なにこれすっごい書きやすい
オトヒメ様がいつ結婚したのかちょっと分からなかったんですが、本作ではこの時点で結婚しております
その後いくつか質問をし、状況を把握した上でフィッシャー・タイガーを難民たちの代表者と正式に認め、今後の折衝で呼び出す事もあるとした上で解散となった。
外ではトーヤが陣頭指揮を執って手当ての終わった魚人や人魚たちに食事を振舞い、街の案内の用意を進めている時に――
「状況を整理する。現在リュウグウ王国は事実上海軍――世界政府戦力と睨み合いになっており、あのフィッシャー・タイガーは可能な限り非戦闘員をかき集めて脱出、ここまで来たと」
―― ダズとテゾーロは二人揃って頭を抱えていた。
「第46番基地の制圧が完了次第、ハンコックはこちらに戻し、出撃用意を急がせる。いいな?」
「はい。足りるかどうかは分かりませんが、手持ちの海楼石を全て集めさせています。最優先で」
「あとは制圧した基地にどれだけ海楼石の備蓄があるかだな」
「最悪の場合人員を減らして、もう少し小型の船で送り出す事になります」
「……こればかりは祈るしかないか」
もしハンコックの推測が当たっているのならば、最悪すでにクロが海軍と一戦交えていてもおかしくないからだ。
彼女の言う通り、一刻も早く救援を送る必要がある。
「話に聞いた海軍と反乱魚人の睨み合いが今も続いているのであれば、その戦闘は大規模な物になるでしょう」
「……あまりやりたくないが、本格的な戦闘を考慮するならロビンかペローナも同行させる必要がある」
ロビンもペローナも艦隊の要であり、大規模戦闘の要なのだが、同時に幼い。
だからこそ戦闘よりも内務の仕事を経験させるべきだと判断し、ミホークやテゾーロと共に島の開発などを手伝わせていた。
「ええ。ハンコック提督を始めとする第一艦隊の精鋭にあの『冥王』までが同行するのであれば、少なくとも魚人島までの航海には問題ないと思います」
単独での戦闘力は大将クラスにやや劣るとハンコックは自分で分析しているが、部隊指揮は恐らく下手な海軍将校よりも濃い経験を積んでいる彼女の下に、第一艦隊の精鋭の証である黒く染めた短刀を持つ兵士達が付いて行く。
妹のどちらかは残さなくてはなるまいが、どちらも肉弾戦に長けた蛇の能力者に鋼鉄並みの硬度の蝋を操るギャルディーノ、同行を希望しているクロコダイル。
個人戦力だけなら、『冥王』抜きでも新世界級の海賊団に等しいだろう。
「むしろ、一番問題を抱えているのはこちら側ですね……」
「相変わらず食料か」
怪我人だけで四千人。
合計では五千をやや超える人口の増加は、余裕があったはずの食糧事情を再び危機へと追いやっていた。
「土地はあるが働き手が足りない現状、これが普通ならばむしろありがたい話なのだが……」
「今回逃れてきた者達は、その多くが人魚族。地上での作業はかなり職種を選びます」
「すぐに農作業に従事できるのは……まぁ、それでも千人近くか。それも民間人に比べて膂力も体力もある……とはいえ」
「その何倍も人魚がいますからね。加えて制圧作戦も同時進行している以上、消費は激しい」
「開拓と並行して、ベッジのルート等を使った取引で食料を手に入れる必要がある」
「はい。ですが、ベリーはかなりカツカツです」
「……海軍の裏切りさえなければそちらに手を入れる余裕もあったのだが……」
黒猫の取引は、どちらかと言えば物々交換による取引が多かった。
資金のやり取りは主にテゾーロが担当しており、ダズも書類でその動きは目を通していたが、その価値の重さを把握し始めたのはここ最近の話である。
「今生産出来る物で売り物に出来るのは材木と毛皮くらいか」
「木の質がいいとはいえ自生している物の中から、使い物になる物を選定して加工しているので……大稼ぎというには数が足りません。毛皮も狩猟に頼るところが大きいために質がまばらで、売り物になる程かどうかは……」
「キャネットの石切り場もまだ稼働前。薪なら用意しているが……むぅ」
いっそ近隣のマフィアを襲って物資や金銭を略奪することもダズは考えたのだが、本格的に政府と事を構える事になった以上裏社会とまで事を構えるのは不味い。
なにより、取引を担当しているベッジの物資回収を邪魔しかねないのだ。
さすがにそれが最善でない事をダズは理解している。
(自給自足を達成するために食料と燃料の生産に全てのリソースを振った分、それすら足りなくなった非常時には取れる手段が少ない。……教訓だな)
「さて。どこから食料や、交換できる物資を引っ張って来るか」
しばらく二人で書類や帳簿をひっくり返して取引に使えそうな材料がないか探ろうとした時、「あっ」と小さくテゾーロが声を挙げる。
「副総督」
「む?」
「モプチでは設営途中の製鉄関連の施設、モグワならもうすでに一通り揃っていましたよね?」
