とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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詰め込み過ぎた繋ぎ回……
後から量が多いと気が付いたんです。申し訳ねぇ


112:予期せぬ来客

「ドフラミンゴ、さっそくだが北の海でも動きがあったぜ。各国が先を争うように海賊に声をかけ始めた。それに――」

「ジェルマも、だろう? フェスタ」

「ああ。依頼がひっきりなしに来ているようだ」

「直に戦争が始まるな」

「ああ。北の海が二つに……いや、違うな。散り散りに、バラバラになっちまうほどの大戦争だ」

 

 

―― 北の海(ノースブルー)の世界政府加盟国カーナ。天竜人により食料を徴収され、多数の民間人が殺傷される。

 

 突然のその凶報に続き、他にも天竜人の被害が各国で続出していることは、瞬く間にニュースとなって各地に――いや、世界中に広まった。

 

「この近海の国も、それぞれが裏で密かに賞金稼ぎや海賊を集め出している」

「世界政府に対抗するためか、あるいは貢物を揃えるための略奪役か」

「それ自体はいい。問題は早さだ。ここまで燃え広がれば、当初の計画通りにはいかねぇ」

 

 これが加盟国群と非加盟国群の戦いならば、ある意味で状況は拮抗しただろう。

 

 だがその実態は加盟国同士の足の引っ張り合いでしかない裏工作を用いた政治的攻撃。

 

 この混乱を利用して非加盟国を上手く抱き込み根城となる土地を確保し、一勢力として立ち上がらんとする海軍――元海軍や海賊達。

 

 そして民を犠牲にして生き残ろうとする王に怒りを覚え、立ち上がった各地の革命勢力。

 

 もはや祭り屋と呼ばれたブエナフェスタの手腕を以てしても、正しく状況を把握することすら困難な程にアチコチで戦火の火ぶたが切られようとしている。

 

 一部では、すでに。

 

「構わない。これで政府はますます武力を欲する様になった。邪魔者を黙らせるだけの力を」

 

 いつものボロボロの酒場のいつものソファーの上で、サングラスをかけた海賊はフッフッフッと笑う。

 

「だがミスター、問題もあるぜ。おそらく七武海制度は形を変える。大幅な修正が必要になるぜ」

「だろうな。だからこそ、有力な海賊は連中からすれば喉から手が出るほど欲しい存在になった」

「……正義で動く海兵よりも、払うもん払えば言われた通りに動く海賊の方が、政府の連中にとっちゃあ都合がいい」

「そういうことだ。フッフッフ……っ!」

 

 今現在幹部はいない。

 近隣の、反乱を起こされ混乱している加盟国へと向かっているのだ。

 

 反乱の兵士に成りすまして、奴隷として高値が付く王族や兵士達を堂々と、密かに攫うために。

 

「まずは金を集める。世界政府はこの流れを止める事は出来ねぇ。ならば、せめて取引や略奪は可能な限り裏で済ませてぇハズだ」

「この状況で、事態を収める事より自分達の所有欲を優先させるってか?」

「だから天竜人なんだよ。フ……フフ……ッ」

 

 海賊が。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴが大きな声を上げて笑い出す。

 

「だからこそ! だからこそ! コイツが世に出たんだ!」

 

 古参の幹部ですら聞いたことがない大笑いを、ブエナフェスタは静かに見ている。

 

「世界は聞いたぞ! 奴の声を!」

 

 ナイフを振り上げる。

 何という事はない、安いテーブルナイフを。

 

 先ほどまで食事に使っていたために肉の油とソースにまみれた刃を、身に付けていたボロボロのジャケットで拭い、その手配書をテーブルへと縫い付ける。

 

「世界が知ったぞ! この男を!」

 

 縫い付けられた男はドンキホーテ海賊団の誰もが知る海賊。

 

 一部は侮っている。善人気取りの愚者だと。

 

 一部は警戒している。あの金獅子が目を付けた海賊だと。

 

 一部は敬意を示している。世界で有数の大海賊となった傑物と。

 

「これから先、世界はコイツを中心に動く! コイツの動きがそのまま世界を動かす!!」

 

 なによりも、この海賊団の長である男がもっとも、この男を認めていた。

 自らの手で殺してやりたいほどに。

 

「だからこそ! もう遠慮はいらねぇ!!」

 

 テーブルの前には電伝虫がいる。

 すでにどこかへと繋がれているその電伝虫から、声が漏れる。

 

