とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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118:役割を果たす者、役割を知らない者

 大国スーペリア。

 かつては豊かな耕作地と交易で各地が賑わっていたこの国は、今や戦場となっている。

 

「なるほど、西の海最大の穀倉地帯というだけはある。こうも広い平野があるとは」

「うん、そうだね」

 

 黒いスーツの少女を引き連れている男が刀を振るう。

 目の前の物を斬る武器であるその一撃は、

 

―― ぎゃああああああああ!!!

 

―― なんだ!? どこから斬撃がぃぃぃぃいいいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

―― ち、散れ! 散るんだ! 広範囲の攻撃がふべーーーーーーーー!!!!!

 

 文字通りの屍山血河を築いていた。

 一度刃を振るえば即席の柵が斬り裂かれ、二度振るえば兵士達がまとめて斬り飛ばされる。

 

「ほう。お前の推測通り、ただの暴徒と見せかけた兵士と見える。隣国リガロの略奪部隊といった所か……さすがだな、ロビン」

「うん、そうだね」

 

 刀を振り回すたびに巨大な斬撃が放たれ、いかにも民間人だと言わんばかりの装いをしながらも武装している者達が吹き飛ばされる。

 それを死んだ魚の目で眺めている少女は、時折片目を瞑って手に持った地図になにやら書き込んでいる。

 

 すでに上げられている凧を利用してキャネットの時のように地形の詳細を把握し、簡単な地図を作っていた。

 

「それで、ロビン。どうだ?」

「……ぱっと見だけど、ここら一帯は凄いよ。国境代わりになってた大きい川だけじゃなくて、そこから分かれた小さい川もいくつかあるから水源には困らないし、生えている雑草や木々からして土壌も悪くない。キャネット以上だ」

「ほう」

「両国の国境付近だからっていうのもあってあんまり手は付けられていなかったのかな……。だったら、島そのものを私達で落とせば想定をはるかに超える面積の耕作地が手に入る」

 

 ぶぉんっ! と男が剣を振るう。

 斬撃が射出され、平原の向こう側で絶叫が響く。

 

「なるほど。では、あまり血で汚すのはよくないか」

「………うん、そうだね」

 

 先ほど放った斬撃で土や血と共に宙に舞った敵兵たちが自由落下しているのを見ながら、死んだ魚の目で少女が応えた。

 

「分かった。斬るのではなく吹き飛ばすぞ」

 

―― また斬撃が来るぞ、逃げぎゃああああああああ!!

 

―― あの野郎地面を吹っ飛ばしてきやがった!

 

―― 全員伏せろ! そこらの小石が手榴弾並みの威力で散らばぬ゛わ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

―― 軍曹殿ぉぉぉぉぉっ!!!!

 

 そして少女の目から、更に輝きが消えていった。

 

「こんなひどい戦場ある?」

 

 男の言葉に、思わず少女――ニコ・ロビンが口を挟む。

 近くで少女の護衛に付いている魚人のハック、アメリアを始めとする親衛隊の面々が何度も何度も頷いて少女の言葉に同意する。

 

「手っ取り早いだろう?」

「……………………うん」

「時間を掛ければ、さっさとクロの元に向かいたいハンコックを無駄に引き留めてしまう」

「…………………………………………うん、そうだね」

 

 なお、彼らも近づいてきた敵に対しては容赦なく一撃で吹き飛ばしている。

 ハックが拳を振るえば数十人が宙を舞い、親衛隊が刀を振るえば一瞬で数十人が斬り飛ばされる。

 クリスに至ってはほぼ単独でミホークと同じく屍山血河を築いている。

 

「俺に出来るのはこういう真似だけだからな。さっさと鎮圧するに限る」

 

 先遣隊であったアミス達に追いついたミホーク率いる主力――本来指揮を執るハズだったダズが身動きが取れなくなったため、代理としてミホークが援軍の代表となったのだ。

 

 もっとも、全体の指揮はそのままアミスが執っている。

 ミホークはアミスの指示の下にもっとも敵勢力の多い所へと駆け付け、目に入った敵を問答無用で全て鎮圧する仕事に従事している。

 

 もう全部コイツでいいんじゃないかな。

 