「ああ、少し前まで海軍が修復を急がせていたからな……。人員は海賊連合事件の時にほとんど連れていかれたが……たしか、お年寄りの技師が数人残っている」
「ならばその方達に頼んで、若手の教育を兼ねて動かしてもらいませんか?」
「? 何を作ろうにも、肝心の鉄がない。元になる鉱物資源も」
「はい、ですから――」
「
「我々の
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
第46番基地。
大国スーペリアとリガロ近海に位置する、西の海でも有数の海軍基地。
その制圧に向かったのは黒猫海賊団第一艦隊。
一刻も早くここを陥とさねばと、あるいは先日の戦争以上に緊張していたハンコックは、その基地の様子を目にして全艦に停止を命じていた。
「これは……一体なんじゃ……?」
掲げられているのは海軍の旗。
絶対正義を示す、海を守護するカモメの旗だ。
だが、そのカモメは全て捕らえられている。
描き足された
旗だけではない。
泊められている軍艦の帆から迎撃用の砲塔に描かれた物に至るまで、全てだ。
「ふん。なるほどな」
「そうか、考えてみれば当然の事だガネ……」
その様子に納得しているのは艦隊参謀のギャルディーノと、同行を申し出た捕虜にして客将というよく分からない立ち位置に着いているクロコダイルだ。
「どういうことじゃ?」
「ここはスーペリアを防衛するのに最適な場所にある基地なんだろう?」
クロコダイルは相変わらず不敵にニヤついている。
見張りを兼ねているとはいえ指揮下に親衛隊三名が付けられ、更に本隊の精鋭兵士五十名を率いているという現状に、悪くない心持なのだろう。
「となれば話は早い。ここは海流が安定していて、だからこそ行き来が絞られる西の海。そこの要地を守る海兵となれば当然――」
そこまで聞いて、ハンコックはようやく気付いた。
気付いて――余りの惨さに顔を蒼褪めさせた。
罠の可能性を考慮し、警戒しながら船を軍港へと進めても、砲撃どころか騒ぎ声一つしなかった。
そのまま港へ船を着け、到着した先には――整列している海兵達が待っていた。
誰も武器を持たず、そして将校らしき軍服を着ている者は正義のコートを身に付けていなかった。
「……この部隊の指揮官か?」
おそらくそうであろう、先頭にいる男にハンコックは声をかける。
「ハッ。……お待ちしておりました。貴方方を」
兵士の数はかなりのものだ。
投降したタキ達の兵士よりも、数だけならば多いだろう。
戦闘員としての兵士だけではなく、恐らく基地の運営に関わっていたと見られる非力そうな者まで揃って、敬礼してハンコック達を出迎えている。
それが意味することは、誰の目にも明らかだった。
「投降か」
「ハッ」
「お主もそうじゃが、負傷している者がいるな。それは?」
指揮官と名乗る男は、左腕を吊っていた。
彼だけではなく、他にも数名。
兵士達の中には腕に包帯を巻いている者や、松葉杖を突いている者もいる。
あるいは基地内部には、立てない負傷者がまだいるのかもしれない。
「……スーペリアの騒動を聞き付け、現地の混乱を鎮めるために緊急出動した際に――」
「――現地住民に、銃撃を受けました」
ハンコックは何も言わずに、ただ聞いている。
「妻は連れ去られ、息子はどこにいるかも分からず……」
「現場を落ち着けてから探そうとした所、知り合いから……」
「
そうだ、彼らは海兵だ。政府の命令の下に揮われる軍事力だ。
そして、他でもないその政府が、よりによって故郷をズタズタに引き裂いたのだ。
直接関与はしていないとはいえ、地元住民からすれば彼ら海兵はまごうこと無き
あるいは――
―― 故郷を脅かした、裏切り者と見られてもおかしくなかった。
「そちの顔、モグワで見た覚えがあるな。名は?」
「ボルゾイであります。階級は
「……思い出した。トーヤと共に各国を表敬訪問し、軽率な動きを牽制しておった将か」
「ハッ」
かつての海賊連合騒ぎで、共に協力した将校の一人。
そして、タキの離反の誘いを
「トーヤが、お主を信頼できる実直な将だと評しておった。であるのならば、信じよう」
ハンコックは、小さく「すぅ……っ」と息を吸い込み。
「これより我らは、未だ混乱続くスーペリアを制圧! そして混乱を助長させているリガロを陥とし、この西の海の騒乱に終止符を打つ!!」
檄を飛ばす。
同胞になる者に。
戦友になる者に。
「ボルゾイ。先ほどの話から察するに、そなたはスーペリアの生まれだな?」
「ハッ!」
「ギャルディーノ、ボルゾイから話を聞きながら基地内の書類や資料をかき集めるがよい。スーペリア制圧に入る本隊のために、地形を始めとする情報を一刻も早くまとめ上げよ!」
「了解だガネ!」
