「トーヤ! 言われた通り、三番食料庫から出来るだけ貝類を運ばせるように指示を出してきたぞ! パンもだ!!」
「ありがとうございます! 受け入れた人員のほとんどが人魚さんですので、貝類か海藻を主にする必要がありまして――」
「それでこの手間暇か……調理だけじゃなくて殻やゴミの処理にも人手が全然足りねぇな。ひとっ走りして街の飲食店関係者全員引っ張って来る! 問題ないか!?」
「すみません、お願いします!!」
人を受け入れるという事は、当然消費する物が増えるという事だ。
急遽現れた魚人と人魚の
幸い黒猫は先日の戦闘で大量の食料を手にしており、今すぐに尽きるという事はないし、危機的な状況に陥るまでには猶予がある。
実際こうして食事を提供できている。
それも相手の食事情に合わせてだ。
なにかとシャムロックの魚人と繋がりのあるベッジ・ファミリーのサングラスの男が、手配のために厨房を飛び出していく。
そして親衛隊のトーヤは、保存されている糧食の中から人魚が口にする事に抵抗がない物で作れる物を思い浮かべ、調理の準備に入る。
(何が起こったかは副総督が代表の人から聞いている真っ最中だけど、どう見ても皆憔悴しきっていた。怪我していない人も疲れ切っている)
文化の違う相手との交流そのものは、『黒猫』は何度も繰り返してきている。
アチコチから奴隷として集められた人間達はそれぞれ根底の文化がバラバラだった。
それと触れて、まとめ上げて来た経験を元にトーヤは、調理と並行して難民への応対の段取りを組み立てる。
(どういう方向に話がまとまるかはともかく、相手は迫害されてきた魚人さん達だ。敵ではない事をしっかり示さないと多分……良くない方向に転がってしまう。少なくとも、そちら側の事を理解しているという事を分かってもらわないと……)
開拓団の面々と交流し、魚人や人魚の生活などについてはかなり教えてもらっていた。
何をどういう風に食べるか、どういう物が流行っていたかも、情報としての鮮度は落ちるだろうが聞いていた。
それらの情報をトーヤは引き出して、まずは彼らに何を出すか決定する。
疲れを癒すため、体を休めるため、そしてここに来た理由は不幸なものであるのだろうが――
それでも喜んで、心から彼らを歓迎するというメッセージを確かに届けるために。
「最初に応対したミレイさんの話だと、真っ直ぐ
これからシャムロックにいる料理人という料理人達がかき集められるが、まずは本船操舵手にして料理人も兼ねているトーヤが方針を決める。
それに否という者は誰もいない。
総督であるクロや幹部達、時にはモプチ王族への食事を作ってきたのはこの少年なのだ。
「今日の厨房はいつも以上の戦場です! 皆さん、すみませんが死力を尽くしてください!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
―― どういうわけか、魚人島が海軍に制圧されているな。
リーリンという人魚の案内の下、奪ったコーティング船を用いて海へと潜り、いざ近づいた所で船長でもある海賊が、突然そんな事を言いだした。
―― 船は停泊所ギリギリで待機。海兵達は念のために服を着替えてくれ。リーリン、あの岩場に負傷した魚人達が隠れている気配がある。悪いが説得して、可能ならばこの船まで連れてきてくれ。
明らかな異常事態が起こっている。そうあの海賊モドキは判断したのだろう。
いつもは広く海兵達の話を聞いて緩く方針を決める男が、真剣な顔で指示をしていた。
―― ヒナとイッショウは事情を聴き出して状況の把握を。加えて、いつでも逃げ出せるように準備をしておいてくれ。
「それはそれとして、なんでアイツ一人で行っちゃうのよ」
「仕方ありやせんよ、おヒナさん。この状況で海兵の目をかいくぐり、自由に動けるのはクロさんくらいでしょう」
「……やっぱり締め上げてでもアイツの歩法吐かせて習得するべきだったわ」
ボソリと物騒な言葉をつぶやく海兵の少女に、話に聞くワノ国の着物のような服を着る盲目の男は小さく笑いを零す。
「……それで……皆、何がどうなってこうなっているの?」
そんなバカげたやり取りをする
魚人、そして人魚たちだ。
人魚の方は軽傷の者が多いが、魚人の中には深い傷を負っている者が多く、リーリンと数名の海兵が手当てを施している。
服を着替えているために、海兵だとは知られていないだろう。
ゆえに海兵というよりも、人間を警戒しているのだろう。
彼らはヒナの質問に黙ったままだ。
傷を消毒し、縫い終わった上から包帯を巻いている同族のリーリンが軽く叩いて、ようやく体の大きな――だからこそ傷の多かった魚人がようやく口を開く。
「……十日か、あるいはもっと前だったか。突然政府の船がやってきたのが全ての始まりだ」
忌々しそうに魚人が口を開く。当たり前だ。
故郷が――魚人達が唯一安全に暮らせるハズだった島が、こうして踏みにじられているのだ。
