「やれやれ、ここらも海賊が増えたのう……」
四つの海の中で平和の象徴とされていた海。
もっとも穏やかな海であるために、新兵の訓練に使われる事も多いその海には、海軍の英雄と呼ばれる男が来ていた。
「ガープ、すまん助かった。まさか海賊がここに来るとは……っ」
「あんなもん海賊とは呼ばんわい」
丸メガネをかけた初老の男――村長の言葉に英雄は詰まらなさそうに、
「食い詰めてやっとこさ海に出ただけの……ありゃあ難民じゃわい。一応部下に捕まえさせているが……どうしたもんかのう」
否、どこか怒りを含ませた言葉で答える。
「この数日で不審な船が突然増えた。急に連絡が取れなくなって様子を見に行かせたら、まるで誰も住んでいなかったようにもぬけの殻となっていた村もある」
「安心せい。哨戒を増やしておる。それに……」
泊められている海軍艦――中では海賊というには余りに年老いた、痩せほそり、銃どころか剣もなく、さび付いた鎌などで村を襲おうとしていた者達が簡素な麦粥を泣きながら啜っている――を見て、英雄ガープは溜息を吐く。
「ここの国の王族に先ほど挨拶ついでに話してきたからのう。ここには知人が住んでいるから、
「……ガープ、やはり例の噂は本当なのか?」
ここ最近、この静かな村にすら届くほど急速に奇妙な噂が広がっている。
各国が海賊を雇い、それぞれが目障りだと思っている国の街や村を襲わせ、根こそぎ奪い尽くさせているという、正気だとは思えない噂だ。
それどころか――
「…………少なくとも、これでゴア王国側から余計な手出しはせんじゃろうて」
「……まさか、国すら信じられん時代が来るとはな」
国家が国土を削り、削られた地域にいる国民を売り飛ばそうとしている――などという恐ろしい噂まである。
丸眼鏡の村長はまさかと思いながらもガープに尋ねたが、そのガープが言いにくそうにしている事で感じた恐怖が正しかった事を察した。
「言った通り、確かに哨戒の数も増やしておるが……正直、足りておらん。いざという時の避難なども考えておいてくれ」
「それこそ村長の仕事じゃ。……とはいえ、どこに逃げるか」
この東の海でも、政府から離反した海兵や国家は多く存在する。
この近海ではないが、東の海の中でも最も東のエリアでは、とある非加盟国を中心に離反した海兵が集まり、独立を主張していた。
ガープが東の海に来ている事を知った上から討伐命令が来ていたが、先ほど無視した所である。
政府に怒りを覚えた連中よりも、突然誘拐稼業に熱心になった海賊達の対処の方がガープにとって大事だった。
「ガープ」
「む?」
「これから時代は……どうなっていくんだろうか」
「……そうさな」
村長のぼやきに、ガープは一人の少年の姿を思い出す。
「その鍵を握っているのは、やはりあの海賊じゃろうて」
将校に交じって海兵や政府役人に指揮を飛ばしていた異色の海賊。
部下を一人も引き連れずに聖地に乗り込み、他ならぬ海兵が動きやすいように関連部署への根回しやその書類整備を一手に引き受け、完璧にこなしたあの手腕。
改めて手配された今でも一部の海兵には海軍の将校であると信じられている『幻』の
ガープの友人でもある大参謀のつるをして「今すぐにでも罪を消して海兵に引き込むべきだ」と主張していた、今となっては世界でも五本の指に入る海賊の姿を。
「海賊?」
「ぶわっはははははは! いい機会じゃ、少し酒場で休んでいくかのう! マキノちゃんも大きくなったのじゃろう?」
ガープは直接見たことがなかったが、手配書の中に知っている少女と同じくらいの年頃にして億越えとなった海賊がいた事を思い出す。
大将戦力を打ち破ったというとんでもない少女――『海賊姫』を。
「ちょうどいい、お茶請け代わりに話してやろう」
「……ワシとしては、突然お前が連れて来た赤ん坊の話を聞きたいのだが――」
「ぶわっはははははは!!」
村長の言葉を遮るように英雄は豪快に笑い、懐から手配書を取り出す。
海兵や将校、はてには政府の役人の中にも、まるでお守りのように懐に忍ばされ始めた
「なぁに、退屈はさせんわい」