「でも、うん。この前の海兵さん達に比べるとすっごく弱いよね……。前はなんだかんだでミホークの剣を数回は受け止められる人がチラホラいたのに」

「つまらん……と普段ならば言う所だが、今は好都合だ。止める事が叶わん勢力がここにいる事を知れば、内心はどうあれどちらの民衆も妙な真似はせんだろう」

「……こちらに保護を求めて来た港街の人たち、私達が海軍本部勢力を撃退していた事を知っていたしね」

「クロは地団駄を踏むかもしれんが、力が全ての時代へと流れつつある。であればこそ我らの存在、我らの意向は誰にも無視できぬ」

 

 先遣隊が降り立った港町は、もうすでに三本爪の旗が立てられている。

 他の親衛隊が率いる本隊の精鋭によって完全に制圧された街では負傷者の手当や炊き出しが行われており、行方不明者の把握や捜索と並行して徐々に復興作業に取り掛かり始めるだろう。

 

 黒猫の古参兵にとっては、もはや慣れた作業だ。

 そう。救護活動に余りに手慣れているからこそ、それを実際に目の当たりにし、彼らに直接触れた民衆は当初の想定を超えて従順に黒猫側の指示に従うようになっていた。

 

「……ねぇ、ミホーク」

「なんだ?」

 

 一応刃を返して、斬撃を飛ばしながら答えるミホーク。

 刃を返そうが、撃ち出される程に早く鋭い斬撃に果たして峰打ちという概念は付与されるのだろうかと一瞬ロビンの好奇心が違う所に行きそうになるが、一度お口にチャックをしてから疑問を口にする。

 

「ミホークは、キャプテンさんを助けに行く役目に立候補しなかったんだよね?」

「うむ」

「なんで?」

 

 コテンと小さく首を傾げて尋ねるロビンに、ミホークは斬撃という名の砲撃の手を止めずに首だけを向け、

 

「何を言うかと思えば……お前も救出部隊のオペレーター役を辞退したではないか」

「すっごくたくさんの人を抱える事になったんだから、開拓活動に慣れた人間が西の海には必要だもん」

「俺も同じだ」

 

 ある意味で、一番予想していなかった言葉にニコ・ロビンは目をパチクリさせる。

 確かに『黒猫』という組織に馴染んで来たとは感じていた。

 最初はキャプテンのクロにしか興味がなかったようだが、訓練を通して親衛隊が仕上がるに連れて、他の兵士や幹部とも徐々に関わるようになっていった。

 

「開墾にはどうあがいても人手が必要になるが、俺が手を貸せば手間のいくらかは省略できるだろう。そちらの方が、より多くの人間の腹を満たせる」

 

 それでも、彼の立場は将とはいえ客将である。

 ダズが命令すればそれに従うだろうが、それでも一番ミホークがここにいる理由であるクロの方に向かおうとするだろうとロビンは予想していた。

 

「なんか、意外」

「そうか?」

「……そもそも、どうしてミホークは畑仕事を始めたの? ため池掘りとか……掘ったって言うか飛ばす斬撃でくり抜いたけど……堤防作りみたいな他の野良仕事とか」

「…………そうだな」

 

 敵兵は完全に士気が崩壊したようだ。

 慌ててバラバラに逃げる者もいれば、自分達が偽装したゲリラだとバレていると察して白旗を掲げている者もいる。

 

 遠くから時折大砲の音が聞こえる事から、恐らく戦況の有利を察したアミスがキカかトロイの分艦隊を動かし、リガロ側の要地に艦砲射撃で圧を加えているのだろう。

 後方の要地が乱れ、士気も崩壊した以上この野戦はほぼ決した。

 

 それを見て、とどめとばかりにミホークとクリスが斬撃を飛ばして逃げる兵士達を更に蹴散らす。

 

 慈悲? そこにないのでしたらありませんね。

 

 とはいえ、効率的なのは間違いない。

 この制圧作戦に加えて復興、農作業に防衛網の再構築と、やる事が極めて多い『黒猫』にとって、時間はとにかく大事な物だった。

 

 戦闘が完全に終わり次第、投降したり動けなくなった兵士達の武装解除を終わらせ、すぐさま次に備えなくてはならない。

 兵士に一度休息を取らせ、明日には進軍再開。

 編成したばかりの陸軍と合流し、リガロの首都包囲戦に向かう。

 

「見ての通り、俺が剣を振れば大抵の敵はどうとでもなる」

「うん、そうだね」

 

