とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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113:『難民』

(……先日の戦争を越えられてから、副総督も変わられた……)

 

 序列――というよりは強さ、武力という物に拘る所があったダズ・ボーネスという一味の副総督の評価を内心で直しながら、テゾーロは小さく同僚のギャルディーノの方へ目線を向ける。

 

「なるほど……」

 

 自分のような内務官としても動けるが、同時に艦隊参謀として軍事面での経験を積みつつある同僚は、こういう時に違う視点を持っているのが頼もしい。

 

「政府が損得の勘定を無視してまたもや『黒猫』に戦力を向けてくる可能性をわずかでも減らしたい。……と、いうことカネ?」

「ああ、その通りだ」

 

 黒猫を現在取り仕切っている少年海賊の憂いは、内務を司る者達の憂いそのものだった。

 

「スーペリア。最終的には陸続きの隣国リガロの制圧は必ず達成せねばならない。だがそうなると……どうしても常駐させる兵士でギリギリになってしまうだろうとは思っていた」

「私も同意見だガネ。クロコダイル氏という強力な戦力が一時的に加入してくれたとはいえ、入った理由が理由だから信頼しきる訳にもいかない上に、どうあっても彼は一人」

「……そうですね。海兵達が加入したとはいえ、将はともかく兵が足りません」

 

 卓上に地図が広げられる。

 ただの地図ではない。

 黒猫の勢力下にある島や土地の前年の収穫量、人口とその内訳――男女比や労働可能な人間の数、万が一蜂起したり海賊や海軍に占領された場合の奪還作戦の橋頭堡候補等、極めて重要な機密情報が書きこまれている地図である。

 

「ついでにいえば民も足りん。兵士の何割かは屯田に回して食料生産に割く予定だが、それでも急成長させるには足りん」

 

「食料に関しては、先日の基地襲撃でかなりの量を持って帰れた。ジェルマの保存技術もあるからかなり余裕があるのダガ……来年以降の事を考えると、ネ」

「スーペリア……も国民が持っていかれたのであれば、やはり労働力は不足しているでしょう」

 

「どうにか年を越せるだけの下地は出来たが、安定というにはまだ足りん。……兵になりたがるものがいても、結局は何かしらの生産作業に従事してもらうほかない」

 

 つまり、仮に兵士を増やしたとしても現状では最低限使い物になるまでにかなりの時間がかかってしまう。

 元より兵士の教育と訓練という物は時間がかかる物だが、それ以上に。

 

 防衛範囲が広がった今、敵が少数精鋭ならばまだしも物量で来られると、生産地である本土に被害が出る事は避けられないだろう。

 

 というのが、ここにいる三人の共通認識である。

 

「もう少し兵数に余裕があれば、こちらから海軍の補給要地に小競り合いを仕掛けて負荷を掛けるという手もあったのだが……」

「海賊という不確定戦力が激増していて、綱渡りに近い今の状況ではリスキーすぎる。だから各地の革命勢力――すなわち反世界政府戦力を焚き付けることで政府の目をバラけさせて時間を稼ぎたい。……案そのものは間違っていない。正しいと思うガネ」

「問題はその手法ですね。深く革命勢力と我らが関わっていると判断されれば、向こうの大規模出兵を招きやすくなる」

 

 そう。彼らがただの暴力集団ならばなんという事のない話である。

 ある所から奪えばいい。邪魔する敵は蹴散らせばいい。足を引っ張る人間は切り捨てればいい。

 

 だが、ここにいるのは『黒猫』である。

 問題を暴力で棚上げするのではなく、正しく解決するために知と武を振るう者達である。

 

「……少しいいカネ? あくまで、私自身の感じた事なのダガ……」

 

 新入りに近い立場であり、しかも謀略を働いた降将であるにも関わらず第一艦隊の参謀として働き、先日の戦闘では別働部隊の指揮で功を認められた男が発言する。

 

「革命勢力――の中で特に組織だった動きを見せるとなると、『革命軍』という新興勢力が支援するには妥当だろう。そして彼らの指揮者であるドラゴンという男だが――恐らく、軍人であったと推測するガネ」