『祭り屋から声が掛けられた時はどうした物かと思ったが……』

 

 幹部ですら誰も――ドフラミンゴとフェスタ以外の誰も知らない声が。

 

『面白れぇ! 確かにコイツは面白れぇ!』

 

 

 

 

『――いいんだな!? ジョーカー!』

「ああ」

 

『この男の事を全部調べ上げていいんだな?!』

「思うように」

 

『好きなようにイジって、バラ撒いてもいいんだな!!?』

「思うままに……っ」

 

 

「ここから先、この世界は、そう――」

 

 

 

「お前のライブステージだ……っ!!」

 

 

 

 ドフラミンゴ――ジョーカーと名乗り本名を隠した海賊の宣言に、電伝虫の向こう側にいる男は笑い出す。

 

 

 

『クワッハハハハハハハハハハハ!!!!』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 南の海、ソルベ王国。

 世界政府加盟国にして『天竜人の狗』と名高い王が治めていた国は、ある勢力によって現在攻撃を受けていた。

 

 天竜人への供え物を差し出す事に加え、従来の天上金を少なくするための政策――これまでの国土の南半分を国土外とするという愚策を立ち上げた王に反発する者達を後押しする強力な一団が今、多くの反逆者を捕らえた牢を制圧し、解放していた。

 

「ヒーハー! 無事だったッチャブルねい! くま! ジニー!」

「アニキっ! ありがとう、助かったよ!」

「イワちゃん!? 久しぶりだが……なぜここに」

 

 オハラへのバスターコールとほぼ日を同じくして話題に上り始めた武装勢力。

 自勇軍を自称していた集団を土台に軍事組織として立ち上がった組織は、『革命軍』と呼ばれている。

 

「ヴァナータたちが捕らえられている間に、世界は大きく変わったッチャブル!」

「とある海賊によって聖地が襲撃され甚大な被害が。その影響で多くの天竜人が海に降り立ち、各地で非道の限りを尽くしたのだ」

 

 捕えられていた愚王ベコリへの反逆者の中でひときわ目立つ、6メートルを超える大柄なくまと呼ばれる優しそうな男の前に、それには及ばないもののやはり大柄な、顔に入れ墨を入れた男が現れ手を差し出す。

 

「あなたは……新聞で見たことある。確か、自勇軍の……」

「そうだ。今では名を変え、革命軍を名乗っている」

 

 アニキ、あるいはイワちゃんと呼ばれた男……女……人間によって枷を外されたくまは片膝をついたまま顔にタトゥーを入れた男――ドラゴンという男の手を取る。

 

「この世界への反逆を決意し、軍を率いる者の一人というわけだ」

「……その言い方だと、他にもいるようだけど……」

「ああ、いる」

 

 くまという男がドラゴンの言葉尻を捉え尋ねると、彼は即答した。

 

「あるいは、彼は大きな変革を望んでいなかったのかもしれんが……」

 

 自然とドラゴンがどこか遠くの方へと目線を向ける。

 遠くにうっすら見える海の、そのさらに向こうへ。

 

 遠く遠く、凪の帯(カームベルト)を越えた偉大なる航路(グランドライン)の、更にもう一つ帯を越えた海へと。

 

 西の海(ウエストブルー)

 平和の象徴とされた東の海(イーストブルー)に並ぶ平穏を手に入れつつあった、海賊の海(・・・・)を。

 

「ドラゴンさん、大変だ!」

 

 イワちゃんと呼ばれた顔の大きな男……女……人間が口を開こうとした瞬間、外から駆け込んできた兵士の叫びがそれを遮る。

 

「どうした? ベコリ王は城に立て籠もったと報告があったが」

 

 ある意味でこの事態を引き起こした悪政の根源。

 天竜人の傀儡であるベコリ王は兵士を引き連れ籠城策に入った。

 

 制圧するには戦力はともかく、兵力がまだ足りないと見て革命軍は国の分断政策を取り消させる事を戦術的な目標としていた。

 

 そのために革命軍の兵力は全て、王城の包囲に動かしていた。

 

「ああ! 相変わらず立て籠もったままだが、今度は海の方から船が来た! 数は少なくとも二十隻以上!」

「海軍の軍艦か?」

「いいや、違う!」

 

 

 

「海賊だ! 多分近くの国を襲っていた連中が、一仕事終えて今度はここから根こそぎ奪うつもりだ!!」

 

 

 

 