「この東の海で生まれて、今も世界と戦っている……変わった海賊の話じゃ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「全船員、接舷用意! 差し足が使える親衛隊は敵を確認してから先んじて上陸! 暴れている者達を打ち倒し、まずは港を押さえる!!」
本来ならば政府の船を攻撃するために編成された、少数ながら黒猫でも屈指の精鋭を集めたその船が目標地点へと到着する。
スーペリア。
かつての海賊連合事件で必ず敵はここを狙うだろうと二重三重に防衛ラインを引いて守った西の海最大の穀倉地帯。
結果見事に守り抜き、政治的な摩擦こそ起こったが食糧庫の役割を果たした国家が今――燃えていた。
(あの時の――モグワ解放戦を思い出す。あの時は夜だったが……)
―― そんな……天竜人は民衆と食料を持ち帰っただけなんじゃ……っ
―― 落ち着け。すぐに上陸するんだ、気を取り直していろ。
念入りに燃やし尽くす事を戦略に組み込んでいた海賊連合に比べてまばらな物ではあるが、同じように街に火が点けられている。
それを見て動揺する兵士を、古参の兵が落ち着かせている。
「アミス君、一通り偵察を終えてきたよ」
先遣隊の全指揮を執るアミスの横に、単独行動に長けた親衛隊が音もなく降り立つ。
「キャザリー、敵は一体?」
「敵……とは言えないな。今現在暴れているのは、このスーペリアの民衆同士だ」
「――なんですって?」
この船に乗る者達は、そのほとんどが長く黒猫の下で『三本爪』を背負って戦ってきた歴戦の者達である。
その兵士達をして、かすかな動揺を抑えられなかった。
「奥地の方では、リガロ軍が天竜人への反逆の断罪をお題目として侵攻を開始している。その迎撃のために残った兵士が慌てて出撃したようなのだが……その後さまざまな憶測や噂が流れ民衆は混乱。とにかく物資をと略奪の嵐に……という流れのようだ」
正直、正しく把握するには時間がなかったと締めくくるキャザリーの報告を聞いて、アミスは頭を抱えたくなる気持ちを振り払う。
「作戦に変更はありません! 親衛隊は先行して港周囲の安全を確保する!」
もっともクロの足技を学んでいる親衛隊の面々が敬礼で答える。
「キカ、トロイ。貴方達は接舷後に戦力を上陸させた後はいつでも砲撃出来るように用意を」
「――っ。使うのか? 街中で、しかもこの混乱だぞ?」
「リガロが攻めてきているというのであれば、目的は占領と略奪。あるいは向こうの突出した陸上戦力がここまで来るかもしれません。その時の牽制、撃破の一助を担ってもらいたい」
「なるほど。……アミス隊長、砲撃の要請はいつも通りでしょうか?」
「はい、砲撃要請地点で発煙筒を使います。色は赤」
「了解。戦力を下ろし次第、キカや砲撃手と共に備えます」
「ええ。海賊を始めとする海上戦力にも警戒を」
「ハッ」
先遣隊の任務としては、この港町を押さえれば一応達成である。
天竜人に持っていかれたのか、あるいは真っ先に逃げ出した者達がいたのか、港に泊められている船は小舟ばかりである。
整理の手間はあまり必要なく、強靭な腕力を持つ魚人の協力者が来てくれればすぐさま片付く。
相手が暴徒ということなので鎮圧には時間がかかるだろうが、最悪制圧範囲から追い出して場所だけ確保すればいい。
だが――それは間違いなく、今後の統治難易度を一段階好ましくない方向に上げてしまうだろう。
「運ばれた島での制圧戦を参考にします。まずは安全地帯を作った上で簡易救護施設を設営しましょう」
「負傷した民間人の救助が第一か。……炊き出しはどうする?」
「……多少落ち着きを取り戻してから。隠れて我々という海賊から逃れようとする人も、安全な場所で食事を取っているこの国の民を見ればこちらの庇護下に入ろうとするでしょう」
慎重に近づいている船が、更に港へと近づく。
何かを壊すような音と銃声、そして誰かの悲鳴がさらに聞こえる。
「……こう言っては何ですが、海軍基地を陥とした際に入手した大量の食料がなければ動けませんでしたね」
「ついでに言えば、敗残兵の分を残さず全部持って行っても良かったんじゃないかと少し後悔しているよ」