 

「……軍?」

「なぜそう感じたのですか?」

 

 ギャルディーノは元々海賊連合――正確にはシキの手下に集められた人間の一人だった。

 生まれ育った南の海でアレコレやった結果マフィアに睨まれそうになっていた所を、『西の海まで飛ばしてやる』という誘いと悪くない前払いの報酬に乗ったために、こうして紆余曲折を経て『黒猫』の傘下に入っている。

 

「知っての通り、私はついこの前まで各地を飛び回り民衆を扇動していたのだが……その時に革命軍の影響を受けた国を訪れていてね。多少とはいえ、彼らのやり方を見ている」

 

 金髪の少女――正しくギャルディーノが売り飛ばそうとしていた少女から淹れたての紅茶のカップを受け取り、小さく啜る。

 

「で、黒猫に入ってから特に強く感じたのダガ……彼ら革命軍はダネ」

 

 

「――金儲け(・・・)が下手なのダヨ」

 

 

 金儲け、という言葉にテゾーロが少し反応する。

 ある意味で彼の仕事そのものを指す単語だからだ。

 

「黒猫は組織としての運用に、最初から生産力という物を計算に組み込んでいる。親衛隊の子達が色々教えてくれたが、黒猫旗揚げ前から副総督殿やロビン嬢達と共にアレコレやっていたのは、後々生産とその成果物を用いた経済取引を強く意識していたからではないカネ?」

「ああ……そういえば色々やっていたな」

 

 無人島での生活を思い出す。

 まだ新兵同然だったアミス達の訓練に付き合いながら、獲った獣の皮をなめしたり、肉や魚を少しでも日持ちする様に干したりしていた。

 

「対して革命軍は、その軍事的な才覚は確かに素晴らしい。前身となる『自勇軍』の頃から、数で劣る中であちこちの悪政蔓延(はびこ)る国を陥としている。そのフットワークの軽さのタネが少々気にかかるガネ……まぁ、ともかく」

 

 中身が三分の一程減ったカップをテーブルの上――決して地図を汚さないように離れた所に置いて、第一艦隊の参謀長は言葉を続ける。

 

「にもかかわらず、彼らは陥とした国同士の繋がりを強化したり、その間に交易路を結ぶ事がほとんどない。過不足している物資があればやり取りをするが、基本的に経済的な繋がりはほぼ手つかずだ。広がり方の速度と傾向を見るに、主力となる者達が各地を転戦しながら、傭兵のように資金を稼いでいるのだろう」

「……経済という概念に疎い?」

「そこまでは言わないが……恐らく、ノウハウの蓄積がほとんどない。これが『黒猫』との大きな違いだガネ」

 

 恐らく、黒猫という組織だからこそ味わえるのだろう少々粗野な味わいの紅茶――『死の教師』のミホークが近くの島で試しに育ててみたという茶葉から出来たソレの味は、中々に悪くない。

 

 栽培やその加工に経験と改良が付加されれば、コレも立派な商品となって組織の懐を潤す一助になるだろう。

 

「戦力といいその戦果と言い、手元にあるリソースを活かす事には長けている。が、陥とす国もバラバラな所を見ると……だガネ」

「軍事的な能力が高く、限られた物資で最高の戦果を出せるが、そのリソースの運用については成長中。……なるほど、軍人。元軍人」

 

 テゾーロの言葉にギャルディーノは頷いて肯定する。

 

「まぁ、資金なり糧食なりを直接渡せばキチンと活用して勢力を拡大してみせるだろう。……そうなると、それらをどうやって渡すかという問題になるカ。……すまない、したり顔で分析してみたが、問題が振り出しに戻ったガネ……」

「……難破船を装って物資を積んだ船を流す……いや、我々にとって小舟だろうと船は貴重だ」

「漁業希望者には、手持ちの職人を使って船の強化改造を格安で請け負う程ですからね……」

 

 ダズ・ボーネスが示した戦略は悪くない。

 戦力もそうだが、世界政府のもっとも面倒な諜報や謀略といった武力以外の力を黒猫以外に向けざるを得ないようにするのは極めて大事なことである。

 

