの理由を察していた。

 正義感の強い少女の気持ちを傷つけるだろう事を言わねばならない事に、躊躇っているのだ。

 

『天竜人は各地に散らばってしまった。その数は多く、護衛や人員はともかく万が一の時に工作を働ける人員はどうしても少ない』

 

 せめて一か所にまとまってくれていればな……。と小さく呟くクロの言葉には、嫌悪感が混じっている。

 

『もし、ここでスーペリアと同様に暴れていれば、その情報の遮断はまず不可能だ』

 

 現に、戦争のためとはいえ少し外の国の動きに目を向けていたベッジの部下が、遅くなったとはいえ動きを掴んだのだ。

 

 これが更に情報が垂れ流しやすくなっている他の海ではどうなるか。

 

 海賊という立場であれど西の海を守らんとする面々は、他の海の最悪の状況(・・・・・)を想像して、顔を蒼くしていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「天竜人がこの情勢で訪れるのは、間違いなく親天竜人の国だろう。これまで散々貢物やらをしていた国家ならば、必ず自分の望んだ物を全て寄こすと踏んでだ。……それが燃え上がったとなれば、世界政府――そしてその表の顔である海軍の面子は……正当性は完全に潰れる」

 

 ヒナの顔が真っ青だ。

 無理もねぇ。一応こっから先の事態は推測だと言ってはいるが、そうなる可能性は高いと俺は見ている。

 なにせ――

 

「そうなると加盟国は、世界政府の駒である海軍とは別の防衛力を欲するようになる。……金獅子の狙いはそれだったと推測する」

 

 俺達『黒猫』も世界政府も、海軍も、なにより――

 

「独自の武力を求める国家に戦力を売り込み、反政府活動の拠点を各地に作る。軍事力の根幹を握れば、後々乗っ取る事も難しくないしな」

 

 ああ、政府がバカやらなかったらそうなっただろう。

 最悪のルートだ。

 だが、それでも敵の手にバトンがあった。

 

 それが……。

 

(クソが! こうなってしまったら、事態をコントロールできる陣営がどこにもねぇっ!)

 

 多分、もう誰の手にもバトンがない。

 金獅子の陣営だって、これほどの混乱は予想外だったろうに!

 

「敵は世界政府をよく調べ、知り尽くしている。恐らく、聖地襲撃により被害にあった天竜人がどこでどういう行動を出すか、そして世界政府がそれをどう隠そうとしたかをシミュレートして策を立てていたのだろう」

「でも、貴方さっき人員を他の海から引き抜いた……って……」

 

 そう、そうなんだ。

 そりゃ気付くよな。

 そうなんだよ。

 

「そうだ。情報をコントロールできる人間が確実に足りていない。情報は駄々洩れて、金獅子勢力の想定以上に混乱が広まっている。どこの海も、多分」

 

 頼むセンゴクさん。

 聞いてるんだろ? これを材料になんとか政府の馬鹿共の引き締めを頼む。

 もう焼石に水というかマグマに霧吹きレベルだが、それでも動いてもらわないとマジで世界の秩序が崩壊する。

 

 政府が崩壊するのは仕方ない――いやもうホントに仕方ないとしか言えないんだが……。

 

「このまま進めば……どうなるの?」

「大まかな流れは変わらん。ただし、速度と範囲が桁違いになる」

 

 このままじゃ、多くの民間人が酷い事になる。

 東の海とか大丈夫だろうか。ゴア王国みたいな国がどこまでやらかすか……。

 

「各国の世界政府への不審が広がり、急速な軍拡に走る。戦えるというのならば、それこそ海賊すら引き込む」

「海賊なんて雇ったって、政府の船が相手なら逃げ出すに決まってるじゃない!」

「ああ、雇った戦力程度なら、政府や海軍が相手ならばさすがに逃げるだろう」

 

 

「――でも、他国なら?」

 

 

「……え」

 

 

 もし、同じようなタイミングで他の天竜人もやらかしているとなれば……。

 

 

 多分……もうそろそろおっ始める頃だ……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「か、海賊だーーー!!」

「そんな、どうして!? 今までこんな所に海賊なんて……っ!!」

「早く逃げろ!!」

「逃げろってどこに!!!」

 

 東の海のとある小さな村。

 これまで一度も海賊に襲われた事のない、取るものも碌にない小さな島は、突如現れた危機にうろたえるだけだった。

 

「野郎共、分かってるな!?」

「わかってるぜ船長、何も残すなだろう!!?」

「動ける奴は男も女も奴隷に、年寄りは射撃の的なりなんなり使うだろうさ!」

「ガキは!?」

「使い道はアレコレあるんだろうさ! 一人も逃がすな!」

 

 

 