キャザリーの言葉に、アミスは苦笑で答える。
思えば旗揚げ――いや、その前の逃亡生活の頃から『黒猫』の最大の敵は食料不足だった。
「ここを押さえて復興を迅速に行えば、そういった問題からようやく解放されるわ」
「やれやれ、先生が張り切るな。……では、そのための一歩を始めるとしよう」
刀とピストルを腰に差したキャザリーが船のへりに足を掛ける。
いつものライフルでないのは、戦争で弾薬を消費したのに加えて殺傷力が高すぎるためだ。
敵は暴徒。制圧する必要はあるが、むやみに殺すわけにもいかない。
海賊らしからぬ戦いを前に黒猫海賊団の兵士達は姿勢を正して整列し、士気を整える。
キャザリーの後ろに、他の親衛隊員達も続く。
「親衛隊、抜刀!」
「これより作戦を開始する!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そうか。聖地から……」
「この旗の海賊団の話はさっぱり聞かなかった。むしろ、海賊だというのも先日の高額手配でようやく知ったくらいだ」
ファミリーの構成員。――シャムロックの管理を担う一人が運んできた知らせは緊急性が高いと見て、ダズ・ボーネス自らシャムロックへと足を運んでいた。
負傷者の治療の手配やとりあえずの収容はタキが指揮を執り、ダズとテゾーロは詳しい話を聞くために魚人や人魚の代表者をサロンの応接室へと通し、話を聞いていた。
(……会議室では部屋に味気がなく警戒されるかもしれないため、少しでも持て成しているという姿勢を見せるために応接室の方が良い、か。……テゾーロのこういう所は本当に助かる)
徐々にではあるが、それでも警戒を解きつつある魚人の気配にダズは内心胸を撫でおろす。
「確かに、聖地にいたスーツの子供が……海賊とは思わんだろうな」
「おま――君もそうだ。まさか、その歳で億越えとは」
「キャプテンが残した作戦と、鍛え上げた味方が後押しをしてくれたおかげだ」
「うむ。ここに到着する前に手配書を見て……正直、あの少年の言葉とはいえここに来るのには覚悟が必要だった。……それが」
手当てを受けて、所々に包帯が巻かれた魚人――フィッシャー・タイガーと名乗る男は、複雑な顔で窓の外を見る。
マグロの魚人が船の積み荷を運んでいる。
大きな水路の上に浮いている船のどこかが壊れたのか、魚人と人魚が船の上と
一方で人間が魚人の住む家を組み立てており、魚人はその木材を運びながら談笑していた。
「……まさか、魚人と人間が共存している街があるとは」
「本当の意味での共存というにはまだ遠く、解決しなければならない課題が山積みだがな」
多くの魚人は人間を恐れて隠れ島に住んでいるし、内陸の街や村に住む人間は過剰に魚人を恐れている。
それを解決するために日ごろから頭を悩ませているのが、内務担当官たちの日課でもある。
「それで、一体何が起こったのだ?」
「……そちらの大将――クロ、だったか。彼に救われた後、海に落ちて逃げた俺はとにかく魚人島を目指した」
クロからは西の海に安全地帯があるとは言われていたが、フィッシャー・タイガーはその言葉を信じる事は出来なかった。
人間と違い、船がなくとも海の中で生きる事は出来るというのも大きかった。
奴隷として痛めつけられた体と、金獅子の襲撃で受けた傷が酷く痛んだが……それでもどうにか魚人島へと逃げ込めた。
「幸い、俺の捜索は行われなかったようだ。酷い話だが、あの燃え盛る聖地で恐らく多くの奴隷が亡くなり、燃えた者は行方不明扱いとなったのだろう」
奴隷の末路に、ダズもテゾーロも眉を顰めた。
ダズは親衛隊の面々の顔を思い出し、テゾーロはステラの事が頭をよぎったからだ。
「道中幾度かトラブルこそあったものの、どうにか魚人島に辿り着けた。俺は事の次第を国王に報告して……オトヒメ様は、クロとクロの言う隠れ島に非常に興味を持たれたようだが……いやいい。問題はそこからだ」
フィッシャータイガーが、身に付けた包帯の上から傷跡を押さえる。
「俺はそのまま魚人島で傷を癒していたが……つい先日の事だ」
ここに来た時点でほぼ塞がりかけていたが、それでも確かに残っている――銃創を。
