とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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若い頃はアレだったらしいしベッジはこう……匙加減が難しいw


010:ギャング・カポネ=ベッジ②

「海賊」

「ああ」

「ソイツは……情か?」

 

 ぶっちゃけ言うと……まぁ、そうなんだ。

 

 ほとんどの海兵が10代とか20代で、それが男女問わずガン泣きして繋がれてる手首やら首周りから血が出るくらい暴れているの見ると心に刺さる。

 

「ないと言ったら嘘になる」

「情で渡れる世界じゃねぇぞ、こっちの世界は」

 

 知ってるよ! もう何回さっさと安易に街や村の略奪に走ろうかと葛藤したと思ってる!

 金がなけりゃ飯も食えねぇ!

 モラルとか全部投げ捨てた方が絶対楽なんだよ知ってるわ!

 

 でもそれやっちゃうと10年、20年後あたりにデッカイ揺り返しが来る可能性が跳ね上がるんだわ!

 

「抜き足。俺はお前を見た目通りのガキだとは思わねぇ。この船の連中を無力化させるだけの連中を従えている。さっきの奴も、お前という頭目に従っている。部下の立場と役割を分かってやがる。お前らは一端のアウトローだ」

 

 ベッジは見た所一人で乗り込んできているように思える。

 おそらくこの船の一員というわけではないだろう。それならとっくにペローナのゴーストかロビンの目で見つかっているハズだ。

 

(もう食べている(・・・・・)と見ていいか。念のためにダズを戻しておいて正解だった)

 

 仮に向こうが強襲されたとしても、ペローナの場合わずかなりとも時間を稼いでくれる人間がいれば一瞬で形勢を逆転できる。

 

(ロビンに攻撃方法とか教えるのもアレだしなぁ)

 

 原作でのロビンの得意技である関節技だけど、今の時点ではまだ使えないらしい。今回に限り盗聴や監視を手伝わせているけど基本は『耳』と『口』を使った通信役と、文字通りたくさんの腕を使ったお手伝いが精々だ。

 

 仮にこの男がもうあの実を食べて『勢力』になっているんなら、外にも戦力がいるかもしれん以上、対抗できるダズを護衛にしておけばいい。

 

(……もう一人戦力が欲しいな)

 

「ベッジ」

「ああ?」

「自分が海賊になった理由がまさに天竜人だ」

 

 ベッジの顔がわずかに驚きで歪む。

 そうか、やっぱここら辺の話は広まっていないか。

 

 ……考えてみれば、世界貴族のせいで海賊一人増えたなんて話を海軍が自主的に話すわけないか。

 

「奴らに奴隷にすると言われて、その場で断ったために追われる身となった」

 

 ベッジが小さく、「奴ら、節操ってもんを知らねぇのか」と呟く。

 赤べこのごとく頷きたいが我慢だ我慢。

 

「金が大事なのは分かる。こっちの世界じゃ金がなければ立ち回れない」

「オメェは……苦労している方か」

「こんなナリと身体だ。仕方ないだろう?」

「違いねぇ」

「だが、そのためになんでもする――というわけにはいかない。せめて納得したい」

 

 決裂表明してからの会話だというのに、ベッジは怒りもしなければ不機嫌になった様子もない。

 ギャングではある。表社会でのなぁなぁは通じないし、地雷がどこにあるか分からないところはある。

 ある、が――筋を通せば分からない男ではないんだろう。

 

「これから先海を越えて行く度に笑いもするし、苦しみもするんだろうが……その根っこの所に、『俺が裏に行かざるを得なかった事を誰かにした』という事実があれば、どこかで俺は腐る。必ずだ」

 

 元が一般人メンタルだし、ジャンゴやミス・ゴールデンウィークみたいなプラス方向のメンタル操作できる人員を仲間にして信頼を得るまでは、俺の人生に折り目を付けるような汚点は一つたりとも残すべきじゃない。

 

「しかも、見捨てた相手が海兵なら猶更だ」

「そこがわからねぇな。敵じゃねぇか」

「敵だからだ。加えて、動機はどうあれ海に出た人間」

 