「あとからもドンドン集まって来てるらしい! どうする!?」

 

 

 世界政府の――ひいては天竜人の横暴に対抗し、彼らを引きずり落とすために戦う事を決めた革命軍だが、立ち上がったばかりの彼らには兵力も、それを支える資金もまだない。

 

 時代を変えんとする彼らもまた、急激な時代の流れに翻弄されていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ミホークは我々本隊と共にスーペリアに向かった先遣隊と合流し、地域の制圧を頼む」

「承知した」

「ハンコックは第一艦隊を率いて第46番基地の制圧を。全てを押さえたら報告をくれ。状況に拠ってはそのままスーペリアの制圧を手伝ってもらう事になる」

「うむ、異存はない。他になにかあるか? ……ないのであれば、今ソニア達に出航準備を進めさせているので確認に向かわせてもらうぞ」

 

 一応落ち着いたとはいえ、クロの事で少々気が逸っているのだろう。 

 滅多に見せない小走りで港へ急ごうとするハンコックに、ダズがやや慌てて、

 

「待てハンコック」

「む?」

「いや。出航までの間に、ギャルディーノを少し借りたい」

 

 と声を掛ける。

 ハンコックは一瞬虚を突かれた顔をするが、すぐさま自分の後ろについていた『3』の髪形をした眼鏡の男へ目線をやる。

 

 第一艦隊のみならず他の団員や町の人間からも平時では「3の人」や「3兄さん」と呼ばれるようになった男は、無駄に眼鏡を光らせて肯定の頷きを返す。

 

 ミホークは自分が関わるような話ではないと判断し、ハンコックやクリスと共に部屋を出て港へと向かう。

 

 ベッジはすでに出航した頃だろう。

 今回の戦争で手に入った物資の中から決められた取り分を受け取ったベッジ・ファミリーは、共同開発している隠し港へと向かい物資の整理と保管、下手なはぐれ海賊に占拠されないようにその防衛に回っている。

 

 なにせあの島には、戦い慣れした精鋭とはいえ高値で売れる魚人が多くいるのだ。

 防衛は当然、マフィアであるベッジにとっては身内の統制も大事だと、おおよその方針が決まったら即座にアチコチに顔を出していた。

 

 残っているのは内務に関しての資料を待っていたテゾーロと、それを手伝っているテゾーロが自身で見出だした政務官のみだ。

 

「――ふむ。それで、副総督殿。私を残したという事はなにか相談事だと思うのダガ、一体どうしたのカネ?」

「……他の幹部の耳に入ると、どう受け取られるか分からなかったのでな。まずはお前達の意見を聞いておきたかった」

「現状で気になる事となると組織の運営か、あるいはその維持でしょうか」

 

 金の髪の小さな少女――ギャルディーノがかつて海軍への政治的な攻撃として売り飛ばそうとしていた少女が、テゾーロ達三人にお茶を持ってくる。

 元々生まれの村が望んで自分を売りに出した事は理解しているため、この黒猫――というよりはモプチに馴染もうとしている一人だ。

 

 

「ああ。スーペリアを陥として以降の話になるだろうが……」

 

 

 

「――あくまで間接的に、組織だった動きを見せる革命勢力を支援出来ないだろうか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(まさか楽園を経験せずに新世界の海を航行することになるとは……)

 

 海軍、あるいは世界政府の人間が派遣される可能性が高いあの島にいつまでもいる事は出来なかった。

 ヒナ達が発見したコーティング処理がされた海賊船を確保し、食料を始めとする必要物資を積み込んでさっそく出航。

 

 

―― とにかく急いでここを出た方がいいわ。あんまり長居してると、この船の海賊が取り戻しに来るだろうし。

 

 

 というヒナの助言に従い少々慌ただしい船出となったのだが、出航しておよそ三十分程経って航行に慣れてから、その理由をようやく知る事になった。

 

「なるほど……なぁ……。つまりこの船の持ち主だった海賊っていうのは」

「ええ。人攫い。というよりは、人魚(・・)攫いだったようね」

 

 船の奥底にはやたら頑丈なデカい檻が設置されており、ヒナ達がこの船の制圧に動いた時にはその中に十数名の人魚が捕まっていたということだ。

 

 そのほとんどは、ある程度島から離れて安全になった時点で逃がした。

 ヒナ曰く、皆人間を恐れていたという事だ。

 下手に引き留めても碌な事にはならないと判断したと言っていたし、俺としてもそれでいいと思う。

 