「……今戦っている勢力の援助は無理ですが、一段落ついた国ならば出来るかもしれません」

 

 なにより、副総督がやりたい事を口にして、それは間違いなく組織に利があることなのだ。

 

 これを実現可能な形にする事こそギルド・テゾーロという男の仕事であり、義務である。

 これから組織が動こうという時だ。時間を掛けるわけには行かない。

 

 短い、この一瞬の間にあらゆる手段を考えたテゾーロの頭に一つの策が思いつく。

 

「革命が成功し、落ち着いた国は当然ですが復興のために資金や物資が必要です」

「いや、まぁ……それはまんま我々と同じだガネ」

「ええ、物資や資金は渡せない。当然ですが兵力も」

 

 

「――なので、提供するのは場と機会です」

 

 

 テゾーロは白紙の西の海の全体図を引っ張り出して、いつも持ち歩いている手帳を見ながら情報を書きこんでいく。

 海軍との戦争の直前までの情報で、革命が成功した加盟国の位置だ。

 

「こちらの勢力圏から近い所に限定されますが、こちらの哨戒範囲を広げて該当する海域の治安を安定させるというのはどうでしょう」

「っ。なるほど……増える海賊の圧力を軽減させて、生産や取引といった復興に関わる作業に集中しやすくする。そういう策カネ」

「はい。次第に安定した国家が、内戦中の革命勢力へ援助をするかもしれません。まぁ、そちらには基本触れないようにしなくてはなりませんし、向こう側からの接触も可能な限り避けなければなりませんが」

 

 テゾーロが印をつけた国と国を繋ぐように線を引いていく。

 普通の黒いインクで印をつけられているのが革命が成功したばかりの国、そして赤い印は現在内戦中の国。

 

 世界政府からしても、『黒猫』からしても重視せざるを得ない国家だ。

 

「初動こそ遅くなりますが、革命軍という一勢力の下に安定した島が増え、生産力を回復させる。そうなればいずれそのリソースを、革命軍主導の内戦へと注ぎ込むようになるでしょう」

「……結果として、革命勢力は成長する」

「問題点があるとすれば、まずは我らが略奪目的で手を出すような勢力ではないと近隣諸国に認知させなければなりません」

「それと、海軍がこちらの哨戒海域に現れた際は小競り合いを覚悟する必要があるガネ……」

「そのための計画を煮詰める必要がありますが……」

 

 いかがでしょう? とテゾーロがダズに問い掛ける。

 ダズからしても悪い点は見当たらない。

 強いて言うなら哨戒範囲の拡大に伴い増える兵士の負担が気にかかったが、それでもやるべきである。

 

 近隣の安定はそのまま『黒猫』にとって大きな利になる。

 それに大将を倒したという実績もある以上、黒猫が哨戒していると海軍が知れば、軍艦の活動範囲を引き下げる可能性は十分にある。

 

「よし、それでいこう」

「ギャルディーノは制圧任務がありますし、哨戒海域の候補はこちらで選定しておきましょう。本作戦の終了時には、タキ殿も含めて改めて会議を開けるようにしておきます」

「すまん、頼むガネ。こちらは艦隊の出撃用意もあるし、例の基地攻略について提督と話す必要が――」

 

―― 緊急です! すみません、『黒猫』の幹部にお目通りを! 緊急の報告です!!

 

 そんな時に、三人の背筋に嫌な予感を走らせる叫び声が響く。

 それでも行かねばならないギャルディーノが、気まずそうにダズを見る。

 

「……副総督殿、今の声は……」

「聞き覚えがない。だがわざわざ城の中にまで報告に来るほどの立場となると……」

「カポネ・ベッジの兵隊でしょうか」

 

 果たして、しばらく待っていると警備に付いていた親衛隊に連れられて黒スーツにサングラスの男が会議室へと入ってきた。

 パッと見黒猫の兵隊にも見えるのだが、象徴である黒猫の刺繍は入っていない。

 

「どうした。親衛隊が通したという事は緊急事態のようだが」

「は、はい。それが――難民が大勢、シャムロックに来ているんです! その報告に!」

 