 この海賊の世界で散々山賊連中蹴散らしてる俺が言うのもあれだけど、海はホントに怖い。

 

 最低限の航海術を習得しているからなんとかなっているけど、進路があっているのかどうかはコンパスだより地図だより、食料や水が不安な時は星を頼りに暗い夜でも船を進めなきゃならん。

 

「敵であり、命の奪い合いをするだろう相手でも……海の怖さを知っている人間を粗末に扱うことは、俺の矜持が許さん」

 

 ダズ同様、攻撃が通用しない可能性がある相手だけど仕方ない。

 念のためにダズには伏兵の可能性を伝えていつでも船を出せるようにしておいた。

 

「言い分は分からんでもねぇ。だが、それじゃあ成り上がれねぇぞ海賊」

「それでいい。金を集め、物を集め、人を集めて成り上がるのはあくまでギャングの本懐だろう?」

 

 お互い距離を取り始める。

 もう交戦は避けられない。

 

「なら、海賊は?」

「進みたい所へ、進みたいように進む」

「なるほど……確かに海賊だ。だがなぁ!!」

 

 ベッジの体の一部がパカパカ開き始める。

 

 …………。

 

 いやちょっと待て!

 おっま! そっから砲撃したら後ろの海兵が!!

 

 というか! 船の中で砲弾撃つんじゃない!!

 ここは底に近いんだぞ!!?

 

 

 

「ご立派なお気持ちだけで勝てるか!? 信念だけで勝てるか!?」

 

 

 

「残念だったな海賊! 兵力が違う!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 誰もが絶望していた。

 突然現れた多数の砲弾。それに相対するのは海賊と言えど子供一人。

 しかも銃はおろか刃物一本持っていない。

 

 距離を取りつつあったとはいえ屋内ではそう離れられない。

 事実、次の瞬間には轟音と閃光が走った。

 

 誰もが嗚咽を漏らし、涙を零している。

 自分達はやはり売られていくのだと。

 

 海兵に夢を見ていた者も、安定を求めて入った者も、皆これから骨の髄までしゃぶられる。

 

 

 

――海兵諸君、背筋を正せ。

 

 

 

 だからその声が響いた時、誰もが目を剥いた。

 ギャングもまた、目を見開いていた。

 

「入った目的は多々あれど、海の上で命を懸けると誓ったんだろう。その背に正義の二文字を背負って」

 

 充満した煙が晴れていくと、傷どころか焦げた様子もない子供が、そこに立っていた。

 

「ならばどれだけの窮地だろうと、背筋を正して胸を張るべきだ。貴官らは――海兵なのだから」

 

「海賊てめぇ――あれだけの砲弾を全て蹴り上げたってのか!!」

 

 崩れた天井を見上げて驚愕交じりに叫ぶギャングは、不敵な笑みを浮かべていた。

 まるでお宝を目の前にした海賊のように、目を輝かせていた。

 

 同時に、ギャングの身体のアチコチの小さいドアが開いて、銃火器で武装したギャングたちが飛び出し、子供を――海賊(・・)を囲む。

 

 

 

「兵力を並べただけで勝てるのか?」

 

 

 多数のギャングに囲まれて、

 

 

「砲弾を集めただけで勝てるのか?」

 

 

 多数の銃口に囲まれて、

 

 

「残念だったなギャング」

 

 

 その小さい背中は吊り上げられた海兵達の前で、縮こまる事無く、

 

 

「――覚悟が違う」

 

 

 まっすぐ立っていた。

 

 

「いい……。やっぱりお前はいいぜ、『抜き足』のクロ」

 

 

 

 

「俺の家族(ファミリー)に入れ、クロ! お前は最高だ!」

「その評価は嬉しいが、断る」

「だったら無理やりにでも連れて行くぜ!」

「やってみろ、ギャング・ベッジ」

 

 

 

 

「――海賊の矜持を以って押し通る!!」

 


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