 黒猫内部でその断言を否定できる者はまずいない。

 

 …………。

 

 まずというか、絶対にいない。

 

「逆に言えば、俺には剣を振るう事しか出来ん。暴動ならばとにかく、突然災害が起こって多くの要救助者が発生し、飢饉が広がったとしよう」

 

 強者揃いの『黒猫』の中でも、最も膝を突く姿が想像できないうちの一人であるミホークが、らしくない難しい顔をしている。

 

「その時に、俺はクロやテゾーロのように対策を練って実行したり、アミスやハンコックのように部下を指揮して被害を最小に抑えることは出来ん」

「だから開墾作業で? そんなタイプじゃなかったよね?」

「…………それが一番、クロ達の道の邪魔せずに奴に手を貸せる事だと判断した」

 

 もう自分が斬るべき敵はいないと判断したのか、ミホークは残心でわずかに残していた警戒を完全に解いて、刀を鞘に納める。

 

「クロやテゾーロのやり方は上手い。現状、最も多くの人間を救えるのは、政府よりもあの二人だと俺は思っている」

「……テゾーロさん、最近中々帰ってこれないって出航前にステラさんも言ってたよ」

「クロがいないからな。ダズはクロの代理としてよくやっているのだが……せめてギャルディーノが本部に詰められればまた違ったかもしれん」

 

 ギャルディーノという男は第一艦隊にとって、当初の見積もりを遥かに超えて替えの利かない存在となった。

 兵士からは『3兄さん』とか『3謀長』などとあだ名を着けられているが、少し抜けた所も含めて広く好意的に受け入れられている。

 

「政治が出来るアイツらは、どうしても発生する対立や衝突すら上手く利用して解決できるが……俺にはそれが出来ない。人を動かす事で、俺が出来る事は何もない」

「……だから畑?」

「純粋に知識と技術、経験を蓄積させていく作業だからな。なによりも――」

 

 ガラゴロガラゴロと、重い荷馬車の車輪の音が後ろの方からたくさん響く。

 黒猫の輜重(しちょう)隊が到着したのだろう。

 敵の武装解除や拘束、兵の休憩に必要なモノが一通り運ばれてきた。

 

 臨時のテントに寝袋、医薬品に――食料(・・)などなど。

 

 

「腹を空かせた兵士や民が、飢えぬための用意に全力を尽くす」

 

 

「この行動だけは、善悪の綱渡りが多い『黒猫』の中でも、間違いなく正しい(・・・)ものだろう?」

「…………ミホーク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、さっさと有象無象共を完膚なきまでに蹴散らすぞ」

「――え」

 

 なお、ちょっと良いことを言ってもこの男、ミホークである。

 ハンコックが『頭ミホーク』という言葉を生み出す元になった元祖の頭ミホークである。

 

「クリス」

「ハッ。総員、抜刀!!」

 

 そしてその弟子の中で最もミホークに近い女も、残念な事にそれに似つつある。

 少なくとも、ミホークの無茶ぶりに最も即応できる存在はクロを除けば彼女だけだろう。

 それに付いて行く兵士達も、突然死地に向かわされるのは日常茶飯事である。

 

 クリス――『銀の乙女』の号令に、控えて整列していた兵士達は素早く腰の得物を引き抜き、構える。

 

「征くぞ! 逃げまどう残兵を蹴散らし、この平原を完全に我らの物とする!」

 

 黒猫を象徴する一人である女が剣を抜き、天に掲げたそれを背を向ける敵兵士達へと向ける。

 

「私に続け! 突撃!!!!!」

 

―― おぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおっっ!!!!!!!

 

 

 

 

「うむ、この様子ならばすぐさま簡易設備の設営に入れるだろう」

「……うん、そうだね」

 

「お前は特に忙しくなるぞ。今の内に身体を休めておけ」

「…………………………うん、そうだね」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 スキッパー特別中将――元CP5の男が政府から言い渡された任務は、海軍内部の再統率。

 正確にはそのための監視だった。

 ……それだけのハズだった。

 

 先日発覚した海兵奴隷事件から収まらない海軍上層部の政府への不信。

 両者の関係改善のために調整に働いていた海賊のおかげで緩和されたとはいえ、政府は表の顔である海軍への影響力を強めたがっている。

 

―― ハッキリ言ってしまえば、今度こそ完全な政府の操り人形になってほしかったのだ。

 

 そのための監視と要注意人物――言ってしまえば優先的に排除すべき人員の選別のための餌役だった。

 特別中将として権限を持って目立つように指揮を執り、反抗的な者や裏で自分という餌を追い出すために策を弄する海兵を炙り出す。

 それだけの役割だったハズが……。

 

―― どうか、魚人達の解放にご同意をお願いいたしますカマエル聖!