 なにより――

 

「リーリン、と言ったね。道案内をしてくれるらしいが……」

「うん。……アナタ、怒鳴ったり嫌な感じがしない……」

 

 たった一人だけ、魚人島に行きたい旨を告げると道案内を買って出てくれた人がいた。

 輝かんばかりの金の髪の中にやや青みがかった髪がメッシュのように所々覗いている。

 

 海賊連中からすれば、おそらく目玉商品だったのだろう。

 

「それに、ヒナが言ってた。私を捕まえた悪い奴、あなたがやっつけたって」

 

「……俺が?」

「思いっきりぶっ飛ばしてたわよ。貴方が蹴り倒してた中にいた5500万の賞金首。アレ、人身売買の専門家よ。もう張り替えたけど船の帆にアイツのマークあったし」

「……あの程度の腕でよく人魚を捕まえられたな」

「ああいう連中はネチネチしててしつこいのよ。大方目を付けた時からコソコソ動向のクセを調べて、罠を張るなりなんなりしたんでしょ」

「なるほど」

 

 自分達も人買い連中は散々ぶっ飛ばしてきたが、『黒猫』の場合攫われてしまってから売るために集められた所を強襲するパターンがほとんどだったために、手口に関してはある程度しか把握していない。

 

(そういう方面の手口に関しては、やっぱりヒナの方が知識あるな)

 

「だから尚更、このコーティング船は一番信頼出来るわ。新世界(こっち)側にあるって事は当然魚人島を通ってきた物だし、その中でもかなり使い込まれているし」

 

 それはつまり何度も魚人島に行った事があって、なおかつ犠牲者がかなりいるという事を示すんだが……

 

 まぁ、今考えても仕方のないことか。

 

(そういや、聖地で助けた魚人さんは無事に逃げられたかね……)

 

 原作でフィッシャータイガーが飛び降りて逃げてた……ような……描写があった……っけ?

 イカン、さすがにもう色々とあやふやだな。

 

 無事なら魚人島に逃げられたかもしれんし、向こうが俺の事を覚えていてくれれば、状況次第では味方になってくれるかもしれん。

 

(後々の事を考えると、黒猫と友好関係にある魚人は多いに越したことはない)

 

 本当に、せめてここにハックか……せめて開拓団の誰かがいてくれればと思わずにはいられない。

 一応魚人島はすでに白ひげの縄張りになっているのだ。混乱の影響を全く受けていない可能性だってある。

 

 その場合は魚人社会の有力者に顔合わせをして、いずれキチンと偉大なる航路(グランドライン)入りした後の航路を繋ぐ際の布石を敷いておきたい。

 

 ……おきたい……んだが……。

 

「嫌な事を思い出させるようで申し訳ないんだが、アナタはいつ捕まったんでしょうか?」

「……ちょっと前」

「お、おう。出来れば日数で言ってもらいたいんだが」

 

 あんまり感情を出さない喋り方をするので酷い扱いを受けていたのかと思ったが、どうもそういう感じではない。

 このリーリンという人魚はそういう喋り方というか、気質なのだろう。

 

 ぼんやりと首を傾げて、たっぷり三秒ほど、思い出しながら指折り数えている。

 

「十日以上……多分」

「多分か」

「眠った回数とご飯の数だと……うん」

 

 ああ、そうか。

 人目に付けられるわけないし、日光が差さない牢屋の中だと一日の感覚なんて速攻で狂うか。

 

 しかし……十日以上……。

 俺や黒猫の皆が戦った時よりさらに前か。

 

(仮に魚人島で何かが起こっていても、その状況の把握は出来ていないと見ていいか)

 

「ヒナ、見張りは今の所何も発見せずか?」

「でしょうね。仮に島なり船なり発見したら報告するように、ワイアード大佐が指示を出しているわ」

「だよなぁ……」

 

 随分と静かだ。

 正直、出航してすぐに海賊船なり海軍艦なりと遭遇するかもしれないと思っていたんだが。

 

(道中で傍受できる通信は片っ端から耳にして情報を集めているんだが、各地で混乱が起こっているのは間違いない)

 

 船出して一時間も経たないうちに海軍への救難要請を三件も傍受した。

 どこもかしこも、この数日の間にすごい勢いで海賊が激増している。

 本当の(・・・)海賊かどうかはともかく、略奪者が増えたのは間違いない。

 

 であれば海軍も船を出すだろうし、面子が命の海賊団なら必ず縄張りの様子を確認させるハズ。

 

(だから、ここらで白ひげの船と出会えれば一安心だったんだが)

 

 一度海に潜ったリーリン曰く、あと三日ほどで新世界側から潜航するのにちょうどいいポイントに着くという事だ。

 

 つまり、もうかなり魚人島に近い。

 

 白ひげはとっくに戦力を送っている?