「奴らは奴隷の再回収だとか言って、手当たり次第に同胞達を捕らえて船に乗せて連れ去ろうと……。それに対して王国軍がその船を止めようとして、小競り合いが起きたのだ」
少し離れた所で聞いているヒナの顔が、汚い物を見た時のように歪む。
「リュウグウ王国は間違いなく加盟国。スーペリアといい……こんな……」
「一時的な事態でしょうが、それでもここまで統制が取れないのであれば……なるほど。クロさんの言う通り、他の海も酷い事になってるでしょうね」
一時的に聖地にいたせいで、余りに酷い物――奴隷やその扱いなどを見て来たヒナは、本気の嫌悪感で顔をしかめていた。
それが見えているわけではないが雰囲気は伝わったのか、イッショウもだ。
「それで同行していた護衛の海兵達が港を封鎖し、反逆と見なされた者は連れていかれる所だった。危うく
「――まさか、あのタイの兄貴が……奴隷にされていたなんて……っ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「話した通り、俺は聖地に捕えられていた。……だから、こういうことだ」
シャムロックは、一見すればまるで祭りでも起こっているかのような大騒ぎになっている。
ギャングの人間が片っ端から人手を集め食材や調理器具を運ばせていたり、あるいはとりあえずの寝泊まりする場所としてテントを組み立てさせたりと慌ただしく走り回っている。
その様子をBGMにフィッシャータイガーは、元々ボロボロだった服を脱いでダズ達に背中を見せる。
背中に焼き付けられた、三本の爪痕。
人に寄り添い、汚泥を掻き分ける猫ではなく、ただ人を脅かす竜の爪を。
「囚われた者達を救う戦いの中で、この背中を見られてしまった。それが事態を更に悪くした……」
その場にいる者達の顔にそれぞれ変化が起こった。
ダズ・ボーネスは天竜人や政府への怒りに小さく顔をしかめた。
ギルド・テゾーロは起こり得た自分達の末路が小さく頭をよぎったための恐怖が。
そして、かなりの巨漢であるフィッシャータイガーは、その顔に深い後悔を――。
「奴らは奴隷の俺を回収すると言い始めた。いや、それだけならばよかったのだが……」
深い後悔と、それでも動かざるを得なかった行き場のない感情を抑えるように、顔を押さえる。
「リュウグウ王国を、天竜人の奴隷を奪い匿った犯罪国家だと言い出したのだ……っ」
「……まさしく言いがかりだな」
「そうだ、言いがかりだ。だが……ああ」
部屋の飾りに使われている、大きな三本爪の黒猫の旗を見る。
預けられたジャケットと同じマークを。
「お前達の大将は、薄々そうなる可能性に気付いていたかもしれん。今にして思えば、あの時の提案はおかしかった」
万が一の時は逃げ込めと言われた三本爪の印。
一瞬迷い、だが恩人と言えど人間から渡された旗の元に征くことを選ばず、故郷である魚人島へと泳いでいった。
だが――、
「魚人島が聖地の真下にある事くらい、あの男は知っていたハズだ。にも関わらず『逃げ場に困ったら~』などと言ってあのジャケットを渡したのは……あるいは俺という元奴隷が、魚人島に災いを呼び込むやもしれぬと……なのに俺は――」
「ですが、もし貴方が魚人島にいなければ、今この島に逃げ込んで来た者達は聖地へ連れ去られていたでしょう」
自虐に走るタイガーの話を、テゾーロが遮る。
かつて囚われた者として、後一歩で同じ焼き印を受けていただろう男は、思わず声を発していた。
「そして総督が手渡したジャケットが、こうして多くの魚人や人魚をこの海へと逃がしたのです。貴方方の生活の一助となるのは、我らにとって総督命令に等しい事。なにかとご不便でしょうが、今は傷を癒すことを第一に療養なさってください」
「……すまない……っ。真に……痛み入る……っ」
ようやく、警戒がある程度は解けた。
そう判断したテゾーロがダズに目配せをすると、ダズは頷き。
「それで、続きを聞かせて欲しい」
「では魚人島は――今も、戦場なのか?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「海軍に問う! 現場を任された指揮官は誰か!?」
(なんとなく何が起こったかは見えてきたが……なんだこのクソみてぇな状況は)
明らかな殺気が島からビンビンに伝わってきたから、海軍が視認できるか怪しいギリギリの所に船を泊めさせて先行してきたが……。
(大方天竜人がバカをやって魚人が反撃、調子に乗って前に出ていた天竜人を人質にとって立てこもり、結果海軍が増援を呼んで島を制圧、包囲したって所だろうなぁ……)
かなり抵抗したのか、反対側の港――恐らく楽園側の方に大穴が空いて沈んでいる軍艦が見える。
必死に事態を抑えようとしている王国軍の仕業ではあるまい。
恐らく、今立て籠もっている連中が攻撃したのか。
(本当に余計な事ばかりしやがって……。これが海軍じゃなく海賊だったんならばぶっ飛ばせば済むんだがっ!!)