「クロコダイル、其方は即座に基地内の装備と物資の把握を。向こうの状況によっては、すぐさまスーペリアに輸送せねばならん」
「クハハハ。ついでに基地内の海楼石の量を把握するにはちょうどいいか。いいだろう」
ハンコックの目配せを受けて、親衛隊の一人がすばやくこの基地に旗を立てる。
カモメではない、三本爪の黒猫の旗を。
「ボルゾイ。後ほど確認するが、今ここで言うがよい。人数は!?」
「ハッ! 私を含めた兵士、三千六百名! 軍属の民間人含めた内勤者二百名、計三千八百名であります!」
「よし」
今この瞬間、この基地は海軍のモノから海賊のモノへとなった。
「兵士達よ! 負傷した者はまだ体を休ませておけ! そうでないものはいつでも船を出せるように! スーペリアを始め各地は今、一人でも多くの人手を必要としておる!! それが戦えぬ者でもだ!!!」
だが、やるべきことは変わらない。
民衆を守るためには。
信じた物を守るには。
たとえ武器を手にした事がなくとも、出来る事をしていかなければならない。
そうしなければ、本当に
兵士が敬礼で答える。
海兵の物ではなく、目の前で指示を出す海賊達の敬礼で。
「よし、征け! 時が惜しい! 今こうしている間にも、倒れている民がおる! 用意を急げ!」
『ハッ!!!!!!!』
「ソニア、本部への電伝虫を。うむ――副総督殿、妾じゃ。基地に到着したが、海兵達が皆投降した。……うむ、そうじゃ」
「これから正確に制圧作業を進め確認するが、指揮官の報告では下働きや内勤の者を含めて三千八百名が我らの傘下に入ったということじゃ」
「――副総督殿? どうした、その深くて長いため息は」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「何を訳の分からん事を言ってるえ!!」
「大体貴様、本来ならば我らの奴隷になるべき男ではないか!?」
「ついこの間まで我らの聖地を直すのに奴隷の数を規制しよって!!」
「さっさとコヤツらを捕らえてお前も聖地へ来るえ!!」
すいません、今すぐここで戦争の引き金引いちゃだめですか?
いや、ホントこう……。
何をどうしたらこんな害悪でしかない一族が生まれるんだ。
(どういう方向になるにせよ、とにかく出来るだけ被害を減らす方向で)
これは……ちょっと衝突を抑えられる自信がないわ。
できるだけ犠牲が出ない方向に誘導するつもりではあるけど……。
「今より二百年前に世界政府は魚人島との交友を宣言。リュウグウ王国を世界政府加盟国と認め、その人権を認めております」
「それがなんだと言うのだえ!!」
アーロン我慢だぞ我慢。
捕まえられた魚人や人魚達を確実に救出するには、まだソイツは生きていてもらわないと不味い。
緊急事態の際でも、魚人がやるより俺がやった方がまだなんとかなる。
「たとえ政府としてどう口にしようが、わちきらが欲しいと言えばそれは通る!!」
…………。
「何度も言わせるな! 我らは偉いんだえ!!?」
……………………。
うん。
むしろそんな状況になったらぜひ俺にやらせてくれ。
東の海から始まり聖地で散々苦労させられた事やありとあらゆる導火線に火を付けて回っている恨みの全てを――ついでに今死ぬ思いで現場まとめようとしているだろうセンゴクさん達海軍上層部の胃痛の分も込めて全力で顎と鎖骨をブチ砕いてくれるわ。
「いいえ、大切な事なのです。プルミング聖」
さて、考えられるパターンは大きく分けて三つ。
どう反応してくれるか……。
「それはすなわち、世界政府を通して当時の五老星が直々に
とにかく、落ち着かせないとどうしようもない。
海軍兵士からは厭戦の気配が漂っている。
双方を牽制している――いや、しようとしているリュウグウ王国軍からは半々。
「政府としてどう言おうが、天竜人なら全てが許される。貴方様はそうおっしゃいましたが……」
で、一番興奮しているのはこの状況でも元気なこの世界最底辺のゴミ屑共だ。
よく見ると奥に、人間であるにも関わらずに魚人達に匿われているやけにズタボロな人間がチラホラいる。
多分、コイツらの乗り物にさせられていた奴隷達だろう。
魚人側から同情されているようだし、まぁ大丈夫。
……ん、あれ? 怯えの気配が他にもまだあるな。
「貴族という物はどうしても民の上に立つ者であり、それゆえに下をおろそかにすれば容易く崩れ落ちるのです」
特に、上がある程度自分達の進路を示すような――全体の統治の原則を定めないまま集まった連合国家とかいうクッソ恐ろしい政治体系では。
おおまかなルールが絶対服従と天上金しかねぇから、民という物が自国の資産であることすら理解しないままに文字通り売り飛ばす訳の分からん国家が出てくるんだ。
…………。
そういえば俺が聖地にいる間にすら南の海にあったな!