 あるいは、常駐させている戦力がすでにある?

 

 ……どっちもありうるな。

 

 自分が知ってる魚人島の様子は白ひげが死んだ後、それも二年後の様子でしかない。

 

(リーリンがこのまま協力してくれるなら、そこまで悪印象を与えず接触できるだろうが……)

 

 はてさて、魚人島はどうなっていることやら。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 モプチ王国に急造で作られ、今も拡大し続けている海賊達の港町、シャムロック。

 

 少し前までは港と倉庫以外にはちょっとした酒場と商店、防衛用の見張り台以外は海賊やギャングのための溜まり場(サロン)や民家程度しかなかった町。

 

 それが今では『蒼い街』と呼ばれるほどに美しい街へと変わりつつある。

 

 この町に住んだり、あるいは時折荷駄役や屋台などで働く魚人たちの通り道も兼ねた大きな水路が張り巡らされている。

 

 当初はただ掘っただけの水路が、今では道も含めて全て美しい白い石畳へと変わっている。

 

 少々物々しさを感じるが、港の灯台も兼ねた見張り台やその周囲には大砲が並べられ、海からの略奪者に対して万全の備えを敷いている。

 

 かつて金獅子と呼ばれる海賊がこの西の海に運んできた島で働かされていた者達のほとんどはこの町に住み着き、その生活のために家を建て、商店や工場(こうば)を建てて街を拡大していっている。

 

「にゅ~~。魚人の街を作るのか?」

「おう。このままじゃ不味いだろうってファーザーとテゾーロさんが話してな」

 

 そのシャムロックの小さな名物となっている、港前のたこ焼き屋台の店主であるタコの魚人のハチことはっちゃんと、その店の常連であるベッジ・ファミリーの構成員が、共に商品のタコ焼きを突きながら話し合っている。

 

「確かに、少しずつここに住む魚人の数が増えていたけど……」

「魚人と人間の共存ってのは耳当たりはいいけど……なぁ?」

「にゅ~~。やっぱり難しいだろうなぁ」

 

 魚人とはいえタコがタコを食べていいのかと内心マフィアの男は疑問に思っているのだが、それを気にせずハチは自分で焼いたタコ焼きを口にして、多数ある他の手を使ってメモ帳になにやら書き込んでいる。

 

「俺もここに来てからよく分かったけど、人間はどうしても外見を気にする。それに……ここの人間が直接俺達に何かやったワケじゃないけど……」

「魚人の歴史は、人間からの迫害の歴史だからなぁ」

「にゅ。だからこそ、人間というだけで冷静でいられないのも確かにいる。……隠れ島にいるのも、そういうのが多いからなぁ」

 

 ハチは先日――黒猫海賊団と海軍の戦争の直後に、幼馴染のイカの魚人と共に隠れ島を訪ねていた。 

 

「この間様子を見に行ったら皆一生懸命働いて、畑やら果樹園が広がっててさ」

「いいことじゃねぇか。マフィアのチンピラが言うのもなんだが、人間真っ当に働くのが一番だぜ」

「まぁ、そうなんだけどさぁ……。なんで一生懸命働いてるのかもチラッと耳にしちまって……」

 

 ハチはもはやシャムロックの住人となっている。

 時折親衛隊候補として訓練を受けている幼馴染を始め、魚人の友人はそこそこいるし、今話している男のように人間の友人も出来た。

 

「アイツら、総督からあの島をもらえないかって考えてるみたいなんだ」

「…………あー……黒猫の島を借りるって形じゃなくて、あくまで自分達の島にして欲しいと?」

「……にゅぅ。さすがに口にはしなかったけど、うん」

「島の開発頑張ってるのは完全に自活して、あの島守ってるっていう黒猫の人間も必要ないくらいにしたいってことか?」

「……多分」

「無理だろ」

 

 自信なさげなハチの口調に、黒スーツにサングラスのザ・マフィアといった感じの男は断言する。

 

「正直に言うが、黒猫との関係がなかったらウチらも狙ってただろうってくらい魚人ってのは金になる」

 