 ギャルディーノが眉を顰める。

 大勢という程の船を、黒猫の兵士が見過ごすわけがないからだ。

 

 黒猫とベッジ・ファミリーの最大の拠点であるシャムロックの防衛と哨戒は並の物ではない。

 まだ完成にはほど遠いが、かつてクロが目指していた軍事的交易港の雛型といっていい街の防備は完璧に近い。

 

「不審船の報告は入ってきていないが?」

「船ではありません。海中を使って魚人と人魚が大勢逃げ込んで来ているんです。ひょっとしたら、まだ来るかもと……っ」

 

 全員の顔が、緊張で引き締まる。

 魚人の問題は、徐々にシャムロックへの移住希望者が増え始めた現在、極めてデリケートな問題だったからだ。

 

「逃げ込んでいるという事は、負傷者がいるのか?」

「はい。シャムロックにちょうど親衛隊のミレイさんがいたのでそちらに相談したところ、負傷者の対応に当たるのでこちらに報告に走ってほしいと」

 

 電伝虫を使えと一瞬ダズは思ったが、すぐに思い直す。

 大量の魚人や人魚――しかも負傷しているということは動きも多少は鈍るだろう彼らが多くいるという情報が万が一マフィアに傍受されれば、どれほど圧をかけて来られるか分かったものではない。

 

「ギャルディーノ、シャムロックに向かう際に、一緒に医療技能者と物資を輸送してほしい。馬車も自由に使って構わん」

「了解ダガネ。それで、人数は?」

 

 一番大事な情報だ。

 それによって色々話は変わって来る。

 

 だが、それを聞かれたファミリーの構成員は何度も何度も、懐から取り出した紙を見返して。

 

「あの、何度も確認したので多分間違いないハズなんですが……」

 

 

「その……全部で四千人(・・・)前後……なんです。その、負傷者だけで」

 

 

 ……………………。

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

「「「――よっ…………!!!!!????!!?」」」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 あの島を出て最初の夜を越え、再び魚人島近海を目指して船を進める我ら黒猫……いや海賊団じゃねぇな。

 ここにいるの俺以外は海兵と協力者だけだし。

 

 ともあれ、黒猫海賊団別動隊というか臨時編成隊とでも言うべき船の上で、

 

 

「恥知らず!! 恥知らずの恩知らず!!! 本っっっ当に……っ! どこまでアイツらは腐ってるの!!? 頭も性根も!!!」

 

 

 ヒナがお怒りだった。

 

 それはそれはもうお怒りだった。

 

 落ち着けヒナ嬢。

 その気持ちは死ぬほど――ホンット死ぬほど分かるけど。

 

「おや、おヒナさんがここまでお怒りとは……なにかあったんですかい?」

「ああ、イッショウさん。おはようございます」

「はい、おはようございやす。……それで?」

「夜明けと共に、手紙が届きまして……」

「……手紙? この船にですかい?」

「はい」

 

 今日の夜の見張りは俺とヒナで担当していた。

 夕飯を取ってから少しだけ仮眠を取り、それからヒナと雑談――というか、ヒナの頼みで土地の運営や政治の話をしながら夜明けを迎えた所で――文字通り政府のコウモリ(・・・・)が飛んできたのだ。

 

「長々と色々書いてありましたが……政府からの実質命令書が運ばれてきたんですよ」

「……クロさん、もしやその内容ってのは――」

「はい、罪を消す代わりに政府に協力しろと……まぁ、ハイ」

「…………おヒナさんがこれだけ怒るのも、無理はありませんな」

 

 ええもう、そりゃあスンゲェお怒りですよ。

 怒りがノンストップでボルケイノ状態が止まらない。

 

 俺が要請という名の実質命令書読んで聞かせた途端に奪い取ってビリビリに破いて海に捨ててからほぼずっとコレである。

 

 

「何度も裏切りを繰り返して大将までぶつけて来た上で協力しろなんて、どういう面の皮してるのよ!! イラッと来たわムカッと来たわ! 激おこよ! ヒナ激おこ!!」

 

 