 

 突然、その全ての予定が崩れ去った。

 唐突に行われた海賊『黒猫』への奇襲作戦。それと時を同じくして起こってしまった天竜人の加盟国に対する余りに堂々としすぎる徴収(・・)

 そしてそれを皮切りに各地で起こり始めた革命と反乱の連鎖。

 

 そして――それでもなお止まらない天竜人の蛮行の数々。

 

―― ここで囚われているプルミング聖らを救出しなければ、(たっと)い御血筋に犠牲が出てしまいます。ここはどうか……っ!

 

 ふざけるな。

 話が違う。

 

 何度も何度も、男は心の中で繰り返していた。

 

 別に誰がどれだけ犠牲になろうが構わない。

 犠牲になる方が悪いのだ。

 弱い立場に甘んじていた奴が食い物にされるのは当たり前の話じゃないか。

 

 だから努力して奪われない、奪われるハズのない世界政府役人に自分はなったのだと。

 

 なのにどうして、こんな目に遭っているのか。

 バックアップとして海兵に紛れ込んでいた仲間達は、緊急の情報収集でどこにもいない。

 

 頼りに出来るだけの経験を持つ上司も、知識のある部下や同僚も全員バラバラになってしまった。

 そんな状況でも分かる事がある。

 このままでは、世界政府が消えてなくなる。

 

 自分が自分であるという自負の根幹となるものが、崩れ去ろうとしている。

 

―― 一度天竜人の方々を救出し終われば、また魚人を手に入れる機会は来ます。ここは――

 

 だから『黒猫』と交渉する振りをしながら段取りを立ててもらった。

 実際、あの『知将』が認めた海賊の言う通りだ。

 このままじゃ無駄な戦闘がまた起こる。

 立て籠もられる前の小競り合いですら少なくない海兵が死んで、更に先に魚人を上に送ろうとした船は海中で襲われ全滅した。

 

(せめて、天竜人だけでも五体満足で全員帰さないと自分の未来が――)

 

 だが、

 

「ふざけるな! 兵士を向かわせて()を捕らえてプルミング聖らを助け出せばよいだけの話ではないか! 何をまごまごしているのだえ!!?」

 

 何も伝わらない。

 何一つ伝わらない。

 彼らにとって、魚人は珍しい頑丈な奴隷でしかない。

 あれだけ襲われ、多くの兵士が船ごと犠牲になっても分かっていない。

 魚人とはそれだけで大きな脅威(・・)であり、このままでは自分達の身すら危ういのだと。

 

 少し前――まだ海兵ではなく役人として、西の海に非加盟国民を労働力として徴収しに行った時の事を思い出す。

 正しくは、その命令を撤回させるために五老星と舌戦を繰り広げた『海賊』の言葉を。

 

――『貴方方は、根本的に軍隊という物を理解していない』

 

 その通りだ。

 その通りだと男は強く思う。

 だが同時に違うとも思うのだ。

 

 天竜人の横暴さは知っていた。

 絶対的な権力者故に、仕方ないと思っていた。あるいは当然だと。

 

 だけど――

 

「お前はもういらんえ」

 

 コイツら(・・・・)は、予想のもっと、もっともっと――

 

(人間というものを理解する気が全くない……っ)

 

 なんとか丸く収めようと男は出来るだけ言葉を尽くしたが、そのどれもが届かない。

 それどころか銃口を向けられた。

 

 避けるか、反撃するか、防御するか。

 男が頭に思い浮かんだ選択肢をどれ一つ選ぶ間もなく、乾いた音が響いた。

 

 身体に穴が空き、その場に崩れ落ちる。

 痛みはなく、ただ熱いとだけ感じた時にはすでにそうなっていた。

 

「どいつもこいつも役に立たん。こうなったら」

 

 身体に力が入らない。

 

「わちきが――」

 

 銃口が、今度は間違いなく男の頭に向けられて――

 

―― 止めろ!!!!!!!