 実際、最近は黒猫関連の取引でそこそこ安定した稼ぎが確保できているから大人しいが、少し前のファミリーなら間違いなく狙っただろうと、構成員の男は確信している。

 

 一応、あの海兵奴隷を扱っていた偽装密輸船の襲撃にも噛んでいた男なのだ。

 

「狙われるよなぁ」

「おう。居場所が知られてないってだけでここらに魚人が大勢いる事はもう知られているし……魚人だけで島に住もうってなったら……」

「結局追いかけ回されて、島を捨てざるを得なくなる」

「と思うぜ。そもそも、魚人を探してるっぽい怪しい船を片っ端から黒猫やウチのファーザーが沈めているからここらは安全なんだし」

 

 ベッジ・ファミリーの主な仕事は貿易と防衛だ。

 特に豊かになる気配を見せつつあったモプチやその周りの島に、なんとかしてシノギの橋頭堡を築こうとするマフィアは多く、その妨害に専念しているのがカポネ・ベッジだ。

 

 現在の黒猫領で、十分稼げる商売を確保しながら。

 

「まぁ、話は分かった。魚人の住む場所がもっと必要だけど、人間と混ぜて住ませたらトラブルが起こるだろうって事だろう?」

「おう。それで一応魚人向けに区画を用意しようって話なんだが、実際に住む魚人側からも話を聞いておけって上がな」

「にゅ~~~。それなら港周りに住んでる魚人をかき集めておくよ。一人一人話を聞いて回るより、ある程度意見を纏めておいた方が楽だろう?」

「おう、悪いなハチ。そうしてくれると助かるぜ」

「いいってことよ。キチンとした書類にするなら、念のために時間が欲しいんだけど……」

「いや、手書きの署名があるなら走り書きで十分だ。なんなら今からでも、荷下ろしやってる奴らを集めて――」

 

 なんとなしに、二人は海の方を眺めた。

 

 本当になんとなく、ただ単に港に付けられている船や、倉庫へと続く搬入路などに魚人の知り合いがいないか確認しただけだった。

 

 二人同時に目線を海に向けて、二人同時に海面から浮かんでいる()と目が合った。

 

「にゅ!?」

「? 魚人? 隠れ島にいる奴かな……」

 

 人間ではまずない赤ら顔。

 鼻から下が隠れていたためにマフィアの男は一瞬判別できなかったが、それでもその色から魚人だと当たりを付けた。

 

「おい、どうした。そこは港区域だから魚人でも危ねぇぞ? ほら、こっちに非常用のスロープがあるから昇って来いよ」

 

 男はこの町を知らない魚人だろうと判断し、案内しようとたこ焼きの入っていた器を屋台のゴミ箱に入れて立ち上がる。

 

「違う、島にいる人じゃねぇ!」

 

 対してハチは呆然と、目をまん丸くしてその魚人を見て、

 

「タイの御頭……タイガー(・・・・)さんじゃねぇか!? どうしてここに!!?」

 

 冒険家として名をはせた魚人。

 魚人開拓団のある意味で先駆けと言える男が、そこにいた。

 

 その男――フィッシャー・タイガーは顔を半分だけ海面から出したままキョロキョロと周囲を見回す。

 

 人間達が生活する港町の中に、チラホラと魚人や人魚を――枷も何もつけられていないその姿を確認して。ようやくマフィアの男が示したスロープへと泳いでいき、姿を見せる。

 

「お前は……確か、ハチだな……ここに住んでいるのか」

「お、おう。黒猫って海賊の世話になってるって……そのジャケット、総督さんの――!!?」

 

 フィッシャー・タイガーが手にしているのは、海水を吸い込みややボロボロになっているが、それでもこの街にいる者ならば必ず毎日目にする物が刺繍されていた。

 

 この街を作り、守る一味の象徴。

 三本爪の黒猫が。

 

 

「スマン! 突然の事で困惑すると思うが、ここが我らと共存できる街だというのならば頼みがある!!」

 

 

「お願いだ! 連れて来た全員(・・)を匿ってもらえないか!!?」

 

 

 マフィアの男は突然の事に目を白黒させながら「全員?」と呟いた。

 ちょうどその声を聞いたかのように。

 

 

 タイガーがさきほどいた辺りから、何人もの女子供(・・・)の魚人や人魚が海面から顔を出し、不安そうにあたりの様子を窺い始めたのだ。

 

 

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