とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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011:決着

斬人(スパイダー)

 

――カンカンカンカンカンッ!!

 

「なんだこのガキ!?」

「銃弾が通じねぇ!!」

 

 表向きは普通の商船を装っているその密輸船の甲板では、船の制圧と『抜き足』一味の確保のために動き始めたベッジ配下と『抜き足』の一味の戦闘が始まっていた。

 

「船長命令だ。お前達を排除させてもらう。掌握斬(スパークロー)

「ぎゃああああ!」

「コイツ、悪魔の実の能力者!? 海賊ごっこではしゃいでるガキ共じゃねぇのか!?」

 

「俺はダニだ。プチっと潰されるのがお似合いのダニだ……」

「皆さんと同じ大地を歩いて本当に申し訳ありません」

「どうして俺のようなクズが産まれてしまったんだ……」

「お前らしっかりしろ! 相手はガキばっかじゃねぇか! この幽霊さえよければなんてこと――呼吸をしていて大変すみません……」

 

「ホロホロホロ! キャプテンから奇襲の警告はあったけど全員雑魚じゃねぇか!」

「…………」

「おい、ダズ。その目は何だ」

「いや、キャプテンがその能力を多用するなと言っていた理由がよく分かっただけだ」

 

 ダズ・ボーネスはニコ・ロビンとペローナが乗っている船を占拠しようとするギャングの一団を迎撃し、ペローナはホロホロの実の能力によって幽体離脱した状態で囮になりながら、密輸船を制圧しようとする一団を無力化していた。

 

「しかし、数だけは多いなコイツら。一体どこから出てきたんだ面倒くせぇ」

 

 ゴースト・ペローナがふよふよと浮いて自分達の船の上に漂っていると、ニコ・ロビンが顔を出す。

 

「キャプテンさんに咲かせたのは耳だけだから分からないけど、相手の人も何かの能力を持ってるみたい。急に兵隊さんや武器が現れたみたいだから……」

「ロビン、キャプテンの元に目を咲かせる事はできないのか?」

 

 話を聞いていたダズの質問に、ロビンはふるふると首を横に振る。

 

「さっき何が起こっているか見るためにそうしようと思ったんだけど、地下倉庫に入っちゃってからは新しく咲かせることが出来ないの」

「……あの石が仕込まれているのは扉だけではなかったか」

 

 一方でロビンは、そこかしこに腕を咲かせて弾薬やお金になりそうな品などを船へと運び込んでいた。

 

 それを邪魔しようとしたギャングはネガティブ・ホロウによる攻撃を受けて床と一体化しているか、あるいは爆弾と化したミニホロ・ゴーストの爆発によって吹っ飛ばされていた。

 

「ん? どうしたロビン。珍しく機嫌いいじゃねぇか。普段は私好みにジメジメしているのに」

「人を褒めながら(けな)せるのか、お前は。器用だな」

 

 近づけば危険だと思ったのか物影に身を隠してひたすら船に銃弾を撃ち込んでいたギャングの一団が、今まさにミジンコ以下の存在になった。

 

「ダズさん、ペローナさん」

「む」

「ホロ?」

 

 

「私、キャプテンさん達の船に乗って……本当によかった……っ!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「キャッスルタンク・チャージ!」

「抜き足・刺突!」

 

 足をキャタピラにしてのベッジの突撃を、抜き足の速度の蹴りで押し返――そうとするのだが拮抗して止まってしまう。

 

「堅いだろうとは思っていたが……重い!」

「当然だ! 俺はシロシロの実を食べた城人間!」

 

 周囲には先ほど蹴り飛ばしたギャング共が転がっている。

 邪魔にならないところに蹴り飛ばしていて正解だった。

 ベッジの奴、まさかここまで俊敏な戦闘が出来るとは思ってなかった。

 

「脆くて軽い城なんざ城じゃねぇだろ!」

「確かにそうだ。……ところで、兵隊はもう出さないのか?」

「出せる奴は全員出撃させてお前ん所の奴らを押さえに行かせたんだが、ものの見事にやられたみてぇだな。さっきの奴といい骨のある部下がいるじゃねぇか、クロ」

「ああ、自慢の仲間だ」

 

 やっぱりダズとペローナがいればただの戦闘員程度ならば余裕で制圧できるか。

 それが確認できただけでもこの戦いの意味はあった。

 