ビタワ国だっけか? 今頃どうなっているやら……。
「ここが
原作的な意味で二十年後に天竜人は引きずり落とされるんだろうなぁとはボンヤリ考えてたけど、各地の騒動とその情報の拡散具合次第では……。
早くて今年中……遅くとも五年後までには、世界政府の勢力は半減する可能性が極めて高い。
「どうか、ここで世界の指導者足る姿勢を見せていただけませんか」
もしここで、天竜人が他者を人間として認めるような発言をしてくれればワンチャン流れを――変えられないとしてもかなり押さえ込める。
「天竜人足る貴方様が、ここで彼らに人としての権利を認め引いてくだされば身の安全はもちろん、天竜人の栄光は絶対の物になるでしょう」
ごめん、ちょっと嘘。
落ちるその時は必ず来る。
だけど、さすがに今は不味い。
時間を稼げるのならば少しでも稼ぎたい。
これまで読んだ限り、世界経済新聞は政府寄りのマスコミだ。
金獅子騒動の時はこっちも利用させてもらったからそこは分かる。
前世の一般的な意味とはちょっと違う方向でダメディアのマスゴミだが、政府の思うままに情報を流す新聞ならば、今回天竜人が魚人側に一歩譲れば、恐らくコレを美談として流す。
「他ならぬ貴方様が、新時代の一歩を踏み出す者となる機会なのです。プルミング聖」
ピンシャー卿やピレニーズ卿なら、必ずそれを利用して世界政府の延命を図ってくれるはず!
「ふざけるな! わちきに虫や魚に気を使えというのかおばえは! わちきらを助けようともせず一体おばえは何をしにノコノコここまで――」
「アーロン君ちょっとその人一旦捨てて俺と二人でトークしよう!!!!!!」
てっっっっっめぇホントふざけんなよ!!!!?!!!?!!!?????
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ネプチューン王。あの少年は?」
「海賊……のはずじゃもん。先日更新された手配書が届いておる。……あの年齢で二十八億じゃと」
「なんと……っ」
もはや暴発は避けられないと誰もが覚悟しかけていた状況が、たった一人の少年の登場とその一撃によって再び膠着状態に陥った。
魚人街にバリケードを築いて立て籠もっている者達は、皆状況こそ掴めていないが暴発寸前の空気に水を差されてもう一度落ち着いている。
海兵達は恐らく少年の事をよく知っているのだろう。
少年の登場と共に明らかな動揺が走り、士気が下がり始めている。
もしこの場に王妃が
軍を率いてなんとか天竜人と蜂起した魚人を説得しようとしていたリュウグウ王国国王ネプチューンは、今更ながらに流れて来た冷や汗を拭って海賊と魚人の様子を窺っていた。
「しかしジンベエ。あの印は――」
「ええ。……間違いなく、タイのお頭が持っていた洋装に刺繍されていた物です」
王のそばに控えている魚人兵士の言葉に、ネプチューンは改めてたった一人でこの戦場を抑え込んでいる海賊の姿を目に入れる。
行方不明になっていた魚人の冒険家が、恩人の印だとして持って帰った刺繍入りのジャケット。
やけに目立つ三本爪の黒猫のその印の下に、魚人達が隠れ住む島があるらしいと。
「……自分を助けた者から渡されたと言っていたが、それでは彼が……」
立て籠もっている魚人達の側に寄って天竜人と何やら話していた少年は、今度は魚人――アーロンとなにやら話し始めている。
あの粗暴な所が目立つアーロンですら、あるいは彼に毒気を抜かれたのかポツポツと会話に応えているようだ。
「ネプチューン王。あの者がお頭を助けた者なら、今オトヒメ様は……」
「……まずは目の前の事に集中するんじゃもん。ジンベエ」
「オトヒメや捕らえられていた者達の事は、タイガーに任せておる。信じるんじゃもん」
「……はっ」