「天竜人がやってきたんだ……っ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魚人島。
この広い世界で唯一魚人が安心して住める国であり、聖地の真下にある『海底』の島。
「頼む! 頼むから双方落ち着いてくれ!!」
およそ500万もの魚人たちが住まう魚人島――否、『リュウグウ王国』はかなりの面積を持っている。
なれば当然地域には格差が生じ、高級住宅街があればその真逆のスラムもある。
事件の中心地になっているのは、そのスラムだった。
最大のスラム、魚人街。
特に貧民が住む、お世辞にも治安が良いとはいえないその場所に近寄る者は多くない。
―― そこに住まう者に、価値を見るもの以外は。
「ふざけるな! コイツらは俺達を奴隷として連れていこうとしたんだ!」
「ジッと隠れても! 耐えても無駄だったんだ! なら――!!!」
三つ又の槍を持った、巨大な男の人魚――ネプチューン王がスラムに立て籠もっている魚人達に向けて叫んでいる。
王の後ろにはリュウグウ国の兵士達が並んでおり、スラムの方に注意を払っている。
皆一様に、怒りではなく恐れと恐怖が顔に浮かんでいる。
「なんなんだえ! おばえ達は!!!」
そのスラムの住人――皆一様にボロボロで、中には銃による傷を負った者達は、スラムに似付かわしくない無駄に豪華な白い服を着た者達を
「先日の事件で足りなくなった奴隷を補充しに来ただけではないか! 手間と金こそヒューマンショップよりかかるが、直接選んで連れて行ってやろうとわざわざ来たのにこの仕打ちとは!! さっさとわちし達を解放して聖地に来るんだえ!!!」
―― 魚人たちに告ぐ! 今すぐ天竜人の方々を解放し、投降しろ!!
そしてスラムに立て籠もる魚人と、それをなんとか落ち着かせようとする王国軍の双方に銃口を向ける者達がいた。
真っ白な軍服を身に纏い、背に正義の二文字を背負った兵士達だ。
「ふざけるな人間が!」
「解放しろっていうならまずはお前達だ!!」
特に立派なコートを纏った、指揮役と見られる将校の言葉に罵声が返る。
「捕らえた同胞達を放してこの島から出ていけ!!」
「なにもしていない者を奴隷扱いした報いも受けずに、ここから出れると思っているのか!!」
天竜人達を人質に取り立て籠もっている魚人が、憎しみの目で離れた所に着けられている軍艦を睨みつける。
何の罪も犯していないのに、ただそこにいたというだけで捕えられた者達が今も捕らわれている檻の箱を。
「同胞達をまず放せ! 人質が何人いると思っているんだ!!」
「どうせこのままじゃ奴隷にされるか殺されるだけなんだ! だったら――」
天竜人――プルミング聖と呼ばれた初老の天竜人を捕まえているサメの魚人が、その太い手を喉へと伸ばす。
「止めろ! 汚い手で触るな! わちきを――わちきは偉いんだえ!? それを――」
「黙れ! お前らのソレが! ソレが俺達を……っ!!!」
天竜人はもう数日こうして囚われていた。
聖地の復興のために力のある奴隷を集めるために、兵を引き連れて魚人島を来訪。
そして手当たり次第に捕まえようと島内の街を占拠させた故に――蜂起したスラム街の魚人の決死の反撃の末に捕らわれていた。
この数日、水とわずかな食料しか口にしていない。
死が近づく気配を察し、全力で抵抗するがもう力は入らない。
「アーロン!! 頼む! 頼むからやめるんじゃもん!!! このままでは全てが!!」
王が必死に叫ぶが、アーロンというサメの魚人の耳には届かない。
「銃兵、構え!」
「し、しかしもしプルミング聖に当たりでもしたら……っ。それに、人質となっている天竜人の方は他にも!」
「ならば今賭けるしかない! 大佐以上は突撃用意!」
怯えながらも魚人や海軍に怒りを撒き散らす天竜人。
なんとか殺傷沙汰だけは避けたい王国軍。
なんとしても天竜人を助けなければならない海軍。
もはや衝突は避けられない。
海兵達は狙いを定め、サメの魚人は天竜人をまずは一人殺そうと腕に力を込め――
―― 双方、武器を下ろせっ!!!!!!!!!!!