 というか、海楼石で覆われているといってもこの部屋の中ならそれなりの力で戦えるようだし、ペローナ連れ込んできたら初手で抑えられたな。

 

 その場合、もし外に伏兵がいた時にダズが頑張らないといけないんだが。

 

(やっぱりロビンの護衛役が必要だ。信頼できる奴見つけないとな……)

 

「どうしたクロ! 考え事か!?」

「ああ」

 

 ベッジの目が開いて、城に残った迎撃要員が銃弾を放つ。

 やはり、あの時の海兵との戦闘はやってよかった。この程度なら一発残らず蹴って弾ける。

 

「次の航海について考えていた」

「なら安心しろ! 次の航海は俺との仕事だ! 思いっきり派手で楽しい奴を用意してやる!」

 

 キャタピラがギュララララッ! と音を立てる。

 なんでキャタピラなんだよ城にキャタピラねぇよ!

 

「航海はあっても陸での仕事だろう? 海の方が好きなのでな!」

 

 噛猫・弐式。

 あの海戦で覚えた嵐脚もどきを、右足だけではなくすぐさま軸足も振り抜いて行う二連撃に調整した攻撃。

 

 一撃でダメなら二撃で――うおっ!?

 

「ぬるいぜ、クロォッ!!」

「っ、これでも足りないか」

 

 戦車になった城人間の突撃によってはじかれる。

 

 クソッ! 思いっきり俺の弱点である攻撃力の低さが仇になっている!

 嵐脚もどきを覚えて多少上がった所で、相手はシロシロの実を食べたカポネ・ベッジ!

 堅さにおいては作中でもピカイチの奴じゃねぇか!

 

 まだあのレベルにまで到達していないとは思うが、それでも西の海で戦う相手じゃねぇ!

 

(今この瞬間に火力を跳ね上げる必要がある!)

 

 時折鼻をすすったり、なにかに驚いたのか小さいうめき声こそ耳に入るが、海兵達は全員静かに俺とベッジの戦いを見守っている。

 

(海賊風情に期待する誰かがいるんなら、それに応えきらなきゃ悲しい過去か外道ルートに真っ逆さまだ! なんとしてもここを突破せにゃならん!!)

 

 だけどこの世界で威力を跳ね上げるなんて、修行を除けばそれまで使ってなかった技を使うか新しく作るくらいしかない。

 

 だから鍛錬だけはずっと続けてきたけどこのレベルの奴が出てくるのは早いって!

 ダズの防御だって抜けないのに!!

 

 しかも俺の技は基本的に鍛錬でしか伸ばせない『六式』がベースのもどき!

 鍛錬以外で威力を今すぐ跳ね上げる、手持ちの俺の技能で出来そうな方法――

 

 あるかぁ! そんな都合のいいものがあるかぁっ!!

 

 助けて、助けてクレメンス……

 

(――いや……あった!!)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「器だけじゃねぇ……お前は強い。認めるぜクロ」

 

 キャタピラによる体当たりを幾度も受け止め、足にもダメージが入り始めているのか海賊の動きが段々鈍ってくる。

 

「お前が部下を下げさせた時は、サシで俺と渡り合えると舐めているクソガキかと思ったがどうだ! お前一人に俺の部下は全員のされちまってる! 外に出した奴らはお前の部下にだ!」

 

 海賊を囲んでいた――そしてボスの命令でその手足を撃ち抜こうとしたギャングたちは一瞬で吹き飛ばされ、伸びている。

 

「もう少しお前が成長していれば、その蹴りの威力も段違いだったろう。あるいは俺の城壁を多少は抜けたかもしれん。それくらいお前の蹴りは響きやがる。中にいる俺の部下共が初めてビビる程だ」

 

 吐く息も荒い。

 クロの足技――異名にもなっている『抜き足』はかなりの体力を消耗する技である。移動手段だけならまだしも、戦闘に多用するとなれば尚更だ。

 

「だが残念だったなクロ! 俺と出会った時期が悪かった!」

「いや、違う。それは違うぞベッジ」

 

 鎖で吊るされている海兵達の前に立つ男は変わらず、不敵にまっすぐ立っている。

 

「ここでカポネ・ベッジ程の男と――強敵と刃を交えることになったのは、俺にとってこれ以上ない幸運だった」

 

 そしてカンカンと、右足のつま先で床を確かめるように数回蹴る。

 

「元々速さには自信があった。攻撃も、ただの人間ならば問題なかった。だから、それが通用しない『堅い』敵を相手にした時の事をずっと考えていた」

 

 そして、普段軸にしている左足ではなく攻撃に使う右足を軸に、

 

「届かないなら、届かせるまで」

 

 その場で回転し始めた。

 

「なんだぁ……?」

 

 ギャングは最初怪訝な顔で、だが加速していく海賊の姿に信じがたい物を見る顔に変わっていく。

 海賊が、その姿がブレるまで一瞬で加速した瞬間にまずその足が赤く輝き始めた。

 

 さらに加速するそれは発光の度合いが強くなり、輝きは赤から蒼へと変化した。

 

――ジ、ジジ! ジジジジジジジ!!!