 スパニエル君。今日の朝……いや、俺とヒナはこれから寝るな。昼食は奴の好物にしてやってくれ。

 確かケバブが好きだったな。

 肉も野菜も十分あるし、生地も作ってあるから問題あるまい。

 

 

「そもそも実際は『協力しろ』じゃなくて『助けてくれ』ってことでしょう!!? 何偉そうにしているのよ!!!」

 

 

 ………………。

 

 うん、そん時は俺も厨房に立とう。

 この面子で一番コイツの好みの味付け把握してんのは俺だけだし。

 

 肉とか野菜はともかくとして……ライム、キチンと数仕入れてたよな?

 寝る前に確認しとくか。

 

「まぁ、そこらへんにしておけ。俺に出した……のはまぁ、明らかにアレだけど、多分他の所にも手紙を出してるさ」

「他って――黒猫の人間に? それこそ絶対無理でしょ。しばらく一緒にいたけど、新兵はともかく幹部勢の貴方への忠誠は本物だったわ」

「いや、そこも含めてもっと広い意味で」

 

 スパニエル君がこっちの目線に気付いたのか、物陰からこっそりとOKサインを送って来てくれた。

 イヤ本当にいい子だ、スパニエル君。

 このまま西の海に帰れたらきっとトーヤとは仲良くなれるだろう。

 

 二人とも料理得意だし性格も穏やかだし気配り上手いし、しかも顔がいいから揃って女の子にモテるだろう。

 トーヤ君、城下町の警備に出るだけで街が賑やかになるもんな。

 

「恐らく、手あたり次第に海賊達に要請を出している頃だ。……まぁ、ビッグマムとか白ひげとかそこらへんは手に負えないから外すだろうけど」

「手当たり次第!?」

 

 ヒナが驚いた顔をしているが……やる。

 絶対にやる。

 

 というか、もうそれくらいしか打てる手がない。

 

「国が海賊を雇い始める。ああ、これに関しては確信がある。間違いなくやる」

 

 実際、原作でも国と海賊が繋がる事はあった。

 ゴア王国が、……名前が出てこねぇ、ルフィたちがいたあのゴミの山に火を付けさせたように。

 

「海賊を雇ってやることは、当然だが後ろ暗い真似だ」

「他国の略奪……」

「そうだ。非加盟国相手ならば政府は問題にしないだろうが、それが加盟国同士の足の引っ張り合いになる事は避けたい」

 

 いやもう、それ以前の問題点が山ほどあるわけだが……どうも世界政府はいくつかは狙ってやっている感があるっぽいしなぁ……。

 

「だから、直接海賊を雇って管理する?」

「ついでに、政府は戦力が欲しい。海軍とは表面上は一旦和解したが、火種はむしろ強まった」

「海賊ならば金さえ払えばなんでもやるからって……」

「ああ、仮に個々は大したことなかったとしても数が揃えば厄介だ」

 

 大勢いれば自然と強気になるしな。

 この世界の国はほどほどの大きさの島国である事が多い。

 それを数を使って包囲させるだけでも効果的だろう。

 

「政府がある程度の活動資金を渡し、略奪を許容する。代わりに略奪の対象を絞らせる」

「言う事聞くかしら?」

「武装した軍艦に襲われる可能性がなくなるんだ。その上で略奪をするなというわけではない。おまけに世界政府から離れた国は多いだろうから、狙う獲物にも困らない」

「……非加盟国も海賊を雇ってぶつからせる可能性は?」

「それを消すためでもある。確実に金を出せて、しかも危険を確実に減らせるのは世界政府側しかない」

 

 強いて言うなら、支配領域が確実に減った世界政府が海賊を雇うのにどれだけ払うつもりなのかが不安だが……。

 状勢に影響が出るくらい雇うとなると、どうしてもかなりの数になる。

 原作の七武海は略奪の一部を提出すればいいんだっけか? さすがにそこらは覚えてないな。

 

 ……にしても。

 

(センゴクさん大丈夫? ストレスと過労でぶっ倒れてない? 血、吐いてない?)