近場だからあるいはって気持ちと、深海という限られた航路が上手い事壁になってくれるだろうって気持ちの半々だったが、物の見事にヤベェ事態を連続で引き起こしやがって。
(しかも間違いなく本部戦力。……他の島でも似たような事やらかしてたら、その全部が燃え上がるってことを――まぁ、目の前の豚はわかってねぇんだろうなぁ……)
「貴様! 聖地にいた海賊だえ!!? 早く、早くわちきらを助けるえ!!」
余計な事を言うんじゃない豚!!
というか海賊に助けを求めるな!!
そっちが穏便に終わらせるつもりがあるなら、どうにか助けてあげられるから!!
「まずは不当に拘束された
あとお前――まさかとは思ってたがその鼻はアーロンだな!? 頼むから軽率にやらかしてくれるなよ!?
人質の天竜人はたくさんいるけど、ソイツら死んだら間違いなく大将戦力が飛んで来るからな!?
(幸いクザンはまだ動いていない。あの作戦通りにダズ達が動いたのならば『赤犬』に『黒腕』はまだ動けんハズ。精鋭兵士も同じく)
だけど時間はかけられん。
待てば待つほどクザンが来る可能性が高まるし、恐らく回収されてるだろう黄猿が無理やり駆り出される事だって十分あり得る。
一対一なら後れを取る事はないと思うが……本格的な戦闘となると頼りになる戦力がいないこっちが不利だ。
「今一度問う! 指揮官は誰か!!」
うん。やっぱり戦わずに解決できるのならばそれに越したことはない。
天竜人はなにやら絶句してるが、とにかくジッとしていてくれ。
というか喉元に刃物突きつけられてよくデカい口叩けるなお前!!
「私だ。海軍本部所属、スキッパー特別中将である」
……特別?
あぁ、いや、そういえばゼファーさんも特別大将だったな。
別の役目も兼ねた中将って事か。
「状況は把握しました。まずは捕らえられている
「それは出来ん! 彼らは反逆者であり、プルミング聖達が所望されている者達である!」
「残念ながら、この状況を見る限りプルミング聖らにこそ非があるとしか言えません」
まず、そもそもコイツらが純粋な被害者になる事があるんだろうか。
……まぁ、金獅子の襲撃は確かな被害者か。前科まっくろくろすけだけど。
「であるのならば、まずはそちらが不当な拘束を止めて頂かなければ」
「て、天竜人なのだぞ!!?」
「だから?」
もうそういう段階はとっくの昔に通り過ぎている。
「だから、なんなのでしょう?」
聖地に引き籠もったまま誤魔化していた物が表に出た以上、天竜人もまた責任を負う必要が出てきている。
「兵士達の軍服ですが、所どころ汚れておりますね?」
「っ、何の話を!!?」
「衛生管理に於いて厳しくなければならないのが海軍という物であると、自分は認識しております」
現に、俺が聖地にいた時に連れて来た兵士達の中でも洗濯を専門とする兵士がいた程だ。
それが――
(袖も襟元も茶色い……汗がにじんだままだ。包囲戦とはいえ、この汚れ様は……)
「汚れ具合のバラツキから見て、本部に常駐していた部隊ではなく緊急に編成した部隊なのでしょう。アチコチから掻き集めて、そのまま出撃させましたね?」
「…………」
碌に準備が出来なかったと見る。
とりあえずの武器はともかくとして、生活物資――下手すれば食料などにも不安が出ているんじゃなかろうか。
目の前の将校はさすがに比較的身綺麗にしているが、それでも汚れが隠せていないほどとなると追加の人員や物資も来ていないと見ていいだろう。
「本部に予備戦力を残しておけない程、各地の海で混乱が起こっていると推察します。その理由はなんでしょう?」
いつの間にか静まりかえっている。
助かる、おかげである程度神経をこの将校に集中できる。
無表情のまま、ジッと沈黙しているが――
(心拍数が跳ね上がっているが、汗一滴見せない。手足の動きに乱れはなく、情報的な隙を見せない。……軍人ではないな。政治畑寄りの戦闘技能者。元CPか、あるいは政府要人の護衛役)
どうする?