突然上空から、凄まじい衝撃が飛んできた。
三つ巴となっていたスラム街前のだだっ広い場所を、更に抉る一撃が。
土と埃が立ち込め、視界が悪くなる。
魚人達は突然悪寒のような、あるいは雷のような何かが背を走り身動きが取れなくなる。
リュウグウ王国軍の兵士は何が起こったかすら分からず、戸惑い……。
それが収まった先に、一人の人間がいるのをようやく理解した。
およそ14,5歳程の、だが黒いスーツを役人のように着こなしている少年。
「もう一度言う。双方武器を下ろしてくれ。このままでは犠牲が出るばかりで、何一つ解決しない」
少年は静かに、だが通る声量で、双方に語り掛ける。
魚人側は動けない。
そもそも、この少年が何者かは分からない。
だが――
―― さ、三本爪だ…………
海軍の兵士達が徐々にどよめく。
「三本爪が来た……っ」
「本物か!?」
「間違いない! 三本爪の猫の刺繍のスーツにあの傷、あの顔! 本物だ!」
最初はわずかなノイズでしかなかったそれが、時を置くほどに大きくなる。
ほとんどの魚人が、知らないその男を只者ではないと悟る程に。
キャプテン・クロが来たと。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(明らかに魚人島全域が海軍に制圧されてるのは見て分かったが……まさか天竜人を人質に立てこもりとか)
幸い、クザンの姿は見えない。
他の大将級は全員行動不能だろうし、どうしようもないのだろう。
その分通常戦力が多く呼び出されたようだが……。
(天竜人が囚われているのと同様に魚人や人魚も囚われている。それゆえに双方動けず、切っ掛けもなしと来たか)
天竜人が……天竜人が邪魔過ぎるっ!!
お前ら本当に余計な事しかしねぇな!!!?
(海軍は……最低でも五千……でも見積り少ないか。下手したら一万前後くらいいるんじゃないか?)
ヒナ達は船と共に下がらせている。
船を守らせていつでも撤退できるようにという仕込みでもあるが、さすがにこれには巻き込めん。
ただでさえ海兵組は中途半端な立ち位置な上に、これはさすがに死にかねん。
中将クラスがゴロゴロいやがる上に兵士達の多くがこう……兵士じゃない。
具体的に言えば命令を守れず発砲しちゃうような奴の気配がうごごごごご。
イッショウならば立ち回れるだろうけど、ただの客人をこんな死地に引き込んでお尋ね者にするわけにもいかねぇ。
ちくしょうあそこでなんかわめいてる天竜人共全員ちょっと病死してくれ。
そうすれば有耶無耶に解散……いや、あの様子だと立て籠もって相当日数経っている。それじゃあ駄目か。
(魚人側の武装が統一してるのは島の軍か。だが、事が事なだけに手が出せない。説得を繰り返してどうにか時間を稼ぐのが精一杯か)
そしてボロい街に立て籠もってる魚人も中々に数が多い。
それこそ海兵とほぼ数が変わらん。
さすがにちょっと数では劣るが、身体能力の差がある上に土地が土地だ。
だからこそ海兵達も二重にピリついて、いつ暴発してもおかしくない様子だったのだろう。
うん。
そうなると、止められそうなのがやはり俺しかいない。
だから腹を決めて、この戦場のど真ん中に一撃打ち込んだ。
黒猫海賊団。一名。
キャプテン・クロ。
参陣。
わァ…………ァ…………。
どこ?
しろひげどこ? ここ?
たすけて。
たすけてくれめんす。
第五章:タガが外れた『世界』
『魚人島攻防戦』
クレメンス聖「もう君に私の助けは必要ない」