 

 まず間違いなく海兵が離反したかどうかの確認で手間取ってるし、実際に離反してしまった海兵をなんとか説得したいだろうし……そんな中で進められるだろう海賊取り込み政策。

 

 ……海兵達の反発は更に強まるだろうなぁ。

 外を説得する前に内がまとまるかどうか……。

 

 内部の統制に手間取れば、政府は海軍頼りなしと見て海賊の取り込みに更に力を入れ始める。

 それを見た海兵は更に不満を溜めて……。

 

 なんだこのメビウス・デスループ。

 マジで止める策が思いつかねぇ。

 天竜人を何人か見せしめに吊るす事が出来るんなら策を組み立てられるが……。

 

 モタモタしてたら政府は海賊戦力を主軸に置いて、有力な海将を消して体力を削ぎ始めるだろう。

 文字通り海賊を軍の代わりに置き始める。

 

「政府は、むしろ海軍をゼロから立て直したいのかもしれんな」

「自分達が好き放題やっておいて……っ」

「だからこそだろう」

 

 もうちょっと天竜人の中に貴族的義務(ノブリスオブレージュ)的な概念が生きててくれればこっちからの干渉も出来なくなかったんだが……。

 

 どこまでも消費者でしかない。

 いや、消費者っていうのは同時に生産者であるのが普通だし、こんな卑下に使っていい言葉じゃねぇんだけど……。

 それが適用されない特殊事例すぎて本当にどうしようもねぇ。

 

「本当に、難儀な世の中になっていきやすねぇ……」

「全くです」

 

 おう、お前は間違いなく巻き込まれるんやぞイッショウ。

 もうこっから先は暴力と支配の世界だ、

 お前くらい強い奴はどう足掻いてもどこかの地獄に関わる事になる。

 

「暴力に酔える性質なら、あるいは天国かもしれませんが……」

「クロさんは酔えませんか?」

「祭りの中で飲むよりも、離れた所で眺めながらの方が酔える口なんですよ」

 

 本当に。

 大勢で飲む酒は以前から苦手だった。

 良く知っている友人数人で適当に飲む酒が一番美味かった。

 

「へっへっ。ならば、こういう所の方が美味く飲めそうですな」

 

 そういうとイッショウは、どこからか徳利と盃二つを取り出して中身を注ぐ。

 

「聞けばあの島に来るまでも、そして出発してからも休む暇がなかったって話じゃないですか。寝酒に一杯」

「……そうだな」

 

 悪くない。

 幸い海兵の皆は優秀だ。戦闘はともかく航行については不安がない。

 

 となると俺の本番は、リーリンの言うポイントに着いて潜航用意を始める段階からだ。

 ここらで酒でも入れて、ゆっくり体を休めておくのもいいだろう。

 

「あら。海兵の目の前で堂々と飲酒とはいい度胸ね?」

「海賊だからな」

 

 イッショウにとっては寝起きの一杯だろうか。

 盃を軽く合わせてから中身を呷る。

 

 温いが、それでも程よい甘さと辛さの液体を喉に流し込むと、かすかなアルコールが鼻を抜ける。

 

 おお。徳利だからそうかと思ってたが、やっぱり米酒か。

 ミホークが好きそうな酒だ。

 

「……そういえば、貴方海賊だったわね」

「これだけ一緒にいて何回忘れてるんだ貴様」

「一緒にいるから忘れるのよ。いい加減にしなさい」

 

 なんで俺が叱られるんや!!?

 あ、コラ、盃返せ――なぜお前が飲むんだ海兵!!?

 

 

―― ゲホッ、ゲッホ……っ!!

 

 

 ほらむせた。飲みなれてないから……。

 

「コッホ……っ! ん。貴方、こんなものよく平然と飲めるわね」

「まずなんで口にしたんだ貴様」

「……貴方が美味しそうにしていたから……かしら」

 

 

 子供かっ!!?

 

 

 …………。

 

 

 子供だったわ!! コラ、ペッしなさい!!

 

 俺は海賊だからアレだけどお前は海兵だろうが!!

 

 えぇい、脛を蹴るんじゃない! 何の抗議だ!!

 

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