ここで天竜人や政府の不備や疑惑を突きつけて、更に兵士の士気を下げるか?
…………。
兵士はともかくとして、ただでさえ興奮している魚人がどう動くか分からない。保留。
まずは彼らをテーブルに着けて状況をリセットさせる方向で行こう。
「すでに各地は混乱しており、このままでは遠からずこのような
「……彼らが魚人達を解放したら、天竜人を解放するという確約はあるのか!?」
「ありません」
離れた所で「ふざけるなーーっ!」と元気な豚が鳴くが無視。
頼むから静かに――いや、撤回だ。もっと鳴いてくれ。
お前が醜態を晒し続ければ、海兵達の厭戦気分を更に助長させられる。
……もうすでに士気の低い部隊をチラホラ感じるけど。
「そこでようやく、交渉可能な状況へ持ち込めるのだとご理解ください」
ともかく、政治畑の人間ならば話が通じるかもしれん。
向こうとしても、状況を改善したいだろう。
「貴官も状況がよろしくないことは理解しているでしょう」
特に政治的視点を持つ人間ならば、それが
「少なくとも、天竜人が殺害されるという前代未聞の事態は遠ざかります」
「……プルミング聖らの命にて捕らえた
「ここは封鎖の容易い島ではなく、海の中を自在に移動する魚人達の島です。しかも海軍が出動した上で、多くの人民がすでに島を離れている」
「その根拠は?」
「人家のおおよその数と、この島にいる人数がどう考えても合いません」
一瞬喉がなった。反射的に抑えたけど、痛い所を突かれたと思ったのだろう。
そうだ、今の世界政府にとって、革命を加速させかねない情報の拡散は何よりも不味い。
加えて――
(なぜか来ていないけど、ここは白ひげの縄張りであることは重々承知。時間はかけたくないハズ……)
―― 待て。
頭の中に、赤信号が灯る。
考えてみれば当たり前の事に、ようやく気が付く。
白ひげやその戦力が来ていない。
それはまぁ、いい。
「このまま時間をかければかける程、世界政府にとってよろしくない醜聞が広がり続けるでしょう」
「…………むぅ」
よくないけど想定の範囲内ではある。
状況によっては魚人の非戦闘員を引き連れて、白ひげの縄張りまでどうにか引き連れていく事も考えていた。
だが――
なぜ、時間を掛けられる?
天竜人が人質に取られているというだけか?
(なんだ? 白ひげの戦力がここに来ていない――来られない理由を知っているのか?)
…………。
まぁ、いいや。
「相手が魚人ゆえに、その他種族との関係が薄いと思って油断していませんか?」
だったら時間を掛けられない理由をこっちで増やしてやるだけだ。
一定のルールが通用する相手ならば、口喧嘩で負ける事はない。
「四つの海ではそうかもしれませんが、
最悪痛み分けに持っていける。
「……黒猫」
「はい」
だけど頼むから抜き足と呼んでくれ!
……あ、いや、そうか、今は違うわ。
千視万計なんていう大それた二つ名だったわ。
千視……万計……。
万計……。
…………。
ハイ。
すみません、もう『黒猫』で結構です。
「なんでしょう」
「こちらには、魚人と人魚を解放する用意がある」
まぁ、それしかないだろう。
…………。
あの、ドラムマンはいい加減に太鼓を止めろ。
お前どこにいるんだ。ずっと俺の周りをグルグルしてるが。
「代わりに、天竜人の皆様をなんとか解放させてほしい」
……。
なぜ俺に言う!?
俺が交渉しろと!!?