 

 その輝きは熱を持ち、聞くものによっては不快でもある、多くの鳥が鳴き叫ぶような音を立て始めた。

 

 そして海賊が回転を止めた時、その右足には(いかづち)が宿っていた。

 

「……俺の足だとこうなるか」

「てめぇ、隠し玉か!?」

「いや、イチかバチかの賭けだった」

 

 海賊は、少しズレた眼鏡をなぜか手の平で直し、再び不敵に笑った。

 

「受け止めろ、ギャング・ベッジ」

「っ、キャッスルウォール――」

 

 

 

――冬猫・紫電一閃

 

 

 

 これまで幾度も海賊の蹴りを跳ねのけた、城壁でもあるギャングの身体に、初めて海賊の蹴りがめり込んだ。

 

 ベッジの口から、苦悶の声がわずかな血と共に漏れる。

 

「ク……ロォ……」

「言ったハズだ、ベッジ」

 

 

 

「海賊の矜持を以って押し通ると」

 

 

 

「はっは……やっぱ……おめぇは……」

 

 

 

――最高だぜ……

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

頭目(ボス)!」

「てめぇガキ! よくもベッジさんを!!」

 

 ようやくベッジを倒したと思ったら、その瞬間にベッジの中にいた砲兵や銃撃手役を担っていたギャング共が一斉に湧いてきた。

 能力が解けたのか、あるいは普通に飛び出してきたのか。

 

 やめろ撃つんじゃない。

 一々弾丸蹴ってはじくのももう面倒くさい……疲れた。

 

「もうよせ。決着はついた」

 

 このまま全員蹴り倒してもいいんだけど、代表同士で決着ついたんだ。

 これ以上やり合うのは野暮すぎる。

 

「それよりもそちらの負傷者の救助と回収に当たれ。急がないとさらに面倒くさい事になる」

「なにぃ!?」

 

 いやホント、急がないとヤバいんだよ。

 

「海兵奴隷の売買などという話が、この船にいる連中だけで出来るはずがない。そして当然情報の漏洩にもかなり気を遣っているハズだ」

 

 ギャング側にもっと人がいただろうって事は当然だし、海軍内部にも関わっていた奴らはかなりいるハズだ。

 

「カポネ・ベッジと接触する前に船の上層は一通り見て回ったが、電伝虫の類は確認できなかった。盗聴などによる位置特定を恐れたんだろう」

 

 おかげで助けを呼ぶこともできなかったろうが。

 

「それでも、なんらかの確認をするはずだ。売買が完了して帰港するハズの船が遅いとなると……なにせこれほどの危ない橋だ。確認も細かにあっておかしくない」

 

 というか、確認のためにもう一隻後から来てもおかしくない。

 

「お互い、出来るだけ早くこの海域から離れるべきだ」

 

 ギャング同士で顔を見合わせている。

 ちくしょう、もうちょい年取っていれば説得力も付いてくるんだろうけど……。

 

「ミスタ・ベッジと俺はそれぞれの看板を背負ってぶつかった。諸君らがいたとはいえ、ボスとボスが向かい合って決着をつけたんだ」

 

「決着がついてなお戦えば、ミスタ・ベッジの看板と共にこの『抜き足』の看板に傷がつく」

 

 だが、さすがに看板――メンツの話を持ちだしたら渋々ではあるが納得しはじめたようだ。

 舌打ちこそもらったが、まとめ役っぽい男が「おい、行くぞ」と呟くと、ベッジを始め倒れている仲間の介抱へと走り出す。

 

 ……うし、あとはお宝頂いて脱出するだけだ。

 

 

 

 

 

「海兵諸君」

 

 

 

 

 

「すまない、待たせた」

 

 

 

 




技名考えるのってこんな大変なものだとは思っていなかった……
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