「ゴア王国の貴族が、一人当たり100万ベリーを出すってんだ! 相場の倍だぜ!?」

「スプレモ国は!? あそこも奴隷集めを始めたんだろう!?」

「あそこは70万だ、シケてやがる! しばらく待ってりゃ慌てて値上げし始めるかもな!!」

「ハハハハハ! 天竜人様様だな!!」

「おう、気に入った女がいれば持ち帰ってもいいぞ! 当分の間は飯の種に困りはしねぇんだ!!」

 

「殺すな! 生かして奪え! 奪って犯して売り飛ばせ!!」

 

 

「これからは俺達海賊の時代なんだ! 遠慮することはねぇ!! ギャハハハハハハ!!」

 

 武器を持って抵抗しようとした者は斬り殺され、逃げ惑う者は網やボーラで捕らえられ、無理やり船へと連れ込まれる。

 中にはその場で組み伏せられ、衣服を破り捨てられる乙女もいる。

 

 悲劇だ。

 この荒れることが決まってしまった時代のどこもかしこもで起こっているありふれた悲劇。

 

 今まさに、世界中の海で急激に広まりつつあるソレの、ほんの一例に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「確かに今回の件で世界政府に反感を覚えた国家は出るが、同時になお世界政府にすり寄る国家も必ず出る。世界政府という後ろ盾を利用して美味しい思いをしてきた連中は特に」

 

 ヒナは、まだ理解が及んでいないのか呆然とした顔をしている。

 

「そいつらはこう考えるハズだ。天竜人の期待に応えられずに多大な被害を被るのならば、期待に応えられるだけのモノを余所から掻き集めればいいと」

「でも! そんな事したらさすがに世界政府から除名処分を…………だから海賊を!」

 

 そうだ。あるいは山賊かもしれんが。

 

「裏で契約した海賊に略奪を行わせ、多少高額なベリーなどと引き換えに略奪品を受け取る。……天竜人への献上品として」

「海賊がその事を口にしたら……いえ、駄目。証拠にはならない」

 

 シラを切られたらそれまでだしなぁ。

 よっぽど……それこそ引き渡しや取引の現場を押さえるとかならまだしも、海軍にそこまで切り込めるだけの権限があるかどうか……。

 

 なにより、仮に海軍がそれをやれたとしても一件一件に時間がかかりすぎる。

 

 ……何度か試算してみたけど、やっぱり駄目だ。

 海軍の権限を少々強くしたとしても、抑止にすらならん。

 

「純粋に世界政府から離れようとする者、そういった国家に理由を付けて略奪しようとする者、為すすべなく襲われる非加盟国……そういった国々に振り回される海軍」

 

 カギを握るのはここらへんだな。

 有力な海賊もいるにはいるが、そういった手合いは動きが読めん。

 

「それぞれの勢力は略奪のためか、あるいはその防衛のために独自の軍を持ち、拡大させる。もはや統制は利かない。海軍も、四つの海は地方に根ざしている事が多い。独自路線を行く部隊も出るだろう」

 

『……キャプテンの言う通りだ。報告が遅れたが、先の戦闘でタキ率いる海兵二千近くがこちらに寝返った』

 

 

 

 …………………………………………。

 

 

 

 ほわっちゃっっっっっ!?!?!???!!!!!????

 

 二千!!? え、二百じゃなくて!? いや二百でも驚愕だけれども!!

 

 タキ准将……タキ殿はなんとなく予感はしていたが……っ!!

 

「……フセ三等兵の件か」

『っ、孫娘の事を知っていたのか?』

「黒猫は、ある意味で彼ら奴隷事件の犠牲者達の上に立ち上がった組織だ。……総督である俺が、忘れていい名前じゃないさ」

 

 タキ殿とは一度彼女の話をしようと思っていたのだが、向こうが触れなかったのもあってタイミングを逃し続けていたからなぁ。

 

「だが、なるほど。特に海兵奴隷事件が燃え上がった西の海だからかもしれんが……」

「クロ、じゃあもし他の海でそうなったら……」

「……西は幸い、俺達『黒猫』が受け皿になった。だが、他の海には俺達のような組織はない。叛意を持ったとすれば、独自に動くしかない」

 

 本来ならばここまで荒れなかった。

 胸糞悪いが、本来の人員がいればある程度の隠蔽も可能だったろうが……。

 

「どこかの国に付くか、独立するか、どちらにせよその果てに待つのは新しい軍事力を持った勢力――すなわち地方軍閥の台頭、乱立……」

 

 

「ここから先、それぞれの海で、群雄が割拠し始める。もう止まらんだろうさ」

 

 

 金獅子だろうが後ろにいた奴だろうが、こうも短期間で燃え広がるとは予想外だったろう。

 仮にどこかの国に根回ししていたとしても、周囲が荒れすぎてうかつに動けないハズだ。

 

 仮に俺が聖地にいて権限を持ったままなら……。

 いや、それでも天竜人に特権をある程度捨てさせなければ事態は収まらないだろうし、果たして俺にそれが出来たか……。

 

 

「……どうして」

 

 

 ? ヒナ?

 

 

「どうしてこうなっちゃうのよ!!!!」

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