「私に彼らとの面識はありません」
交渉任せるっていうなら、せめて手札の一枚二枚は寄こさんかい!!?
「知らぬ顔の方がまだ話が出来る」
「…………」
……あー……まぁ、完膚なきまでに加害者だからなぁ……。
「恐らく速やかな撤退と、今後の不干渉も要求されると思いますが」
「相手が要求をしてきたのならば報告をしてくれ。こちらで判断する」
俺は親子喧嘩を仲裁するお母さんか?
「何をごちゃごちゃと訳の分からんことを言ってるのだえ、海兵共! さっさとコイツらを片づけぬか!」
一方で捕まってるのはコレだ。
……頭痛ぇ……。
「我らを誰だと思っている! 金さえ積めば、それが王族だろうと好きに出来るのだぞ!!」
知ってた。やっぱり。
というか、このタイミングでカミングアウトするのかよお前……。
海兵の士気は下がっても魚人の興奮がぶり返すのに……。
「魚共を奴隷にして――何が悪いと言うのだ!!」
「お前らは……やっぱりここで一人――!!!」
「止めろアーロン!! 頼むから待つんだもん!!!」
もおおおぉぉおぉおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおぉっ!!!!
どいつも!! こいつも!!
「……プルミング聖」
捕まっている中で一番元気な天竜人へ。
つまりは蜂起した魚人たちの集団へとゆっくり歩み寄る。
なるだけ身体の力を抜き、気配を抜き、殺気――は元々持っていない。闘気を抜く。
とにかく、一度流れを変えんとこのまま魚人勢力vs海軍の混戦になる。
そうなれば逃げるしかなくなるのだが、魚人種族と人間の対立が致命的な物になっちまう。
船を浮かべれば見えない海底からいつ襲われてもおかしくない。
そんな海になれば、対世界政府の戦略の組み立てが極めて難しくなる。
「彼らは魚人種族であり、人魚種族であり、すなわち意思を伝える言語を持つ人間であります」
すなわち、それだけは全力で避けないと俺の計画にも影響が出る。
「それを貴方様は、魚とおっしゃるのですか?」
「何を当たり前の事を……ぉぐっ……言うのだえ……っ!」
アーロン、ストップ。その手を緩めて。気持ちは死ぬほど分かるけど。
本当にストップ、死んじゃったらさすがにすぐさまクザンが飛んで来る。
「我らには……っ! 全てを自由にしていい権利がある!!!」
……いや、遅れているだけで絶対に来るだろうけど。
「プルミング聖――いえ、天竜人の皆様」
「その言葉の虚しさに、気付くべき時代が来ているのです」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
新世界とは、すなわち選ばれた海の『皇帝』達の海である。
海賊王の遺した
「――っく、この、アホンダラァ!!!」
あるいは、皇帝の許に膝を突き、
この海において『皇帝』は絶対の存在なのだ。
で、あるのならば――
「お前に構っている暇はねぇって言ってるだろうが!!」
「リンリン!!!」
「ハ~ハハママママっ!!!!!」
その『皇帝』同士が戦っているのならば、一体だれがそれを止められるというのか。
「道を空けなニューゲート! 魚人達はおれが助けてやるさ!!」
「テメェこそ仕掛けて来るんじゃねぇ! どういうつもりだ!!?」
魚人島を縄張りとする『白ひげ』海賊団は魚人島の異変を耳にし、一番隊と二番隊を率いて出撃。
政府の船を吹き飛ばし、魚人島を救わんとするその航路で――
最悪の敵と接敵してしまった。
「なぁに、おれの国に魚人と人魚を増やしてぇのさ。なぁ、ニューゲート。お前も分かってるんだろう?」
「
「…………っ!!!」
女皇帝が持つ意思持つサーベルと、皇帝の大薙刀がぶつかり合う。
「だから残った魚人たちはおれの島で匿ってやる! 一人残らずな!!」
その周囲では砲声が絶え間なく響き続けている。
海賊達が互いの首を狙って刃を振るい、銃砲を響かせ、能力が飛び交っている。
「おれの島が、新たな魚人島だ!!」
「ふざけんじゃねぇ!!! 寿命と引き換えにだろうが!!」
「クソ……ッ! ネプチューンの野郎が待っているんだ!!」
「邪魔をするんじゃねぇ!!!」
「ならおれを倒していきなぁ!!!」
新しい時代の、新しい世界にて。
皇帝達が、激突する。