 

 引き金が引かれるのと同時に、横から飛んできた黒い人影が拳銃を上へと蹴り上げた。

 乾いた発射音が響いた時には、男は何者かに抱きかかえられていた。

 

「中将、意識はありますか?!」

「……ぐ……ろ゛……っ」

 

 海賊が、政府の役人で、海兵である男を守っていた。

 

「よかった……。一度離脱します。強い負荷がかかると思いますが、どうかご辛抱を」

「ぐろ゛……ね゛ご……っ!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 世界政府終了のお知らせ。

 

 中将を抱えたまま抜き足を駆使してアーロン側の所に離脱している俺の頭に浮かんだのは、そんな一文のみだった。

 

 …………。

 

 いや本当になにやらかしてくれたんじゃあのボケェ!!!

 スキッパーさん死ぬなよ絶対に死ぬなよ!!?

 

 どういう方向に転ぶにせよ、アンタがこの魚人島に来てからどういう行動をした結果天竜人に撃たれたかっていう証言は絶対に必要になってくる!

 

(最悪だ……本当に最悪だ!)

 

 よりによって『黒猫』への奇襲命令というカードを強引に切った直後に天竜人直々に海兵を殺害しようとするなんて!!

 政府側のなんちゃって海兵だったとしても中将の位を与えた人なんだぞ!!?

 

(仮に天竜人への命令違反で済まそうとしても、前後の状況からしてタダじゃすまねぇぞコレ!! そもそも加盟国に無茶な攻撃仕掛けてんだから!!!)

 

 魚人街のバリケードまでたどり着いた! 呆然としているアーロンの姿が見える。

 普段は音を立てない事が最大の特徴である『抜き足』だけど、そんなこと言ってられねぇ。

 音が出ても構わない。急速に、だけど柔らかく。

 出血が止まらない中将の身体にこれ以上ダメージが入らないようにブレーキを掛ける。

 

「っ!!? 海賊か!!!!」

「アーロン!!」

 

 反射的に呼び捨ててしまったが、アーロンが気にせず呼びかけてくれた。

 突然目の前に飛び出してすまん! だけど――

 

「すぐに防衛戦用意を! 全てご破算だ! 奴らが攻めて来る!」

「……っ、天竜人が――人質がいるのにか!?」

「アイツらは自分達の世界しか見ていない! こうしていても天竜人が傷つけられることはないと思い込んでいる!」

 

 アーロンが、奥の方でまだ捕らえられている天竜人へと目をやる。

 

「――見せしめに殺せば、止まるか!?」

「いや、殺せば向こうに更なる大義名分を与える!! そうすれば敵の増援が更に早まる!!」

「…………っ! クソがぁ……っ!!!」

 

 よし、よし!

 アーロンがまだまだ冷静だ。

 だったらまだ対処は出来る! 打つ手はある!

 

「奴らは自分で自分達の指揮系統を崩した。天竜人の一声で、恐らく意味の薄い突撃を仕掛けてくるだろう」

 

 中将を手にかけておいて、今捕まえている魚人達だけで満足して撤退なんて真似はしないだろう。

 そもそもプルミング聖達がここにいる!

 

「仮にこっちにいる天竜人が犠牲になったとしても、奴らはそれを自分の行いのせいだとは思わない。海軍の動きが遅かったからだと勝手に自分で納得(・・)するだろうさ」

「人でなし共が!!!」

 

 いやもうほんと返す言葉もございません!

 

 そうだ、人でなしだ。

 獣に近いが欲求は獣以上にあり、自分達を誤魔化すだけの知能もある。

 

 …………ホントどうしろと!?

 

 将来、計画のための要地になるから今後の布石を打ちに来たってのが本音なのに、ここまで致命的に状況悪くなる激震地になるとか……なるとか……。

 

 まぁ、ちょっとは思ってたけどさ!?

 

「だが、そのおかげで『天竜人の命令で天竜人が危険にさらされる』という状況が出来た。まだ打つ手はある!」

「何をするんだ!?」

「簡単だ」

 

 

「天竜人のせいで危険にさらされている天竜人を、魚人達で助けるのさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……どうやら、空気が変わりましたな」

「ええ、このどよめき。これだけ離れていても、なにか妙なことが起こったって伝わるわ」

「どうしやすかい? おヒナさん」

「決まってるじゃない」

 

 

「――行くわよ!」

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